25 / 140
第2章 萌葱の血
-25- 夢見る少女
しおりを挟む
「それはまあ、確かに少しショックではありましたのよ? 黄堂重工は性能を抑えたDMDしか作れないのではなく、自社にしか作れないDMDを作っているだけ。作ろうと思えばグラドランナちゃんみたいな高性能機も作れるって本気で信じていましたから。性能の良いDMDを作れる会社こそ一流みたいな風潮はやはりあるものですし、それに対する心の支えになっていたのは認めざるを得ませんわ」
今まで自分の中に抱え込んでいたものを吐き出すように蘭は話を続ける。
私はただ黙って彼女の話に耳を傾ける。
「でも、嘘はわたくしのための嘘。そして、わたくしを想って、わたくしのために作られたDMDがグラドランナちゃんですもの。これからも共に戦い続けますわ。そして、いずれはわが社のDMD運用部を導けるようなDMD操者になる! 開発部の方はその……わたくし数学どころか算数が苦手なので、お父様に引き続き頑張っていただきます。でも、操縦の方はどうやら適性があるようなので、七光りではなく実力で役職に就けるよう努力していきますわ」
そういえば黄堂重工のDMD運用部はまだまだだって、桧山さんが言っていたな。
それを娘である蘭がまとめ上げるなら、お父様も大いに喜ぶだろう。
ただ、喜びすぎて今すぐにでも役職を与えてしまいそうな感じもするので、その時が来るまで本当の秘密にしておかないとね。
「もう失敗を誰かのせいにはしませんわ。私は蒔苗さんより1つ年上で、機体も同じモエギの血が流れてる。そして、わがままを言ってもついて来てくれる社員たちがいる。これで言い訳なんてしていたら、いつまで経っても成長しませんわ! でも、その……」
蘭が急にもじもじし始める。
目力がすごかった目を伏せ、上目遣いでこちらを見る。
「たまにはへこんでしまったり、悩んでしまったりすることもあると思うんですの。そういう時、同じDMD操者のお嬢様として、蒔苗さんと支え合っていければいいな……って。あの、わたくしとお友達になりませんこと!?」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。周りにDMDに関することを話せる人が少ないので、蘭さんがいてくれると頼もしいです」
「はぅ……! 嬉しい……! どうか、わたくしのことは『蘭』と呼び捨てにしてくださいな! 年上だからといって、敬語もいりませんわ!」
「で、でも、蘭さんは敬語というか、お嬢様言葉だし、私だけタメ口というのも……」
「では、わたくしと一緒にお嬢様言葉を……!」
「これからよろしくね、蘭!」
「はううぅ……!! 呼び捨て……友達っぽい……!」
流石にお嬢様言葉を使う覚悟は私にはない。
蘭も呼び捨てが友達っぽいと思うなら、普通に呼び捨てやタメ口で話せばいいと思うけど、彼女の中の『正しきお嬢様』には、きっとこの話し方が欠かせないのね。
私が1人で納得している間に、蘭は帽子……じゃなくてカツラを被り直し、席を立つ。
「では、そろそろお暇させていただきますわ。あまり帰りが遅くなると、お父様がそれはそれは心配して大変なことになりますので」
本当に大変なことになりそうだなと思いつつ、蘭を見送るために私も席を立つ。
私はまだこの部屋に残って、育美さんと手に入れたばかりのアイテムの使い道とかを話し合いたいので、一緒に帰るわけにはいかない。
蘭もそれを察しているのか、静かに部屋の外の通路に出る。
「では、また」
蘭は……そこから立ち去ろうとしない。
別れの挨拶を口にしながらその場に留まり、きょろきょろと視線を左右に泳がせる。
そして、呼吸を整え、一瞬息を止めたかと思うと、蘭は私に抱き着いてきた。
花のような甘い香りがする……と思った次の瞬間、彼女の唇が私の頬に触れていた。
予想外の一撃を食らい、私はフリーズする。
「お別れの挨拶ですわ。お返事は?」
蘭はグイッと自分の頬を差し出す。
「あ、あっ、あ、はい……!」
言われるがまま、私も蘭の頬にそっと口づけをした。
「きゃ! こういうこと、お友達とやってみたかったんですわ! ごきげんよう!」
蘭は満足げな表情で去っていった。
急に静かになる室内。さっきまでとの温度差に驚く。
彼女は根は素直で良い子だけど、エネルギッシュ過ぎてまだ上手くついていけない。
急にカツラを外して、去り際に当然のように被りなおす姿にも度肝を抜かれた。
私は熱に浮かされたようにふらふらとテーブルまで戻ると、椅子にどっかりと座り込む。
えっと、そうだ……育美さんに話が終わったことを報告しなければならない。
きっと戻ってくるタイミングをうかがっているはず……。
……なんだか、急に眠気が襲ってきた。
頭を振って睡魔を追い出そうとしても、全然ダメだ……。
意識はまだあるのに、体が重くて動かなくなる。
ばたりと机に突っ伏し、まぶたも勝手に下がってくる。
《……ま……蒔……きな…………蒔苗…………》
頭の中に誰かの声が響く。
男の人の聞きなれたような、そうでないような声……。
その思考を最後に、私の意識は闇に沈んでいった。
次に目を覚ました時……私はマシンベースの医務室にいた。
今まで自分の中に抱え込んでいたものを吐き出すように蘭は話を続ける。
私はただ黙って彼女の話に耳を傾ける。
「でも、嘘はわたくしのための嘘。そして、わたくしを想って、わたくしのために作られたDMDがグラドランナちゃんですもの。これからも共に戦い続けますわ。そして、いずれはわが社のDMD運用部を導けるようなDMD操者になる! 開発部の方はその……わたくし数学どころか算数が苦手なので、お父様に引き続き頑張っていただきます。でも、操縦の方はどうやら適性があるようなので、七光りではなく実力で役職に就けるよう努力していきますわ」
