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第1部 第1章
フラリン王国第2王子捕まる(下)
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アランがルイ達と共に要塞の司令塔から中庭に出ると、次々と騎士が集まった。
その数、およそ百騎。反乱軍に先手を取られた中でよく集まったと言える。それでも要塞守備隊二千のうちのどれだけが反乱に与しているか分からない今、安心できる数ではない。
「各自、馬を引け! これより、我らはアラン殿下をお守りしてこの要塞を脱する! 遅れるな!」
この場に集まった中で最年長の上級騎士の命に応じ、騎士たちが中庭に併設されている厩から軍馬を次々と出し、騎乗していく。その僅かな時間で、上級騎士達は突破のための陣形を打ち合わせ、隊列を整えていく。
ルイはアランの側にかけより、不安げな顔を向けた。
「アラン様、私は……」
神官である彼女が馬に乗れない事はアランにも予想がついていた。
「ルイは俺の馬に乗ってくれ。これから逃げるのに、馬車と言う訳にはいかない」
ルイは緊張した表情で小さく頷く。
アランは馬に乗ると、その後ろにルイは後ろから抱きつく形で乗る。
柔らかいものが背中にあたり、アランの顔は少し赤くなったのだが、すぐに表情を変え、騎士達に向けて声を張った。
「反乱軍に構うな! 離脱を優先し、突っ走れ!」
危険な先陣を引き受けた騎士達がまっさきに駆け出す。アランも手綱を引いて、直接護衛にあたる騎士達と共にそれに続く。
要塞の城門は反乱軍の手に落ちており、門の周りには傭兵らが陣を敷いていた。
反乱軍に加わっている弓兵らが矢をつがえ、そして斉射する。
だが、アランらにとっては幸いな事に弓兵の練度は低く、放たれた矢の多くは地上に刺さる。
しかし、それでも幾人かの騎士や馬に突き刺さった。
彼らは馬からおり、すぐに反乱軍の兵と剣を交える。
接近戦になり、味方に当たる可能性を考えた弓兵が戸惑い、矢を射るのを躊躇っていたところに、騎士の後続が突っ込み、反乱軍の兵達はすぐに崩れる。
そんな中、馬を捨てた騎士らは城門を開け、アランに促す。
「アラン殿下は先にお進みください。ここは我らが抑えます」
馬を捨てた騎士らは踏みとどまり、城門の周囲から集まってくる反乱軍の兵士達への壁となる。
アランは歯を食いしばる。
彼らを捨てていく、その選択ができずに馬を止めそうになる直前に冷静さを取り戻す。
(俺はここで死ぬ訳にはいかない。踏みとどまってくれている騎士の忠誠を無駄にしないためにも)
アランはせめてと思い振り返ると、落ちた騎士の1人が笑って、親指を立てていた。
彼はアランに剣を教えた騎士の一人であり、最近、やっと子供が産まれたと喜んでいた。
だが、そんな彼もアラン配下の騎士としてこれから死ななければならない。
わかってはいたつもりであったが、アランは自分の責任の大きさを改めて思い知る。
「すまない!」
アランはそう叫ぶと、城門を出て帝国の方に馬を走らせ、およそ六十騎の騎士がそれに続く。
3kmほど東に走ったあとで、安全を確認したアランはルイを馬から下ろす。
「ルイ、ここでさよならだ」
アランは別れを告げ、馬を走らせようとするが、ルイに止められる。
「アラン様、このまま東の街道に進むのは危険ではないですか?」
「どういう事だ?」
アランが尋ね、周りの騎士もルイに視線を向ける。
「もし、要塞守備兵の反乱が謀略の場合、それを仕掛けた人物は何を考えているでしょう?」
「そんなの要塞を抑え、運が良ければ殿下を討ちたかったのでは?」
若い騎士の一人が苦笑を浮かべながら言うと、中年の騎士が気づいたように呟く。
「待て。もし、反乱を起こさせた奴がアラン殿下とその配下を要塞から追い出したかったのであれば――」
ルイは微笑を浮かべてその騎士の方を向く。
「そういう事です。帝国に亡命する事を読まれていたらその街道には何か罠をはっておく可能性があるのではないですか?」
「その可能性はありますな。今は一刻を争う故、我らには斥候を放つ余裕がない。もし、それを狙っての反乱だとすれば……殿下」
「うん。一旦南に下り、それから東に進路を取る」
アラン王子の一行はルイと分かれた後でさらに南に10km程下り、そこから東に転じる。ちょっとした山道を馬で登っていると、突然矢が降りそそぎ配下の騎士が次々と倒れていく。
「敵襲!」
生き残った騎士達が剣を抜き、次から次に飛んでくる矢を叩き落とすが、それでも体に突き刺さる者、馬に突き刺さり振り落とされる者が相次ぎ、アランにも何本か甲冑に突き刺さっていた。
矢が降り止むと、山の脇から次々と男達が出てくる。男達はほぼ甲冑を着ておらず、粗末な剣や槍を持っていた。装備は騎士達に劣るが、数は圧倒的だ。
「山賊か、それに類する者達による落ち騎士狩りか……」
アランは悔しそうに呟くが、どうしようもない。頭目か、もしくは交渉係か何かと見える大男が声を張り上げる。
「何も命まで取ろうってつもりはない。だが、あくまで逆らおうってんなら、仕方ない。死体になってもらってから身ぐるみ剥がさせてもらうぞ!」
選択の余地はなかった。その後アラン王子一行は捕まり、奴隷商に売り飛ばされた。
その数時間後、ローズベルト王太子も逃げる途中、助力を申し出てきたフラリン王国北部の有力諸侯であるカイエン侯に裏切られ、同行していた側近達とともに殺された。
