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第1部 最終章

オレオ会戦(下)2

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 20分後ラーム将軍の軍はリューベックの援軍と激突した。
 ラーム将軍も陣頭指揮を執って戦っていた。もはや、司令官が前線で鼓舞しなければならない程追い込まれていたからである。
「何人討ち取ったかな?」
 ラーム将軍は疲れたようにつぶやく
 5人討ち取った所までは覚えているが、これ以上は数える余裕はなかった。
 ただ、30分の激闘の末敵を一時怯ませ後退させたのだから、ラーム将軍に不満はなかった。
 しかし、敵の攻撃も凄まじく千人以上いた軍も5百を切っている有様であった。戦死した兵もいるが、逃亡した兵も多い。
 ここに残っている将兵は劣勢でも指揮官の命に従う精鋭と言う事も出来る。
「中央軍も敵援軍に側面をつかれる位置からは後退出来ていよう。退き時だな」
 ラーム将軍は撤退を決意する。
「撤退する。傷が軽い者は深手の者を背負って退け。武器も捨てても構わん」

 ラーム将軍もこの状況で負傷兵を収容して退却せよとは厳しい事を言っているとは自覚しているが、ここで気を緩ませたら壊走に変わる事も実戦経験で理解していた。それに、ここまで戦ってくれた将兵を1人でも多く本国に帰還させる事がフリーランス王国の利益になるとも思ったからでもある。
 しかし、リューベック軍も手をこまねいている訳がなく、新手を繰り出して来る。
 半数近くを失い、しかも先程の戦いで疲弊しているフリーランス軍の将兵に動揺が走るが、ラーム将軍もそれを無視して部下達には撤退を命じ、ラーム将軍は愛用しているハルバード(斧槍)を持って敵陣に突入し、10名近くの兵を討ち取った。
 黒い甲冑を着た小隊長は敵わぬと思ったのか、後退を指示する。
 ラーム将軍は逃げる敵兵を追わず、叫び始めた。
「我こそはフリーランス軍総大将ボー・ラームなり!リューベックの勇者は我を討ち取って手柄とせよ!」
 自分が率いた軍勢を撤退する時間を稼ぐためにリューベック軍の注意を引こうとしたのだ。
「ラーム将軍閣下。僭越ながらお供いたします」
 数騎の騎兵がフリーランス軍から離れ、ラーム将軍に合流してきたのである。
「ならぬ。すぐに軍勢に戻れ」
 ラームが命じるが、1人の騎士が苦笑を浮かべて反論する。
「もう、戻れませぬ。我々は包囲されつつあります。」
 騎士に言われ、ラーム将軍は周りを見渡してみると自分達に対して包囲網が構築されつつあり、脱出は不可能である。

 包囲網が狭められ、ラーム将軍とその一行が覚悟を決めた後、槍を持った体格の良い1騎の騎士が前に出る。
「フリーランス軍総大将ラーム殿とお見受けするが、いかに?」

「その通り。我こそボー・ラームなり。そなたは?」

「我はこの大隊を指揮するラトムなり。その首もらい受ける」

 ラトムは槍を構える。
 一連の戦闘でラームは疲弊しており、簡単に一騎討ちで討ち取れると思ったのである。一騎討ちで討ち取ったとなれば、さらに大きな手柄となる。
 ラトムはそう計算していたのであったが、それが甘かったと言うのをすぐに思いしらされる事となる。

 ラーム将軍はラトムに突進し、槍斧を振るうが、ラトムは槍で受け止める。しかし、次々とラーム将軍は攻撃を続け、ラトムは敵わぬとみて後退する。
 そして、耳を疑う命を出した。
「弓兵、前へ」
 その言葉を聞いたラームとフリーランス軍騎兵は卑怯なと怒号を浴びせるが、ラトムは意に介さない。
 効率良く敵を狩り、効率よく上にのし上がる。そのためには騎士道など守ってられないし、そもそも貧民上がりの自分に騎士道も糞もないと考えていたのである。

 命令を聞いた弩兵がラーム将軍に照準を合わせる。
 そして、ラトムの号令で引き金を引き、一斉に矢を放たれ、ラームに襲いかかった。
 流石のラームも防ぎきれず、落馬し、歩兵に首を取られていた。
 そして、残ったフリーランス騎兵らも処理したラトム大隊に女性の怒声が響き渡る。
「卑怯な。そなたらはそれでも武人か!?」
 現れたのは軽い甲冑を着た女性騎士とその軍勢。
 女性とともに現れた軍勢も嫌悪感を隠そうとしていなかった。

「卿は?」
 ラトムに尋ねられた女性騎士は吐き捨てるように答える。
「我はオレンボー辺境伯が長女アマンダ・オレンボー。卿は!?」
 女性騎士に尋ねられ、ラトムはしぶしぶ答える。

「この大隊を預かるラトムと申す」

「卿に武人としての誇りはないのか?一騎討ちをこのような手段で汚して」
 早速アマンダはラトムの醜態を批判するが、ラトムは平然と答えた。
「ございませんな。敵を効率良く討ち取り、リューベックの勝利に少ない犠牲で貢献する。騎士道などに拘り、大きな被害を出す方が余程問題があると思いますが……」
 ラトムは嘲笑を浮かべて続ける。
「それともデーン王国では騎士道のためには大きな被害を出しても良いと?」

「貴様!」
 アマンダは激高し剣を抜こうとするが、側近に止められる。
 しかし、ラトム大隊の将兵もラトムに同調して叫ぶ。
「そうだ。騎士道なんかのために死ぬのはごめんだね。」

「だいたい、よそ者のあんたらにとやかく言われる筋合いはない。お嬢様はさっさと家に帰ってお茶会でも開いてな」
 この言葉を聞いたラトム大隊の将兵は嘲笑を浮かべる。
 一方のオレンボー辺境伯軍の将兵は尊敬する大将を大きく侮辱された事に怒りを覚え、武器を構える。
 それを見たラトム大隊の将兵も武器を構えていくが、すぐに怒声が響きわたる。
「何をやっとるか、貴様ら!?」
 怒声の元を見たラトム大隊の将兵は嫌な顔を浮かべて呟いた。
「バルトルト・チェルハ連隊長閣下」

 ラトム大隊とオレンボー辺境伯軍がおとなしくなったのを確認したバルトルト・チェルハはアマンダとラトムから事情を聞き、ラトムに自陣で謹慎を命じる。
 ラトムは不満そうな表情は隠さなかったものの、バルトルトとアマンダに頭を下げ、自分の部下達を引き連れ、自陣に戻るためここを離れる。
 これを確認したバルトルトはアマンダに頭を下げる。
「この度は部下が失礼しました。申し訳ござらん」

「いえ。こちらも熱くなりすぎました。」
 アマンダもバルトルトの謝罪を受け入れる。
「しかし、いかに敵将とは言え一騎討ちを行って勝てぬと判断したら矢で射殺するとは武人の風上にもおけぬ。」
 アマンダは自分が侮辱された以上にラトムのラーム将軍の撃ち取り方に怒りを覚えているらしい。

「オレンボー辺境伯令嬢のお怒りはごもっとも。これは上に報告してしかるべく処置を取る事といたします。」
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