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第1部 最終章
オレオ会戦(中)1
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リューベック軍本営の近くに布陣していたオレンボー辺境伯軍の元にも本営からの命が届いていた。
「やっと出番ね」
アマンダそう呟きながら馬に乗り、剣をかがける。
「これより出陣する。良い所はリューベック軍左翼に持っていかれたが、敵はまだ残っている。我らオレンボー辺境伯軍の力をリューベック軍とフリーランス軍に見せてやれ」
「アマンダ様万歳」
「我らはアマンダ様が向かう所であればどこにでもお供いたしますぞ」
オレンボー辺境伯軍は自分達の武器をかがけながら歓声を上げた。
「援軍が到着するまでここを死守するぞ。」
フリーランス軍右翼を指揮するベール伯は顔を青くしながら覚悟を決める。
すでにフリーランス右翼は完全に分断され、防衛線をしく事ができず、分断された各隊が方陣(正方形の防御陣)をしこうとはするが、それもリューベック軍の猛攻を受け壊走していき、残すはベール伯の手元にある軍勢と西の端に残った軍勢であった。
しかし、西の端に残った軍勢ももはや後退しつつあり、これが壊走に移るのは時間の問題であろう。
そして、ベール伯が直卒する軍勢もラトム大隊の総攻撃にさらされようとしていた。
ラトム大隊長ラトムは敵が弓兵による準備射撃も必要もない程弱っている事を見向き、弓兵に準備射撃を命じる事もなく歩兵に突撃を命じる。
フリーランス軍は何とか持ちこたえるが、ベール伯の表情は厳しい。
「後30分も持たぬ」
リューベック軍騎兵が方陣の弱い部分を攻撃し、方陣も少しずつ削られていた。
そして、さらなる絶望が抵抗するフリーランスを襲う。
リューベック軍の一隊がフリーランス軍の背後に回り込もうとしているのが見えたからである。
「これまでか」
ベール伯が逃亡を決意した瞬間、リューベック軍後方に土煙があがっているのが見えた。
「敵の援軍まで到着したか」
ベール伯がため息をついた時、兵士達の歓声が上がる。
「援軍だ!援軍が来たぞ」
東側にも土煙が上がっている。
東側と言う事はフリーランス軍の援軍の可能性が高い。
それに気づいたのか、リューベック軍の援軍も北東に進路を変えていった。
オレンボー辺境伯軍の指揮を執るアマンダ嬢は迫る敵を冷静に見つめていた。
「数は千と言った所ですかね。数では負けていますが……」
アマンダを補佐する副将のモンバルも進撃する敵を見つめながら呟く。
「しかし、敵の士気は劣勢もあり、そこまで高くなかろう。しかも、早くここを突破しなければならないと言う焦りもある。」
アマンダは微笑を浮かべて、命令を出していく。
「歩兵は盾を並べ、弓兵は射撃準備。敵前衛を誘い出した後に弓兵は斉射を開始しなさい。」
アマンダの命を受けたオレンボー辺境伯軍の将兵は臨戦準備を整えていった。
フリーランス軍の援軍の指揮を任されたマンコダはオレンボー辺境伯軍が盾を並べる様を見て防御を固め、時間稼ぎを図っているのだと考えた。
「こんな所で時間をかけている訳にいかぬ。お嬢様が指揮を執る田舎貴族の私兵等一撃で蹴散らしてしまえ」
配下に攻撃を命じる。こんな所で時間をかけていたら、フリーランス軍右翼が崩壊してしまい、リューベック軍左翼を拘束すると言う任務が果たせなくなるのだから。
「弓兵、まずは敵の騎馬を狙いなさい。」
アマンダは前線で号令を出していく。
歩兵の中に騎乗している者はたいてい小隊長以上の下級指揮官である。まずは、下級指揮官を削ろうとしたのだ。
そうこうしているうちに、フリーランス軍は速足となり、150メートルぐらいから突撃に変わる。
しかし、アマンダは攻撃開始の命を出さなかった。
「敵をぎりぎりまでひきつけよ。」
そして、フリーランス軍が100メートルぐらいまで近づいた時、アマンダからの号令がかかる。
「今だ、斉射」
アマンダが剣を振り下ろした時、オレンボー辺境伯軍から矢が放たれた。
次々と騎士達や馬に次々と刺さり、騎兵は倒れていく。
甲冑を着た重装備の騎兵を弓兵が1本や2本の矢で倒すのは難しい。重い鎧を着た騎士は当たり所が良くないと倒すのは難しく、馬にもある程度の鎧が着けられているからだ。しかし、弓兵でも甲冑を着た騎士を集中的に狙えば倒せない訳ではない。
そして、重装備の騎兵は殺す事は出来なくても馬から落として倒してさえしまえば良い。何故なら倒れてしまえば重い甲冑を着ている以上立ち上がるのは中々難しく無力化されるからだ。
そして、第2射が放たれ、フリーランス軍前衛は混乱に陥った。
前線で指揮を執る小隊長達がほとんど倒れたからだ。
簒奪王が育て上げた黒旗軍ならこの程度で混乱に陥る事はないのだが、徹底的に訓練された軍ではないフリーランス軍では仕方のない事であった。
そして、フリーランス軍が混乱するように小隊長らを徹底的に狙ったアマンダがそれを見逃す訳がなかった。
アマンダの命を受けたオレンボー辺境伯軍の前衛は突撃に転じ、前進を止めた敵兵に襲い掛かる。
