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第4章 ブラッドプラント防衛作戦

-44- レベル22ダンジョン『怪鳥峡谷』

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 DMDを固定していたロックを外し、輸送ドローンの外へ出る。
 カツンッという音を立ててアイオロス・ゼロが降り立った場所は、ダンジョンに隣接する形で組み上げられたドローン発着場だった。

 怪鳥峡谷の入口はこちらの世界の峡谷に存在し、穴そのものは断崖絶壁のど真ん中、地上からかなり高い位置に存在している。
 本来ならば入ることにすら苦労するダンジョンだけど、このドローン発着場はその穴の高さに合わせるように建てられているから、ドローンから降り立った後はまっすぐ歩いて穴に入ればいいだけだ。
 かなり険しい自然の中にこれだけの建造物を建てる技術力もまたダンジョンから与えられたものなのかもしれない。

 とはいえ、なにがあってもおかしくないダンジョンの近くに建てられた無人の発着場なので、ガッチガチな造りというわけではない。
 歩くとカンカンと軽い金属の音がするし、手すりも低い。
 まあ、人間が利用するわけじゃないからね……。

『くれぐれも発着場の下を覗かない方が良いぞ蒔苗くん。建築素人には骨組みがスカスカに見えてならないからな。まあ、ダンジョン由来の新素材を使っているから、あれで強度の基準は満たしてるらしいが……ははは!』

『あ、あはは……』

 隊長さんの言葉は気遣いなのかジョークなのか……。
 とりあえず、今はダンジョンへ速やかに突入だ。
 漆黒の穴をくぐり、その中に広がっている洞窟を少し進むと、目の前に巨大なエレベーターが現れる。
 これは本来濃縮したDエナジーを外に運び出すため使われているものだけど、その大きさとパワーゆえにDMDを数十機乗せてもまったく問題ないらしい。

『バリアは健在か……。よし、全機乗り込め』

 22機のDMDが乗り込んでも、エレベーターは広々としている。
 隊長さんが全機乗り込んだことを確認した後、エレベーターは下降を開始した。
 問題のDエナジー濃縮工場はこの深い縦穴の真下にある。
 怪鳥峡谷は丸底フラスコのような構造をしていて、今いる場所は長い筒状の部分だ。
 丸いところに到着するまでには、それなりに時間がかかる。

『下に着くまでに作戦の確認をしよう。まず、工場には円柱状のバリアが張られていて、外に出るにはバリアを部分解除する必要がある。当然、その時モンスターに入り込まれるようでは困るわけだ。そこで最初に外へ出るうちのベータ小隊にモンスターを引き付けてもらう。ベータ小隊は防御面に特化したDMDを使っているから多少集中攻撃を受けても問題はないし、経験豊富だからバリアを解除して外へ出るタイミングもバッチリだ。そうしてモンスターたちが気を取られている隙に、残りの4小隊+αが四方から外へ飛び出す』

 DMDたちがうんうんとうなずいている。
 フリーの操者もたくさんいるけど、みんな真剣に話を聞いているみたい。

『全機無事にバリアの外へ出れた後は、小隊ごとに行動を開始する。我々対迷宮部隊の8機はダンジョンコアの方向へ陣を敷き、コアから生まれる強力なモンスターを討伐。有志のDMDたちは3小隊に分かれて崖の下に散らばっているダミーコアを破壊して回ってもらう』

 このダンジョンはコアからモンスターが出てくるタイプで、ダミーコアとはコアに似た色や形状をしている偽物のコアだ。
 しかし、偽物といってもそこからモンスターは生まれてくるので、それを破壊して出現するモンスターの数を抑制する必要がある。

『怪鳥峡谷は峡谷と言うだけあって地形が非常に険しい。しかも、なかなか広いからすべてダミーコアを破壊するとなると時間がかかる。場合によっては追加で派遣される部隊に引き継いでも構わないくらいの気持ちで、焦らず確実に仕事をこなしてほしい。とにかく今は大量発生を落ち着けることさえ出来ればいいんだ』

