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第6章 血に刻まれた因縁の地
-102- 血に刻まれた因縁の地Ⅴ〈竜種〉
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『育美さん? ど、どうしました!? 大丈夫ですか!?』
「育美なら大丈夫よ。でも、ここからは私が説明するわ」
聞こえてきたのは紫苑さんの声だ。
大丈夫とは言っているけど、あの反応は尋常ではなかった。
育美さんに何があったんだろう……。
心配だけど、私は目の前の卵から目が離せない。
紫苑さんも紫苑さんでかなり緊迫した声のトーンなんだ。
「今あなたたちの目の前にあるその卵は……おそらく竜種のもの」
『竜種ってことは、さっきまで戦ってたあの龍もどきが卵を産んだってことですかね?』
それなら藍花をくわえて奥に下がったことにも一応の理屈はつく。
卵を温めるか守るために龍もどきは最奥に居続ける必要があって、藍花の機体は生まれた子どものエサにして進化を促す……みたいな?
「おそらく違うと思うわ。卵の発見自体これが初めてだからハッキリしたことは言えないんだけど、あの龍もどきは竜種と比べるとあまりにも弱かった……。でも、竜種の特徴に似たものは見て取れたからまったくの無関係とは言えない。さしずめ亜竜種と言ったところかしら」
紫苑さんの言葉にしては歯切れが悪い。
よほど竜種に関する情報が少ないと見える。
『私たちはどうすればいいんでしょうか? 卵……破壊しちゃいますか?』
「……蒔苗さん、敵性脳波の検出レベルは高いかしら?」
『えっと、かなり低いというか一番下を示してますね』
「そう……。つまり生まれたばかりの卵ということかしら……。一番良い展開はダンジョンの消滅と一緒に消してしまうことなんだけど、これだけの規模のダンジョンが完全消滅するには時間がかかる。それまでに卵が孵化しないとも限らない……。とはいえ、持ち帰ってもそれを管理出来ない。場合によっては大虐殺が起こる……」
大虐殺……!?
それほどまでに強力なモンスターなの……?
でも、本当にその名を聞いたことがない。
ニュースでも報道されたことがない気がする。
情報を規制しなきゃならないくらい危ない存在ってことか……。
「……紅花、藍花、蒔苗さん、帰還しなさい。どちらにせよ今の機体の状態では出来ることは少ない。一度戻ってDMDも操者も万全の状態にした方がいいと思うわ」
『了解です』
危ないものを放置して変えるのは少し気が引けるけど、紫苑さんが言っていることは正しい。
今この状態であの龍もどき以上の敵と戦える気がしない。
この卵の扱いを決めるには大人たちの長い話し合いが必要だろうし、その間に私たちも体を休めた方がいい。
特に藍花は一度検査を受けないといけない。
そして何より……今も話さない育美さんのことが気になる。
『紅花、藍花、聞こえてる? 帰るよ』
『え、ええ……わかりましたわ』
紅花と藍花は紫苑さんの話を聞いて固まっていた。
彼女たちは竜種の恐ろしさを知っているようね……。
また私だけ知識不足が露呈してしまった。
でも、知らないということがプラスになることだってある。
知っているからこそ足がすくんでしまう強敵だっているからね。
ピシッ――。
最奥の大部屋を出たところで、私はその音を聞いた。
前を歩く紅花と藍花には聞こえていないようで、彼女たちは移動を続ける。
気のせい……そう思いたいけど。
ピシッ――ピシッピシッ――バキッ!
それは卵の殻が破られる音以外に例えようのない音だった。
続けて聞こえてきたのは……産声。
ただただ生理的に不愉快な音を混ぜ合わせたような声。
『紅花! 藍花! 全速力で離脱よ!』
2機のDMDは一瞬だけ戸惑うようにこちらを振り返ったが、すぐに加速を開始した。
流石は優秀なDMD操者……!
『なんなんですのアレは!?』
アレ……?
まさか、もう……!?
振り返るとそこにはドロドロのスライムみたいな生き物がいた。
濁流のように通路をさかのぼり、私たちに迫る!
あれが竜種?
とてもじゃないけど竜には見えない。
いや、でも半透明の体の中にはわずかに骨格が見える。
竜の……なりそこない?
生まれてくるのが早すぎたって感じだ。
きっとダンジョンの消滅を感じ取って無理やり出てきたのね。
それにしても、あのサイズの卵の中にどんだけ中身が入ってんだ!
ドロドロは通路を埋め尽くさんばかりに広がっている!
これを地上に上げるわけにはいかない!
『紫苑さん、なんとか足止めしてみます! その間にもっと増援を呼んでください!』
「ええ、もう動いてもらってるわ。準備が完了するまで何とか耐えてちょうだい!」
これで安心して戦える……というわけでもない。
この竜種のなりそこないは、果たしてDMDの数を揃えれば止まるものなのだろうか?
私の頭の中にはこいつを倒すイメージが湧いてこない……!
それでも、戦うのがDMD操者なんだけどね!
『骨よ! あのドロドロの体の中で唯一形がハッキリしている骨を狙いましょう! もう残りエナジーが少ないから1発1発慎重にね!』
『やるだけやってみるしかありませんわね……!』
『私は捕まってたから、まだエナジーに余裕がある。私が中心になって頑張らないと!』
ショーで言えば今までの戦いは前座で、ここからが本番なのかもしれない。
深層ダンジョンの本当の闇、竜種……。
でも、竜種の存在が知られているということは今までも誰かが撃破してきたということ。
私たちにだって……出来るはずだ!
