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第2部 第2章

教皇庁とアストゥリウ王国、ついに開戦する

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 ナーロッパ歴1057年2月8日についにナーロッパ中西部からナーロッパ南西部の覇権をかけた大戦が勃発した。
 テンプレ教教皇カミッロにより「破門されたフェリオルとそれに同調した神官どもを討伐する」と言う宣言が出され、そしてアストゥリウ王国に対し宣戦布告を発したのだ。
 フェリオル王に同調した神官どもとされた神官達は頭が痛かったであろう。
 特に簒奪王と取引したベル大司教は尚更……。

 彼ら(特に高位神官)は別に教皇庁から離反して争う気はなかった。しかし、父王や兄王子らを討ち、王位を簒奪したフェリオルから「拒むと言うのであればそれでも構わないが、貴様らの代わり等いくらでもいるのだぞ」と脅されれば従うしかなかったのだ。
 父や兄を殺して王位を奪った男の脅しに拒める高位神官は1人たりとも居なかったのである。

 一方のフェリオルも「神姫の側にありながら己が欲望のために神姫を蔑ろにしている教皇らを討ち、神姫をお救いする」と宣言し、旧フラリン王国王都バリに集結していた予備含めた黒旗軍全軍1万8千を率いて南下を開始。
 アストゥリウ王国軍は諸侯軍2万を万が一の備えとしてロアーヌ帝国国境近くに配置し、北東部の旧フラリン属国群がある方面に1万8千の諸侯軍を配置する。教皇軍本軍が北上してくるであろうザルテノ王国国境の近隣領主達には自領の防衛を命じた。
 イスラン半島のザマー教諸国もすでに軍を起こし、旧フラリン王国南西部にあるアキテヌ地方に向かって進軍を開始。

 また、バリ近郊にて密かに募兵されていた傭兵と秘密裏に徴兵された兵士の計1万の軍もフェリオル本隊に合流すべく動いていた。しかし、彼らは何故か黒旗軍が使用している武具が予備として支給されていたのであるが……


 フリーランス王国に侵攻しているリューベック王国軍でも大きな動きがあった。
 ナーロッパ歴1057年1月17日、ランド金山にフリーランス王国軍の守備隊は一兵もいなかったと報告が入り、リューベック王国軍首脳部はフリーランス王国軍が焦土作戦を展開していると判断。

 まずは補給線を増やす事を目的にハルリンゲを攻略すべく19日にバルトルト・チェルハが司令官となり、黒狼隊約2千とリューベック軍の他の部隊約2千の約4千を率いて北上していった。
 リューベック本国に要請を出した際に、艦隊は出せるが、陸上戦力は傭兵隊を集めて軍を編成途中であるため陸軍の増援は今出せないと返答があったからである。
 リューベック王国海軍は18日にはフリーランス王国の領海に入り、フリーランス王国海軍の迎撃もなかったため、必要な海域の制海権を握った。
 21日、バルトルト・チェルハ率いる別動隊がハルリンゲを制圧。リューベック海軍に護衛された輸送船団がハルリンゲに糧食や矢等の軍需物資の集積を開始する。


 ハルリンゲにも守備隊どころか住民もいなかった事がハルリンゲ攻略部隊からリューベック軍本営に伝えられていた。
 リューベック軍はフリーランス王国軍は焦土作戦をしいているとさらに確信を強める。
 フリーランス諸侯に調略を仕掛けながらもリューベック軍は着々とフリーランス王国領侵攻の準備を整えていったのである。

 しかし、リューベック軍本営に諜者と外務省から予想外の報が2月3日にもたらされる。
 それはフリーランス王国の西に接するヘルダー王国がこの争いに介入すると宣言し、その事をフリーランス王国王宮に伝えられていると言う物だった。
 そのため、ヘルダー王国が介入してくる前に決着をつけねばならなくなったリューベック軍は2月13日に動いた。リューベック軍は主に2つに別れていた。
 まずは北からバルトルト・チェルハ率いる4千が南西方向に進軍を開始する。そして、アルベルト王子率いる本隊5千も西に向けて進軍し、この2軍は主要攻略目標であるアルンより3キロ東にあるランヘル平原で合流する予定である。
 何故、リューベック軍が軍を二手に分けたかと言うと理由は主に2つ。
 1つ目は軍を分ける事で少しでも兵達の渋滞を減らし行軍速度を上げるためである。
 
 2つ目はこれが大きな理由であるが敵野戦軍を誘いだすための餌である。
 いくら、ヘルダー王国が介入してくるとは言っても、戦後を考えれば極力借りは作りたくないと言うのがフリーランス王国の本音であろうと、リューベック軍は読んであえて軍を分けたのである。
 リューベック軍を各個撃破できるチャンスだとフリーランス軍が判断してくれれば、敵野戦軍を誘い出せる。これさえ撃滅すればフリーランスに抵抗出来る戦力はいない。
 そのため、2つの軍の間にはのろし台の設置やその近辺に伝騎となる騎兵等も配置する事で連絡網も整備し、どちらかの軍が襲撃を受ければもう一方の軍は即座に救援に動けるようにし、また本隊と別動隊の距離も10キロも開かないよう計算されて行軍計画が練られていた。

 そして、2月15日、ハルリンゲから進発したバルトルト・チェルハ率いる軍勢の周りは地獄と化していた。
 そこの地域の住人は何故か避難されておらず、それを確認したリューベック軍別動隊は黒狼隊の将兵も含めて略奪に走ったのである。
 バルトルト・チェルハは進軍の障りとなると止めようとしたのであるが、多数の将校から反対され止める事が出来なかったのだ。
 しかし、それはやむを得ない事でもあった。
 オレオ会戦で戦勝したもののこれは迎撃戦であったため、略奪等出来る訳がなかった。褒賞はリューベック王国も出したが、褒賞額は略奪で得られる利益よりはるかに少なく、何より弱者を虐げる快感もない。
 逆侵攻した際、略奪しようと考えていたリューベック軍将兵も住人が避難しており、略奪はまたもやお預けを食らったのである。
 そんな状態の彼らの前にやっと御馳走が出て来たのだから、彼らが飛びつくのはある意味当然と言えたであろう。

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