 隊長さんの言葉を受けて、各DMDたちが返事を返す。
 柔らかな語り口のおかげか部隊の雰囲気はとってもいい。

『小隊に含まれない2機のDMDには工場周辺に待機し、防衛にあたってもらう。まだ工場の防衛部隊もわずかに残っているようだから上手く連携してくれ。我々としては極力工場周辺にモンスターを近づけないように立ち回るつもりだが……なんせ大量発生なんでね。それなりに忙しくなることは覚悟しておいてくれ』

『了解しました!』
『了解ですわ』

 私と蘭の返事を聞いて、隊長さんのDMDは大きくうなずいた。

『もうじきダンジョン下層の景色が見える。初めて見る人には衝撃的な光景だと思うが、雰囲気にのまれないように』

 エレベーターはついに下層……丸底フラスコでいう丸っこい部分まで来た。
 黒い岩壁しか見えなかった景色が一変する。
 そこはまるで赤い夕陽に照らされた荒野だった。
 地上は亀裂だらけの大地。天井は黄昏時の空のような鮮やかな濃紺。
 球体状の地の底に再現された雄大な自然……。
 あらかじめ知っていなければ、まさかここが閉鎖された異空間の中だとは思わないだろう。
 事前に説明を受けていても、のまれてしまいそうな雰囲気がある。

『なにもないように見えるが、ここも透明のバリアで守られている。工場のバリアは円柱状……つまり真上にあるエレベーターも範囲内なのさ。しかしながら、モンスターたちはそれを知らないから……』

 その時、キィィィンという独特な高音が背後から聞こえてきた。
 振り返るとそこには……鳥型のモンスターがいた!
 くちばしで何度も何度もバリアを突っついている!

『こういうことも起こる。怪鳥峡谷の名の通り、このダンジョンには鳥のようなモンスターが多く出現する。どいつもこいつも飛行能力を持っているから、射撃武器を上手く活用する必要がある。こいつみたいに近づいてきてくれるならかわいいもんさ』

 まだまだ突いてくる鳥を素通りし、エレベーターは工場内部に到着した。
 もうお腹いっぱいの気分だけど、本番はここからなんだ……!

『ベータ小隊、行動開始! 敵を十分に引き付けられたと報告があり次第、全小隊一斉にバリアの外へ出るぞ!』

 隊長の命令と共に分厚い装甲を持つDMDたちがホバー走行で移動を開始した。
 部隊全体の緊張が一気に高まるのを感じる……!

『蒔苗君たちは私のアルファ小隊と共にバリアの外へ出ることになっているね。大丈夫、タイミングはこちらで指示する。安心して後ろをついて来てくれ』

『了解しました……!』

 DMDが4機1組になって散らばっていく。
 私と蘭も隊長さんの後に続き、移動を開始する。

『……よし、ここで一旦待機だ。ベータ小隊から連絡が入り次第、ここのゲートとバリアを開放し、外へ出る』

 工場はバリア以外にも物理的な壁でぐるりと囲まれている。
 その防壁のゲートを開いてから、さらにバリアを解除して外に出るという流れだ。

『さて、そろそろのはず……うむ、来た! ゲート開放!』

 ゲートが開き、その向こうの景色が見える。
 モンスターの姿は……ない!

