62 / 139
第2部 第1章
また諫言か?
しおりを挟む
ナーロッパ歴1057年1月11日朝
旧フラリン王国王都バリにあるヴェルサルユス宮殿の国王執務室に2人の男がいた。
1人は父王や兄王子を討ち、王位を実力で奪った簒奪王フェリオル・オーギュースト、そしてもう1人はその従者のギニアス・オブラエンである。
「ロドリゲスからの報告は?」
ナーロッパの地図を見ながらフェリオルは尋ねる。
「ロアーヌ帝国に関してはすでにハーベンブルク選帝公、シュタデーン選帝公、リトルフィング辺境伯はあの案を受け入れたとの事。現在ピルイン選帝公とプシェミスル辺境伯と交渉中。ですが……」
ギニアスの言葉を遮り、フェリオルが続ける。
「ハーベンブルク選帝公、シュタデーン選帝公、リトルフィング辺境伯が受け入れた時点でロアーヌ帝国の御前会議の結果は実質決まったな。」
プシェミスル辺境伯はシュタデーン選帝公とは親密な関係であり、ピルイン選帝公もハーベンブルク選帝公と協調関係である以上アストゥリウ王国が提案した密約が1月15日に開かれるロアーヌ帝国の御前会議にて通る可能性は極めて高い。それでも、尚ピルイン選帝公とプシェミスル辺境伯とも交渉しているのかと言えば念のための最後の一押しと後は外交的配慮のためである。交渉していないのと、声をかけて交渉していたのではピルイン選帝公とプシェミスル辺境伯の心象が違うだろうと言う程度の話である。
「はい。ロアーヌ帝国が動かない以上ザルテノ王国への先制攻撃案は中止ですね。」
ギニアスの言葉にフェリオルは頷く。
「純軍事的にはもっとも有効的な策であるが、政略的には不味いからな。出来れば奴らから開戦の引き金を引かせたい」
現在、教皇陣営の諸国軍は軍の動員を開始しているが、一方フェリオルの手勢である黒旗軍は再編を済ませ、いつでも戦える状況である。ナーロッパ諸国が採用している徴兵軍を主体とする軍隊は維持費と言う点では安上がりだが、戦力化するには動員と言う手間が当然必要となる。しかし、完全常備軍である黒旗軍は動員と言う準備期間は必要がなく、物資と補給の体制が整ってさえいれば即時に軍を動かす事が出来る。
その黒旗軍が持つメリットを活かし、教皇陣営国でアストゥリウ王国に近いテラン半島の中では大国に分類されるザルテノ王国に先制攻撃を仕掛けると言う作戦計画も練られていた。戦争準備が整っていないザルテノ王国軍など精鋭黒旗軍の敵にはなり得る訳がなく、優位に戦を進める事が出来るとフェリオル王も黒旗軍の幹部達と判断していたのだ。
ザルテノ王国が屈服した後、トスカナ王国を圧力をかけ寝返らせ、教皇庁と和睦した後ロアーヌ帝国と決戦を挑むか、講和するかの2択となる。これで簒奪王が生き残る事が出来れば、アストゥリウ王国は第一戦略目標であるイスラン半島のザマー教諸国の関係改善のきっかけを得ることは果たせるのである。
しかし、いくらベル大司教を味方につけ、教皇の破門と言うカードを実質無力化しているフェリオル王でも、神姫イリスを擁する教皇庁陣営に先に攻撃を仕掛けるのは神姫に自ら刃を向けたとも世間からとられかねず、それが後々大きな枷となる可能性が高い以上それは避けたかった。
フェリオルの理想としては先に教皇庁に仕掛けてもらうであったので、ロアーヌ帝国が参戦してくる可能性が高い場合を除いてこの積極的攻勢案ではなく、迎撃案を基本戦略として採用する事になっている。
「トスカナ王国に関してですが、トスカナ王国もこちらの提案を受け入れるとの事。まあ、この国はどこまで信用できるか解りませんが……」
ギニアスの報告にフェリオルは不敵な笑みを浮かべる。
「隙を見せなければ問題ない。神姫の守護者と言う権益に守られてきた男とその犬ども等たいした脅威ではないしな。」
「恐れながら陛下に申し上げます。」
ギニアスの言葉にフェリオルは苦笑を浮かべる。
「何だ?また諫言か?」
苦笑を浮かべそう言いながら簒奪王は目で続きを促す。
「教皇とそれにしっぽを振る連中の大半は陛下と比べれば小物でしょう。しかし、ネズミも追い詰められれば猫も噛みますし、そういう小物達は追い詰められれば予想外の反撃をしてくる事もあります。どのような小物でも……いえ小物にこそ警戒すると言う心構えを持つべきです。有能な敵には自然と警戒いたしますから」
「確かにギニアスの言う通りだな。歴史上小物に討たれた英雄は多い。注意しよう。」
フェリオルが頷いた所で、突如ノックがなる。
「入れ」
フェリオルが命じると文官が執務室に入ってきた。
「ご歓談中の所に失礼いたします。」
と言いながらフェリオルに一礼する
「前置きは良い。要件は?」
「ヘルダー王国の密使が尋ねて来て陛下にお目通りを願っておりますがいかがいたしましょう?」
「ヘルダー王国だと……」
フェリオルが念のために地図を確認する。
位置はフリーランス王国の西にある小国で、旧フラリン王国の同盟国と言う名の属国の1つである。
「ヘルダー王国が我が国に何用なのか、まあ良い。会ってみれば解る事か」
フェリオル王はそう呟き報告に来た文官に向かって
「明日の午前10時に会うと伝えよ」
と命じた
旧フラリン王国王都バリにあるヴェルサルユス宮殿の国王執務室に2人の男がいた。
