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第1部 第2章
小国の王太子とピルイン公令嬢との晩餐会
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エミリアと王宮の一室で雑談して過ごしていたアルベルトの元に侍従から、
「殿下、ピルイン公御令嬢到着しました。」
と報告が入ったからだ。
「いよいよか。」
「はい、殿下。参りましょうか。」
アルベルトは従者兼補佐官であるエミリアを伴って部屋を出て、王宮のエントランスホールに向かった。
エントランスホールに到着すると、貴賓を迎えるに恥ずかしくないだけの数のリューベック王国側の人員が整列していた。ゲスト側にいるのは紫のドレスを纏い、薄いベールで顔を隠す少女とそばにいる侍女が1名と文官8名と護衛と思われる甲冑を着た騎士10名である。
「遠路はるばる良くリューベックに参られた。」
アルベルトが声をかけるとアリシア嬢やその護衛らの視線が彼に集まる。
「病床の父上に代わりご挨拶申し上げます。私がこの国の王太子にして摂政を務めるアルベルト・ナガコトです」
ドレス姿の少女がベールを取りながら、
「アリシア・ピルインでございます。」
と美しい声で答える。
アルベルトは一瞬、彼女の美しい顔に見とれてしまった。
「大したもてなしはできませんがまずは旅の疲れを取ってください。夜はささやかながら宴も用意しております。」
アリシア御一行をもてなすために晩餐会は和やかな雰囲気で進んだ。ピルイン家とナガコト王家の縁談のための顔合わせの場という事で、お互い面倒事を起こさないと参加者全員で心がけていた事もあったが、それ以上に主賓であるアリシアとアルベルトが和やかに会話している事も大きいだろう。
「驚きました。この地でロレーン料理を食べられると思っていなかったので……」
ロレーンとはかつて存在したロレーン族の事であり、ピルイン公領の大多数の領民やピルイン公一族もその末裔である。
ロレーン族の文化も帝国文化と統合されてはいるものの、それでもその名残も残っており、ロレーン料理等もその1つである。
主賓席で微笑みながら言うアリシアにアルベルトは答える。
「長旅で疲れると故郷の料理が恋しくなるでしょう。なので初日は慣れたロレーン料理が口に合うと思いまして……」
「お心づかい感謝致します。アルベルト殿下。ところで殿下は旅人の気持ちにお詳しいようですが長旅に出られる事がありますか?」
「旅は好きですよ。と言っても幼い時は体が弱く、旅に出られたのは摂政に就任する2年前ぐらいからですけどね。流石に摂政に就任した後は忙しくて行く機会もありませんが……」
アルベルトが苦笑いしながら答えると、
「そうなのですか。国王陛下が快復されればまた旅に出られるのですか?」
アリシアは緑色の瞳をアルベルトに向けて興味深そうに尋ねて来る。
「そうですね。国王に即位するまでにもう一度旅に出たいとは思ってはいますが、なかなか。公務なら摂政や国王の立場でも行けるでしょうが……」
アルベルトもにこやかに笑いながら、対面に座るピルイン家のご令嬢を観察する。
(容姿はめちゃくちゃ美人でスタイルも良さそうだ。テープルマナーも完璧だし、これで婚約破棄されたのはおかしい。何か裏でもあるのか……)
アルベルトは警戒を強める。
帝国にあるリューベックの大使館から情報を送らせたものの、流石に諜者を放って調べさせる余裕がなかった。
この婚姻の話が急であった事もあるが、それ以上に簒奪王の勝利に伴う勢力図の変化に連なる事での情報収集で諜者がいくらいても足りない状況に陥っているのだ。
(出来れば、その裏があれば探りたい所。諜者に余裕が出来れば調査させるが、自分でも探りを入れてみよう。)
「どうされました? アルベルト王太子殿下。」
アリシアの言葉でいつの間にかアルベルトは思考にふけっていた事に気づいた。普通に考えればかなりの失礼にあたる行為である。急いでフォローの言葉を彼は口にする。
「アリシア嬢の美しさに見とれていたようです。」
「ありがとうございます、殿下。国元ではそのような事を言ってくれる者はいなかったのでとても嬉しく思います」
「それはそれは。帝国の男は女性を見る目がないのでしょうね。アリシア嬢程美しい女性を私は今まで見た事がないと言うのに……」
「殿下のお優しいお言葉は嬉しくありますが、所詮私は婚約者に捨てられた女でございます。ところでリューベック料理とはどのような物ですか? 恥ずかしながら私はリューベック料理を食べた事がないので」
アリシアは少し表情を曇らせながら言う。
話がアリシアに主導されていた。アルベルトも欲しい情報に関する話題に引っ張ろうとするが、冗談で返されたり、憂いた表情で話題を変えてきたりする。この話は辛いんですと言う風に……
しかし、アルベルトも少しでもここで探りたいと思いながら晩餐会の最後まで粘ったのである。