『バリア部分解除! あおいから順番に出ろ!』

 バリアが微かに紫色になり、解除されている箇所がハッキリ見えるようになった。
 隙間はDMD1機分ほどと狭いけど、対迷宮部隊のDMDたちはするすると抜けていく。

『蒔苗さん……お先にどうぞ。わたくしの腕前とグラドランナちゃんだと詰まってしまう可能性もありますから……』

『わかった。焦らずゆっくりでいいからね』

 アイオロス・ゼロは細身なので、オーガランスを引っかけない限り問題はない。
 するりと外に出てホッと一息つく。
 その瞬間、私の油断を見透かしたようになにかが大地の亀裂から飛び出してきた。

《キョオオオォォォォォーーーーーーーーーッ!!》

 かん高くて不快な鳴き声……!
 現れたのは体の半分ほどが機械になっている鳥型モンスターだった!
 ワシか? タカか? トビか?
 とにかく猛禽類のような姿をしている!
 アイオロス・ゼロのデータベースはすぐにこのモンスターの正体を見破った。

『アームドホーク……混成機械体?』

 わからない言葉はあるけど、データベースに該当アリということは新種ではない!
 それだけで少し落ち着いて対応出来る……と思っていたら、他のDMDたちから戸惑うような声が聞こえてきた。

『た、隊長……! 混成体です! ど、どうしましょう!?』

『うろたえるな! 私が前に出る……! 支援を頼むぞ! 安易に近づくな!』

『りょ、了解……!』

 アルファ小隊が陣形を整えようとしたその時、アームドホークはそのうちの1機……葵さんの機体に突進をしかけた!
 発光する機械の翼が光の尾を引く……!
 なかなか速いし、攻撃するタイミングも狙いすましている。
 悪くはないけど……動きが直線的すぎる!

『うおりゃあああっ!』

 アイオロス・ゼロ、フルスロットル!
 葵さんと鷹の間に割り込み、オーガランスを構えて突っ込む!
 アームドホークは口の中にキャノン砲を隠し持っている。
 しかし、そんなことお構いなしにオーガランスを口にぶっ刺した!
 そのまま後ろに押し倒し、オーガランスで地面に釘付けにする!

 そして、一時退避!
 アームドホークの体は小規模な爆発を起こし消滅した!
 後には発光する機械の翼と爆発を受けても無傷なオーガランスが残った。
 オーガランスを右手で、翼をアイテム・スキャナーで回収し、ふーっと息を吐く。
 まずは1つ役に立てたかな?

『流石は蒔苗さん! 混成体など相手になりませんわ!』

 今バリアの外に出てきたグラドランナが拍手している。
 工場のゲートが閉まり、バリアも元に戻っている。
 とりあえず、これで第一関門は突破ね。

『ここは私たちに任せてください! 隊長さんたちは作戦の方を!』

『あ、ああ……わかった! ここは頼んだぞ! 蒔苗くん! 蘭くん! 私たちも対迷宮部隊の名に恥じない戦いをしよう!』

 アルファ小隊のDMDたちはオーッと腕を突き上げ、さらに移動を開始した。
 その中でも葵さんのDMDだけは少しの間その場に立ち尽くした後、静かに動き始めた。
 とっさに機体を動かしてしまったけど、葵さんにとっては出しゃばったマネだったかも……?

 ……いや、あの時の葵さんに動く気配はなかった。
 ならば動ける私が動くべきだ。
 迷いは動きを鈍らせるから、いざという時は思ったように動く。
 そう心に決めておかないといけない。

『蒔苗さん、私たちも残存している防衛部隊の方と合流しましょう』

『うん、わかった! 頑張ろうね蘭!』

『ええ! 蒔苗さん!』

 私たちの背後にそびえ立つ守るべき工場。
 それを覆うバリアは透明に戻っているから、夕陽のように赤い光はダイレクトに工場の外壁を照らし、赤く染め上げている。
 それはまるで……血塗られているようだ。
 ゆえにこの工場は『ブラッドプラント』とも呼ばれているらしい。
 ここで作っている濃縮DエナジーはDMDにとって体を動かす血のようなもの……という意味も含んでいると考えると、なかなか深いネーミングな気もする。

『ブラッドプラント防衛作戦……か』

 ちょっと気取りすぎてると思ってたけど、悪くない作戦名だと今は思う。
 作戦成功のため、まずは孤立している戦力をかき集めよう!
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