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第二章 禁断の勇者と魔王の夜宴
Page.35 戦いで得たもの
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「初勝利おめでとう! まずはなにより頑張ったパステルを褒める! カッコよかったよ!」
「そうだろう、そうだろう!」
医療用テントで治療を終えた俺たちは宴の会場に戻ってきた。
武闘大会はまだ続いている。
そちらを観戦しようとも思ったけど、もう戦いは見るのもお腹いっぱいだ。
今は本当のお腹をいっぱいにすべく、美味しい料理を食べまくろう!
……とはいえ、言うべきことは言っておかないとね。
「カッコはよかったけど……正直あの戦い方は危なすぎるよ。じっと見てる方としては辛い」
「心配をかけてすまなかったとは思っている。しかし、勝ち方はあれ以外になかった。結果として怪我も大したことなかったし、まあ良かったではないか」
「確かに怪我は軽かったよ。でも、あの炎の中で戦ったにしては……ってことを忘れないで。普段の生活の中で背中全体に火傷を負ったら大怪我だ。俺の秘薬竜涙は強力な薬だからキズも残らずに治せたけど、強力な薬は体に負担をかける。常にあれをあてにして戦うのはよくない」
回復薬や回復魔法は生き物が本来持っている回復力を無理やり増幅させているという説がある。
その根拠は……死人には効かないこと。
体の機能を本当に薬や魔法の力だけで治せているのならば、寿命ではなく外傷によって死んだ者の体を復活させることも出来るはずだ。
しかし、それはいまだ実現していない。
研究している人は世界中にたくさんいるけど……。
「パステルの体はまだ完全じゃない。これからどんどん成長していくんだ。背も伸びるし、さらに綺麗になるし、魔法だって使えるようになるかもしれない」
「胸は大きくなるだろうか?」
「……なるさ! だから、焦る必要はないと思う。俺くらいの年齢で何も出来ないと焦っちゃうけど、パステルにはまだまだ可能性があるんだ。今回は無事でよかったけど、これからは……」
「私は嬉しかったのだ」
「え?」
「戦えることが嬉しかったのだ。強がっていたが、昔はエンジェが怖かった。魔法も腕っぷしも強いあいつに睨まれると、逆らえなくなってしまう。だが、今回は体が軽かった。ずっと背負ってきた重荷から解放されたように……。それはもちろん修羅のしおりの力を得たこともあるが、一番はエンデ……お前がいてくれたことだ」
「でも、俺は見てることしか……」
「それで十分だ。自分を見守ってくれる者が一人いるだけで、もうエンジェは怖くなかった。それどころか絶対に勝ちたいと心が燃えた。無理言って私をしおりの持ち主に選んでもらったゲーゴシン、魔境で私をかくまってくれたハイドラ、そして今の私を支えてくれるエンデ、メイリ、サクラコ……。みなから多くのものを与えられているのに、私は何も返せなかった」
「…………」
「だから、自分も戦えるようになったと証明したかった。私にだって何かできると思いたかったのだ。たとえそれがあまりに微力でも、奇策に頼った戦い方でも……あの恐ろしかったエンジェに勝てば成長しているのではないかと。何か自分の中で変わっていくのではないかと……」
この戦いは俺の想像を超えるほど重要なものだったみたいだ。
エンジェに勝つことは、自分を変えること。
今までの自分を変える戦いに命をかけるのは何もおかしくない。
見守る方は怖くて仕方ないけど、成長しようとするパステルを押さえつけるのは間違っている。
でも、そのせいでパステルが命を落とすというのならば、屋敷に閉じ込めてずっとこのままでいて欲しいとも思ってしまう。
しかしそれでは、今のパステルのようなキラキラした瞳は二度と見られないだろう。
日々悩み、努力するパステルだからこそ支えてあげたくなるのも事実。
正しい答えは……考えても出ない。
そんなものは存在しないし、するとしても時と場合によって形を変える。
ならば、今は……。
「パステル、何か自分が変わった実感はある?」
「うむ、少し自信がついた。自分のことを少しは褒めても良いと思えるようになった」
「なら良かった!」
