Dマシンドール 迷宮王の遺産を受け継ぐ少女

草乃葉オウル

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第1章 ゼロの継承者

-10- 包囲網を突破せよ

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「別ルートから帰還しましょう、蒔苗ちゃん。今いるコアのあるフロアからは、来た道以外にもう1本通路が伸びてる。ちょっと遠回りにはなるけど、こっちでも地上には戻れるわ」

『いや、そっちもおそらく押さえられてます。感じる……囲い込もうとする意思を』

「ほ、本当に? このダンジョンにはそこまで統率の取れたモンスターの群れは存在しないはずだけど……」

『異常事態の影響かもしれません。いや、もしかしたらこいつらが異常事態の原因かも……。とにかく、戦闘は避けられそうにありません。私、行きます!』

「わかったわ。頑張って!」

 育美さんにはダンジョン内の映像や音声は届いていない。
 アイオロス・ゼロ側からマシンベースに通信を行うことが不可能だからだ。
 だから、迷う時、ピンチの時、最終的な判断はDMD操者が決めなければならない!
 私は戦う選択をした!

『包囲を突破する方法は……これしかない!』

 スラスターを全力噴射させ、来た道の方を塞いでいるなにかに突撃を仕掛ける!
 相手もアイオロス・ゼロの速さまでは把握していないはず。
 いきなり接近されたら、きっと動揺する!

『……っ! こいつか!』

 通路の曲がり角に身を隠していたのは、3メートルはあろうかという灰色の鬼だった。
 アイオロス・ゼロのデータベースは、こいつを『グレイオーガ』と断定した。
 人型で筋肉隆々きんにくりゅうりゅう、凶悪な顔面の額からは、長く太く鋭い角が1本生えている。

 武器は手に持った棍棒。
 これ自体も1メートルを軽く超える長さだ。
 中途半端に距離を取ってはいけない。
 懐に潜り込んで、急所を切り裂くべし!

『はあっ!!』

 明らかに動揺しているグレイオーガに正面から接近を試みる。
 そのまま切られてくれればよかったけど、そこはモンスター……すぐに怒りを露わにし、棍棒を振り下ろしてきた。
 でも、ここまでは想定済みだ!

『えいっ!!』

 アイオロス・ゼロの小回りを利かせた急加速で背後に回り込み、無防備な首筋をネオアイアンソードで切り裂いた!
 一刀両断とはいかなかったけど、傷口はかなり深い。
 これで倒せたはず……と思っていたら、グレイオーガの体が光の粒子となって消滅した!?

『育美さん! 消えちゃいましたよ!』

「ダンジョンのモンスターは致命的なダメージを負うと、その体の一部だけを残してダンジョンに吸収されるの。だから、モンスターは生物というより、ただのダンジョンの防衛システムなんじゃないかって説もあるわ。でも、その割には外に出て暴れようとする個体もいるし、実際のところはよくわかってないのよ」

『ダンジョンって、奥が深いんですね~。ダンジョンだけに』

「本当はもっと浅いところに出てくる弱いモンスターで説明するつもりだったけど、こんなタイミングになっちゃってごめんね」

 私の渾身のシャレがスルーされた……!
 それだけ異変が起こっているダンジョンに送り込んだことに責任を感じているんだ!
 と、とりあえずフォローよ!

『いえ、育美さんのせいじゃありませんし、別に今でも問題ありません! この残ったオーガの角はアイテム・スキャナーで回収できるんですか?』

「ええ、可能よ」

『じゃあ、持って帰っちゃうぞ~。堅そうだし、武器の材料になりそう!』

「たくさん集めれば頑丈な武器を作れるわ。でも、このダンジョンにグレイオーガがたくさん出現することはまずないけど」

 今回、育美さんの言葉は……ことごとく外れる。
 地上まであと半分といったところにある広い空間に、グレイオーガが複数体居座っている!
 数にして……5体!
 5という数字をたくさんと思うかは人によると思うけど、あれだけ体のデカイ鬼がデッカイ棍棒持ってうろついているのを見ると、たくさんと表現せざるを得ない……!

「ごめんね……蒔苗ちゃん」

『大丈夫です! 今から数を減らしますから!』

 それにしても、なぜここに集まっているんだろう。
 私を狙っているなら、移動中に攻撃を仕掛けてくれば……いや、それじゃダメなのか。
 このフロアは地上へ戻るどのルートでも絶対通る場所だし、待ち伏せするには最適。
 それに5体という数を戦闘に生かすには、それだけ広い空間が必要になる。
 通路で5体のデカイ鬼がデッカイ棍棒振り回したら、仲間に当たってしまうだろうし。

 ……なんだか、思っていたより知能が高い。
 最初の1体は偵察係と考えると、かなり統率が取れている。
 でも、なぜかグレイオーガ自体にはそこまで知性を感じない。
 本当にあいつらが作戦を決めているのかな……?

『とにかく、突撃あるのみ!』

 5体の中で、不用意にもはぐれた位置にいる1体に向かってネオアイアンソードを投げる!
 ……命中! 剣は胸に深く刺さり、そのまま撃破!
 あの機動力を生むアイオロス・ゼロの関節はかなり強い。
 当然肩も強く、物を投げればかなりの勢いで飛ぶ!

『さあ、次よ!』

 仲間を倒されたからか、1体のオーガが怒りながら突進してくる。
 こうやって1体ずつ来てくれると助かる!

『やあっ!』

 振り下ろされた棍棒を華麗に避けて懐に潜り込み、オーガの胴を剣で貫く。
 ネオアイアンソード……2本持ってきてよかった!
 これで残りは3体!

《グオオオォォォォォォーーーーーーッ!!》

 消滅する2体目の背後から3体目が襲いかかってきた!
 振り下ろされる棍棒をシールドで受け止める!
 ガンッという鈍い音と共に少しシールドが歪んだ気がする。
 しかし、十分に受け止められている!

 剣で脚を切り体勢を崩させ、首を切ってトドメを刺す。
 これで残るは2体……!

『……ん?』

 残りの2体は戦う構え自体はとっているが、向かってくる様子がない。
 アイオロス・ゼロに恐れをなしたか?
 ならば、このまま押し切る……!

「蒔苗ちゃん、焦っちゃダメよ」

『……!』

 育美さんの声で狭くなっていた視野が広がり、鈍くなっていた感覚が戻ってくる。
 違う……! 本命はこいつらじゃない!

『後ろかっ!』

 緊急回避で横に転がる!
 さっきまでアイオロス・ゼロがいた場所には、漆黒の棍棒が振り下ろされていた。

『黒い……オーガ!』

 グレイオーガよりも一回り大きい漆黒の鬼は牙をむき出しにし、私をにらみつけた。
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