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第2部 第1章
ピルイン公令嬢、弟と会う(上)
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ナーロッパ歴1057年1月11日昼
アリシアは自室で昼食後の紅茶を飲んでいた。
「殿下には悪いのですが、こちらの方が重要ですからね。」
アリシア、いや当時のナーロッパの大半の王侯貴族は、リューベック王国とフリーランス王国の戦争より勃発しようとしている簒奪王と教皇の抗争に関心があった。
まあ、それは致し方ない事である。リューベック王国とフリーランス王国の争いはナーロッパ北方小国どうしの抗争でしかなく、どちらが勝ってもナーロッパの大勢に影響はあまりない。
しかし、簒奪王と教皇の争いはどちらが勝っても大きな影響が出る事は間違いない。もし、フェリオル王が率いるアストゥリウ王国が勝てば教皇庁の権威は失墜し、テンプレ教の影響力も大きく低下する。フェリオル王のように自国のテンプレ教教会を実質的に支配下に置いていくテンプレ教国が増えていき、テンプレ教主流派がテンプレ教諸国に干渉する事は出来なくなっていくだろう。
逆に教皇が勝てばフェリオル政権は間違いなく崩壊し、フラリン王国を破り超大国と新になったアストゥリウ王国も良くて西の辺境国に戻るだろう。
中立国の王侯貴族は固唾を飲んでこの抗争を見守る中アリシアは9割方フェリオル王が勝つと予測していた。
アリシアにとっての関心はフェリオル王がどう勝つかである。
(これでフェリオル王の本質が推しはかれる。ただの武人なのか、それとも……)
突如としてノックがなる。
「どうぞ」
とアリシアが答えると
「失礼いたします」
と侍女のクリスが部屋が部屋に入る
「ダーフィト様がお越しでございます。」
「もうそう言う時間なのね。」
アリシアは苦笑を浮かべて「通して」と続けた。
5分後、クリスの案内で金髪の美少年がアリシアの個室に入ってくる。彼の名はダーフィト・ピルイン、アリシアの異母弟にあたる。
「10日ぶりです、姉上。」
ダーフィトが一礼するとアリシアがソファーを勧め、ダーフィトがそこに腰を下ろし、アリシアも対面に座る。
「ダーフィトも紅茶で良いかしら?」
アリシアの問いにダーフィトも頷いて答える。
「それで構いません」
それを聞いたクリスは一礼してアリシアの個室から出る。
「姉上は相変わらずあの侍女の事を気に入っているようですね。他の侍女をつけようとされない」
「気に入っていると言う訳ではないのだけどね、口うるさいし。ただ、侍女なんて1人いれば問題ないわよ。メイド等は別にいる訳だしね」
(口うるさいのがありがたいと思っているのでしょうに。)とダーフィト・ピルインは心の中で呟くが、口には出さず
「そういう事にしておきましょう。」
と答えておく。
「で、アストゥリウ王国に動きはあったかしら?」
アリシアの言葉にダーフィトは頷く。
「ほぼ姉上の予想通りです。我が家にも話が来ていると言う事は5侯に話が来ていると思われますが、簒奪王と教皇の抗争に不介入をロアーヌ帝国に求め、その見返りに帝国がアルザス、ロレーヌ、チロルの3カ国を領有する事をアストゥリウ王国は容認すると言う密約の提案がありました」
「まあ、そう来るわよね。父上はこれを飲んだ?」
「はい。教皇の影響力を削いだ上で領地を拡大するチャンスでもありますからね。私に『喜べ、領主になれる可能性が出て来たぞ』と嬉しそうに言ってくるぐらいですよ。私からすれば小領主になるより予定通り代官に就任する方が気楽で良いんですけどね」
「まあ、親心と思って有難く受け取りなさい。」
アリシアは苦笑を浮かべる。
小領主になるよりピルイン公領の代官になった方が気楽だと言うダーフィトの言葉にアリシアも理解は出来る。ピルイン公一族ならばある程度の融通もきくからだ。
しかし小さくても領主になれる方が喜ばしい事だと言うのが貴族の常識であり、それを求めていないダーフィトに親近感を少しアリシアは感じていた。
「有難くもらう事にしますよ」
ダーフィトも苦笑を浮かべ冗談で返した後、ノックが聞こえる。
アリシアが「どうぞ」と答えるとクリスとメイドが「失礼いたします」と一礼して部屋に入ってくる。
そして、紅茶が入ったカップとクッキー等のお菓子をテーブルに置いた後、また一礼して部屋を出ていった。
「最終決定は15日の御前会議にて決定されるでしょうが、恐らく簒奪王の提案を帝国は飲むでしょうね。これを飲む事で帝国は外交面で枷が出来る事になりはしますが……帝国諸侯の欲を抑えるのは困難ですから。」
弟の言葉にアリシアは頷く。
「外務省等の一部法衣貴族が抵抗しても有力諸侯らが支持すれば大勢は変わらない。今、フェリオル王を討たねばいずれは自分達も破滅していく事を理解しないまま愚行を重ね続けるのでしょうね。彼らは」
アリシアの答えにダーフィトは『破滅』と言う単語に反応する。
「破滅ですか?しかし、いかに簒奪王とその手勢が戦に強いとしても超大国である帝国がそう簡単に滅びるとは思えないのですが……」
