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第1部 第2章

妹は可愛いい。(中)

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 同時刻

 ロアーヌ帝国帝都シュバインフルトにあるハーベンブルク選帝公屋敷の一室。

 アルベルトの予想通り、本来、ピルイン公サイラスは娘のリューベック行きに同行するつもりだった。
 が、この日は選帝公である三公、ハーベンブルク公、シュタデーン公、そしてピルイン公、そしてリトルフィング辺境伯とプシェミスル辺境伯の五人で協議があったため、断念せざるを得なかった。
 この5家が帝国の最有力諸侯である。5家の総動員兵力は帝国の総動員兵力の3分1を上回る。実質、この会合が明年の御前会議の流れを決めると言ってよい。

 まず、口を開いたのはハーベンブルク公である。

「ここに至っては早急に簒奪王に決戦を挑むのは無理だと思うが、諸兄はいかがかな?」

「そうですな。フラリン王国という豊かな領土を手に入れたアストゥリウ王国の国力は我ら帝国の国力を上回る。ロアーヌ帝国単独で当たるのは危険としか言い様がありませんな」
 プシェミスル辺境伯は白い顎髭を触りながら答える。

「となると北方諸国やテラン半島諸国、後は異教徒のクマン族や異端のアルピオン王国等アストゥリウの周辺国と同盟し、力の結集を図るしかないか。簒奪王も我が国と対立している国と手を結ぼうとして来るであろうし……」
 シュタデーン公の呟きにピルイン公であるサイラスが続ける。
「無難な勢力均衡策だがそれしかないか。だが異教徒や異端の国家と対等な同盟となると教皇猊下が黙っておるまい。これが最大の問題だぞ」

 リトルフィング辺境伯が顎に人差し指と親指を当てて口を開く。
「簒奪王も異教徒の国を改宗せず属国にしていますが、属国と言うのであれば抜け道はありますし」
 改宗させるための準備中であると言い、後は教皇庁に寄付と言う名で袖の下を渡せば問題となる可能性は極めて低い。属国であれば、テンプレ教国が上となり、裏を返せばテンプレ教が異教より上であるとなるとも考えられるため、まあテンプレ教の面目も立つ。

「勢力均衡策を取れば教皇庁とやり合わないといけない訳だな」

 ハーベンブルク公がそう述べると参加している諸侯全員は軽く溜め息をついた。
 簒奪王と教皇、二つの強敵を抱える可能性を考えると溜め息をつきたくなるというものだった。




 旧フラリン王国王都バリのヴェルサルユス宮殿の国王執務室の控えの間に黒旗軍の軍団長3人が集まっていた。軍団長でありながら将軍にも就任している老将カリウス・オブラエン。ラーンベルク夜襲戦では先陣を務めたリカルド・アノー、そしてカリウスの指揮下でラーンベルク要塞防衛に努め、旧フラリン王国とロアーヌ国境の要塞のいくつかを調略で落としたロンメルである。

「陛下は捕らわれの姫の所か。敵国の姫との婚姻は我々のフラリン王国併合を正統化する根拠になるのだから我々も反対しないものを。例え嫌がっても姫は拒否できる状況でもあるまい」

 リカルドがそう呟くと、ロンメルが青い瞳をそちらに向ける。

「政略的に言えば卿の言う通りではあるが、人の心はそう簡単に割りきれぬ事もある。これは陛下にとって簡単に割りきれる物ではないのだろう」

 あのフェリオル王が亡国の姫との婚姻の利益に気づかぬ訳がない。にも関わらずジル姫に手を出さないという事は即ちそれだけ姫の事を大切に思っているのだとロンメルは思う。

「皆様お待たせしました。国王陛下のお召しにございます」

 そう言って控えの間に入ってきたのはギニアス・オブラエン。フェリオル王の近衛隊隊長を務める人物であった。



 リューベック王国ホルステン宮国王執務室。


 休憩も終わったアルベルトが書類仕事を再開すると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
 とアルベルトが促すとドアが開いて1人の少女が現れる。
「お久しぶりです、お兄様。今よろしいですか?」

 やや厚いドレスを纏い、赤みかかった長い金髪をなびかせながら部屋に入ってきた。

「シャルロット王女殿下、恐れながら今は……」
 アルベルトは書類から目を離しながら
「よい、エミリア。せっかく妹が来てくれたのだ」
 従者の言葉を途中で遮った。
「おいで。時間はそう取れないが何か用かな?」
 アルベルトは微笑みながらシャルロットに尋ねると
「いえ。用事と言う程の事ではないのですが、最近ろくにお兄様とお話できていなくて寂しくて……ご迷惑でしたか?」
 妹に申し訳なさそうな表情でこう言われると兄として保護欲をアルベルトはかき立てられる。

「可愛い妹の来訪を迷惑がる兄なんていない。エミリア、すぐに椅子と紅茶の用意を」

 エミリアは無言でアルベルトから離れたが、内心では(シスコン)とつぶやいていた。


 旧フラリン王国ヴェルサルユス宮殿国王執務室。

 カリウスは自分の息子のギニアスに微笑を浮かべて彼の肩に手を置く。
「陛下に良くお仕えできておるか?」

「はっ。非才の身で至らない所ばかりですが、出来る限りの事はしているつもりでございます」

「そうか」
 カリウスは手を離して執務室に入る。

「そなたで非才なら大抵の将兵は無能だぞ」

 リカルドは苦笑を浮かべながらギニアスにそう言って執務室に入り、ロンメルもそれに続いた。



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