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第2部 最終章

カヨム会戦(上)

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 カヨムはいくつもの小川に沿って丘陵地が東西に幾つも連なる場所であり、アストゥリウ王国軍の布陣は東側の丘陵にセビリア王国軍6千、デニア王国軍7千、バダボス王国5千の計1万8千の軍勢が展開し、指揮はセビリア王国軍のアクヤレイ将軍が執る。
 中央の丘陵にはアストゥリウ王国軍本隊1万2千が展開。指揮を執るのは総大将である簒奪王フェリオル。
 西側の丘陵にはトレド王国軍8千、サラゴッサ王国5千、グラナダ王国軍7千の計2万で指揮はグラナダ王国の英雄マクサン・ズイール将軍である。

 それに対し教皇陣営諸国軍も明朝ミットル平原を出立し、軍を3つに分けアストゥリウ軍と対陣した。
 東側の丘陵に布陣しているセビリア王国軍、デニア王国軍、バダボス王国軍に対しトスカナ王国軍1万4千5百、べネッチク軍千5百とルッカ軍3千、サルレノ王国軍7千の計2万6千の軍勢が対峙。

 中央の丘陵に展開するアストゥリウ王国軍本隊に対するのはザルテノ王国軍1万5千と教皇庁直属軍7千8百の計2万2千8百である。

 西の丘陵に布陣するトレド王国軍、サラゴッサ王国、グラナダ王国軍の軍勢に対するのはアプリア王国軍1万7千とモデナ王国軍3千の計2万。

 教皇陣営諸国軍が布陣し終えていく有様をアストゥリウ王国軍本営にて見ていたフェリオルはつまらなそうに
「面白味のない布陣だ。両翼の陣など1万程度の軍勢で足止めさせた上で中央に戦力を集中させればまだ勝ち目もあったろうに」
 と呟く。

「それはリスクが高いですからね。追い詰められているのであればともかく、一見自分達が優勢に見えている状況でそんな危ない橋を渡ろうと言う将は中々いませんよ。」
 フェリオルの傍に控えるギニアスがフェリオルの呟きに答えるが、それは正論であった。
 アストゥリウ王国軍両翼(左翼・右翼)に一万程度の兵力を抑えに残した所で長期戦になれば、兵力差で圧し潰されて、いつの間にか教皇軍本軍が半包囲下に置かれるかも知れないと言う危険性があった。一見教皇軍が有利と見える状況で、そんなハイリスクな作戦を取るなど普通はしない。

「それはそうだが。しかし、そうなると敵の作戦は読める。我が軍に対し全面攻勢に撃って出て消耗戦に持ち込み競り勝つか……」
 ギニアスがフェリオルの言葉を引き継ぐ。
「もしくは中央の兵力差が1万も開いていれば十分と判断し、中央で大攻勢に出て両翼は敵正面を拘束するか……のどちらかですね」

「それだと我が軍もなめられた物だな。雑兵らに1万程度の差で十分と思われているのだからな」
 フェリオルが苦笑を浮かべながらそう呟いた時、教皇陣営の3つの軍勢が前進を開始する。

 それを見たフェリオルは冷笑を浮かべながら
「こちらが用意した戦場に我らの思惑通りの攻勢を仕掛けてくるか。ならば、こちらの作戦通りに敗れていくが良い。それが貴様らの言う神の思し召しと言うやつであろう」
 と続ける。その顔には勝利の確信がみなぎっていた。

 
☆☆☆☆☆☆

 ナーロッパ歴1057年2月25日7時半

 アストゥリウ王国軍本隊が前進するザルテノ王国軍・教皇庁連合軍に対する一斉射でカヨム会戦は勃発した。
 黒旗軍が運用している弓はロングボウ(長弓)と呼ばれる物である。名前の通り長い弓であり、ナーロッパで主に運用されている弓より、威力や射程距離が優れていると言う特徴を持つが、クロスボウ(弩)程ではない。しかし、射撃できる速度は弩が1発撃つ間に長弓では7発以上打てると言うメリットもあった。
 しかし、長い弓であるため引くのにその分大きな力が必要であり、実質運用しているのはナーロッパでは現状アルピオン王国の一部の民族や一部傭兵達であり、大規模に運用したのはナーロッパでは黒旗軍が初めてであった。

 そのロングボウ(長弓)を装備した黒旗軍の弓隊の斉射を受け教皇軍将兵が次々と悲鳴とともに倒れていく。教皇軍は大盾をかざしながら、味方の弓隊の射程距離まで前進を続けていく。
 そして、目的の場所まで到達した教皇軍の弓隊も射撃を開始していく。しかし、射撃戦は高地から射撃出来るアストゥリウ王国軍が有利に進めていた。30分後に教皇軍は射撃戦を止め、さらに前進を開始し斜面を登ろうとするが、黒旗軍の反撃を受けて全て撃退されていった。


 西側の丘陵ではアプリア王国軍とモデナ王国軍の計2万の教皇軍とトレド王国軍、サラゴッサ王国、グラナダ王国軍から構成される計2万のすでに血で血を洗う激闘が繰り広げられていた。
 アプリア王国軍は「イスラン半島の悪魔の使徒を皆殺しにせよ」と士気が高く、アストゥリウ軍も「マルタ島の同胞の仇を取るぞ」と士気が高まっており、両軍共に一歩も引かなかったのである。
 アプリア王国軍は射撃戦もそこそこに突撃を開始し、すでにアストゥリウ軍が築いた柵の周りではテンプレ教徒とザマー教徒の死骸の山ができつつあったが、それでも戦況はほぼ互角と言った状況であり、両軍ともに決め手を欠く状況であった。

 一方東側の丘陵は小競り合いを起こりはしたがが、ほとんどにらみ合いと言う状況が続いていた。
 教皇軍のルッカ軍とサルレノ王国軍が前進し、射撃戦を開始するが、トスカナ王国軍とべネッチク軍が前進せず陣に籠ったままであったため、ルッカ軍とサルレノ王国軍主力は一旦後退した。
 そし両軍がにらみ合いを始めて2時間が経ち
「トスカナ軍に動きは?」
 サルレノ王国国王ジャン・ヴィスコンティは苛立ちを隠さず家臣に尋ねるが、
「未だにありません。再三に渡って使者を送っているのですが……」
 と今までと同じ回答が返ってくるのみである。
 このままでは埒があかぬと判断したジャンは教皇軍総大将であるセッティ司教から圧力をかけてもらうよう、教皇軍の本営に使者を送るようにした。
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