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「一目惚れだった」(太志視点)

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 鈴木莞爾(すずきかんじ)と出会ったきっかけは、お互い同じゲームシリーズをプレイしてきたからだ。
 俺が学生の頃から一人でちまちまプレイしていた据え置き機のアクションゲームを、友人の友人が最近ドハマりしたとかで、じゃあ紹介してやるという友人の軽いノリで飲み会がセッティングされた。
 初対面の莞爾は、愛想笑いすらする気のないぼんやりした男だったが、人見知りすると口が滑りやすくなる俺は「莞爾ってにっこりって意味なのに全然じゃん」と、つい距離無しな事を言ってしまった。
 でもそんなノンデリな俺に引いたりせず、莞爾は「初対面でそれ言われたの初めてだわ」と今度こそにっこり笑ったのだ。

 今思えば、俺はあの瞬間から莞爾が好きだ。ほとんど一目惚れだった。

 莞爾とは、その後しばらくは傍から見れば良好な友人関係だった。暇が合えばオンラインでゲームをして、休日が合えば共に出掛けてそのまま飲みに行く。そんな健全な友人関係の中、俺だけが勝手に莞爾の一挙一動にときめいたり喜んだりへこんだり突き離された気分になったり、一人相撲の恋愛をしていた。虚しくて何度もこっそり泣いた。



 俺は、物心ついた時から男が好きだった。初恋は幼稚園の頃近所に住んでいた大学生のお兄さんだったし、中学時代そこそこ可愛いクラスの女子に告られても微塵も興味がわかなかった。
 高校に入ると、友人たちが勇んで彼女を作っていくのを、薄らぼんやり羨ましく思いながらも、オレ自身は恋をしないように斜に構えて生活した。恋をしたくなかった。俺にはカミングアウトする勇気なんて無かったからだ。
 高校時代、「井上は普段ノリがいいのにエロには淡白だよな」と言われた事がある。淡白な訳あるか。三日に一度はシコってたし、当時のスマホにはその為のエロ画像エロ動画が満載されていた。
 それだけ性欲に塗れていても、ゲイバレするのが怖過ぎて彼氏なんて作れなかった。時折ある、女子からの告白には「他校に好きな子がいるから」と嘘をついて、なるべく優しく断った。後から聞いた話、そのせいで「井上くんは明るくて優しい上に一途でカッコいい」と不当な評価を女子から受けていたらしい。
 大学はいっそ新しい交友関係の中でカミングアウトできるかもなんて淡い期待をしたりもしたが、そんな消極的な覚悟でどうにかなるわけもなく、人と距離を取っていたら見事にボッチになった。講義がかぶったり学食で会えば話かけてくれる女の子たちは何人かいたが、男とは個人的な接点がほぼゼロになった。
 そんな大学時代に一人でハマっていたゲームが後々、莞爾と俺を繋いだ。大学卒業後、アパレル会社に就職して忙しくなった後もそのゲームシリーズを追い続けていたのは、正直惰性に近かったのだが。





 莞爾と出会ったのが俺らがお互い24の時。俺らの関係が変わったのはその約一年後、G.W.が過ぎ、世間が浮足立った雰囲気を完全に無くした何でもない平日の事だった。


 俺の家でだらだらゲームをしながら飲んでいた。アパレルの店舗勤務社員をしていた俺と、地域課勤務の制服警察官をしていた莞爾の休みが合うのは決まって平日だ。
 制服からいつも出ているせいで肘から先だけ少し焼けた、莞爾の筋肉質な腕が、コントローラーを離して自身の頭を掻くのを何となしに見ていた。

「莞爾、髪伸びたな」

 警察官の規定を遵守した莞爾の髪型は、いつも頭頂部は無造作に長さがあるが、サイドと後ろは刈り上げたソフトモヒカン風の短髪だ。それが少し伸びて輪郭がぼやけている。坊主にした方がセルフカットできて楽そうだが、お巡りさんは丸坊主もダメらしい。よくわからん。

「そういやそろそろ切りに行かなきゃなあ。服装点検入るし」

 そう言ってうなじから頭頂部へと髪を掻き上げるように擦る様は、男臭くてそこはかとなく色気がある。腹の奥が熱いのは、今飲み干した濃いめのハイボールのせいなのか、もしくは劣情が刺激されたからなのか、アルコールでうわついた俺には判断がつかない。

「お前の職場は毎月髪切らなきゃいけなくてダルそうだな」

「ダルいけど、俺はあんまり長めの髪似合わないしちょうどいいよ。お前みたいに何でも似合えばいいんだけどな」

 莞爾もなかなかに酒が回っているらしい。座っていたラグの上から伸び出して、背後のソファーでふんぞり返っていた俺の両膝の間に莞爾の半身が滑り込む。俺を逃さないようにか、ソファーに両腕をついて乗り上げてきた。
 心臓がバグりそう。