ダーフィトもアリシアの識見は強く信頼していた。ほぼ誰も読めなかったフェリオル王がフラリン王国に勝利する事や教皇と簒奪王が近いうちに激突すると言う事を当てていると言う実績もある。
アリシアは自室で昼食後の紅茶を飲んでいた。
「殿下には悪いのですが、こちらの方が重要ですからね。」
アリシア、いや当時のナーロッパの大半の王侯貴族は、リューベック王国とフリーランス王国の戦争より勃発しようとしている簒奪王と教皇の抗争に関心があった。
まあ、それは致し方ない事である。リューベック王国とフリーランス王国の争いはナーロッパ北方小国どうしの抗争でしかなく、どちらが勝ってもナーロッパの大勢に影響はあまりない。
しかし、簒奪王と教皇の争いはどちらが勝っても大きな影響が出る事は間違いない。もし、フェリオル王が率いるアストゥリウ王国が勝てば教皇庁の権威は失墜し、テンプレ教の影響力も大きく低下する。フェリオル王のように自国のテンプレ教教会を実質的に支配下に置いていくテンプレ教国が増えていき、テンプレ教主流派がテンプレ教諸国に干渉する事は出来なくなっていくだろう。
逆に教皇が勝てばフェリオル政権は間違いなく崩壊し、フラリン王国を破り超大国と新になったアストゥリウ王国も良くて西の辺境国に戻るだろう。
中立国の王侯貴族は固唾を飲んでこの抗争を見守る中アリシアは9割方フェリオル王が勝つと予測していた。
アリシアにとっての関心はフェリオル王がどう勝つかである。
(これでフェリオル王の本質が推しはかれる。ただの武人なのか、それとも……)
突如としてノックがなる。
「どうぞ」
とアリシアが答えると
「失礼いたします」
と侍女のクリスが部屋が部屋に入る
「ダーフィト様がお越しでございます。」
「もうそう言う時間なのね。」
アリシアは苦笑を浮かべて「通して」と続けた。
5分後、クリスの案内で金髪の美少年がアリシアの個室に入ってくる。彼の名はダーフィト・ピルイン、アリシアの異母弟にあたる。
「10日ぶりです、姉上。」
ダーフィトが一礼するとアリシアがソファーを勧め、ダーフィトがそこに腰を下ろし、アリシアも対面に座る。
「ダーフィトも紅茶で良いかしら?」
アリシアの問いにダーフィトも頷いて答える。
「それで構いません」
それを聞いたクリスは一礼してアリシアの個室から出る。
「姉上は相変わらずあの侍女の事を気に入っているようですね。他の侍女をつけようとされない」
「気に入っていると言う訳ではないのだけどね、口うるさいし。ただ、侍女なんて1人いれば問題ないわよ。メイド等は別にいる訳だしね」
(口うるさいのがありがたいと思っているのでしょうに。)とダーフィト・ピルインは心の中で呟くが、口には出さず
「そういう事にしておきましょう。」
と答えておく。
「で、アストゥリウ王国に動きはあったかしら?」
アリシアの言葉にダーフィトは頷く。
「ほぼ姉上の予想通りです。我が家にも話が来ていると言う事は5侯に話が来ていると思われますが、簒奪王と教皇の抗争に不介入をロアーヌ帝国に求め、その見返りに帝国がアルザス、ロレーヌ、チロルの3カ国を領有する事をアストゥリウ王国は容認すると言う密約の提案がありました」
「まあ、そう来るわよね。父上はこれを飲んだ?」
「はい。教皇の影響力を削いだ上で領地を拡大するチャンスでもありますからね。私に『喜べ、領主になれる可能性が出て来たぞ』と嬉しそうに言ってくるぐらいですよ。私からすれば小領主になるより予定通り代官に就任する方が気楽で良いんですけどね」
「まあ、親心と思って有難く受け取りなさい。」
アリシアは苦笑を浮かべる。
小領主になるよりピルイン公領の代官になった方が気楽だと言うダーフィトの言葉にアリシアも理解は出来る。ピルイン公一族ならばある程度の融通もきくからだ。
しかし小さくても領主になれる方が喜ばしい事だと言うのが貴族の常識であり、それを求めていないダーフィトに親近感を少しアリシアは感じていた。
「有難くもらう事にしますよ」
ダーフィトも苦笑を浮かべ冗談で返した後、ノックが聞こえる。
アリシアが「どうぞ」と答えるとクリスとメイドが「失礼いたします」と一礼して部屋に入ってくる。
そして、紅茶が入ったカップとクッキー等のお菓子をテーブルに置いた後、また一礼して部屋を出ていった。
「最終決定は15日の御前会議にて決定されるでしょうが、恐らく簒奪王の提案を帝国は飲むでしょうね。これを飲む事で帝国は外交面で枷が出来る事になりはしますが……帝国諸侯の欲を抑えるのは困難ですから。」
弟の言葉にアリシアは頷く。
「外務省等の一部法衣貴族が抵抗しても有力諸侯らが支持すれば大勢は変わらない。今、フェリオル王を討たねばいずれは自分達も破滅していく事を理解しないまま愚行を重ね続けるのでしょうね。彼らは」
アリシアの答えにダーフィトは『破滅』と言う単語に反応する。
「破滅ですか?しかし、いかに簒奪王とその手勢が戦に強いとしても超大国である帝国がそう簡単に滅びるとは思えないのですが……」
ダーフィトもアリシアの識見は強く信頼していた。ほぼ誰も読めなかったフェリオル王がフラリン王国に勝利する事や教皇と簒奪王が近いうちに激突すると言う事を当てていると言う実績もある。
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