1人は父王や兄王子を討ち、王位を実力で奪った簒奪王フェリオル・オーギュースト、そしてもう1人はその従者のギニアス・オブラエンである。
「ロドリゲスからの報告は?」
ナーロッパの地図を見ながらフェリオルは尋ねる。
「ロアーヌ帝国に関してはすでにハーベンブルク選帝公、シュタデーン選帝公、リトルフィング辺境伯はあの案を受け入れたとの事。現在ピルイン選帝公とプシェミスル辺境伯と交渉中。ですが……」
ギニアスの言葉を遮り、フェリオルが続ける。
「ハーベンブルク選帝公、シュタデーン選帝公、リトルフィング辺境伯が受け入れた時点でロアーヌ帝国の御前会議の結果は実質決まったな。」
プシェミスル辺境伯はシュタデーン選帝公とは親密な関係であり、ピルイン選帝公もハーベンブルク選帝公と協調関係である以上アストゥリウ王国が提案した密約が1月15日に開かれるロアーヌ帝国の御前会議にて通る可能性は極めて高い。それでも、尚ピルイン選帝公とプシェミスル辺境伯とも交渉しているのかと言えば念のための最後の一押しと後は外交的配慮のためである。交渉していないのと、声をかけて交渉していたのではピルイン選帝公とプシェミスル辺境伯の心象が違うだろうと言う程度の話である。
「はい。ロアーヌ帝国が動かない以上ザルテノ王国への先制攻撃案は中止ですね。」
ギニアスの言葉にフェリオルは頷く。
「純軍事的にはもっとも有効的な策であるが、政略的には不味いからな。出来れば奴らから開戦の引き金を引かせたい」
現在、教皇陣営の諸国軍は軍の動員を開始しているが、一方フェリオルの手勢である黒旗軍は再編を済ませ、いつでも戦える状況である。ナーロッパ諸国が採用している徴兵軍を主体とする軍隊は維持費と言う点では安上がりだが、戦力化するには動員と言う手間が当然必要となる。しかし、完全常備軍である黒旗軍は動員と言う準備期間は必要がなく、物資と補給の体制が整ってさえいれば即時に軍を動かす事が出来る。
その黒旗軍が持つメリットを活かし、教皇陣営国でアストゥリウ王国に近いテラン半島の中では大国に分類されるザルテノ王国に先制攻撃を仕掛けると言う作戦計画も練られていた。戦争準備が整っていないザルテノ王国軍など精鋭黒旗軍の敵にはなり得る訳がなく、優位に戦を進める事が出来るとフェリオル王も黒旗軍の幹部達と判断していたのだ。
ザルテノ王国が屈服した後、トスカナ王国を圧力をかけ寝返らせ、教皇庁と和睦した後ロアーヌ帝国と決戦を挑むか、講和するかの2択となる。これで簒奪王が生き残る事が出来れば、アストゥリウ王国は第一戦略目標であるイスラン半島のザマー教諸国の関係改善のきっかけを得ることは果たせるのである。
しかし、いくらベル大司教を味方につけ、教皇の破門と言うカードを実質無力化しているフェリオル王でも、神姫イリスを擁する教皇庁陣営に先に攻撃を仕掛けるのは神姫に自ら刃を向けたとも世間からとられかねず、それが後々大きな枷となる可能性が高い以上それは避けたかった。
フェリオルの理想としては先に教皇庁に仕掛けてもらうであったので、ロアーヌ帝国が参戦してくる可能性が高い場合を除いてこの積極的攻勢案ではなく、迎撃案を基本戦略として採用する事になっている。
「トスカナ王国に関してですが、トスカナ王国もこちらの提案を受け入れるとの事。まあ、この国はどこまで信用できるか解りませんが……」
ギニアスの報告にフェリオルは不敵な笑みを浮かべる。
「隙を見せなければ問題ない。神姫の守護者と言う権益に守られてきた男とその犬ども等たいした脅威ではないしな。」
「恐れながら陛下に申し上げます。」
ギニアスの言葉にフェリオルは苦笑を浮かべる。
「何だ?また諫言か?」
苦笑を浮かべそう言いながら簒奪王は目で続きを促す。
「教皇とそれにしっぽを振る連中の大半は陛下と比べれば小物でしょう。しかし、ネズミも追い詰められれば猫も噛みますし、そういう小物達は追い詰められれば予想外の反撃をしてくる事もあります。どのような小物でも……いえ小物にこそ警戒すると言う心構えを持つべきです。有能な敵には自然と警戒いたしますから」
「確かにギニアスの言う通りだな。歴史上小物に討たれた英雄は多い。注意しよう。」
フェリオルが頷いた所で、突如ノックがなる。
「入れ」
フェリオルが命じると文官が執務室に入ってきた。
「ご歓談中の所に失礼いたします。」
と言いながらフェリオルに一礼する
「前置きは良い。要件は?」
「ヘルダー王国の密使が尋ねて来て陛下にお目通りを願っておりますがいかがいたしましょう?」
「ヘルダー王国だと……」
フェリオルが念のために地図を確認する。
位置はフリーランス王国の西にある小国で、旧フラリン王国の同盟国と言う名の属国の1つである。
「ヘルダー王国が我が国に何用なのか、まあ良い。会ってみれば解る事か」
フェリオル王はそう呟き報告に来た文官に向かって
「明日の午前10時に会うと伝えよ」
と命じた
63
お気に入りに追加
1,393
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~
有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。
主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる