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始まりの学園生活編

016 一番弟子、戦闘能力測定を見守る

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「みんな校庭に来たみたいだね。さあ、こっちに並んで並んで」

 翌日、一年Oクラスの生徒総勢二十名はだだっ広い校庭に来ていた。
 朝礼を終えて一限目の授業なので中には眠たそうな生徒も多くいる。
 そんな中でデシルは朝の修行を軽めに流し、シャワーも浴びて朝ごはんも食べているので目がぱっちりと開いていた。

「眠たい人は準備体操でしっかり目を覚ましておいてくれたまえ。今日は寝ぼけてるとケガする授業になるからね」

 デシルは修行にケガは付き物だと思っているのでうんうんとうなずく。
 しかし、他の生徒たちはルチルの言葉に動揺する。

「あ、言い方が悪かったね……。今日は一人一人の戦闘能力を測るために実戦形式の授業を行う予定なんだ。具体的には……」

 ルチルは教鞭をシュッと振るう。
 すると校庭の土がもりもりと盛り上がり、あっという間に人の形を成した。

「ゴーレムを知っているかな? 簡単に言うと土や泥、岩石で出来た人形で、作った者の命令通りに動く。今回の授業では私の作ったゴーレムと戦ってもらうよ」

 ぎこちなく動くゴーレムを見生徒たちから安堵の声がちらほらと聞こえる。
 ゴーレム生成魔法は生徒の中にも使える者がいるくらい地属性魔法の中ではポピュラーな魔法だ。
 単純に手数を増やせるし、自分の身を守る盾にもなる。
 使い手の練度や魔力の消費量でゴーレムの性能は変化する。
 動きが速いタイプ、頑丈なタイプ、数が多いタイプ、人間そっくりなタイプなどなど応用が利く魔法で、プロの自由騎士にも愛用する者が多い。

 Aランク自由騎士のルチルも例外ではない。
 彼女が本気でゴーレムを作ると生徒たちを蹴散らしてしまうが、もちろん手加減はする。
 それに基本的にゴーレムは総合能力で使い手を上回ることはない。
 ルチル自身と戦うよりかはいくらか生徒たちの気持ちも楽であった。

「あっ、ちなみにこのゴーレムは説明のために作っただけで、実際に使うものはもうちょっと気合を入れて作るから楽しみにしてくれたまえ。くれぐれも油断せずに本気で挑むように!」

 生徒たちは気を引き締めて準備体操を行い、再び整列した。
 その時には眠たい顔をしている者はほとんどいなくなっていた。

「さて、誰から挑戦……」

「はいはいはい!! あたしがやる!!」

 ぴょんぴょん跳ねて手を振るのはもちろんオーカ。
 とにかくルチルと戦いたくて仕方がないのだ。
 それに大して異議を唱える生徒はいない。
 みな一番はなんとなく嫌なのだ。

「そう来ると思っていたよオーカくん。でも、君は強いから一番にやるとみんなのハードルが上がってしまう。どうかここは後にまわってくれないかな?」

「えー! なんだよ! 怖気づいたのか!?」

「君にはあとで専用のゴーレムでお相手するから、ね?」

「専用……? まあ、ならいいけど……」

 オーカも女の子、特別扱いには弱い。
 上手く狂犬を引き下がらせたルチルは他の挑戦者を募る。
 すると、一人の生徒が手を上げ前に出てきた。

「お、お願いします!」

「うん! 始めようか!」

 ルチルは新たなゴーレムを生成する。
 先ほどのひょろいゴーレムとは違い甲冑をモチーフにした頑丈そうな個体だ。

「動きは速くない。しかし、まあまあ力はあるし頑丈だよ。焦らず動きを見極めて攻撃を加えると良い」

「は、はい!」

「では始め!」

 一番目の生徒はどうやら炎系の魔法が得意らしい。
 それも中距離から近距離で圧縮した炎を爆発させるタイプ。
 威力はあるが本来遠距離から決定打になるという魔法の強みを失い、爆発は自分をまきこむ危険もある。
 Oクラスの生徒ともなるとその弱点を理解した動きをする。
 ギリギリゴーレムの腕が届かない距離を維持し、攻撃を加えていく。

「おおっ! あの人はだいぶ目が良いみたいですね! 強化魔法なしであの反射神経は素晴らしいと思います!」

 デシルは目の前で行われている戦闘をよく観察する。
 師匠と行っていた修行に比べればぬるいのは間違いないが、どんなことからでも学ぶことができるというのが師匠の教えだった。

「確かに良い動きだねぇ。でも、あの戦闘スタイルで身を守る魔法なしは危険だよ。せめて簡単な肉体強化を……あぁ! 言わんこっちゃない!」

 オーカが悲鳴をあげる。
 ゴーレムのパンチと魔法攻撃が重なってしまい生徒の至近距離で爆発が起こったのだ。
 ルチルがとっさに防御魔法を生徒にまとわせたおかげでケガがなくて済んだが、ゴーレムの方はバラバラに砕け散っていた。

「大丈夫かい?」

「は、はい……」

「予想外のパンチに驚いて魔法が暴走、威力が意図せず上がってしまったみたいだね。危ない時ほど冷静でいないといけないけど、これは経験を積まないとなかなか難しい。頭ではわかっていてもね」

「す、すいません!」

「謝ることはないさ、今は授業中だからね。将来間違ってはいけないところで正しい選択ができるように、今はたくさん間違ってくれたまえ。そのために私がいるし、この学園があるのさ」