「育美なら大丈夫よ。でも、ここからは私が説明するわ」
聞こえてきたのは紫苑さんの声だ。
大丈夫とは言っているけど、あの反応は尋常ではなかった。
育美さんに何があったんだろう……。
心配だけど、私は目の前の卵から目が離せない。
紫苑さんも紫苑さんでかなり緊迫した声のトーンなんだ。
「今あなたたちの目の前にあるその卵は……おそらく竜種のもの」
『竜種ってことは、さっきまで戦ってたあの龍もどきが卵を産んだってことですかね?』
それなら藍花をくわえて奥に下がったことにも一応の理屈はつく。
卵を温めるか守るために龍もどきは最奥に居続ける必要があって、藍花の機体は生まれた子どものエサにして進化を促す……みたいな?
「おそらく違うと思うわ。卵の発見自体これが初めてだからハッキリしたことは言えないんだけど、あの龍もどきは竜種と比べるとあまりにも弱かった……。でも、竜種の特徴に似たものは見て取れたからまったくの無関係とは言えない。さしずめ亜竜種と言ったところかしら」
紫苑さんの言葉にしては歯切れが悪い。
よほど竜種に関する情報が少ないと見える。
『私たちはどうすればいいんでしょうか? 卵……破壊しちゃいますか?』
「……蒔苗さん、敵性脳波の検出レベルは高いかしら?」
『えっと、かなり低いというか一番下を示してますね』
「そう……。つまり生まれたばかりの卵ということかしら……。一番良い展開はダンジョンの消滅と一緒に消してしまうことなんだけど、これだけの規模のダンジョンが完全消滅するには時間がかかる。それまでに卵が孵化しないとも限らない……。とはいえ、持ち帰ってもそれを管理出来ない。場合によっては大虐殺が起こる……」
大虐殺……!?
それほどまでに強力なモンスターなの……?
でも、本当にその名を聞いたことがない。
ニュースでも報道されたことがない気がする。
情報を規制しなきゃならないくらい危ない存在ってことか……。
「……紅花、藍花、蒔苗さん、帰還しなさい。どちらにせよ今の機体の状態では出来ることは少ない。一度戻ってDMDも操者も万全の状態にした方がいいと思うわ」
『了解です』
危ないものを放置して変えるのは少し気が引けるけど、紫苑さんが言っていることは正しい。
今この状態であの龍もどき以上の敵と戦える気がしない。
この卵の扱いを決めるには大人たちの長い話し合いが必要だろうし、その間に私たちも体を休めた方がいい。
特に藍花は一度検査を受けないといけない。
そして何より……今も話さない育美さんのことが気になる。
『紅花、藍花、聞こえてる? 帰るよ』
『え、ええ……わかりましたわ』
紅花と藍花は紫苑さんの話を聞いて固まっていた。
彼女たちは竜種の恐ろしさを知っているようね……。
また私だけ知識不足が露呈してしまった。
でも、知らないということがプラスになることだってある。
知っているからこそ足がすくんでしまう強敵だっているからね。
ピシッ――。
最奥の大部屋を出たところで、私はその音を聞いた。
前を歩く紅花と藍花には聞こえていないようで、彼女たちは移動を続ける。
気のせい……そう思いたいけど。
ピシッ――ピシッピシッ――バキッ!
それは卵の殻が破られる音以外に例えようのない音だった。
続けて聞こえてきたのは……産声。
ただただ生理的に不愉快な音を混ぜ合わせたような声。
『紅花! 藍花! 全速力で離脱よ!』
2機のDMDは一瞬だけ戸惑うようにこちらを振り返ったが、すぐに加速を開始した。
流石は優秀なDMD操者……!
『なんなんですのアレは!?』
アレ……?
まさか、もう……!?
振り返るとそこにはドロドロのスライムみたいな生き物がいた。
濁流のように通路をさかのぼり、私たちに迫る!
あれが竜種?
とてもじゃないけど竜には見えない。
いや、でも半透明の体の中にはわずかに骨格が見える。
竜の……なりそこない?
生まれてくるのが早すぎたって感じだ。
きっとダンジョンの消滅を感じ取って無理やり出てきたのね。
それにしても、あのサイズの卵の中にどんだけ中身が入ってんだ!
ドロドロは通路を埋め尽くさんばかりに広がっている!
これを地上に上げるわけにはいかない!
『紫苑さん、なんとか足止めしてみます! その間にもっと増援を呼んでください!』
「ええ、もう動いてもらってるわ。準備が完了するまで何とか耐えてちょうだい!」
これで安心して戦える……というわけでもない。
この竜種のなりそこないは、果たしてDMDの数を揃えれば止まるものなのだろうか?
私の頭の中にはこいつを倒すイメージが湧いてこない……!
それでも、戦うのがDMD操者なんだけどね!
『骨よ! あのドロドロの体の中で唯一形がハッキリしている骨を狙いましょう! もう残りエナジーが少ないから1発1発慎重にね!』
『やるだけやってみるしかありませんわね……!』
『私は捕まってたから、まだエナジーに余裕がある。私が中心になって頑張らないと!』
ショーで言えば今までの戦いは前座で、ここからが本番なのかもしれない。
深層ダンジョンの本当の闇、竜種……。
でも、竜種の存在が知られているということは今までも誰かが撃破してきたということ。
私たちにだって……出来るはずだ!
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