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第21話 お料理バトルのお手伝い

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「なにっ!? お前たちが食材を提供してくれるのか!?」

 レギンズの町の病院にいる老舗大衆洋食屋『ベシャメール』店主のグランを尋ねた俺たちは、彼にロニから話を聞いたこと、そして野菜を中心に食材を提供できることも話した。
 また、肉系統も用意しようと思えばできる。
 俺がこのお料理バトルに協力すると聞いたマリーのお父さんが、協力を申し出てくれたのだ。
 マリー曰く「ルイくんが関わるならばベシャメールが勝つだろう。先行投資だ! ワハハハ!」とのこと。
 やけにあの親子からの評価高いよな、俺って。

「はい、必要なものがあれば何でも言ってください。できる範囲でですが、良いものを用意します」

「ふむ、なんという名の農場を経営しているんだ?」

「本当は牧場なんですけど、ついでに農業もやっているというか。ルイルイフェニックス牧場という名前です」

「聞いたことがないな。孫も必死に探してきてくれたんだろうが、無名のとこの野菜では奴らには……『ヴィーオン』の料理人たちには勝てん」

 『ヴィーオン』とは今回乗っ取りを画策している奴らが他の町でやっている店の名前だ。
 そっちでは人気店らしく、この町でも新店舗を出そうとしてる。
 奴らにとっては立地もいいしすでに建物もある『ベシャメール』の看板だけを変えるのが費用も掛からず最高なのだろう。

 まあ、使う手は卑怯でも料理で戦うとなると強敵なのは間違いない。
 グランが俺たちを信用しないのは予想の範囲内。
 だが、実際に野菜を食べてもらえれば考えが変わるはずだ。

「グランさん、この野菜を見てください。これが俺たちの作ってる野菜です。これで今からサラダでも……」

「むっ!? むむむっ……! こ、これは!? なんという素晴らしい野菜!」

 レタスの玉を切る前からかぶりつくように見つめるグラン。
 その目は少年のようにキラキラ輝いている。

「ほ、他の野菜もこのレベルか……?」

「はい、まだ種類は多くないですけど、すべてこのレベルだと胸を張って言えます!」

「そうか……。これならばあるいは……勝てる。いや、ダメだ! 料理人がおらんのだ! あの『ヴィーオン』の第二料理長ゾートに勝てるのはワシのみだ! 店の弟子どもはのほほんとしていて、ハングリー精神が足りておらんのだ! そのせいであまり成長しておらん!」

 ロニ曰く、グランが全力で料理できるのは五分が限界。
 たくさんの料理を作らなければ不利になる対決のルールではこれが致命的。
 弟子たちも普段の料理の手伝いならな問題ないが、中心としてキッチンに立つほど実力は高くない。

「だからロニが作るって言ってるっすじっちゃん!」

「お前にはまだ早い!」

「そんなことないっす! 言いたかないっすけど、ホールやらされる前にしてた修行の段階でも、今の店の料理人よりはうまく料理を作れる自信があるっす!」

「ならん! お前はまだ未熟だ! 中心に立てるほどの腕はない! ワシが老いなどはねのけて見事に勝負に勝ってみせる! 横で見ておけ!」

「そんな体じゃ長い時間料理なんて作れないっすよ!」

「作る!」

「作れないっす!」

 ケンカが始まってしまった。
 しかしなるほど、二人の料理へ賭ける熱い思いは本物だ。
 なんとしても勝たせてあげたい気持ちになってくる。

「お二人とも、少し話を聞いてくれますか?」

 俺はとっておきの秘策を用意してある。
 それを今から説明する!