「はい!」

「良い返事だ! 慎重に、でも恐れずにいこう。一番目に挑戦しに来た勇気を忘れないでくれたまえ」

 一人目が終わったとはどんどん挑戦者が進み出て、サクサクと授業が進んだ。
 炎使いに水使い、風使いや肉体強化の体術使い、ゴーレム使いもいてゴーレム同時の戦いも起こった。
 上手く戦えなかった者も何人かいたが、みな得意な戦法ややりたい戦い方はハッキリとわかる動きをしていた。

「面白いですね! たくさんの戦いを見ると私も戦いたくなってきます!」

「まあまあデシルちゃんは大トリだって。その前に私が行くよ」

 残った生徒はデシルとオーカ。
 先のオーカがルチルの前に進み出る。

「ついに決着をつける時が来たなルチル!」

「ま、まだ入学二日目だよ?」

「関係ないね! 本気でいくから手加減すんなよ!」

「先生としてそのお願いは聞けない。まだ君とは実力差がありすぎる」

「それはやってみなきゃわかんねぇ!」

 これ以上の言葉は不要。
 ルチルは新たなゴーレムを生成する。
 今でのゴーレムは体格のいい人間サイズ。
 対ルチル用のゴーレムは二メートル以上はあった。
 四肢も一回り太く、頑丈さは比べ物にならない。
 さらには肩に二つの大砲のような物までついている。

「撃て!」

 両肩の大砲から圧縮された空気の塊が発射される。
 それは大地をえぐり、土煙を巻き起こす。
 いきなりの攻撃でオーカが吹っ飛んでしまったのではないかと生徒たちは騒然とする。

「安心してくれたまえ生徒諸君。オーカくんにはこの程度の攻撃なんてまったく効かない。今のは軽い挨拶さ」

 ルチルの言葉通りオーカは健在だった。
 赤い石のゴーレムへと姿を変えて。

赤石巨人レッドゴーレム! オーカくんの得意技さ!」

「あのゴーレムの中にオーカさんが入ってるんですか!?」

 デシルには魔力感知で中にオーカが入っていることは丸わかりなのだが、その戦闘スタイルの斬新さに驚いて思わずルチルに確認を取る。

「そうだよ。通常の石のゴーレムより頑丈さが三割ぐらい上だ。それに人が入って操作することで動きは三倍以上機敏! でも、重さはさほど変わらない。風を噴射し続ければ私のゴーレムには近づけないんだ。これで前のオーカくんは私に敗北した。魔力切れが向こうの方が早かったからね」

「だが、あたしに同じ手は通用しない!」

 赤いゴーレムの中から威勢のいい声が響く。
 とはいえ、気合を入れてもオーカは絶え間なく噴射される突風で前に進めない。
 ならば動かないまま敵を倒せばいい。
 オーカはゴーレムの腕を関節を増やすことにより長くする。
 そして伸びた腕でパンチを繰り出し、その場から動かずにルチルのゴーレムを一撃で砕いた。
 このピンポイントな対策にはルチルも素直に驚く。

「腕を伸ばすとは……。今回は私の負けだよオーカくん。それにしても相変わらずの攻撃力だね。一撃で破壊されるとは思わなかった」

「どんなもんだい! もっと褒めてもいいんだぞ!」

「すごいすごい! 完敗だよ! でも、もっとスマートな勝ち方もあったと思うけどね。例えば……」

「負け惜しみはいらないね!」

 ルチルがオーカに伝えたかったことをデシルは察した。
 オーカの戦い方には動きがないのだ。

(入試の時のメテオは直撃までに時間があって動く敵なら簡単には当たらない。今のゴーレム化も素早い敵には対応できない。オーカさんの攻撃は正攻法で受け止めるには厄介だし、防御も正攻法で崩すのはしんどい。でも、逃げて時間を稼げば魔力が切れる……)

 道場というルールの上での戦いが当然の環境で育ったオーカ特有の弱点。
 正面から戦ってくれる者以外には対応できない。

 ルチルはそれを何とかオーカに自分で気づかせようとしている。
 ボコボコにすればオーカも弱点に気づくだろう。
 しかし、それでは彼女のプライドが粉々になって立ち直れないかもしれない。
 それをルチルは相当気にしている。
 確かにオーカは攻めっけが強いが意外と打たれ弱そうだ。

「デシルくんは今のでオーカくんの弱点に気づいたみたいだね……」

 デシルに話しかけるルチル。
 風魔法の応用で周りには聞こえていないようだ。

「友達ならではの伝え方もあると思う。その時はなにとぞよろしく頼むよ。彼女はあれで結構繊細だから」

「もちろんです。友達ですから!」

「ありがとうデシルくん。そして、次は君の番だ。この場合は私が挑戦者になっちゃうかもね。本気のゴーレムでいっても構わないかな?」

 デシルはゾクッと体の底から震えた。
 一瞬だけだったが、ルチルの目は戦士そのものだった。
 どんな温厚な人間でも本気で戦う時には殺気を発する。
 それがAランク自由騎士のルチルとなるととんでもなく鋭いのだ。

 デシルは嬉しかった。
 本来、教える側の先生が生徒に本気を出すのはいろいろ問題がある。
 大ケガでもさせたら教師生命が絶たれるかもしれない。
 それでもルチルは本気で問題ないと思ったのだ。
 先ほどの震えは恐怖からくるものではない。
 自分の力を認めてもらえた嬉しさからデシルは震えた。

「はい! 本気でお願いします!」
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