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第1部 最終章
フリーランス王国軍、動く
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ナーロッパ歴1056年12月17日。
進軍中のフリーランス王国軍本営にリューベック王国軍主力リュッセル要塞より出撃したと言う報が入る。
フリーランス王国軍も斥候を放ち、リューベック王国軍の動向を探った。
そして、12月19日10時。
フリーランス王国軍の将軍の1人、カス・ベール伯の報告によりフリーランス王国軍の軍議は始まった。
「斥候の報告によるとリューベック王国軍主力8千強がここから東方約20キロにあるオレオ平原に布陣したとの事です。別動隊が動いている気配はないとの事ですが……」
ベール伯の言葉にマース子爵は頷く。
「確かに奥地に誘い込んでいて別動隊がないとは考えにくいですね。主力軍の正面決戦がお望みなら国境でやれば良いだけですし」
敵地である以上偵察が十分にできていない可能性がある。ほとんどのフリーランス王国軍の将校はそれを深刻に考えていた。
あのフラリン王国軍もフェリオル軍本隊の位置を特定できておらず、それが大きな敗因となっていたからだ。
無論、リューベック王国軍がフェリオル軍と同じ戦果を挙げられるとはフリーランス軍の将校も思っていないが、警戒しておくには越した事はない。
「単純に国境への展開が間に合わなかったのではないか。軍の動員開始は我々より遅かった訳であるし……」
メイツ侯の言葉にベール伯は反論する。
「それはそうですが、しかし真相も分からない以上無警戒と言う訳にもいかぬでしょう」
「それはそうだが……」
メイツ侯が苦笑を浮かべながら認めると諸将の言葉に耳を傾けていた総大将デルク・ラーム公爵がついに発言する。
「このままリューベック主力軍を放置する訳も行くまい。全軍を上げてオレオ平原に進軍し、アルベルト王子を討ち取ろうではないか」
諸将が頷いたのを確認したラーム公はさらに続ける。
「全軍に下知を出せ。これより全軍を上げてリューベック主力軍を討つ。リューベック主力を討ち取り、リュベル陥落させたあかつきにはリュベルとその近郊で4日間の自由を与える」
諸将は自由と言う言葉を理解し、勝利を確信する。
「御意」
「これによりわが軍の士気は天井知らずでしょう。テンプレ神は我々に微笑むでしょうな」
自由とは要するに略奪を行う権利であり、リュベルはナーロッパ北方で1番栄えている大都市である。
そこで略奪ができるとなると、兵士達も数年は遊んで暮らせる金が手に入るだろう。
そうなれば、兵達の士気は跳ね上がる事は間違いない。
後は伏兵は別動隊の有無に警戒するだけ……
フリーランス王国遠征軍の幹部の中で勝利を疑う者は誰もいなかった。
☆☆☆☆☆☆
フリーランス王国のリューベック王国侵攻が始まったために、アリシアのお見合いと王妃教育は中断となった。当初はアリシアのピルイン公領帰還は将来の王妃が侵攻を受けたからと言って他国に逃げ出すのはいかがな物かとピルイン公一族や家臣から出たのであるが、アルベルトからシャルロット王女の補佐を頼まれたため、それに伴っての帰国と言う事で落ち着いた。
実家に帰るため、アリシアは馬車に乗って本領に向かっており、その正面に座っているのはアルベルトの妹君であるシャルロットである。
彼女が派遣される要件は要約すると小麦等の穀物の取引であり、その交渉のための使節団の代表がシャルロットと言う訳である。
無論、シャルロットはお飾りであり、実際は別の者が交渉すると言うのは外務省の高位の外交官も同行している事からも解る。もっとも、その外交官はアリシア達とは別の馬車だが……
まあ、実権がないシャルロットの補佐を頼まれたアリシアもリューベックから事実上追い出された事になるが、これはピルイン公に貸しをつくるためと言うのが大きいとアリシアは判断していた。
