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第7話 中年騎士、手合わせ
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戦いの場は館の外だが、敷地内ではある。
門から入って館の玄関までの空間――手入れの行き届いた中庭で俺とトラムさんが対峙する。
「武器はなしということですが、魔術は使ってもいいのですか?」
鋭いまなざしで俺を見据えるトラムさんが問いかけて来る。
「ええ、魔術は構いませんよ。ちょっとくらい怪我させてやろうってくらいでどうぞ」
「それは……大変ありがたいです!」
トラムさんの全身を銀色のオーラが包み込む。
これは肉体強化系統の魔術か……。
「そのコート、大事な物なら脱いだ方がいいですよ」
「では、お言葉に甘えて」
コートを脱ぎ、バッと放り投げる。
こういう動作をカッコいいと思ってしまう俺は、まだまだ子どもなのかもしれない。
「シャツやズボンがズタズタになっても弁償は出来ませんからね!」
コートを脱ぎ捨てたのを合図に、トラムさんが急接近してくる。
銀のオーラをまとった彼女の手刀が喉元に迫る……!
「おっと!」
いきなり喉狙いとは驚いたが、これを回避出来ない俺ではない。
トラムさんの銀のオーラは彼女の動きに合わせて揺らめき、手刀の時はナイフのように鋭く尖る。
なるほど、ズタズタになっても……とはこういうことか。
「フッ! ハッ! ヤァッ!」
なんと素早く洗練された体術なのだろう……。
にわか仕込みではない。かなりの訓練を経験している動きだ。
そして、何よりも特筆すべきは急所狙いであることだ。
頭、首、心臓を狙う手刀がとにかく多い。
もちろん、銀のオーラの鋭さは抑えて、当たっても即死はないようにしてある。
重傷にはなりそう……だけどな。
「プレーガ領の防衛体制が崩壊しているというのは……間違いですね」
「はぁ!?」
俺の言葉にトラムさんが怪訝な顔をする。
「あなたという素晴らしい戦力がリリカ様の側にいるのですから、防衛体制は完全に崩壊しているわけではないということです」
「た、戦いの最中に何を……! おだてて私を惑わそうと……!?」
「これは本心です。トラムさんは強い……王都守備隊の騎士など足元に及ばないほどに」
「えっ、本当……?」
騎士は爵位を継ぐことが出来なかった貴族の次男坊や女性が多い。
ゆえに主君である王族や貴族を守ろうという意識は薄い。
守る対象である王族や貴族が消えれば、自分が跡継ぎになれるかもしれないのだから。
その点、トラムさんの忠誠心は強い。
リリカ様を守りたいという意識が強いからこそ、体術や魔術がここまで研ぎ澄まされる。
「そ、そうだとしても、私1人ではリリカ様しか守れない! プレーガ領全体を守る防衛体制を作らなければ……!」
「あなたがリリカ様を守ってくれるから、私は防衛体制の構築に集中出来るんです」
「まあ、それはそうかもしれませんが……!」
「トラムさん、あなたを近衛兵隊長に任命します」
「えっ、はぁ!?」
困惑しっぱなしのトラムさんだが、そんな中でも繰り出される体術はどんどん鋭さを増している。
自分の実力、今までの働きが正当に評価された時、人はさらなる力を発揮する。
