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期末試験編

062 一番弟子、依頼を受ける

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 筆記試験、実技試験に並ぶ第三の期末試験。
 それは『自由騎士として実際に依頼をクリアする』ことである。

 オーキッド自由騎士学園内には『自由騎士組合オーキッド支部』が存在する。
 通称『学園ギルド』と呼ばれるこの施設では学生向けの依頼を紹介してくれるのだ。
 危険度が低い依頼がほとんどで、さほど報酬は弾まないがそれでもお金に困っている学生や少しでも騎士の仕事を学んでおきたい学生が利用する。

 学生が実際に依頼のクリアに向かう際はプロの自由騎士が同行する。
 三年にもなると学生のみで行うことも多いが、一年生はほぼすべての依頼にプロがつく。
 ここでついてきてくれるプロはやはり学園の卒業生が多い。
 いざとなったら助けたりアドバイスをしてくれるが、基本的には手を出さず優しく見守ってくれる。

 非常に気の利いたシステムだが、デシルを含めた三人娘は利用したことがない。
 理由としてはまずお金に困っていないこと。
 三人とも保護者から仕送りがたくさん送られてくるお嬢様なのだ。

 次にデシルは仕事の経験を得ることよりも、学園での生活に慣れることや授業の予習復習に力を入れていたこと。
 師匠の側にいた頃のデシルにとってモンスターの討伐など日常なのだ。
 もちろん依頼というのは戦いを伴うものばかりではないが、そういうものが多いのも確か。
 それをこなすよりも空いた時間は勉強をし、友達と予定が合えば王都に遊びに出かけるのが彼女にとって特別な経験だった。

 オーカは実戦経験を積みたいとは思っているが、仕事と言われるとなんだか乗り気がしなかったし、空いた時間はサボってきた課題の処理に追われていた。
 そうなるとヴァイスも動かない。
 眠いのもあるが、彼女は特別な存在だ。
 デシルや学園長なしで学園の外で長時間活動するのは問題がある。
 並の自由騎士に責任を負わせるには重すぎるのだ。

 ということで、三人娘は今回初めて学生ギルドを訪れていた。

「混んでるねぇ……。普段から近くを通る時は人がいっぱいいて人気だなぁと思ってたけど」

「一年生全員が依頼を受けに来る季節ですからね! 筆記や実技と違って特定の日に試験があるわけではありませんが、期限までに依頼をこなして一定のポイントを稼がないといけませんから!」

「依頼を失敗した時のことも考えると……早めに行動を開始しないとね……。それに楽な依頼はどんどん持っていかれるし……」

 そんなことを言いながら列に並ぼうともしていない三人。
 人が減ってから並ぼうと思ったが、全然人が減らないので意を決して三人全員で並んだ。

 依頼は学生同士で組んで行っても構わない。
 プロもパーティ単位で動くのが基本だからだ。
 これにはクラスの違いも関係ない。
 Oクラスの生徒がAクラスの生徒とパーティを組んでもよいのだ。
 デシルはもちろんオーカとヴァイスと組んでいる。

「キャロもくればよかったのになぁ~」

 オーカがぼやく。
 キャロラインはいわゆる希少な薬草の探索、採取などの依頼を受けたり、自分の回復魔法が生かせることがしたいと言っていたので独自に行動している。
 また、林間学校時はバリバリ戦っていた彼女もやはりデシルたち三人には及ばない。
 しかし、三人といればキャロの戦闘能力の低さを十分にカバーできてしまう。

 よりギリギリの状況で自分の身を守り、人を助ける経験を積むためにもキャロは他のパーティに混じっている。
 回復役はどんな状況でも崩れずパーティを立て直すタフさが必要なのだ。

「まあ、キャロさんならば大丈夫ですよ。本人は謙遜してますけど、鎖の力を引き出した今ならば戦闘能力だって見劣りしません」

「私たちが異常なだけ……。受けようと思ってる依頼もアレだし……」

 そうこうしている間にデシルたちの順番が来た。
 受付の女性職員は三人娘のことをよく知らないのか普通にニコニコしている。

「ようこそ、自由騎士組合オーキッド支部へ。期末試験のために依頼を受けにきた感じですね? システムはご存知でしょうか?」

「ザックリとは知ってます!」

「では、詳しく説明しますね!」

 依頼を受けた学生は必要な情報が記された依頼書を受け取る。
 それに記された期限までに依頼の条件を達成すればいい。
 モンスター討伐ならばモンスターを倒してその証拠となる物を持ち帰る。
 採取依頼ならば決められた物をできる限り良い状態で持ち帰る。
 そして、それをギルドに提出し、ギルドから依頼主に届けられる。

 最後に報酬を受け取り、プロの騎士ならばランクを上げるためのポイントも受け取る。
 学生の場合はランクがないのでポイントの受け取りはないが、期末試験中は試験ポイントが存在する。
 試験ポイントを期間中に一定まで集めれば試験クリアだ。
 基本的に難易度が高い依頼ほど与えられるポイントは多い。

「っと、ここまでで何かご不明な点はございますか?」

「いえ! 大丈夫です!」

「では、ご希望の依頼内容をお教えください。モンスター討伐に採取、他にも王都内で行う仕事の依頼なども……」

「モンスター討伐依頼で!」

「了解しました。では、どれくらいの難易度で……」

「難易度の高い依頼を上から順にいくつか紹介してください!」

「はい、難易度の高いものから……ええっ!? えっと、提出していただいた学生証を見たところ、あなたたちは一年生ですよね? 上からですと、三年生でも複数のプロの同行が必要な任務になってしまうんで、とてもご紹介するわけには……」

「えっ! おかしいですね……。ルチル先生が『三人なら難易度の高い依頼を受けても大丈夫なようにしておく』って言ってたんですけど……」

「ちょ、ちょっと確認してきますね!」

 女性職員は引っ込んでしまった。
 デシルたちの後ろに並んでいる生徒たちからはため息が漏れ、視線が背中に刺さる。
 対応が遅れていることで列はどんどん伸びていく。
 流石の三人娘も申し訳なさを感じ始めたその時、女性職員が駆け足で戻ってきた。

「確認してまいりました。一年Oクラスのデシル・サンフラワーさん、オーカ・レッドフィールドさん、ヴァイス・ディライトさんですね。確かに三人にはすべての討伐依頼を紹介しても良いという学園長の許可が出ていました」

「それじゃあ……!」

「はい、上から順に依頼をご紹介します。ただ、同行する自由騎士の方もすでに決まっていますが、よろしいでしょうか?」

「はい! 全然かまいません! ちなみについてきてくれる騎士って誰ですか?」

「所属騎士団は『深山の山猫』、ランクはBのラーラ・ラービットが指定されています。学園長命令なので変えることができません」

「わぁ、ラーラさんが!」

 三人の事情を把握していて、そのノリについてこられるのは彼女しかいない。
 学園長とルチルの的確な人選だった。

「むしろ、ありがたいです! よろしくお願いします!」

「では、依頼の説明を始めます。手短に!」

 すらすらとよどみなく話す受付の仕事っぷりに感心した後、三人は依頼書を受け取った。
 討伐開始はラーラの予定に合わせて三日後。
 なんだかプロになったようでテンションが上がり、早く依頼をこなしたいとうずうずするデシルであった。
 
(師匠! これから私は世のため人のために働きますよ!)
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