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第3部 序章

ロドリゲス子爵(上)

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 時は大きく遡りナーロッパ歴1057年2月17日7時にゼーランド王国軍のゼーク将軍が率いるフラリン属国(ゼーランド王国、プランデレン王国、フラバント王国、ドレンテ王国)連合軍2万8千の軍勢がアストゥリウ王国(旧フラリン王国領)の国境を抜き、侵攻を開始した。
 連合軍は国境近くのパーチン子爵が指揮する守備隊3千が守るフラン要塞を同月19日午前9時には攻囲(攻撃のための包囲)を完了する。
 アストゥリウ王国軍も迎撃準備を整えており、ロドリゲス子爵を総大将とする1万5千の軍勢がフラン要塞の救援のため出陣した。
 連合軍は6千の軍勢をフラン要塞を攻囲に留めて抑えとして、救援に来るであろうアストゥリウ王国軍迎撃のために1万8千の軍勢を南西方向に展開させた。そして残り4千の軍勢のうち2千を他方の警戒線に回し、残りの2千の兵力を予備戦力として連合軍本営に残す。
 同月21日午後2時ぐらいにはロドリゲス子爵を総大将とするアストゥリウ王国軍1万5千の援軍が到着し、連合軍1万8千の迎撃軍と対峙した。
 翌日、フラン要塞の解囲を目指すアストゥリウ王国軍とそれを阻止すべく迎撃する旧フラリン王国属国の連合軍が激突する。
 午前10時にアストゥリウ王国軍は攻撃を開始するが、3度の大攻勢は全て撃退され、13時程には連合軍が逆撃に転じたが、それも阻止される。その後再びアストゥリウ王国軍が大攻勢に出るがそれも防がれ、結局その日は両軍痛み分けで終わり、アストゥリウ王国軍は3キロ程後退し、以後両軍はにらみ合いを続ける事となった。
 連合軍からすれば、まずフラン要塞を攻略し、その後攻囲軍と合流させて総攻撃に移れば兵力差も出てアストゥリウ王国軍の援軍を撃破する事は容易くなる。さらに、テラン半島の戦線に動き次第では現状日和見を続ける旧フラリン王国諸侯やアストゥリウ王国諸侯の謀反も期待できる。そういう事情もあり、連合軍主力軍は北方戦線のアストゥリウ王国軍主力との決戦を急かず、アストゥリウ王国の援軍とのにらみ合いに徹したのである。

 そして、アストゥリウ王国軍の総大将であるロドリゲス子爵も簒奪王から与えられた任務はフェリオル王率いるアストゥリウ王国軍本隊がテラン半島の教皇陣営諸国軍主力を撃破するまでの間、旧フラリン王国北東部の戦線を安定させる事である。そのため、両軍主力がにらみ合いを続け戦が長期化する事は決して悪い話ではなかった。
 無論、ロドリゲス子爵もロアーヌ帝国を中立化させると言う大きな手柄をたててはいるももの、教皇陣営諸国軍撃破し、さらに増長するであろう黒旗軍に今後対抗するためにも大きな武勲を上げておきたかった。

 そのため、一度大きく仕掛けたりもしたが、現状連合軍主力を撃破する事は困難と判断し、にらみ合いを受け入れざるを得なかった。ここで、簒奪王が与えた任務に完全に失敗すれば例えこの対教皇戦に勝利する事が出来ても失脚する事は免れない。立身出世も夢のまた夢となる。
 であれば、ここはにらみ合いして時間稼ぎする事がロドリゲス子爵にとって現状は一番の得策であるし、ここの戦線を安定化させておくのは簒奪王の戦略にも沿うと言う事にもある。
 フラン要塞には2ヵ月分の兵糧が備蓄されており、水源も問題もなく、力攻めさえされなければ、そう簡単に陥落しない。であれば、旧フラリン属国連合軍主力を拘束しておけば、そう陥落する事もないし、パーチン子爵も簒奪王にかけて王位簒奪直後からフェリオルに臣従し弱小諸侯からのし上がった諸侯の一人である以上、そう簡単に内通しないだろうと言うのがロドリゲス子爵の計算であった。





 そして、時はナーロッパ歴1057年2月25日16時。
 アストゥリウ王国北方軍総大将であるロドリゲス子爵の元に南東方向より狼煙が上がったと言う報告が腹心の家臣から報告が入った。
 南東方向からの狼煙は南部戦線で勝利、即ちフェリオル王率いるアストゥリウ王国本軍が教皇庁を盟主とするテラン半島諸国軍を撃破に成功したと言う知らせである。
 ちなみに南西部からの狼煙は敗北、南からの方法は膠着状態に陥ったと言う報告である。もっとも、神姫の権威に守られ平和ボケした教皇庁が2倍、3倍の大軍を相手にしても勝ち続けた簒奪王に勝てる訳がないとロドリゲス子爵は計算していたが、実際の戦況は子爵の予想通りに動いた。

(もっとも勝ったっとは言えどの程度の勝利なのかは現状解らぬが……まあ問題はそこではない)
 とロドリゲス子爵は内心で呟きながら別の事を口にする。
「流石は簒奪王。勝利を疑ってはいなかったが、ここまで早いとはな。」

「いずれ、脅威となりますかな?」
 腹心の答えにロドリゲス子爵は苦笑を浮かべながら首を横に振り、
「真に優秀な男と言うものはいかに能力のある者を上手く使いこなせる者をさす。我らのためにその才能を最大限利用してやれば良い。そして、力つきるその時は……」
 と湯漬ける。

「いずれ簒奪王に成り代わりアストゥリウ王国の玉座を奪うと言う事ですか?」
 腹心の言葉にロドリゲス子爵は頷きながら
「状況がそれを許せばな。まあ、将来の話は後々考えていくとして、まずは目の先の問題を解決しよう。至急、諸将を集めてくれ」
 と続けると腹心は「御意」と頷いて主君の元を離れる。

 しの様子を見ながらロドリゲス子爵は心の中で
(そう、簒奪王も庶子の身でありながら父や兄を殺して玉座を奪った。であるならば我がその玉座を奪って何が悪い)
 と呟いた。

「まあ、将来の話はおいておこう。まずは目の先の問題を解決しよう。至急、諸将を集めてくれ」
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