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始まりの学園生活編
015 一番弟子、初日を終える
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「オーカさん! オーカさん! 学園長先生とのお話終わりましたよ!」
寮の部屋の扉をコンコンとノックするデシル。
生徒には一人一部屋、つまり個室が与えられている。
内装はホテルレベル……とは言えないが一人で暮らすには十分な広さと家具が用意されていた。
「よっしゃ! 今行くよ!」
どたどたと扉の向こうから音がしたと思うと、制服を着崩したオーカが現れた。
「あたしの家の部屋に比べると広すぎて一人じゃ落ち着かなかったんだ。デシルちゃんと二人部屋ならよかったのに……って、それはそれでいつも見た目を気にしないといけないから一長一短か」
「そんな、気を遣わなくたっていいんですよ」
「いやいや、友達とっても最低限の礼儀と見た目は必要なのさ。あたしが耐えられない! まっ、同性同士は許可さえとれば一緒の部屋で寝てもいいみたいだし、そのうちお泊り会を開こうじゃないか!」
「はい!」
二人は食堂へ移動する。
食堂は入学試験の時ほど混んではいない。
在校生よりも受験生の方が多いということが実感できる光景だった。
先に席を確保する必要もないので、二人はまず食べる物を注文することにする。
「うわぁ! 試験の時よりメニューが増えてますね! どれにしようか迷っちゃう!」
「味と量の割に値段が安いんだよねぇ……。気をつけないと食べ過ぎちゃいそうだ」
二人は散々悩んだあげく、デシルはハンバーグカレー、オーカはミートソーススパゲティを注文した。
厨房は開けているのでよく見える。
デシルは料理人の手際のよい動きにうなった。
「早い! それでいて正確無比な動き……! 今はまだ夕方なのであまり混んでいませんし、そもそも夜は授業がないので食べるタイミングが意外と重なりません! でも昼は昼休みという限られた時間に一気に人が来るからあのスピードじゃなきゃ追いつかないんですね! いやぁ、すごい……」
「そういえばデシルちゃんて料理が趣味なんだってね。あたしはそういう家庭的なことがてんでダメなんだ……」
「ふふっ、そうなんですか? なんか親近感湧きますね」
「えっ? どうして?」
「私の師匠も家事とか炊事はまったくできないんです。魔法はあらゆるものが使いこなせるのに不思議ですよね~」
「デシルちゃんを鍛え上げた師匠か……。ぜひ会いたいもんだ」
「夏休みになったら会いに行きましょう! きっとオーカさんなら歓迎してくれます!」
入学初日に夏休みの話で盛り上がる二人は出来上がった料理を受け取り窓際の席に移動する。
学園内には街灯も設置されており、窓際の席はその明かりで照らされた景色を楽しめる。
「カレーは中辛にしました! なんか辛さの段階はたくさんあるみたいですが、まずは基本を知らないといけませんから!」
「デシルちゃんは辛いの平気なの?」
「はい! ただ辛さだけを追求して味が崩れてる料理は苦手ですけど、そうじゃなかったら結構得意だと思います」
「へー、あたし辛いの苦手なんだよねぇ……。苦いのも苦手だけど」
「あっ……」
デシルはオーカがブラックコーヒーを飲めずに押し付けてきたことを思い出した。
あのコーヒーはすべてデシルがおいしく頂いた。
「まあ、コーヒーが好きでもブラックはダメって人は多いと思いますよ。そんなおかしい事じゃありません。でも、辛いものが苦手とは思いませんでした。なんか得意そうなイメージが……」
「それ絶対髪の色を見て言ってるでしょ~?」
「あ、バレました?」
すっかり仲良しな二人の会話はどこまでも続きそうだったが、料理が冷めてはダメなのでそれぞれスプーンとフォークをもって食事を始める。
「うん! ハンバーグのおいしさは試験の時から知っていましたが、このカレーもおいしいですね! 甘すぎず、辛すぎずでコクもある……。何を入れてるんだろう……」
考えながらもカレーとライスをすくう手が止まらないデシル。