「あなたがリリカ様を守る最後にして最強の盾です。今日までリリカ様を守ってくれてありがとうございます。そして、これからは一緒にリリカ様を支えていきましょう」
「………………ッ!」
空間を切り裂くような素早い連撃を、最低限の魔力のガードでいなす。
すでにトラムさんは本気だ。それは俺の発言に怒りを燃やしているからではなく、俺が本気を出して戦っても問題ない相手だと認めたということだ。
数分にも及ぶラッシュの後――トラムさんは膝をついた。
汗が頬を伝い、肩で息をしている。
「あなた……レナルド大隊長と私の実力差はよくわかりました。これでもまったく本気を出していないのでしょう……?」
「はい。魔力のガードは結構ギリギリでしたけど、まだ自分が一番得意とする魔術は使っていません」
俺の生まれ持った魔術は……まったくパワーがない。
だから、体術や剣術、魔力による最低限の肉体強化の訓練を積み重ねる必要があった。
トラムさんのような銀のオーラは出せないが、魔力によって肉体の機能を高める魔術は訓練次第で誰でも習得出来る。
そういった『やれば出来る系』の魔術を俺は無数に叩き込んである。
本当は本気の魔術もリリカ様に見せたかった。
ただ、俺の魔術を手合わせで使うと、トラムさんに卑怯者という印象を抱かれかねない。
俺のことを良く思っていない人には安易に使えないんだ。
ちょっとばかし癖が強い魔術だからな……。
「トラム! トラム!」
いつの間にかリリカ様が中庭に降りて来て、トラムさんの側まで駆け寄って来た。
そして、膝をついているトラムさんに抱き着く。
「リ、リリカ様……!? 汗でお洋服が汚れてしまいます……!」
「そんなの洗えばよいではないか。それよりもお前の忠誠心……見せてもらったぞ。以前よりさらに強くなったな!」
リリカ様がトラムさんの頭をよしよしと撫でる。
トラムさんは「あわわわ……」と困った声を出すが、主を押しのけるわけにもいかず、されるがままになっている。
「お前がいれば私は安心だ。これからも側にいてくれ、トラム」
「もちろんですっ! この命に代えてもリリカ様をお守りします! 我が主はリリカ・ロードペイン様のみです!」
その言葉……信じてよさそうだ。
戦いの中でかなり彼女の心が揺さぶられたことで、その本心を見据えることが出来た。
トラムさんは心底リリカ様を心酔している。
だからこそ気になるな……。
トラムさんの肉体強化魔術はおそらく『白銀輝光流』――王族直属の暗殺部隊が好んで使用する流派だ。
門から入って館の玄関までの空間――手入れの行き届いた中庭で俺とトラムさんが対峙する。
「武器はなしということですが、魔術は使ってもいいのですか?」
鋭いまなざしで俺を見据えるトラムさんが問いかけて来る。
「ええ、魔術は構いませんよ。ちょっとくらい怪我させてやろうってくらいでどうぞ」
「それは……大変ありがたいです!」
トラムさんの全身を銀色のオーラが包み込む。
これは肉体強化系統の魔術か……。
「そのコート、大事な物なら脱いだ方がいいですよ」
「では、お言葉に甘えて」
コートを脱ぎ、バッと放り投げる。
こういう動作をカッコいいと思ってしまう俺は、まだまだ子どもなのかもしれない。
「シャツやズボンがズタズタになっても弁償は出来ませんからね!」
コートを脱ぎ捨てたのを合図に、トラムさんが急接近してくる。
銀のオーラをまとった彼女の手刀が喉元に迫る……!