とにかく勝利を掴んだパステルを褒めてあげれば間違いない。
反省会は屋敷に帰ってからでいいだろう。
真面目な話をするならメイリやサクラコも一緒の方がいい。
二人だってパステルのことを想う大事な仲間なんだ。
きっとメイリが戦術的な指導をして、サクラコが丸く収めてくれるはずだ。
「それじゃあ宴が終わるまで楽しく過ごすとしよう! 武闘大会に目が行きがちだけど、楽器の演奏とかダンスとかいろいろあるみたいだよ」
「うむ、あとで行こう。私にはあと一つだけやらねばならぬことがあるのだ」
「今日は……なかなか頑張るね」
「正直、私の自己満足かもしれんが……エンジェに一つだけ謝りたいのだ。勝ったことは謝らん。勝ちを譲るつもりなど初めからなかったし、今でも私は買ったことが嬉しくて震えるほどだ。十秒数え終わった時なんてゾクゾクしたぞ!」
やっぱりパステルの体にも争いを好む魔族の血が眠っているのか……。
いや、人間だって何かに勝利したときはゾクゾクするものだな。
俺は気持ちよく勝った経験がほぼないからわからないけど……。
「しかし、私は作戦通りに勝てたことに気を良くしてエンジェに追い打ちをかけるようなことをしてしまった。作戦の種明かしとエンジェの弱点の指摘だ。公衆の面前でやることではなかった。申し訳ないと思っている。ただ、それをいま謝るのもどうなのかと悩んでいてな……」
「確かにいまパステルが何か言っても聞いてくれないような気もするなぁ」
「とはいえ、このまま言葉を交わさず別れるのも後味が悪い。なんとか宴がお開きになる前に一言謝りたいものだ。ということで私は今からエンジェのいるテントに行ってくる」
「え、結局いまから行くの?」
「考えてみれば、エンジェはショックを受けたら一週間は引きずる女だった。少し時間を置く程度では精神状態は変わらん。ならば、早めに謝った方がもしかしたらあいつも楽になるかもしれん。すぐに戻ってくるつもりだから、エンデは好きに飲み食いして待っていてくれ」
そう言ってパステルは足早に去っていった。
好きにしてくれって言われても、パステルから目を話した状態で好きには出来ないんだよなぁ……。
でも、エンジェは俺のことを少し警戒しているというか、知らない男だから怖がっている感じがする。
俺がついて行っても彼女を追い詰めるだけだろう。
ここは……二人の乙女に気づかれない位置で見守るのが無難な選択だ。
「ヘイ! そこのボーイ!」
俺がそっとパステルを追いかけようとした瞬間、聞きなれない声が近くで聞こえた。
思わず振り返るが、知っている人はいない。
俺じゃない誰かを呼んだのだろう。自意識過剰だったな……。
「今振り返った僕! キミであってるよ!」
「……俺ですか?」
酔っぱらっている群衆も彼女を見た瞬間サッと離れていく。
俺は直感した。
この人に声をかけられたら……長くなると。
「ごめんなさい、僕にはいま大事な用事があるんで……」
「あの子のことはこっちでも見張っててあげるから! それよりキミ聞きたいことがあるんだけど」
見張っててあげるなんて言われたらより不安だ。
やっぱり、ここは無視してでも……。
「いやー! 無視しないでよー! なにかキミの気に障ることしたかな? あっ、そうだ! 自己紹介がまだだったね! 名前も言わない女とおしゃべりする気はないってか? 硬派だねー!」
なんか、勝手に俺のイメージ像が作られていく!
黙っているのもリスクがありそうな人だ……。
「私はシーラ・マリンハイド! 泣く子も黙る魔界名家が一つ『マリンハイド家』の現当主なんだよ!」
「マリンハイド……魔界名家!?」
「うわー! 目の色も声の色も変わっちゃった! キミって権威主義者なんだね……」
ただ、驚いただけなのに……。
それよりもなんで現当主が俺に話しかけてくるんだ。
俺は武闘大会でも戦っていないぞ……。
「僕はエンデです。えっと……名家の出身ではありませんが、魔王パステルの配下です」
「うんうん、エンデちゃんか!」
「ちゃ、ちゃん……」
「挨拶が終わったところでお聞きしたいんだけど、エンデちゃんとパステルちゃんってどういう関係? そのぉ……恋人? 男女の関係ってやつ? それとも奴隷と主人的な?」
「…………」
な、なんだこいつ……!?
偉い人が頬を赤らめて初対面の男に聞くことじゃないぞ!