オーカも無言でスパゲッティを巻いては食べ、巻いては食べを繰り替えず。
「んっ? オーカさんサラダは食べないんですか?」
デシルはオーカが小鉢に入ったサラダに手をつけていないことが気になった。
サラダはキャベツをメインに刻んだ野菜がたくさん入れられ、柑橘系のドレッシングがかかっている。
さっぱりしていて濃い食べ物によく合うのに……とデシルは思った。
「あー、さっきも言ったけどあたし苦いの苦手なんだ。デシルにあげるよ」
「えー、苦くありませんよ! それに好き嫌いなく食べないと体が丈夫に育ちません!」
「でも……デシルより私の方が体大きいし……」
「三年の差は大きいってオーカさん言ってましたよね。三年たっても年の差は縮みませんけど、身長は私が追い抜いちゃってるかも?」
「ぐぬぬ……今日は半分食べるから許して……。そのうち克服するから……」
「私も鬼じゃありません。今日はそれでいきましょう!」
たっぷり時間をかけてオーカは小鉢のサラダを半分食べた。
上に乗った一つのミニトマトは交渉の末デシルの担当になった。
「デシルちゃんは好き嫌いとかないの? 一つくらいあるでしょ?」
「うーん、あんまりゲテモノは無理かもしれませんけど、この食堂で注文できる料理の中には苦手なものは入っていませんね。好き嫌いしないように育てられたので」
「ふーん、デシルちゃんの師匠にまた興味がわいたよ。会えるのが楽しみだ」
食事を終えた二人は食器を返し、寮に戻った。
時間はそんなに遅くはないが、ルチルの助言を聞いて今日は二人とも早めに寝ることにした。
「おやすみなさい、オーカさん!」
「おやすみデシルちゃん。また明日」
寮の廊下で分かれた後、デシルは自室に入る。
デシルはあまり物を持ち込んでいないので、内装はほとんどデフォルトと変わっていない。
師匠お手製リュックと着替えの服が数着机の上に置かれているだけだ。
「ふぅ……」
そのままの状態でベッドにダイブするデシル。
寝転がるとドッと疲れがあふれ出してきた。
肉体的な疲れより、精神的な面が大きい。
彼女にとっては初めてのことだらけだったのだから。
「このままパジャマに着替えて寝ようかな……。いや、シャワーくらい……朝でいいか……」
早起きのデシルは朝に用事を詰め込んでも授業に遅れはしない。
行動方針を決め、最後の気力を振り絞って着替えるために起きあがる。
制服を脱いで下着姿になった時にハッとデシルは気づいた。
「あっ! 師匠の手紙まだ読んでないや!」
これはマズイと思いすぐさまリュックに手を突っ込んで手紙を引っ張り出す。
それを開くと勢いのまま読み始めた。
― ― ―
デシルへ。
まずは合格おめでとう。
まったく心配はしてなかった。
次に私から何か学園生活について助言を与えることは出来ない。
そういうの苦手だから。
ただ、私が旅立つ前に言ったことは忘れて。
「友達を泣かせちゃうから」とか言ったと思うけど、私はデシルが連れてきた友達は泣かせないと思う。
だから、デシルが好きな子を連れてきなさい。
あと、習慣にしてた修行も友達との用事があるならサボりなさい。
でも、怠けてはいけない。
上手くバランスをとって自分を鍛え続けなさい。
私は極端な人間だったけど、デシルにならできるはず。
最後に何か困ったことがあっても自分の力で解決しなさい。
どうしてもダメな時はすぐに私に相談しなさい。
隠さないで。怒らないから。
夏休みに元気なあなたに会えることを楽しみしてます。
シーファ・ハイドレンジアより。
― ― ―
ところどころ文字を消した跡があり、線の太さも一文字ずつ全然違う。
まさに一言一句悩んで悩んで魂を込めて書いたことが誰の目にも明らかだった。
「師匠……手紙だとずいぶん素直じゃないですか……」
文通というものをしたことがないデシルにとって師匠の手紙は衝撃だった。
気持ちを書かなければ手紙は成立しない。
無口なまま雰囲気でなんとなくやり取りはできないのだ。
「初日から……泣きませんよ……」
デシルは手紙をリュックに戻そうとして手を止めた。
「そうだ、今日からはここが私の部屋なんですよね」
手紙は机の小さな鍵付きの引き出しにそっとしまった。
「よし! 明日からも頑張るぞ!」
パンっと頬を叩いた後、デシルは素早くパジャマに着替えてベッドにもぐりこんだ。
初めて寝るベッドでも不思議とよく眠ることができた。
寮の部屋の扉をコンコンとノックするデシル。
生徒には一人一部屋、つまり個室が与えられている。
内装はホテルレベル……とは言えないが一人で暮らすには十分な広さと家具が用意されていた。
「よっしゃ! 今行くよ!」
どたどたと扉の向こうから音がしたと思うと、制服を着崩したオーカが現れた。
「あたしの家の部屋に比べると広すぎて一人じゃ落ち着かなかったんだ。デシルちゃんと二人部屋ならよかったのに……って、それはそれでいつも見た目を気にしないといけないから一長一短か」
「そんな、気を遣わなくたっていいんですよ」
「いやいや、友達とっても最低限の礼儀と見た目は必要なのさ。あたしが耐えられない! まっ、同性同士は許可さえとれば一緒の部屋で寝てもいいみたいだし、そのうちお泊り会を開こうじゃないか!」
「はい!」
二人は食堂へ移動する。
食堂は入学試験の時ほど混んではいない。
在校生よりも受験生の方が多いということが実感できる光景だった。
先に席を確保する必要もないので、二人はまず食べる物を注文することにする。
「うわぁ! 試験の時よりメニューが増えてますね! どれにしようか迷っちゃう!」
「味と量の割に値段が安いんだよねぇ……。気をつけないと食べ過ぎちゃいそうだ」
二人は散々悩んだあげく、デシルはハンバーグカレー、オーカはミートソーススパゲティを注文した。
厨房は開けているのでよく見える。
デシルは料理人の手際のよい動きにうなった。
「早い! それでいて正確無比な動き……! 今はまだ夕方なのであまり混んでいませんし、そもそも夜は授業がないので食べるタイミングが意外と重なりません! でも昼は昼休みという限られた時間に一気に人が来るからあのスピードじゃなきゃ追いつかないんですね! いやぁ、すごい……」
「そういえばデシルちゃんて料理が趣味なんだってね。あたしはそういう家庭的なことがてんでダメなんだ……」
「ふふっ、そうなんですか? なんか親近感湧きますね」
「えっ? どうして?」
「私の師匠も家事とか炊事はまったくできないんです。魔法はあらゆるものが使いこなせるのに不思議ですよね~」
「デシルちゃんを鍛え上げた師匠か……。ぜひ会いたいもんだ」
「夏休みになったら会いに行きましょう! きっとオーカさんなら歓迎してくれます!」
入学初日に夏休みの話で盛り上がる二人は出来上がった料理を受け取り窓際の席に移動する。
学園内には街灯も設置されており、窓際の席はその明かりで照らされた景色を楽しめる。
「カレーは中辛にしました! なんか辛さの段階はたくさんあるみたいですが、まずは基本を知らないといけませんから!」
「デシルちゃんは辛いの平気なの?」
「はい! ただ辛さだけを追求して味が崩れてる料理は苦手ですけど、そうじゃなかったら結構得意だと思います」
「へー、あたし辛いの苦手なんだよねぇ……。苦いのも苦手だけど」
「あっ……」
デシルはオーカがブラックコーヒーを飲めずに押し付けてきたことを思い出した。
あのコーヒーはすべてデシルがおいしく頂いた。
「まあ、コーヒーが好きでもブラックはダメって人は多いと思いますよ。そんなおかしい事じゃありません。でも、辛いものが苦手とは思いませんでした。なんか得意そうなイメージが……」
「それ絶対髪の色を見て言ってるでしょ~?」
「あ、バレました?」
すっかり仲良しな二人の会話はどこまでも続きそうだったが、料理が冷めてはダメなのでそれぞれスプーンとフォークをもって食事を始める。
「うん! ハンバーグのおいしさは試験の時から知っていましたが、このカレーもおいしいですね! 甘すぎず、辛すぎずでコクもある……。何を入れてるんだろう……」
考えながらもカレーとライスをすくう手が止まらないデシル。
オーカも無言でスパゲッティを巻いては食べ、巻いては食べを繰り替えず。
「んっ? オーカさんサラダは食べないんですか?」
デシルはオーカが小鉢に入ったサラダに手をつけていないことが気になった。