そういえば黄堂重工のDMD運用部はまだまだだって、桧山さんが言っていたな。
それを娘である蘭がまとめ上げるなら、お父様も大いに喜ぶだろう。
ただ、喜びすぎて今すぐにでも役職を与えてしまいそうな感じもするので、その時が来るまで本当の秘密にしておかないとね。
「もう失敗を誰かのせいにはしませんわ。私は蒔苗さんより1つ年上で、機体も同じモエギの血が流れてる。そして、わがままを言ってもついて来てくれる社員たちがいる。これで言い訳なんてしていたら、いつまで経っても成長しませんわ! でも、その……」
蘭が急にもじもじし始める。
目力がすごかった目を伏せ、上目遣いでこちらを見る。
「たまにはへこんでしまったり、悩んでしまったりすることもあると思うんですの。そういう時、同じDMD操者のお嬢様として、蒔苗さんと支え合っていければいいな……って。あの、わたくしとお友達になりませんこと!?」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。周りにDMDに関することを話せる人が少ないので、蘭さんがいてくれると頼もしいです」
「はぅ……! 嬉しい……! どうか、わたくしのことは『蘭』と呼び捨てにしてくださいな! 年上だからといって、敬語もいりませんわ!」
「で、でも、蘭さんは敬語というか、お嬢様言葉だし、私だけタメ口というのも……」
「では、わたくしと一緒にお嬢様言葉を……!」
「これからよろしくね、蘭!」
「はううぅ……!! 呼び捨て……友達っぽい……!」
流石にお嬢様言葉を使う覚悟は私にはない。
蘭も呼び捨てが友達っぽいと思うなら、普通に呼び捨てやタメ口で話せばいいと思うけど、彼女の中の『正しきお嬢様』には、きっとこの話し方が欠かせないのね。
私が1人で納得している間に、蘭は帽子……じゃなくてカツラを被り直し、席を立つ。
「では、そろそろお暇させていただきますわ。あまり帰りが遅くなると、お父様がそれはそれは心配して大変なことになりますので」
本当に大変なことになりそうだなと思いつつ、蘭を見送るために私も席を立つ。
私はまだこの部屋に残って、育美さんと手に入れたばかりのアイテムの使い道とかを話し合いたいので、一緒に帰るわけにはいかない。
蘭もそれを察しているのか、静かに部屋の外の通路に出る。
「では、また」
蘭は……そこから立ち去ろうとしない。
別れの挨拶を口にしながらその場に留まり、きょろきょろと視線を左右に泳がせる。
そして、呼吸を整え、一瞬息を止めたかと思うと、蘭は私に抱き着いてきた。
花のような甘い香りがする……と思った次の瞬間、彼女の唇が私の頬に触れていた。
予想外の一撃を食らい、私はフリーズする。
「お別れの挨拶ですわ。お返事は?」
蘭はグイッと自分の頬を差し出す。
「あ、あっ、あ、はい……!」
言われるがまま、私も蘭の頬にそっと口づけをした。
「きゃ! こういうこと、お友達とやってみたかったんですわ! ごきげんよう!」
蘭は満足げな表情で去っていった。
急に静かになる室内。さっきまでとの温度差に驚く。
彼女は根は素直で良い子だけど、エネルギッシュ過ぎてまだ上手くついていけない。
急にカツラを外して、去り際に当然のように被りなおす姿にも度肝を抜かれた。
私は熱に浮かされたようにふらふらとテーブルまで戻ると、椅子にどっかりと座り込む。
えっと、そうだ……育美さんに話が終わったことを報告しなければならない。
きっと戻ってくるタイミングをうかがっているはず……。
……なんだか、急に眠気が襲ってきた。
頭を振って睡魔を追い出そうとしても、全然ダメだ……。
意識はまだあるのに、体が重くて動かなくなる。
ばたりと机に突っ伏し、まぶたも勝手に下がってくる。
《……ま……蒔……きな…………蒔苗…………》
頭の中に誰かの声が響く。
男の人の聞きなれたような、そうでないような声……。
その思考を最後に、私の意識は闇に沈んでいった。
次に目を覚ました時……私はマシンベースの医務室にいた。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】
・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー!
十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。
そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。
その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。
さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。
柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。
しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。
人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。
そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話
亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる