Dマシンドール 迷宮王の遺産を受け継ぐ少女

草乃葉オウル

文字の大きさ
上 下
31 / 140
第3章 友情と日常

-31- 蒔苗会議

しおりを挟む
 食堂のテーブルには案の定大量の料理が並ぶことになった。
 でも一番驚くべきなのは、その大量の料理を昼休みという短い時間でペロリと平らげてしまうみんなの食欲だと思う。
 特に芽衣めいなんて細い体してるのに、どこにあんな量が入っていくんだろうか……。

 まあ、そういう私もみんなの食べっぷりに釣られて結構食べてしまったけど、おしゃべりしながらの昼食は楽しかったし、案外自分もたくさん食べられるんだなぁと思っていた。
 この時までは……。

「ね、眠すぎる……」

 午後の授業も眠気との戦いになった。
 たくさん食べた結果、消化にエネルギーを持っていかれ頭はボーッとして仕方ない。
 結果として1日のほとんどをボーッとして過ごしたわけだけど、脳を休めるというミッションは確実に果たせているので……良しとしよう。

 そんなこんなですべての授業を切り抜け、私は終礼まで戦い抜いた。
 この時の解放感は何事にも代えがたいものがある。
 軽いカバンを片手に学校を出て、愛莉あいりたちと一緒に家路につく。
 みんな途中まで帰る道が一緒なのだ。

「なにはともあれ、今日は元気な蒔苗が見れて良かったよ~。授業は相変わらずつまんないけど、蒔苗に会えるだけで学校に来る価値があるってね」

「流石に芳香よしかはもう少し勉強した方が良いと思うけどね……。まあでも、元気な姫に会えて良かったっていうのは同意よ! ぶっちゃけ、休む前より元気になってない?」

「そりゃ休む前より後の方が元気になるのは普通じゃない? お葬式って普通は2日間だけだから、土日は好きに過ごせるわけだし~」

「あー、それもそうか。でも、疲れが取れて元気になったって感じでもないような……。もっとこう、根本的なところから『元気元気!』みたいな?」

「雑な説明だな~。まっ、わからんでもないけどさ」

 芳香と芽衣が私について分析している……!
 確かに言葉としては雑だけど、芳香の分析は当たっている。
 休んで疲れが取れたわけじゃなくて、もっと根本的な部分から私は変わったんだ。
 でも、言い出しにくい~!
 実は自分が日本を代表する大企業の創始者の孫でしたってカミングアウトするタイミングは学校では教えてくれない!

「私も蒔苗ちゃんの雰囲気が変わったと思う……。でも、そうなるのが当然の出来事だったと思うし、変わった結果前よりも元気な蒔苗ちゃんになれたなら、それは嬉しいことだなって……」

「愛莉……ありがとう。でも、そんな大幅に変わったわけじゃないからね! コンビニの『さらにおいしくなりました!』ってシールが貼ってるおにぎりくらい微々たる変化だから!」

「あれ、本当に変わってるのかな……って、そういうことじゃなくて、私は蒔苗ちゃんにもう会えなくなるんじゃないかなって思ってたくらいだから、また会えたのがすごく嬉しかったの」

「ど、どうしてそこまで思い詰めてたの……?」

「だって、高校生で1人暮らしって珍しいし、蒔苗ちゃんは親戚がいないから仕方なく1人で暮らしてたわけだし、お葬式でもし親戚の人に会ったら、引き取られて遠くに行っちゃうんじゃないかなって考えちゃった……」

「あー、なるほどね……」

 割と論理的な不安の感じ方だった……。
 確かにお父さんが亡くなって、お母さんが病に倒れてるのに、そのまま娘が1人で放置っていうのは、常識で考えればおかしな話だ。
 親戚の人が見つかれば、引き取られる可能性は全然あるだろう。

「大丈夫だよ。私は自分の意思でここにいるし、これからも自分の力でここにいる。愛莉から離れたりしないよ」

 愛莉の手をぎゅっと握る。
 あったかくて柔らかい感触が伝わってくる。

「うん……わかった。蒔苗ちゃんのこと信じてるから」

「あー! いいなぁ~! 私も蒔苗と手をつなぎたい~!」

「私も! 私にも姫のお手を!」

「はいはい、わかったわかった!」

 少しの間握手会を開いた後、私たちは再び帰り道を歩く。
 そして、別れの交差点までやってきた。
 この大きな交差点を芳香は右に、芽衣は左に、私はまっすぐに帰る。
 愛莉は交差点の手前のマンションに住んでいるので、この交差点を渡らない。

「じゃ、今日はみんな大人しく帰るってことで!」

「りょうか~い」

「また明日」

「うん、みんなまた明日! 今日はいろいろありがとう!」

 4人それぞれの方向へ帰っていく。
 今日は楽しかったなぁ~。
 あんなに心配してくれる友達がいるなんて私は幸せ者だ。
 これからはあんまり無茶は出来ないなぁ。
 でも、戦っている最中は無茶かどうか判断がつかないのも事実。
 そこんところは育美さんとか周りの人の意見をしっかり聞いていかないとね。

「さて、育美さんが来る前にパーティの準備をしておかないと!」

 近所のスーパーで材料の買い込みよ!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 みんなが去った交差点に、愛莉は立ち尽くしていた。
 友人の背中を見送り、普段なら家に帰るところを彼女は帰れずにいた。
 そこへ特に示し合わせたわけでもないのに戻ってくる芳香と芽衣。
 交差点につどった3人の想いはほぼほぼ一緒だった。
 代表して口を開いたのは……愛莉だ。

「蒔苗ちゃん……流石にちょっと変わりすぎじゃないかな……」

 その言葉にうなずく芳香と芽衣。
 彼女たちは蒔苗に起こった変化がコンビニの『さらにおいしくなりました!』ってシールが貼ってるおにぎり程度では済まないと確信していた。

「棚ごとごっそり別の商品に入れ替わってるレベルの変化よ、これは……」

「一体、お葬式で何があったんだろうね~。良いことだとは思うんだけど、お葬式で良いことってのが思い当たらないや」

 3人の少女による蒔苗会議が……始まった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

転生召喚者は異世界で陰謀を暴く~神獣を従えた白き魔女~

*⋆☾┈羽月┈☽⋆*
ファンタジー
両親を事故で亡くし、叔父夫婦のもとへ引き取られた少女・白銀葵。 遺産目当てだった叔父夫婦からは虐げられ、冷遇されていながらも ”家族として認めてほしい” ”必要な存在になりたい” という淡い希望を抱き続けていた。 そんなある日、道路へ飛び出した子供を救うため命を散らした。 次に目を覚ました場所は神界。 時空の女神クロノスと出会い、葵は自身の魂に特別な力が宿っていることを知る。 その答えを探すため異世界へ転生することになり、シエル・フェンローズとして新たな人生を歩む事になった。 召喚の儀式中、何者かに妨害されて危険区域「ヴェルグリムの深森」へと飛ばされてしまう。 異世界で次第に明らかになっていくシエルの正体。 彼女の召喚が妨害された背景には、世界を揺るがすほどの陰謀が隠されていた……。 前世で孤独だった少女が異世界で出会った仲間と共に、隠された真実を暴いて少しずつ成長していく光の物語――。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...