晩餐会は最後にアリシアが心からの物と思える丁寧な答礼を述べ、淑女らしい礼を披露してから退席していった。
これで今日の日程は終えたのである。
「殿下、ピルイン公御令嬢到着しました。」
と報告が入ったからだ。
「いよいよか。」
「はい、殿下。参りましょうか。」
アルベルトは従者兼補佐官であるエミリアを伴って部屋を出て、王宮のエントランスホールに向かった。
エントランスホールに到着すると、貴賓を迎えるに恥ずかしくないだけの数のリューベック王国側の人員が整列していた。ゲスト側にいるのは紫のドレスを纏い、薄いベールで顔を隠す少女とそばにいる侍女が1名と文官8名と護衛と思われる甲冑を着た騎士10名である。
「遠路はるばる良くリューベックに参られた。」
アルベルトが声をかけるとアリシア嬢やその護衛らの視線が彼に集まる。
「病床の父上に代わりご挨拶申し上げます。私がこの国の王太子にして摂政を務めるアルベルト・ナガコトです」
ドレス姿の少女がベールを取りながら、
「アリシア・ピルインでございます。」
と美しい声で答える。
アルベルトは一瞬、彼女の美しい顔に見とれてしまった。
「大したもてなしはできませんがまずは旅の疲れを取ってください。夜はささやかながら宴も用意しております。」
アリシア御一行をもてなすために晩餐会は和やかな雰囲気で進んだ。ピルイン家とナガコト王家の縁談のための顔合わせの場という事で、お互い面倒事を起こさないと参加者全員で心がけていた事もあったが、それ以上に主賓であるアリシアとアルベルトが和やかに会話している事も大きいだろう。
「驚きました。この地でロレーン料理を食べられると思っていなかったので……」
ロレーンとはかつて存在したロレーン族の事であり、ピルイン公領の大多数の領民やピルイン公一族もその末裔である。
ロレーン族の文化も帝国文化と統合されてはいるものの、それでもその名残も残っており、ロレーン料理等もその1つである。
主賓席で微笑みながら言うアリシアにアルベルトは答える。
「長旅で疲れると故郷の料理が恋しくなるでしょう。なので初日は慣れたロレーン料理が口に合うと思いまして……」
「お心づかい感謝致します。アルベルト殿下。ところで殿下は旅人の気持ちにお詳しいようですが長旅に出られる事がありますか?」
「旅は好きですよ。と言っても幼い時は体が弱く、旅に出られたのは摂政に就任する2年前ぐらいからですけどね。流石に摂政に就任した後は忙しくて行く機会もありませんが……」
アルベルトが苦笑いしながら答えると、
「そうなのですか。国王陛下が快復されればまた旅に出られるのですか?」
アリシアは緑色の瞳をアルベルトに向けて興味深そうに尋ねて来る。
「そうですね。国王に即位するまでにもう一度旅に出たいとは思ってはいますが、なかなか。公務なら摂政や国王の立場でも行けるでしょうが……」
アルベルトもにこやかに笑いながら、対面に座るピルイン家のご令嬢を観察する。
(容姿はめちゃくちゃ美人でスタイルも良さそうだ。テープルマナーも完璧だし、これで婚約破棄されたのはおかしい。何か裏でもあるのか……)
アルベルトは警戒を強める。
帝国にあるリューベックの大使館から情報を送らせたものの、流石に諜者を放って調べさせる余裕がなかった。
この婚姻の話が急であった事もあるが、それ以上に簒奪王の勝利に伴う勢力図の変化に連なる事での情報収集で諜者がいくらいても足りない状況に陥っているのだ。
(出来れば、その裏があれば探りたい所。諜者に余裕が出来れば調査させるが、自分でも探りを入れてみよう。)
「どうされました? アルベルト王太子殿下。」
アリシアの言葉でいつの間にかアルベルトは思考にふけっていた事に気づいた。普通に考えればかなりの失礼にあたる行為である。急いでフォローの言葉を彼は口にする。
「アリシア嬢の美しさに見とれていたようです。」
「ありがとうございます、殿下。国元ではそのような事を言ってくれる者はいなかったのでとても嬉しく思います」
「それはそれは。帝国の男は女性を見る目がないのでしょうね。アリシア嬢程美しい女性を私は今まで見た事がないと言うのに……」
「殿下のお優しいお言葉は嬉しくありますが、所詮私は婚約者に捨てられた女でございます。ところでリューベック料理とはどのような物ですか? 恥ずかしながら私はリューベック料理を食べた事がないので」
アリシアは少し表情を曇らせながら言う。
話がアリシアに主導されていた。アルベルトも欲しい情報に関する話題に引っ張ろうとするが、冗談で返されたり、憂いた表情で話題を変えてきたりする。この話は辛いんですと言う風に……
しかし、アルベルトも少しでもここで探りたいと思いながら晩餐会の最後まで粘ったのである。
晩餐会は最後にアリシアが心からの物と思える丁寧な答礼を述べ、淑女らしい礼を披露してから退席していった。
これで今日の日程は終えたのである。
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