「おっと!」
いきなり喉狙いとは驚いたが、これを回避出来ない俺ではない。
トラムさんの銀のオーラは彼女の動きに合わせて揺らめき、手刀の時はナイフのように鋭く尖る。
なるほど、ズタズタになっても……とはこういうことか。
「フッ! ハッ! ヤァッ!」
なんと素早く洗練された体術なのだろう……。
にわか仕込みではない。かなりの訓練を経験している動きだ。
そして、何よりも特筆すべきは急所狙いであることだ。
頭、首、心臓を狙う手刀がとにかく多い。
もちろん、銀のオーラの鋭さは抑えて、当たっても即死はないようにしてある。
重傷にはなりそう……だけどな。
「プレーガ領の防衛体制が崩壊しているというのは……間違いですね」
「はぁ!?」
俺の言葉にトラムさんが怪訝な顔をする。
「あなたという素晴らしい戦力がリリカ様の側にいるのですから、防衛体制は完全に崩壊しているわけではないということです」
「た、戦いの最中に何を……! おだてて私を惑わそうと……!?」
「これは本心です。トラムさんは強い……王都守備隊の騎士など足元に及ばないほどに」
「えっ、本当……?」
騎士は爵位を継ぐことが出来なかった貴族の次男坊や女性が多い。
ゆえに主君である王族や貴族を守ろうという意識は薄い。
守る対象である王族や貴族が消えれば、自分が跡継ぎになれるかもしれないのだから。
その点、トラムさんの忠誠心は強い。
リリカ様を守りたいという意識が強いからこそ、体術や魔術がここまで研ぎ澄まされる。
「そ、そうだとしても、私1人ではリリカ様しか守れない! プレーガ領全体を守る防衛体制を作らなければ……!」
「あなたがリリカ様を守ってくれるから、私は防衛体制の構築に集中出来るんです」
「まあ、それはそうかもしれませんが……!」
「トラムさん、あなたを近衛兵隊長に任命します」
「えっ、はぁ!?」
困惑しっぱなしのトラムさんだが、そんな中でも繰り出される体術はどんどん鋭さを増している。
自分の実力、今までの働きが正当に評価された時、人はさらなる力を発揮する。
「あなたがリリカ様を守る最後にして最強の盾です。今日までリリカ様を守ってくれてありがとうございます。そして、これからは一緒にリリカ様を支えていきましょう」
「………………ッ!」
空間を切り裂くような素早い連撃を、最低限の魔力のガードでいなす。
すでにトラムさんは本気だ。それは俺の発言に怒りを燃やしているからではなく、俺が本気を出して戦っても問題ない相手だと認めたということだ。
数分にも及ぶラッシュの後――トラムさんは膝をついた。
汗が頬を伝い、肩で息をしている。
「あなた……レナルド大隊長と私の実力差はよくわかりました。これでもまったく本気を出していないのでしょう……?」
「はい。魔力のガードは結構ギリギリでしたけど、まだ自分が一番得意とする魔術は使っていません」
俺の生まれ持った魔術は……まったくパワーがない。
だから、体術や剣術、魔力による最低限の肉体強化の訓練を積み重ねる必要があった。
トラムさんのような銀のオーラは出せないが、魔力によって肉体の機能を高める魔術は訓練次第で誰でも習得出来る。
そういった『やれば出来る系』の魔術を俺は無数に叩き込んである。
本当は本気の魔術もリリカ様に見せたかった。
ただ、俺の魔術を手合わせで使うと、トラムさんに卑怯者という印象を抱かれかねない。
俺のことを良く思っていない人には安易に使えないんだ。
ちょっとばかし癖が強い魔術だからな……。
「トラム! トラム!」
いつの間にかリリカ様が中庭に降りて来て、トラムさんの側まで駆け寄って来た。
そして、膝をついているトラムさんに抱き着く。
「リ、リリカ様……!? 汗でお洋服が汚れてしまいます……!」
「そんなの洗えばよいではないか。それよりもお前の忠誠心……見せてもらったぞ。以前よりさらに強くなったな!」
リリカ様がトラムさんの頭をよしよしと撫でる。
トラムさんは「あわわわ……」と困った声を出すが、主を押しのけるわけにもいかず、されるがままになっている。
「お前がいれば私は安心だ。これからも側にいてくれ、トラム」
「もちろんですっ! この命に代えてもリリカ様をお守りします! 我が主はリリカ・ロードペイン様のみです!」
その言葉……信じてよさそうだ。
戦いの中でかなり彼女の心が揺さぶられたことで、その本心を見据えることが出来た。
トラムさんは心底リリカ様を心酔している。
だからこそ気になるな……。
トラムさんの肉体強化魔術はおそらく『白銀輝光流』――王族直属の暗殺部隊が好んで使用する流派だ。
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