「グランさん、短時間なら料理は出来るんですよね?」

「ふん、その通りだ。全力調理というのは美味し料理を素早く提供する調理法だ。それをやると五分ほどで体に痛みが来て、休みを入れざるを得ない。逆に調理スピードを落とせばそれなりに作れるが、それは手抜き! ワシはやらん! そんなものは客に出せん!」

「わ、わかりました。でも、お客さんに出さない練習ならば問題ないですよね?」

「まあ……ワシもまかないなどに関しては多少リラックスして作っているのは否定しない」

「良かった! じゃあ、この子にその料理している姿を見せてくれませんか?」

 俺が連れてきた秘密兵器、それはシータだ。
 彼女にグランの調理技術をコピーしてもらえば、全盛期の『ベシャメール』の味が再現できるはずだ。

「その子に……か?」

「ええ、この子はとっても記憶力があって、手先も器用なんです。きっとグランさんの料理もマネできます。あくまでマネなんですけどね」

「ほう……面白いことを言うな。ワシの長年培ってきた調理技術がそんな数回見ただけで再現できるわけなかろう! もしできたら勝負は勝ったも同然! そんな都合の良い話はないわ!」

 俺も正直そう思わなくもないが、グランの言う通りできたなら勝てる!
 きょどきょどしているシータを抱きかかえて、俺たちは『ベシャメール』に向かった。
 そこで大シェフの調理技術を見せてもらうのだ。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 『ベシャメール』の店舗は非常に目立つところにある。
 人の行きかう大通りと大通りが重なる交差点の四つ角の一つ、お店を出すならこれ以上ない立地だ。
 だからこそ狙われているんだろうけどね。
 なんてことを思いつつ、俺たちは裏口から店に入りキッチンにたどり着く。
 年季の入った店だが、キッチン周りは綺麗にしてある。

「さて、横で見ておれよお嬢ちゃん」

「は、はい……」

「まあ、作る料理が一人前だけとなると目にもとまらぬ早さだがな!」

 作る料理は王道のナポリタン。
 グランはまず太めのパスタをゆで始めた。
 流石にこれで体力は消耗しない。
 ゆであがる二分前までゆったりと待ち、二分を切ったところでまさに目にもとまらぬ早さで野菜とベーコンを切ってケチャップと炒め始めた。
 そしてゆであがったところでよく絡め、アッという間にナポリタンの完成だ。

「大衆洋食屋ってのは安価な分たくさんのお客さんに食べてもらわんと話にならん。しかし、早いマズイでは人は来ない。早くて安くて美味いという完ぺきな料理でなければな。そのためには全力で作らねばならんのだ」

 ロニにはまだ早いという理由がわかって気がする。
 それに弟子たちにハングリー精神が足りていないと言うワケも。
 彼は老いてなおさらに美味しい料理の作り方を探っている気がする。

「さて、お嬢ちゃんに出来るかな?」

「い、一応動きは覚えました……」

 シータはまずグランが料理を作った時と同じように食材や食器を配置し、調理を開始した。
 そして、同じ時間でほぼまったく同じ見た目の料理が完成した。
 味も変わらない、恐ろしい再限度だ。

「こりゃ……驚いた……。長生きはするもんだ。ワシの長年研究して作ったナポリタンと同じ味とは……。食材は一緒だが、技術が違えば違う味になる。同じということは技術も同じだ」

「す、すいません……。なんか、私こういうことが出来てしまって……。申し訳ないです……」

「気にすることはない。嬢ちゃんが優れているだけだ。もっともっと誇ってくれ。それにワシもこれでさらに上を目指すモチベーションが湧いてきよったわ! 最近ワシ自身も今の料理に満足している気がしていたんだ!」

 この年でなお上を目指すか……。
 なおさらこの人から店を奪わせたくなくなった。

「グランさん、それでお話ですが……」

「うむ、この子を中心に戦おう。ロニや他の料理人にもサポートはさせる。ワシも一応そばに入るが、情けないことに今は……今は! 全力で料理ができん! 頼んだぞ嬢ちゃん……すまんな」

「は、はい! 出来る限り頑張ります……!」

 こうしてメンツはそろった。
 さっきは勝てると言ったが、相手のゾートという料理人もグランと互角レベルらしい。
 グランの動きを再現しただけでは、まだ油断ならない相手であるのは間違いない。
 その日までにやれることはすべてやって、悔いのない対決にしないとね。
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