上 下
19 / 25
第2章

第19話 勢揃いで草

しおりを挟む
 それからしばらくして、すべての参加希望者の自己アピールが終わった。
 最後のメンバーはトラブルなく選ばれ、ここにバイパーバレー温泉同行隊が正式に結成された。
 不採用になった人たちはトボトボとお花畑から去っていく。

「今日はアタシのために集まってくれてありがと~う! また機会があればよろしくお願いしま~す!」

 ローウェが集まってくれた人間全員に感謝の言葉をかける。
 もちろん、不採用だった人たちにも言葉をかけ門の外まで見送った。

「しゃべり方が強烈だからわかりにくいけど、かなり人間出来てる町長さんよね」

「ああ、人の上に立つ人間のかがみだ。俺の父さんに見せてやりたいよ」

 その後、ウォルトとフロル……そしてもう一人の採用者は町長の邸宅の中へ招かれた。
 庭をお花畑にするだけあって、邸宅の中にも至る所に花が飾られている。
 壁に貼られた絵画すらも花が描かれている物ばかりだ。

「家の中までお花畑とは恐れ入りますねぇ」

 そうつぶやいたのは最後の採用者……奇術師のマジナ・イリュジニアだった。
 彼はフロルに完全敗北した後、再び立ち上がってローウェの前でアピールし、その不屈の精神と優秀なギフトによって採用を勝ち取ったのだ。

「まさか、あなたが選ばれるとは思わなかったな。そんな使い勝手のいいギフトでやることがさすらいのマジシャンとはねぇ。まあ、人の生き方をとやかく言わないけど」

 フロルがマジナをじとーっとにらみながら話しかける。

「ふふふ、そう呆れないでください。私の【念動術】は念じるだけでものを動かせはしますが、その実……あまりにも非力なのです。カードを動かすくらいなら涼しい顔で出来ますが、人を一人持ち上げようと思えば歯を食いしばって見るにえないくらい顔をゆがめて踏ん張ってやっとなのです」

「なら、踏ん張って頑張ればいいじゃん」

「嫌です。カッコ悪いところを人に見せたくない」

「さっき見せたばっかりじゃん」

「あ……ぐううぅぅぅぅぅぅっ!!」

 フロルに完全敗北したことを思い出したマジナは、膝から崩れ落ちて四つん這いの姿勢になる。
 彼の心はガラスのように脆い……。

「まただよ、フロル。割れ物を扱うようにしてあげなくっちゃ」

「私がそこまでしてあげる義理はないし! それにすぐ立ち直るじゃない」

「わ、私はカッコ悪くない……!」

 言ってるそばからマジナは立ち上がった。
 彼の心はガラスのように脆いが、雑草のように踏まれても伸び続ける。
 なので、ウォルトは案外マジナのことを気に入っていた。

(雑草のような心の強さ……見習いたいものだな)

「ほ~ら! 早くこっちにいらっしゃ~い!」

 ローウェがある部屋の扉の前からウォルトたちに呼びかける。

「これから他の同行隊のメンバーと一緒に作戦会議に出てもらいま~す! さあ、この会議室に入って入って!」

 言われるがまま、ウォルトたちは部屋の中に入る。

 広い広い部屋の中には大きな円形のテーブル――円卓えんたくが置かれ、それを囲むように8人のメンバーが着席していた。

「あらあら~! 急遽11人になったからイスが足りてないじゃな~い! アタシ取って来るから待っててねぇ~!」

 ローウェがバタバタと会議室を後にする。
 これで部屋の中には集められた同行隊メンバーのみになった。

「まさか、10人だった枠を11人にしちまうとは……なかなかヤンキーな姉ちゃんだな! 気の強い女の子は嫌いじゃないぜ!」

 話しかけて来たのは円卓に座った一人の黒髪の少年。
 小柄な体で扱えるとは思えない大弓を背負っている。

(弓を背負ったまま椅子に座ってて草)

 ウォルトが気になったのはその部分だった。
 だが、それに突っ込むような野暮なことはしない。

「俺たち全員、姉ちゃんたちのアピールタイムを見てたんだぜ。この会議室から出て、庭が見える廊下の窓からな。いやぁ、なかなか楽しい時間だったよ! 特に姉ちゃんがマジシャンみたいな奴をボコボコに返り討ちにした時は……」

「ぐううぅぅぅぅぅぅっ!!」

 マジナがまた膝から崩れ落ちる。
 この話題が出るたびに、彼は絶対にこの反応をし続けるだろう。

「あ、ごめんごめん! コテンパンにやられたマジシャンの兄貴も採用されてたんだったな」

「ぐううぅぅぅぅぅぅっ!!」

「でも、マジシャンの兄貴……略してマジ兄貴の最後のアピールすごかったなぁ! マジシャンとしての維持を感じたよ!」

「そうだろう? カッコよかっただろう?」

 称賛の言葉を聞いてマジナは即座に立ち上がった。

((今度から崩れ落ちたらこの手を使うか……))

 ウォルトとフロルは同じことを思った。

「ごっめ~ん! イス持って来たからこれに座って!」

「ありがとうございます」

 ウォルトは椅子を受け取り、円卓の間スペースに着席する。
 左隣にはフロル、右隣には上機嫌のマジナが座った。

「それではこれからバイパーバレー温泉同行隊を結成した理由から最終目標までを話すわよっ!」

 部屋の壁に取り付けられた黒板の前にローウェが立つ。

「まず私が体調不良を治すために湯治とうじを望んでいると募集チラシには書いたけど、その体調不良とは具体的に……腰痛なのよ」

 それはそれは深刻にローウェは言った。

「全然治らないのよ! もう3年以上痛いままなのよっ! 今は相性のいい痛み止めを見つけてごまかしているけど、それでも悪い日には動く気もなくなるくらい痛いのよォォォォォォ!!」

 鬼気迫る言葉の数々に、集まった同行隊のメンバーは絶句するしかなかった。
 これは本当につらい奴だ……と、ウォルトも流石に草を生やせない。

 だが、ウォルトとフロルには一つのひらめきがあった。
 単純な腰痛ならば、ウォルトが持つ薬草の力で治せてしまうのではないかと……。

 しかし、ここで治せてしまうと温泉同行隊は結成直後に解散。
 当然バイパーバレーに向かうこともなくなるだろう。

 自分たちの旅の目的か、それとも目の前の人の幸せか――
 ウォルトとフロルは腰痛に苦しむローウェを見つめ……答えを出した。

「ちょっと腰の様子を見させてもらえますか?」

 スッと手を上げ、ウォルトは発言した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

へなちょこ鑑定士くん、脱獄する ~魔物学園で飼育された少年は1日1個スキルを奪い、魔王も悪魔も神をも従えて世界最強へと至る~

めで汰
ファンタジー
魔物の学校の檻の中に囚われた鑑定士アベル。 絶体絶命のピンチに陥ったアベルに芽生えたのは『スキル奪取能力』。 奪い取れるスキルは1日に1つだけ。 さて、クラスの魔物のスキルを一体「どれから」「どの順番で」奪い取っていくか。 アベルに残された期限は30日。 相手は伝説級の上位モンスターたち。 気弱な少年アベルは頭をフル回転させて生き延びるための綱渡りに挑む。

処理中です...