それらの首は内密に簒奪王に献上され、カイエン侯の領地は安堵されたのである。
その数、およそ百騎。反乱軍に先手を取られた中でよく集まったと言える。それでも要塞守備隊二千のうちのどれだけが反乱に与しているか分からない今、安心できる数ではない。
「各自、馬を引け! これより、我らはアラン殿下をお守りしてこの要塞を脱する! 遅れるな!」
この場に集まった中で最年長の上級騎士の命に応じ、騎士たちが中庭に併設されている厩から軍馬を次々と出し、騎乗していく。その僅かな時間で、上級騎士達は突破のための陣形を打ち合わせ、隊列を整えていく。
ルイはアランの側にかけより、不安げな顔を向けた。
「アラン様、私は……」
神官である彼女が馬に乗れない事はアランにも予想がついていた。
「ルイは俺の馬に乗ってくれ。これから逃げるのに、馬車と言う訳にはいかない」
ルイは緊張した表情で小さく頷く。
アランは馬に乗ると、その後ろにルイは後ろから抱きつく形で乗る。
柔らかいものが背中にあたり、アランの顔は少し赤くなったのだが、すぐに表情を変え、騎士達に向けて声を張った。
「反乱軍に構うな! 離脱を優先し、突っ走れ!」
危険な先陣を引き受けた騎士達がまっさきに駆け出す。アランも手綱を引いて、直接護衛にあたる騎士達と共にそれに続く。
要塞の城門は反乱軍の手に落ちており、門の周りには傭兵らが陣を敷いていた。
反乱軍に加わっている弓兵らが矢をつがえ、そして斉射する。
だが、アランらにとっては幸いな事に弓兵の練度は低く、放たれた矢の多くは地上に刺さる。
しかし、それでも幾人かの騎士や馬に突き刺さった。
彼らは馬からおり、すぐに反乱軍の兵と剣を交える。
接近戦になり、味方に当たる可能性を考えた弓兵が戸惑い、矢を射るのを躊躇っていたところに、騎士の後続が突っ込み、反乱軍の兵達はすぐに崩れる。
そんな中、馬を捨てた騎士らは城門を開け、アランに促す。
「アラン殿下は先にお進みください。ここは我らが抑えます」
馬を捨てた騎士らは踏みとどまり、城門の周囲から集まってくる反乱軍の兵士達への壁となる。
アランは歯を食いしばる。
彼らを捨てていく、その選択ができずに馬を止めそうになる直前に冷静さを取り戻す。
(俺はここで死ぬ訳にはいかない。踏みとどまってくれている騎士の忠誠を無駄にしないためにも)
アランはせめてと思い振り返ると、落ちた騎士の1人が笑って、親指を立てていた。
彼はアランに剣を教えた騎士の一人であり、最近、やっと子供が産まれたと喜んでいた。
だが、そんな彼もアラン配下の騎士としてこれから死ななければならない。
わかってはいたつもりであったが、アランは自分の責任の大きさを改めて思い知る。
「すまない!」
アランはそう叫ぶと、城門を出て帝国の方に馬を走らせ、およそ六十騎の騎士がそれに続く。
3kmほど東に走ったあとで、安全を確認したアランはルイを馬から下ろす。
「ルイ、ここでさよならだ」
アランは別れを告げ、馬を走らせようとするが、ルイに止められる。
「アラン様、このまま東の街道に進むのは危険ではないですか?」
「どういう事だ?」
アランが尋ね、周りの騎士もルイに視線を向ける。
「もし、要塞守備兵の反乱が謀略の場合、それを仕掛けた人物は何を考えているでしょう?」
「そんなの要塞を抑え、運が良ければ殿下を討ちたかったのでは?」
若い騎士の一人が苦笑を浮かべながら言うと、中年の騎士が気づいたように呟く。
「待て。もし、反乱を起こさせた奴がアラン殿下とその配下を要塞から追い出したかったのであれば――」
ルイは微笑を浮かべてその騎士の方を向く。
「そういう事です。帝国に亡命する事を読まれていたらその街道には何か罠をはっておく可能性があるのではないですか?」
「その可能性はありますな。今は一刻を争う故、我らには斥候を放つ余裕がない。もし、それを狙っての反乱だとすれば……殿下」
「うん。一旦南に下り、それから東に進路を取る」
アラン王子の一行はルイと分かれた後でさらに南に10km程下り、そこから東に転じる。ちょっとした山道を馬で登っていると、突然矢が降りそそぎ配下の騎士が次々と倒れていく。
「敵襲!」
生き残った騎士達が剣を抜き、次から次に飛んでくる矢を叩き落とすが、それでも体に突き刺さる者、馬に突き刺さり振り落とされる者が相次ぎ、アランにも何本か甲冑に突き刺さっていた。
矢が降り止むと、山の脇から次々と男達が出てくる。男達はほぼ甲冑を着ておらず、粗末な剣や槍を持っていた。装備は騎士達に劣るが、数は圧倒的だ。
「山賊か、それに類する者達による落ち騎士狩りか……」
アランは悔しそうに呟くが、どうしようもない。頭目か、もしくは交渉係か何かと見える大男が声を張り上げる。
「何も命まで取ろうってつもりはない。だが、あくまで逆らおうってんなら、仕方ない。死体になってもらってから身ぐるみ剥がさせてもらうぞ!」
選択の余地はなかった。その後アラン王子一行は捕まり、奴隷商に売り飛ばされた。
その数時間後、ローズベルト王太子も逃げる途中、助力を申し出てきたフラリン王国北部の有力諸侯であるカイエン侯に裏切られ、同行していた側近達とともに殺された。
それらの首は内密に簒奪王に献上され、カイエン侯の領地は安堵されたのである。
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