ていうか、『魔王パステルの配下』っていう俺の自己紹介を聞き流してる……。
「僕はあくまでパステルの配下ですから、そういったことはしてません」
「へー、そうなんだ! 魔王と人間があんなに親しくしてるなんて、その間に愛情がないとあり得ないと思ってたけど……」
「愛情は確かにありますよ。でも、そういう生々しいものじゃないというか……」
「プラトニックな関係って奴ね!」
「そ、それです!」
意味はよくわからないけど……。
「パステルちゃんって魔界の情報通の間では結構有名な子なんだよね。魔法の一つも使えない魔王って珍しいでは済まないことだから、私も心の片隅で気になってたの。人間界に行った後どうしてるのかなーって。そしたらいっちょまえに魔王やってるからビックリしてね! キミにそこんところの話を聞きに来たの!」
なるほど……唐突だから変な人だと決めつけてしまったけど、彼女は俺がパステルのような何もできない魔王に従う理由を探りに来たんだ。
さっきの下世話な話は、パステルの武器ともいえる見た目の良さで従わせてるんだろうという彼女なりの推理。
名家の当主はどんな魔王相手にも警戒を怠らないというわけか……。
「だってさ! パステルちゃんって人間界に来てまだ日が浅いでしょ? それなのに人間のエンデちゃんを心の底から信頼しているって……そこには胸がキュンキュンするような出会いがあったに決まってるじゃない! 私に聞かせてよ!」
……もしかして、この人なにも考えずに好奇心だけで来たのか?
フレイアさんといい、魔王っていうのは底知れないというか、何を考えているのかよくわからないな。
となると、ゾイルさんも何か本性を隠しているのかも?
まあ、あの見た目で熱い実況は面食らったけど……。
「ねーねー! 無視しないでよ! 私のこと嫌い……?」
「いえ、今どこから話そうか考えていたんです……」
「じゃあ、初めから聞かせて!」
一つだけわかるのは……この人に気を遣わせるのは無理だということ。
お話は後にしてくださいとか、少しだけ待ってください……なんて通用しない。
ここは俺の巧みな話術で胸をキュンキュンさせて満足して帰ってもらうしかない!
といっても、俺とパステルの出会いは胸キュンどころか肝が冷えるところから始まるんだけど……。
「あれは……霧深い樹海の中を仲間と共に探索している時のことでした。俺はそこで……奇妙な咳と……肌の変色、発熱に襲われ……」
マズイ! すでにホラーの語り口調だ!
でも、シーラさんは意外と引き込まれている様子。
このまま最後まで話して、早くパステルのところに行かないと!
「そうだろう、そうだろう!」
医療用テントで治療を終えた俺たちは宴の会場に戻ってきた。
武闘大会はまだ続いている。
そちらを観戦しようとも思ったけど、もう戦いは見るのもお腹いっぱいだ。
今は本当のお腹をいっぱいにすべく、美味しい料理を食べまくろう!
……とはいえ、言うべきことは言っておかないとね。
「カッコはよかったけど……正直あの戦い方は危なすぎるよ。じっと見てる方としては辛い」
「心配をかけてすまなかったとは思っている。しかし、勝ち方はあれ以外になかった。結果として怪我も大したことなかったし、まあ良かったではないか」
「確かに怪我は軽かったよ。でも、あの炎の中で戦ったにしては……ってことを忘れないで。普段の生活の中で背中全体に火傷を負ったら大怪我だ。俺の秘薬竜涙は強力な薬だからキズも残らずに治せたけど、強力な薬は体に負担をかける。常にあれをあてにして戦うのはよくない」
回復薬や回復魔法は生き物が本来持っている回復力を無理やり増幅させているという説がある。
その根拠は……死人には効かないこと。
体の機能を本当に薬や魔法の力だけで治せているのならば、寿命ではなく外傷によって死んだ者の体を復活させることも出来るはずだ。
しかし、それはいまだ実現していない。
研究している人は世界中にたくさんいるけど……。
「パステルの体はまだ完全じゃない。これからどんどん成長していくんだ。背も伸びるし、さらに綺麗になるし、魔法だって使えるようになるかもしれない」
「胸は大きくなるだろうか?」
「……なるさ! だから、焦る必要はないと思う。俺くらいの年齢で何も出来ないと焦っちゃうけど、パステルにはまだまだ可能性があるんだ。今回は無事でよかったけど、これからは……」
「私は嬉しかったのだ」
「え?」
「戦えることが嬉しかったのだ。強がっていたが、昔はエンジェが怖かった。魔法も腕っぷしも強いあいつに睨まれると、逆らえなくなってしまう。だが、今回は体が軽かった。ずっと背負ってきた重荷から解放されたように……。それはもちろん修羅のしおりの力を得たこともあるが、一番はエンデ……お前がいてくれたことだ」
「でも、俺は見てることしか……」
