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救出作戦

裕太戦 14

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双方に肉体は限界を迎えていた、原動力となる血液はとうに流れ
枯れていた、それを超えた物理的力は精神である、その魂の強さは
闘いに必要のあるエネルギーである血液を無理やり心臓や内臓が活
性化させ凄まじい勢いで生成して体の動きを支えていた、本能で彼
等は停まれば訪れる自身の消滅を恐れていたのかも知れない、生存
本能故であるかのように感じたのは周りであったが当事者である彼
等の表情からそれは違う様にも伺えた、この闘いを終わらせたくは
無いかの様な表情に小数ではあるのもの違和感に気づいた者達には
奇妙な光景に困惑した。

 戦いの熱は彼らの空を覆い体内から放出する気化熱は彼等の周り
に異様な湯気により幻惑な空と化す、そして激しい攻防の末、対峙
したまま互いはその場に止まった、火山の噴火と比喩するならばそ
の真逆の静かなる湖畔の風を思わせる空気に覆われ幻想空間を作り
出していた熱源たる彼らの周りから次第に熱が奪われると彼等の上
空もまた冷めて歪んだ視界は薄れ綺麗な星空を映し出した……

 途切れたる動き無き双方共々目から生気は奪われ、それでも尚闘
う事を渇望した2人、その霞んだ目で互いが求め合う様に彷徨う姿
は互いはまるで亡者の様に見えたのだった。

 先程と同じ場所とは思えぬ空気感が辺りに漂う中、時折強く吹く
一陣の風が音を立て過ぎ去ると2人は同時に掠れた声で呟いた。
ボルダ「最後だ……」
裕太 「最後だね……」

 動きは双方止まる……想いが重なる同時に発した言葉が彼等の位
置を互いに伝えた、観客達も最後を悟り息を呑んで見守った。

レイダーM「チャーンス到来ってか?熱くなってんじゃねぇよ!動
けコラ!」
 物を投げようとするレイダーの腕をがっしりと掴み動きを封じた
のは近くに居た観客であるレイダーだった。
レイダー「テメェ、何してんだコラ」
レイダーM「何だ?てめぇは、異星人にでも賭けてやがんのか?な
ら尚更邪魔すんじゃねぇカスが」
 その言葉を聞いたレイダーはBの顔面に強烈な右フックを叩き込
んだのだった、地面に倒れるレイダーに馬乗りになり胸ぐらを掴む
と顔面に顔を近づけ凄んだ。
レイダー「あぁお前の言う通りだ、グリマンに全財産賭けてるさ……
でもなあの闘いを見てテメェ達は何も感じねぇのか!俺たちゃこの
世界になってから確かに腐った生活をし弱い物を虐げてきた事実は
ある、そのことについてあれやこれや議論するつもりはねぇがこの
闘いを見て胸が熱くならねぇ程人間辞めてるつもりもねぇ!」
レイダーM「気持ち悪ぃ!頑張ってる奴見て正論ぶつけて何歌って
んだ、恥ずかし事真顔で言ってんじゃねぇよカス!おいやれ!」

 仲間に指示するMそれでも邪魔しようとする輩に今度は魅了され
た本来仲間であるはずの観客達レイダーが一斉にそれを押さえ込ん
で戦いの行末を心待ちにしたのだった。

 まるで動かない状況に息すらしていない様に見えた2人、だが双
方共に流れ出る血が明らかに減っている、体外に貪欲に流れる血を
も一瞬の一撃に放つ原動力に変換すべく傷口は筋肉で強引に締まり
閉じられ、今度は適度の緊張を保ち筋肉は弛緩する、それは心臓が
鼓動する動きに合わせ流れる血をもそれに合わせ踊るように血が吹
き出したが次第に血は止まり体内に効率よく循環されて行く様は美
しくも次の攻撃が最後を皆に意識させたのだった、朦朧とした目は
心に余分な贅肉を溜めぬように研ぎ澄まされた集中力に閉ざした瞳
は徐々に視力を取り戻し双方の瞼の奥の瞳は闘いの中よりも一層強
く気高く輝く宝石の様な輝きを放っていたのだった、緩やかな風が
舞い双方の間にヒラヒラと舞う季節外れの蝶が舞う……

 その時だった圧縮された空気が一気に放たれる爆発の様な気を
放った瞬間、蝶はその場所から跳ね飛ばされる様に空を踠き弾かれ
た、観客はそのコンマ数秒に圧で押される感覚の中、蝶に目が行き
離れ再び彼等を見るその僅かな時の間に離れていた双方が既に拳と
拳がぶつかり合う瞬間を目撃するのだった、特に裕太側の居た場所
からは音速で音が後からついてくる感覚の激しい筋肉は筋が一気に
切れるゴムが弾ける様なその何倍も激しい音が聞こえたのだった。

 凄まじい衝撃音はまるでトラック同士の正面衝突を思わせる程に
激しいものだった、車体は衝撃に耐えきれずひしゃげる音、それは
双方の顎を粉砕するに従分なパワーが込められていた音も同時に聞
こえたのだった太いゴムが切れ車の衝突音に車体がひしゃげる音、
それは全て同時に聞こえたのだった、衝撃は空気を押し出し観客の
髪をなびかせ圧は彼等の足を一歩も2歩も無意識に後ずさりさせた
のだった。

レイダー「おい……どうなってんだ動かねぇぞ」
レイダーQ「あんな激しい衝撃に互いが弾かれずその場にいるって
事は殴った後力負けしない様に、衝撃に耐えそれでも押し込もうと
したからじゃ……」
レイダーI「見ろよひでぇ……顎付近の肉が、肉が抉れてやがる」

 動かない2人に先程空に舞った蝶がヒラヒラと落ちてきたのだっ
た、蝶も意識を失いまるで木の葉が舞うかの様に彼等の重なり合う
腕に落ちた瞬間双方共スローモーションでも見るかの様に左右に分
かれ大きな体を地面へ吸い込まれるように身を落とすのだった。

『ドスン……』
「……」

 再び訪れた静寂の時間、誰もが行く末を見守る中先行を切って指
が動いたのはグリマンの方であった、静かな空気の中動かない足を
何度も地につけながら傷ついた顔ごと転げ落ちる、だが足が動かな
いならば腕を膝に置き大腿部の代わりとしながらも無様に足掻き、
そして彼はようやく立った……

 裕太の目は空を見上げていた、一度だけ身を震わせた後再び起き
ようとする事はしなかった。

 グリマンは足を引き摺りながらゆっくりと裕太に向かい歩く中、
独り言を呟いていた。
「許せ……我の闘いであって我の戦いだけでは無い、今この時を持っ
て友と呼べる貴様を殺しそして貴様の戦いに恥じぬ生き方をこれか
ら貴様に誓い生きて行こう、だがそれでも我は星を裏切る行為は出
来ぬのだ……上に立つものの宿命、示しが付かぬ、残念だが知った
る我と違い未だ知らぬ同胞の認識である劣る地球人に隊長である我
が負ける訳には行かぬのだ……」

 その大きな影が裕太の体を覆うと今まで戦いの中にとて見た事の
ないような苦悶の表情に裕太は頷くと静かに目を閉じた。
「貴方で良かった……闘えた相手が」
 その言葉を聞いたグリマンの口から異音が聞こえた、奥歯を噛み
締め過ぎた故の折れた歯の音だった。

 ゆっくりと拳を固めその大きな腕を高々と上空に掲げ彼は雄叫び
を挙げた、勝利に勝つ時彼等はそうする慣習があったからだ、だが
その叫びは歓喜とは真逆の悲痛の叫びに聞こえた。
『許せ友よ!』

 
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