上 下
36 / 36
本編↓

第34話 終焉。

しおりを挟む
 腹部に大きな穴を開けた獣族は自身の再生力を持ってしても修復する事は出来なかった。
 少年の放った権威で形成された矢の残りカスのようなものが獣族の傷口に付着し再生を留めていた。

 「貴様…!」

 再生もできず更には止血もできずにいる獣族は大量出血での死を強制的に受け入れなくてはならない。
 剣聖を含め誰もがそう思っていた。

「まだ…終わらねぇぞ…!」

 途端、獣族が遠吠えを出す。その声は下界一面を駆け巡るかの如く大きく少年達は耳を塞がずにはいられなかった。
 しばらくすると、遠吠えが収まり少年達は耳を塞いでいた手を離す。

「…ん?」

 剣聖は微かに耳に届く低周波に嫌な感覚を覚えた。
 一瞬なんの音か考え込んだが直ぐに答えがわかった。

「アイツから離れろ!恐らく奴は仲間を呼んだ…!」

 少年は剣聖に言われるがままに獣族とは別の方向へ走って行く、その間剣聖は時間を稼ぐように地面を高速で切り裂き砂埃を起こし、それから逃げる。

 無事二人は獣族から数十メートル距離をとった頃、沢山の獣族(人型以外)が砂埃を撒き散らし走って来た。
 最初はこちらを襲って来るかと思ったがそうではないかった。
 奴らは腹部に傷を負った獣族に一直線に走って行き腹部に空いた大きな穴に入って行く。
 その間、獣族は一歩たりとも動かず自身の体を小刻みに揺らしていた。

「ビースト解放…!」

 獣族がそう叫んだ時だった。
 彼の身体中を駆け巡る血は速度を上げ自身の皮膚が赤くなる程までに体温を上げる。急激に血行を促進させた事により、体温は上がり更に身体能力も桁違いに跳ね上がっていた。
 そして体温が上がった事により、傷口に侵入していた獣族達(人型以外)と少年の権威は溶かされ獣族は傷口を修復する。

 「いよいよマズイんじゃないの?」

 剣聖は獣族の更なる進化に焦りを感じていた。
 ただでさえ苦戦し、押され気味だった戦況がこの進化により、更に押されると考えられるからだ。

「これは本気で行くしかなさそうですね」

 少年と剣聖は決意を決めて獣族との距離を詰める。
 獣族の体温は更に上がり続け、歩く場所は大地をも焦がす程。
 そんな獣族の体温はとうに1000度を超えていた。通常1000度も体温があれば身体中の細胞を壊し死に至るのだが、彼は驚異的なまでの再生能力で自身が壊した細胞を修復していた。これは彼にしか出来ない芸当。

「さぁ…知力の限りを尽くして来い…」

 剣聖は彼に効くかも分からない自身の短刀で攻撃を食らわす。
 短刀自体は獣族に触れることで溶けることは無かったが問題は攻撃している本体にあった。
 剣聖は自身の手が焦がれる感覚を覚えた。
 ふと手を見ると赤くただれとても見せられる状況では無い。更に攻撃で負わせた傷口から飛び散る血が身体中にかかり火傷を負う。
 剣聖はもはや痛みで立ち上がることさえ難しい状況に陥る。

「ぐっ…!すまねぇ…」

 行動不能になった剣聖を放っておけばすぐに獣族がトドメを刺してしまう。
 そう考え少年は戦う準備を開始しもう一度、弓矢を出すように頭に強く念じた。
 だが、一向に出る気配はない。
 そうしているうちに少年に向かい獣族は飛びかかってきた。それは止める事、そして反応する事さえ許さない速度で。
 今の獣族の攻撃を食らうと傷だけでは済まず、深いやけども負い傷は永遠に治る事は無くなってしまう。
 つまり、この一撃を受けるということは死を受け入れるということ。
 だが、少年は瞬間的に動くことが出来ない。

ーー死んだ。

 そう思った時。獣族は少年の上をそのまま通り過ぎ、その後ろの木にぶつかる。

ーー何が起こった?!

 全く状況の整理がつかない少年だったが、何となく理解した。
 結論から言えば自滅。
 獣族は体温を限界まであげた事により再生能力も限界まで上げている状況にあった。そこに剣聖が数々の傷を作った事により、細胞の修復に力を注いでいた再生能力が傷の修復に力を使うことが出来ず傷口から流れ出た血で貧血になり死にかけた時、体が傷の方が危ないと判断し体温を上げるのをやめて傷の修復に力を注いだ。だが、体温が冷めるのは遅く、その余熱で細胞を焼き尽くしたという事だろう。
 そして、死んだ。

「よ…かった」

 少年は一息つき、剣聖の元へ駆け寄った時だった。

「本当に良かったのかなぁ?」

 禍々しいオーラに身を包んだ従属とはまた別の何かが少年の眼前に立っていた。

「まさか…魔族…!いやそんな…違う世界に住んでるはず…」

 少年は居るはずもない存在を目の当たりにして戸惑う。
 魔族は元々この世界に存在していたが、ここ数十年でパッと姿を消した。噂によれば違う世界に住みついたとの話だったが…

「契約してた奴が死んだでしょ?だから」

 「まさかじぃじ」

「名前は確か、ハヤミだったかな」
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

みるみる未来STV

だんだん語彙力が上がって来ている印象です。頑張って下さい

夏目きょん
2018.02.18 夏目きょん

ありがとうございます!精進したいと思います!