味方の劣勢を見たマンコダは舌打ちをしながら、予備を投入する。
ここで手間取り、時間をかけるにはいかないのだから……
「やっと出番ね」
アマンダそう呟きながら馬に乗り、剣をかがける。
「これより出陣する。良い所はリューベック軍左翼に持っていかれたが、敵はまだ残っている。我らオレンボー辺境伯軍の力をリューベック軍とフリーランス軍に見せてやれ」
「アマンダ様万歳」
「我らはアマンダ様が向かう所であればどこにでもお供いたしますぞ」
オレンボー辺境伯軍は自分達の武器をかがけながら歓声を上げた。
「援軍が到着するまでここを死守するぞ。」
フリーランス軍右翼を指揮するベール伯は顔を青くしながら覚悟を決める。
すでにフリーランス右翼は完全に分断され、防衛線をしく事ができず、分断された各隊が方陣(正方形の防御陣)をしこうとはするが、それもリューベック軍の猛攻を受け壊走していき、残すはベール伯の手元にある軍勢と西の端に残った軍勢であった。
しかし、西の端に残った軍勢ももはや後退しつつあり、これが壊走に移るのは時間の問題であろう。
そして、ベール伯が直卒する軍勢もラトム大隊の総攻撃にさらされようとしていた。
ラトム大隊長ラトムは敵が弓兵による準備射撃も必要もない程弱っている事を見向き、弓兵に準備射撃を命じる事もなく歩兵に突撃を命じる。
フリーランス軍は何とか持ちこたえるが、ベール伯の表情は厳しい。
「後30分も持たぬ」
リューベック軍騎兵が方陣の弱い部分を攻撃し、方陣も少しずつ削られていた。
そして、さらなる絶望が抵抗するフリーランスを襲う。
リューベック軍の一隊がフリーランス軍の背後に回り込もうとしているのが見えたからである。
「これまでか」
ベール伯が逃亡を決意した瞬間、リューベック軍後方に土煙があがっているのが見えた。
「敵の援軍まで到着したか」
ベール伯がため息をついた時、兵士達の歓声が上がる。
「援軍だ!援軍が来たぞ」
東側にも土煙が上がっている。
東側と言う事はフリーランス軍の援軍の可能性が高い。
それに気づいたのか、リューベック軍の援軍も北東に進路を変えていった。
オレンボー辺境伯軍の指揮を執るアマンダ嬢は迫る敵を冷静に見つめていた。
「数は千と言った所ですかね。数では負けていますが……」
アマンダを補佐する副将のモンバルも進撃する敵を見つめながら呟く。
「しかし、敵の士気は劣勢もあり、そこまで高くなかろう。しかも、早くここを突破しなければならないと言う焦りもある。」
アマンダは微笑を浮かべて、命令を出していく。
「歩兵は盾を並べ、弓兵は射撃準備。敵前衛を誘い出した後に弓兵は斉射を開始しなさい。」
アマンダの命を受けたオレンボー辺境伯軍の将兵は臨戦準備を整えていった。
フリーランス軍の援軍の指揮を任されたマンコダはオレンボー辺境伯軍が盾を並べる様を見て防御を固め、時間稼ぎを図っているのだと考えた。
「こんな所で時間をかけている訳にいかぬ。お嬢様が指揮を執る田舎貴族の私兵等一撃で蹴散らしてしまえ」
配下に攻撃を命じる。こんな所で時間をかけていたら、フリーランス軍右翼が崩壊してしまい、リューベック軍左翼を拘束すると言う任務が果たせなくなるのだから。
「弓兵、まずは敵の騎馬を狙いなさい。」
アマンダは前線で号令を出していく。
歩兵の中に騎乗している者はたいてい小隊長以上の下級指揮官である。まずは、下級指揮官を削ろうとしたのだ。
そうこうしているうちに、フリーランス軍は速足となり、150メートルぐらいから突撃に変わる。
しかし、アマンダは攻撃開始の命を出さなかった。
「敵をぎりぎりまでひきつけよ。」
そして、フリーランス軍が100メートルぐらいまで近づいた時、アマンダからの号令がかかる。
「今だ、斉射」
アマンダが剣を振り下ろした時、オレンボー辺境伯軍から矢が放たれた。
次々と騎士達や馬に次々と刺さり、騎兵は倒れていく。
甲冑を着た重装備の騎兵を弓兵が1本や2本の矢で倒すのは難しい。重い鎧を着た騎士は当たり所が良くないと倒すのは難しく、馬にもある程度の鎧が着けられているからだ。しかし、弓兵でも甲冑を着た騎士を集中的に狙えば倒せない訳ではない。
そして、重装備の騎兵は殺す事は出来なくても馬から落として倒してさえしまえば良い。何故なら倒れてしまえば重い甲冑を着ている以上立ち上がるのは中々難しく無力化されるからだ。
そして、第2射が放たれ、フリーランス軍前衛は混乱に陥った。
前線で指揮を執る小隊長達がほとんど倒れたからだ。
簒奪王が育て上げた黒旗軍ならこの程度で混乱に陥る事はないのだが、徹底的に訓練された軍ではないフリーランス軍では仕方のない事であった。
そして、フリーランス軍が混乱するように小隊長らを徹底的に狙ったアマンダがそれを見逃す訳がなかった。
アマンダの命を受けたオレンボー辺境伯軍の前衛は突撃に転じ、前進を止めた敵兵に襲い掛かる。
味方の劣勢を見たマンコダは舌打ちをしながら、予備を投入する。
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