上 下
126 / 140
第8章 第二次琵琶湖決戦

-126- 蘭の覚悟

しおりを挟む
「あらあら、わたくしのDMDの話をするのでしたら、操者であるわたくしの口からさせていただきたいですわね」

 整備ドックに現れたのは蘭だった。
 8月の終わり頃とはいえまだまだ暑い中、金髪ドリルのカツラを被ってお嬢様を演じている。
 でも、服の方はドレスじゃなくてフリルワンピースになっているから少し涼しげだ。

「蘭のグラドランナもパワーアップしてるんだね」

「もちろん! そうでなくては蒔苗さんを守る力になれませんもの! 輝きを増したグランドランナちゃん……いや、グランドランナ・アンドファレナちゃんの姿をとくとご覧あれ!」

 DMDを格納しているハンガーのゲートが開き、その中にたたずむ黄金のDMDが姿を現した。
 これがあのグラドランナを強化した姿なの……!?
 カラーリングもシルエットも変わっているから新型機に見える!

「何より目を惹きますのはこの黄金の装甲ですわよね? こちらは蟻の巣抹消作戦の際に投入された無人機ファレノプシス・ユニット、通称ファレナの装甲を受け継いだ結果なのですわ!」

「ファレノプシス・ユニット……あのキャタピラが付いた黄金ピラミッドみたいな奴ね」

「ええ! グランドランナ・アンドファレナとはいわばグラドランナちゃんとファレナが融合した姿なのですわ! ファレナの装甲に使われていた素材DゴールドはDメタルよりも耐久面で優秀でしたので新たな装甲として再加工し、ファレナに内蔵されていたAIは機体の移動、姿勢制御、火器制御など状況に応じたサポートを行ってくれるように再調整いたしましたの!」

 無人機のAIを操縦のサポートAIとして使ってるのね。
 グラドランナは元々細かく射撃の威力を調整出来るストーク・キャノンや、3つのモードを切り替えて戦うジュエリーボックスなど複雑な操作を要求する武装が多かった。
 攻撃に集中している間に機体を移動させてくれたり、逆に移動中に自動で敵を攻撃してくれたりと、AIの使い道はかなり多そうね!

「驚くのはまだ早いですわ! 背中のストーク・キャノンⅡは撃ち出すDエナジーの調整だけでなく、Dエナジーを固形化し実弾兵器としても使える機能が搭載されているのですわ!」

「Dエナジーを固形化!?」

 Dエナジーは魔進石から抽出されたものだから元々は固形と言えるかもしれない。
 でも、それを瞬時に固形に再加工出来るとなると……すごい技術だ!

 実弾兵器は弾を持ち歩かないといけないから、どうしても機体重量が増えスペースも圧迫してしまう。
 なので深層へと潜る私たちのDMDはDエナジー兵器をメインとしている。
 こちらも濃縮したDエナジーを内蔵する必要があるとはいえ実弾に比べると軽い。

 しかし、モンスターの中にはDエナジー兵器に耐性のある表皮や装甲を持っている個体もいる。
 そういったモンスターに対しては接近戦を仕掛けるか、Dエッジミサイルなどで装甲をはがすのが効果的とされてきた。
 でも、ストーク・キャノンⅡなら普段はDエナジー兵器で攻撃しつつ、状況に応じてDエナジーを固めて実弾を撃つことが出来る。
 Dエナジー兵器でありながら、それに耐性があるモンスターも苦にしない。
 うーん、やっぱりすごい発明だ!

「胸にはDエナジーを放つ宝石を輪のように散りばめたトパーズ・ガトリングが2門。バックパックの側面には長い砲身を持ち安定した射撃が行えるDエナジースマートライフルが2丁。そして、両腕にはバリアガントレットおよび超磁力パイルバンカーが装備されていますわ」

 Dエナジーを放つ宝石はアイオロス・マキナも使ってるからよく知っている。
 Dエナジースマートライフルも普通に流通している武器だ。
 でも、バリアガントレットと超磁力パイルバンカーというのは聞いたことがない。

「腕から伸びている金属の棒を強い磁石の力で加速させ、標的に打ち込むのが超磁力パイルバンカーですわ。まあでも、これはあくまで敵に接近されてしまった時の保険ですわね。本命はこの太くたくましい腕の中に搭載されるバリア発生装置ですわ!」