「それで十分だ。自分を見守ってくれる者が一人いるだけで、もうエンジェは怖くなかった。それどころか絶対に勝ちたいと心が燃えた。無理言って私をしおりの持ち主に選んでもらったゲーゴシン、魔境で私をかくまってくれたハイドラ、そして今の私を支えてくれるエンデ、メイリ、サクラコ……。みなから多くのものを与えられているのに、私は何も返せなかった」
「…………」
「だから、自分も戦えるようになったと証明したかった。私にだって何かできると思いたかったのだ。たとえそれがあまりに微力でも、奇策に頼った戦い方でも……あの恐ろしかったエンジェに勝てば成長しているのではないかと。何か自分の中で変わっていくのではないかと……」
この戦いは俺の想像を超えるほど重要なものだったみたいだ。
エンジェに勝つことは、自分を変えること。
今までの自分を変える戦いに命をかけるのは何もおかしくない。
見守る方は怖くて仕方ないけど、成長しようとするパステルを押さえつけるのは間違っている。
でも、そのせいでパステルが命を落とすというのならば、屋敷に閉じ込めてずっとこのままでいて欲しいとも思ってしまう。
しかしそれでは、今のパステルのようなキラキラした瞳は二度と見られないだろう。
日々悩み、努力するパステルだからこそ支えてあげたくなるのも事実。
正しい答えは……考えても出ない。
そんなものは存在しないし、するとしても時と場合によって形を変える。
ならば、今は……。
「パステル、何か自分が変わった実感はある?」
「うむ、少し自信がついた。自分のことを少しは褒めても良いと思えるようになった」
「なら良かった!」
とにかく勝利を掴んだパステルを褒めてあげれば間違いない。
反省会は屋敷に帰ってからでいいだろう。
真面目な話をするならメイリやサクラコも一緒の方がいい。
二人だってパステルのことを想う大事な仲間なんだ。
きっとメイリが戦術的な指導をして、サクラコが丸く収めてくれるはずだ。
「それじゃあ宴が終わるまで楽しく過ごすとしよう! 武闘大会に目が行きがちだけど、楽器の演奏とかダンスとかいろいろあるみたいだよ」
「うむ、あとで行こう。私にはあと一つだけやらねばならぬことがあるのだ」
「今日は……なかなか頑張るね」
「正直、私の自己満足かもしれんが……エンジェに一つだけ謝りたいのだ。勝ったことは謝らん。勝ちを譲るつもりなど初めからなかったし、今でも私は買ったことが嬉しくて震えるほどだ。十秒数え終わった時なんてゾクゾクしたぞ!」
やっぱりパステルの体にも争いを好む魔族の血が眠っているのか……。
いや、人間だって何かに勝利したときはゾクゾクするものだな。
俺は気持ちよく勝った経験がほぼないからわからないけど……。
「しかし、私は作戦通りに勝てたことに気を良くしてエンジェに追い打ちをかけるようなことをしてしまった。作戦の種明かしとエンジェの弱点の指摘だ。公衆の面前でやることではなかった。申し訳ないと思っている。ただ、それをいま謝るのもどうなのかと悩んでいてな……」
「確かにいまパステルが何か言っても聞いてくれないような気もするなぁ」
「とはいえ、このまま言葉を交わさず別れるのも後味が悪い。なんとか宴がお開きになる前に一言謝りたいものだ。ということで私は今からエンジェのいるテントに行ってくる」
「え、結局いまから行くの?」
「考えてみれば、エンジェはショックを受けたら一週間は引きずる女だった。少し時間を置く程度では精神状態は変わらん。ならば、早めに謝った方がもしかしたらあいつも楽になるかもしれん。すぐに戻ってくるつもりだから、エンデは好きに飲み食いして待っていてくれ」
そう言ってパステルは足早に去っていった。
好きにしてくれって言われても、パステルから目を話した状態で好きには出来ないんだよなぁ……。
でも、エンジェは俺のことを少し警戒しているというか、知らない男だから怖がっている感じがする。
俺がついて行っても彼女を追い詰めるだけだろう。
ここは……二人の乙女に気づかれない位置で見守るのが無難な選択だ。
「ヘイ! そこのボーイ!」
俺がそっとパステルを追いかけようとした瞬間、聞きなれない声が近くで聞こえた。
思わず振り返るが、知っている人はいない。
俺じゃない誰かを呼んだのだろう。自意識過剰だったな……。
「今振り返った僕! キミであってるよ!」
「……俺ですか?」
酔っぱらっている群衆も彼女を見た瞬間サッと離れていく。
俺は直感した。
この人に声をかけられたら……長くなると。
「ごめんなさい、僕にはいま大事な用事があるんで……」
「あの子のことはこっちでも見張っててあげるから! それよりキミ聞きたいことがあるんだけど」
見張っててあげるなんて言われたらより不安だ。
やっぱり、ここは無視してでも……。
「いやー! 無視しないでよー! なにかキミの気に障ることしたかな? あっ、そうだ! 自己紹介がまだだったね! 名前も言わない女とおしゃべりする気はないってか? 硬派だねー!」
なんか、勝手に俺のイメージ像が作られていく!