サラダはキャベツをメインに刻んだ野菜がたくさん入れられ、柑橘系のドレッシングがかかっている。
さっぱりしていて濃い食べ物によく合うのに……とデシルは思った。
「あー、さっきも言ったけどあたし苦いの苦手なんだ。デシルにあげるよ」
「えー、苦くありませんよ! それに好き嫌いなく食べないと体が丈夫に育ちません!」
「でも……デシルより私の方が体大きいし……」
「三年の差は大きいってオーカさん言ってましたよね。三年たっても年の差は縮みませんけど、身長は私が追い抜いちゃってるかも?」
「ぐぬぬ……今日は半分食べるから許して……。そのうち克服するから……」
「私も鬼じゃありません。今日はそれでいきましょう!」
たっぷり時間をかけてオーカは小鉢のサラダを半分食べた。
上に乗った一つのミニトマトは交渉の末デシルの担当になった。
「デシルちゃんは好き嫌いとかないの? 一つくらいあるでしょ?」
「うーん、あんまりゲテモノは無理かもしれませんけど、この食堂で注文できる料理の中には苦手なものは入っていませんね。好き嫌いしないように育てられたので」
「ふーん、デシルちゃんの師匠にまた興味がわいたよ。会えるのが楽しみだ」
食事を終えた二人は食器を返し、寮に戻った。
時間はそんなに遅くはないが、ルチルの助言を聞いて今日は二人とも早めに寝ることにした。
「おやすみなさい、オーカさん!」
「おやすみデシルちゃん。また明日」
寮の廊下で分かれた後、デシルは自室に入る。
デシルはあまり物を持ち込んでいないので、内装はほとんどデフォルトと変わっていない。
師匠お手製リュックと着替えの服が数着机の上に置かれているだけだ。
「ふぅ……」
そのままの状態でベッドにダイブするデシル。
寝転がるとドッと疲れがあふれ出してきた。
肉体的な疲れより、精神的な面が大きい。
彼女にとっては初めてのことだらけだったのだから。
「このままパジャマに着替えて寝ようかな……。いや、シャワーくらい……朝でいいか……」
早起きのデシルは朝に用事を詰め込んでも授業に遅れはしない。
行動方針を決め、最後の気力を振り絞って着替えるために起きあがる。
制服を脱いで下着姿になった時にハッとデシルは気づいた。
「あっ! 師匠の手紙まだ読んでないや!」
これはマズイと思いすぐさまリュックに手を突っ込んで手紙を引っ張り出す。
それを開くと勢いのまま読み始めた。
― ― ―
デシルへ。
まずは合格おめでとう。
まったく心配はしてなかった。
次に私から何か学園生活について助言を与えることは出来ない。
そういうの苦手だから。
ただ、私が旅立つ前に言ったことは忘れて。
「友達を泣かせちゃうから」とか言ったと思うけど、私はデシルが連れてきた友達は泣かせないと思う。
だから、デシルが好きな子を連れてきなさい。
あと、習慣にしてた修行も友達との用事があるならサボりなさい。
でも、怠けてはいけない。
上手くバランスをとって自分を鍛え続けなさい。
私は極端な人間だったけど、デシルにならできるはず。
最後に何か困ったことがあっても自分の力で解決しなさい。
どうしてもダメな時はすぐに私に相談しなさい。
隠さないで。怒らないから。
夏休みに元気なあなたに会えることを楽しみしてます。
シーファ・ハイドレンジアより。
― ― ―
ところどころ文字を消した跡があり、線の太さも一文字ずつ全然違う。
まさに一言一句悩んで悩んで魂を込めて書いたことが誰の目にも明らかだった。
「師匠……手紙だとずいぶん素直じゃないですか……」
文通というものをしたことがないデシルにとって師匠の手紙は衝撃だった。
気持ちを書かなければ手紙は成立しない。
無口なまま雰囲気でなんとなくやり取りはできないのだ。
「初日から……泣きませんよ……」
デシルは手紙をリュックに戻そうとして手を止めた。
「そうだ、今日からはここが私の部屋なんですよね」
手紙は机の小さな鍵付きの引き出しにそっとしまった。
「よし! 明日からも頑張るぞ!」
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