「う、腕にバリア発生装置を!?」

 バリアと言えばマシンベースやダンジョン内の重要施設を守っているあのバリアだ。
 人類が扱える防御兵器の中では未だにトップクラスの強度を誇り、ドローンに搭載するなどして小型化の検証が進められてはいるけど、消費エナジーの多さがネックでなかなか実用化に至っていないのが現状……。

 それをDMDの搭載すること自体は不可能じゃないけど、長時間の戦いが予想される深層ダンジョン攻略ではやはり消費エナジーが気になる。
 でも今回グラドランナ・アンドファレナに搭載されたということは、その問題の解決策が見つかったということだ!

「ただし、バリアが展開するのは手のひらのみ! しかも常時発動ではなく他の武器と同じく任意で使うタイミングを選択しますの。展開範囲を絞り、発生時間を削り、なんとか長時間のミッションにも対応出来るバリアシステムが完成したのですわ!」

 なるほど、確かに今までの小型バリアはドローンに搭載する都合上、機体全体を守るよう球体状に展開されていた。
 それに移動中こそAIの判断でバリアを切っているけど、戦闘となれば細かなオンオフまでは判断しきれず戦闘中常時バリアが展開されていた。
 それに対して今回のバリアシステムは展開のタイミングを操者に任せ、展開範囲を限定することでエナジーの消費を抑えたわけね!

「そして極めつけは下半身! キャタピラを前に2つ、後ろに2つの計4つにすることで柔軟な走行能力を得ると同時に、今はお見せ出来ませんがキャタピラ部分が変形しDフェザーを展開するユニットになりますのよ! 走行出来ない地形では飛行し、走行出来る地形ではDフェザーを切ってエナジーを節約する……! 見た目こそ金ピカでゴージャスですが、その実は計算しつくされた節制せっせいが光るエレガントなDMDですのよ!」

 ついにあのグラドランナも飛ぶにまで至ったか……!
 多種多様な弾丸を撃ちわけられるキャノンに限定的なバリア機能、さらに走行と飛行の切り替えまで要求される複雑な機体になっているけど、蘭にはそれを支えるAIがいる!
 見た目の派手さとは裏腹になんて繊細で美しいDMDなんだ!

「わたくしはこの機体をあくまでも後方支援用として仕上げましたわ。元々グラドランナちゃんはモエギの血が強く、砲撃だけでなく機動力を生かした接近戦もこなせるDMDでした。しかし、今回私に課せられた役目は蒔苗さんをコアまで送り届けること! そこで黄堂重工の設計思想に立ち返り、タンクタイプ本来の砲撃による支援能力を極限まで高めることにしたのですわ。そのためにトレードマークであるキャタピラも変形し空を飛びますの! どんな地形、どんな状況でも蒔苗さんをサポートしてみせますわ!」

 蘭の覚悟が形になったようなDMD、グラドランナ・アンドファレナ。
 あの『潮騒砂丘しおさいさきゅう』で初めて見たグラドランナは、トウカイカの電撃にやられてところどころ焦げていたのを今でも覚えている。
 それが今では黄金に輝くDMDに……。

 そして、蘭も真っすぐな心を持つDMD操者になった。
 初めて食堂で彼女を見かけた時には、こんなに仲良くなるなんて想像してなかったな。

「ありがとう蘭。この機体と蘭になら安心して背中を任せられる」

「ええ! 大船に乗ったつもりでいてくださいな!」

 私も彼女の覚悟に応えるために自分の役割を果たそう。
 必ずコアを破壊しダンジョンと竜種を……!

「あっ! いたいた! おーい育美! 私の機体どうなってんだよ~!」

 遠くから駆け寄ってくるのは葵さんだ。
 彼女もマキナ隊の一員なので当然滋賀には来ているけど、まさかDMDの方が届いていない……!?
 でも、その割には育美さんはすっとぼけた表情をしている。

「どうなってるのって……ちゃんとここに用意してあるわよ?」

「そうじゃなくって、なんで私に蒔苗が使ってたアイオロス・ゼロを受け継がせようとするんだよ!?」

「えっ!? アイオロス・ゼロを葵さんが!?」

 それ、私も初耳なんですけど!?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

処理中です...