「莞爾、近い」

 自分で思っていたより女々しく弱々しい声が出た。

「ふうちゃんさ、髪いつもキレイに染めてるのにサラサラだよな」

 前髪とサイドは顎のラインまで、後ろはうなじを覆うくらいまで伸ばした髪を、今はワックスも付けずおろしている。それを莞爾が酒気で据わった目で見つめる。

「…染めてねえよ」

「これ地毛?」

「そう。元々ちょい茶色い」

「そうか。すげえキレイだ」

 伸びてきた色黒の無骨な右手が、俺の左耳上の髪を一房梳くように何度も撫でる。

「うわ。すげえ柔らかいのな。ずっと触ってたい」

 酔っぱらいにしては優しい手付きで繰り返されるそれが、酷く心地良くてまぶたが重くなる。

「ん。きもちい」

「あー、何それ。やべえ可愛い」

 閉じたまぶたの先で、莞爾が動いたのが音と気配で何となくわかる。より体重をかけたらしく、ソファーが沈みこんだ。髪から莞爾の手が離れた事が寂しいし物足りない。

 うっすらと目を開けると、莞爾の顔がとんでもなく近くて驚くが、声を発する前に吐息ごと唇を食われた。
 莞爾の口に。

「んっ…ふぅ…んぅ…ぁ」

 初めてのキスだ。莞爾とキスしてる。莞爾が俺とキスしたいって思ってくれたんだ。すごい幸せ。気持ちいい。

 莞爾の何もかもを知りたくて、莞爾の唇の間に舌をねじ込んで、歯列をなぞって、上顎を撫でて、莞爾の舌を舐めて、唾液を飲み込む。無意識に右手で莞爾の後頭部を捕まえて、左手で莞爾の背を引き寄せるように掻き抱いていた。

「ふうちゃん、めちゃくちゃエロいのな」

「…ダメ?」

「ダメじゃない。くそ最高」

 興奮混じりの長い息を吐いた莞爾は、性急に俺をソファーに押し倒し、己の体重でがっちりと押さえ込んでもう一度深いキスをする。
 酒のおかげもあるが、こんな棚ぼた的に莞爾とキスできるなんて、俺の今生の運使い切ったかもしれん。

「莞爾、舌もっとちょーだい。べーして」

「ん」

 突き出された莞爾の舌に、欲望のまま吸い付く。こんな機会もう無いだろうな、と思いながら舌と唇で存分に味わってから、最後にきつく吸ってゆっくり顔を離す。

「あー、くっそ。ふうちゃん何でそんな誘うの上手いんだよ。堪んねえ」

 そんなん、俺が莞爾を好きだからに決まってんじゃん。他のヤツにこんなに必死にならない。

「ふふ、なんでだろな?」

 莞爾の真っ赤な顔を見上げる。最高の絵面だ。

「……くっそ、やべえちんこ痛え」

 手のひらでがっつり確認する勇気がなくて、恐る恐る手の甲で莞爾のソレに触れて、その熱さと硬さに頭が沸騰しそうになる。嬉しくて嬉しくて、指先で何度もつついてなぞってしまう。

 莞爾がまた熱っぽい息を吐いた直後、俺のちんこを莞爾のでっかい手が握り締めた。莞爾の手に触れられてるって思うだけで気持ちいい。

「う、あっ、ああ」

「ふうちゃんも勃ってるじゃん。あーホントエロ過ぎる。俺、こんなガチガチになる事ねえよ」

 ちんこをズボン越しに揉まれながら、三度目のキスをする。イキそう。でも勿体ない。もう少しこのままがいい。
 離れていく莞爾の舌を追いかけたかったが、肩を押しやられて俺の頭はまたソファーに逆戻りした。俺の手を掴んだ莞爾は、それを自分のちんこにがっつりあてがう。

「こんなんしたのふうちゃんだよ。責任取ってくれよ。ねえ、ふうちゃん………お願い。付き合って」

 一瞬、「付き合って」って交際を申し込まれたのかと思った。でも違った。
 莞爾は俺の返事なんて待たずに俺の部屋着のハーパンからちんこを取り出すと、同じくジーパンから引っ張り出した己のちんこと一緒に握り締めてシコり始めた。
 残念だが、ちんこの処理に「付き合って」欲しかったらしい。

「あっ、んっ、莞爾っ、莞爾、きもちいっ」

 正直がっかりしたが、それでも莞爾のちんことやり合えるなんて幸運またと無いだろう。落ち込んでなどいられない。
 もう頭が馬鹿になってて何もかも気持ちいい。AVかってくらい声が出る。引かれてないといいなあ。

「ふうちゃんめっちゃ喘ぐんだね。どこまでエロいの。くっそ可愛い。そんなに気持ちいいの好き?」

 引かれてなかった。やったね。

「好き、すげえ好き」

 好きだよ、莞爾。
 今言ったら莞爾萎えちゃうかな?そう思ったら言えなかった。ちょっと胸が痛い。



 散々喘がされて、俺と莞爾はほぼ同時に射精した。莞爾のテクのお陰なのか、俺たちの相性がいいからなのか、その辺はもう翻弄されるだけだった俺にはよくわからない。

「ふうちゃん、大丈夫?」

「ん。きもちかった」

 俺、この思い出を一生のオカズにしてしまうかもしれない。
 ティッシュでちんこや服に飛んだ精液を拭われながら、ぼんやり莞爾の男前な顔を見つめる。はっきりした二重とそれを囲む濃い睫毛、高い鼻が印象的な、少し日本人離れした顔立ちだ。

「なあ、莞爾。莞爾も気持ち良かった?」

 なぜかぴたりと莞爾の動きが止まる。やっぱ変なこと聞いちゃったか。莞爾だってイッてるんだから気持ち良くないわけねえだろ。

 そう思ったんだが、莞爾は違ったらしい。

「足らないって言ったらどうする?」

 そう言って、すでに勃ち上がり始めているちんこを俺に見せ付けた。

「…すごいな」

 俺の目、マンガだったらめちゃくちゃ輝いてたと思う。これは例のモノを捨てる大チャンスなのでは?

「ふうちゃんもう少し触らせて」

「ダメ」

「どうしてもダメ?」

 必死に言い募ってくる莞爾が可愛くて愛おしい。

「莞爾、待てるか?」

「待つ?何を?」

 Tシャツの裾から両手を入れて、俺は自分の腹を撫でる。

「どうせならさあ、俺の中挿れてみない?」
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