黙っているのもリスクがありそうな人だ……。
「私はシーラ・マリンハイド! 泣く子も黙る魔界名家が一つ『マリンハイド家』の現当主なんだよ!」
「マリンハイド……魔界名家!?」
「うわー! 目の色も声の色も変わっちゃった! キミって権威主義者なんだね……」
ただ、驚いただけなのに……。
それよりもなんで現当主が俺に話しかけてくるんだ。
俺は武闘大会でも戦っていないぞ……。
「僕はエンデです。えっと……名家の出身ではありませんが、魔王パステルの配下です」
「うんうん、エンデちゃんか!」
「ちゃ、ちゃん……」
「挨拶が終わったところでお聞きしたいんだけど、エンデちゃんとパステルちゃんってどういう関係? そのぉ……恋人? 男女の関係ってやつ? それとも奴隷と主人的な?」
「…………」
な、なんだこいつ……!?
偉い人が頬を赤らめて初対面の男に聞くことじゃないぞ!
ていうか、『魔王パステルの配下』っていう俺の自己紹介を聞き流してる……。
「僕はあくまでパステルの配下ですから、そういったことはしてません」
「へー、そうなんだ! 魔王と人間があんなに親しくしてるなんて、その間に愛情がないとあり得ないと思ってたけど……」
「愛情は確かにありますよ。でも、そういう生々しいものじゃないというか……」
「プラトニックな関係って奴ね!」
「そ、それです!」
意味はよくわからないけど……。
「パステルちゃんって魔界の情報通の間では結構有名な子なんだよね。魔法の一つも使えない魔王って珍しいでは済まないことだから、私も心の片隅で気になってたの。人間界に行った後どうしてるのかなーって。そしたらいっちょまえに魔王やってるからビックリしてね! キミにそこんところの話を聞きに来たの!」
なるほど……唐突だから変な人だと決めつけてしまったけど、彼女は俺がパステルのような何もできない魔王に従う理由を探りに来たんだ。
さっきの下世話な話は、パステルの武器ともいえる見た目の良さで従わせてるんだろうという彼女なりの推理。
名家の当主はどんな魔王相手にも警戒を怠らないというわけか……。
「だってさ! パステルちゃんって人間界に来てまだ日が浅いでしょ? それなのに人間のエンデちゃんを心の底から信頼しているって……そこには胸がキュンキュンするような出会いがあったに決まってるじゃない! 私に聞かせてよ!」
……もしかして、この人なにも考えずに好奇心だけで来たのか?
フレイアさんといい、魔王っていうのは底知れないというか、何を考えているのかよくわからないな。
となると、ゾイルさんも何か本性を隠しているのかも?
まあ、あの見た目で熱い実況は面食らったけど……。
「ねーねー! 無視しないでよ! 私のこと嫌い……?」
「いえ、今どこから話そうか考えていたんです……」
「じゃあ、初めから聞かせて!」
一つだけわかるのは……この人に気を遣わせるのは無理だということ。
お話は後にしてくださいとか、少しだけ待ってください……なんて通用しない。
ここは俺の巧みな話術で胸をキュンキュンさせて満足して帰ってもらうしかない!
といっても、俺とパステルの出会いは胸キュンどころか肝が冷えるところから始まるんだけど……。
「あれは……霧深い樹海の中を仲間と共に探索している時のことでした。俺はそこで……奇妙な咳と……肌の変色、発熱に襲われ……」
マズイ! すでにホラーの語り口調だ!
でも、シーラさんは意外と引き込まれている様子。
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