ピルイン公の本音としては婚姻を済ませていないアリシアを戦に巻き込まれないうちに帰国させたかった。
もし、リューベックが敗北してアリシアが嫁ぐ前に死なれたら政略的にもったいないし、生き残ったとしてもフリーランス軍将兵に犯されたり等したら政略結婚の駒としての価値がなくなるからだ。
しかし、嫁ぎ先になる予定である国の王妃教育を受けていた娘を戦が近いからと言って帰国させるのも、『ピルイン家の娘はいざとなったらその家を見捨てる』と他家から叩かれ、ピルイン選帝公家の面子が潰れる。いや、面子が潰れるだけでなくピルイン家傘下の帝国貴族にも動揺が走り、それがシュタデーン公との争いに置いて致命傷になる可能性も結構あった。
しかし、ここでアルベルトの要請を受けた上での帰国となれば、『リューベックに残りたかったのであるが、将来の夫の命を受けたため仕方なく帰国した』とアリシアやピルイン公は言い張る事が出来る。所詮は建前でしかないが、貴族社会ではその建前こそが重要なのである。
そして、使節団のトップにお飾りでもシャルロット王女を置いた事はアリシアは良い手だと思っている。
王女殿下が代表を務める使節団が交渉に来ると言う時点でピルイン家からすれば箔がつくし、サイラスも良くも悪くもかなり保守的な人のためかなりこれは効果的だ。さらにアリシアの嫁ぎ先でもある事やアリシアの帰国での借り等が相まってかなり便宜を計ってくれるのは間違いない。
だが、それはついでの話であって、アルベルトの本命は恐らくシャルロットを一時的に他国に避難させたいと言った所である事はアリシアも理解していた。
しかし正面で緊張するシャルロットはその事に気づいていない。
アルベルトに任された仕事をどうやって果たすのかで精一杯と言った雰囲気だった。
(義妹となるのですし、少しでも仲良くなっておくべきでしょうね。)
とピルイン公令嬢は心の中で呟く。
そして、どういう話題が良いのだろうかとアリシアは考えながら声をかける事にする。
進軍中のフリーランス王国軍本営にリューベック王国軍主力リュッセル要塞より出撃したと言う報が入る。
フリーランス王国軍も斥候を放ち、リューベック王国軍の動向を探った。
そして、12月19日10時。
フリーランス王国軍の将軍の1人、カス・ベール伯の報告によりフリーランス王国軍の軍議は始まった。
「斥候の報告によるとリューベック王国軍主力8千強がここから東方約20キロにあるオレオ平原に布陣したとの事です。別動隊が動いている気配はないとの事ですが……」
ベール伯の言葉にマース子爵は頷く。
「確かに奥地に誘い込んでいて別動隊がないとは考えにくいですね。主力軍の正面決戦がお望みなら国境でやれば良いだけですし」
敵地である以上偵察が十分にできていない可能性がある。ほとんどのフリーランス王国軍の将校はそれを深刻に考えていた。
あのフラリン王国軍もフェリオル軍本隊の位置を特定できておらず、それが大きな敗因となっていたからだ。
無論、リューベック王国軍がフェリオル軍と同じ戦果を挙げられるとはフリーランス軍の将校も思っていないが、警戒しておくには越した事はない。
「単純に国境への展開が間に合わなかったのではないか。軍の動員開始は我々より遅かった訳であるし……」
メイツ侯の言葉にベール伯は反論する。
「それはそうですが、しかし真相も分からない以上無警戒と言う訳にもいかぬでしょう」
「それはそうだが……」
メイツ侯が苦笑を浮かべながら認めると諸将の言葉に耳を傾けていた総大将デルク・ラーム公爵がついに発言する。
「このままリューベック主力軍を放置する訳も行くまい。全軍を上げてオレオ平原に進軍し、アルベルト王子を討ち取ろうではないか」
諸将が頷いたのを確認したラーム公はさらに続ける。