解除

あなたにおすすめの小説

いわゆる天使の気まぐれで

夏目きょん
ファンタジー
俺は死んだ・・。 死因は、インフルエンザ。 まさか、インフルエンザで死ぬとは思わなかった・・。 死後の世界という所に着くや否や 天使と名乗る奴が俺を異世界に転送しやがった。 しかも そこはRPGの世界だった・・!

『ラズーン』第二部

segakiyui
ファンタジー
謎を秘めた美貌の付き人アシャとともに、統合府ラズーンへのユーノの旅は続く。様々な国、様々な生き物に出逢ううち、少しずつ気持ちが開いていくのだが、アシャへの揺れる恋心は行き場をなくしたまま。一方アシャも見る見るユーノに引き寄せられていく自分に戸惑う。

異世界坊主の成り上がり

峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
山歩き中の似非坊主が気が付いたら異世界に居た、放っておいても生き残る程度の生存能力の山男、どうやら坊主扱いで布教せよということらしい、そんなこと言うと坊主は皆死んだら異世界か?名前だけで和尚(おしょう)にされた山男の明日はどっちだ? 矢鱈と生物学的に細かいゴブリンの生態がウリです? 本編の方は無事完結したので、後はひたすら番外で肉付けしています。 タイトル変えてみました、 旧題異世界坊主のハーレム話 旧旧題ようこそ異世界 迷い混んだのは坊主でした 「坊主が死んだら異世界でした 仏の威光は異世界でも通用しますか? それはそうとして、ゴブリンの生態が色々エグいのですが…」 迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」 ヒロイン其の2のエリスのイメージが有る程度固まったので画像にしてみました、灯に関しては未だしっくり来ていないので・・未公開 因みに、新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。 少女は石と旅に出る https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766 SF風味なファンタジー、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします 少女は其れでも生き足掻く https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055 中世ヨーロッパファンタジー、独立してます

Fragment-memory of future-Ⅱ

黒乃
ファンタジー
小説内容の無断転載・無断使用・自作発言厳禁 Repost is prohibited. 무단 전하 금지 禁止擅自转载 W主人公で繰り広げられる冒険譚のような、一昔前のRPGを彷彿させるようなストーリーになります。 バトル要素あり。BL要素あります。苦手な方はご注意を。 今作は前作『Fragment-memory of future-』の二部作目になります。 カクヨム・ノベルアップ+でも投稿しています Copyright 2019 黒乃 ****** 主人公のレイが女神の巫女として覚醒してから2年の月日が経った。 主人公のエイリークが仲間を取り戻してから2年の月日が経った。 平和かと思われていた世界。 しかし裏では確実に不穏な影が蠢いていた。 彼らに訪れる新たな脅威とは──? ──それは過去から未来へ紡ぐ物語

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

終焉の謳い手~破壊の騎士と旋律の戦姫~

柚月 ひなた
ファンタジー
理想郷≪アルカディア≫と名付けられた世界。 世界は紛争や魔獣の出現など、多くの問題を抱え混沌としていた。 そんな世界で、破壊の力を宿す騎士ルーカスは、旋律の戦姫イリアと出会う。 彼女は歌で魔術の奇跡を体現する詠唱士≪コラール≫。過去にルーカスを絶望から救った恩人だ。 だが、再会したイリアは記憶喪失でルーカスを覚えていなかった。 原因は呪詛。記憶がない不安と呪詛に苦しむ彼女にルーカスは「この名に懸けて誓おう。君を助け、君の力になると——」と、騎士の誓いを贈り奮い立つ。 かくして、ルーカスとイリアは仲間達と共に様々な問題と陰謀に立ち向かって行くが、やがて逃れ得ぬ宿命を知り、選択を迫られる。 何を救う為、何を犠牲にするのか——。 これは剣と魔法、歌と愛で紡ぐ、終焉と救済の物語。 ダークでスイートなバトルロマンスファンタジー、開幕。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

メサイア

渡邉 幻月
ファンタジー
幻想が現実になる日。あるいは世界が転生する日。 三度目の核が落ちたあの日、天使が天使であることを止めた。 そして、人は神にさえ抗う術を得る。 リアルが崩壊したあとにあったのは、ファンタジーな日常だった。 世界のこの有り様は、神の気紛れか魔王の戯れか。 世界は、どこへ向かうのか。 人は、かつての世界を取り戻せるのか。今や、夢物語となった、世界を。 ※エブリスタ様、小説家になろう様で投稿中の作品です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。