「全軍に下知を出せ。これより全軍を上げてリューベック主力軍を討つ。リューベック主力を討ち取り、リュベル陥落させたあかつきにはリュベルとその近郊で4日間の自由を与える」
諸将は自由と言う言葉を理解し、勝利を確信する。
「御意」
「これによりわが軍の士気は天井知らずでしょう。テンプレ神は我々に微笑むでしょうな」
自由とは要するに略奪を行う権利であり、リュベルはナーロッパ北方で1番栄えている大都市である。
そこで略奪ができるとなると、兵士達も数年は遊んで暮らせる金が手に入るだろう。
そうなれば、兵達の士気は跳ね上がる事は間違いない。
後は伏兵は別動隊の有無に警戒するだけ……
フリーランス王国遠征軍の幹部の中で勝利を疑う者は誰もいなかった。
☆☆☆☆☆☆
フリーランス王国のリューベック王国侵攻が始まったために、アリシアのお見合いと王妃教育は中断となった。当初はアリシアのピルイン公領帰還は将来の王妃が侵攻を受けたからと言って他国に逃げ出すのはいかがな物かとピルイン公一族や家臣から出たのであるが、アルベルトからシャルロット王女の補佐を頼まれたため、それに伴っての帰国と言う事で落ち着いた。
実家に帰るため、アリシアは馬車に乗って本領に向かっており、その正面に座っているのはアルベルトの妹君であるシャルロットである。
彼女が派遣される要件は要約すると小麦等の穀物の取引であり、その交渉のための使節団の代表がシャルロットと言う訳である。
無論、シャルロットはお飾りであり、実際は別の者が交渉すると言うのは外務省の高位の外交官も同行している事からも解る。もっとも、その外交官はアリシア達とは別の馬車だが……
まあ、実権がないシャルロットの補佐を頼まれたアリシアもリューベックから事実上追い出された事になるが、これはピルイン公に貸しをつくるためと言うのが大きいとアリシアは判断していた。
ピルイン公の本音としては婚姻を済ませていないアリシアを戦に巻き込まれないうちに帰国させたかった。
もし、リューベックが敗北してアリシアが嫁ぐ前に死なれたら政略的にもったいないし、生き残ったとしてもフリーランス軍将兵に犯されたり等したら政略結婚の駒としての価値がなくなるからだ。
しかし、嫁ぎ先になる予定である国の王妃教育を受けていた娘を戦が近いからと言って帰国させるのも、『ピルイン家の娘はいざとなったらその家を見捨てる』と他家から叩かれ、ピルイン選帝公家の面子が潰れる。いや、面子が潰れるだけでなくピルイン家傘下の帝国貴族にも動揺が走り、それがシュタデーン公との争いに置いて致命傷になる可能性も結構あった。
しかし、ここでアルベルトの要請を受けた上での帰国となれば、『リューベックに残りたかったのであるが、将来の夫の命を受けたため仕方なく帰国した』とアリシアやピルイン公は言い張る事が出来る。所詮は建前でしかないが、貴族社会ではその建前こそが重要なのである。
そして、使節団のトップにお飾りでもシャルロット王女を置いた事はアリシアは良い手だと思っている。
王女殿下が代表を務める使節団が交渉に来ると言う時点でピルイン家からすれば箔がつくし、サイラスも良くも悪くもかなり保守的な人のためかなりこれは効果的だ。さらにアリシアの嫁ぎ先でもある事やアリシアの帰国での借り等が相まってかなり便宜を計ってくれるのは間違いない。
だが、それはついでの話であって、アルベルトの本命は恐らくシャルロットを一時的に他国に避難させたいと言った所である事はアリシアも理解していた。
しかし正面で緊張するシャルロットはその事に気づいていない。
アルベルトに任された仕事をどうやって果たすのかで精一杯と言った雰囲気だった。
(義妹となるのですし、少しでも仲良くなっておくべきでしょうね。)
とピルイン公令嬢は心の中で呟く。
そして、どういう話題が良いのだろうかとアリシアは考えながら声をかける事にする。
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