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第29話 最強が最強へ

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 剣聖は驚きを越し危機を感じていた。
 何故ならば、彼の眼前には自身に殺意を持った少年が計り知れない量の権威を身に纏い、更には権威で武具をも形成し立ちはだかっているからだ。
 正直、少年に自我があるのか無いのかも分からない。
 ただ言えるのは、本気を出さなくては確実に殺されるという事だけだ。

「お前を…殺してやる」

 少年は膝を曲げ溜めを作ると物凄い速さで剣聖との距離を縮める。
 剣聖も持っている剣で応戦するが、少年の権威で形成された盾に阻まれてまるで意味がない。そして権威で出来た剣で剣聖を襲う。
 その攻撃を彼は避けれてはいるがどれも紙一重。いつ攻撃が当たってもおかしくない状況だ。

ーーマズイ…!

 切羽詰まった状況へと一転する剣聖。
 今の少年は慈悲も容赦も持ち合わせてはいない。つまり、全ての攻撃に殺意が込められているという事。それつまり一つのミスが死を招くという事。

ーーくそ…!アレを使うか…。

 剣聖はバク転を繰り返し一度少年とかなり距離をとる。
 そして、剣聖は纏わせていた権威を全てとき胸元から白い包帯に巻かれた短刀の様なものを二本取り出した。
 剣聖が包帯を直ぐに取ると短刀は姿を現した。それは黒光りをしており、何か見たことの無い石で作られている様な感じだった。

 ーーよし。反エネストーンで作られた短刀だ。だが、これを使うにはリスクがある…
 
 短刀の正体は反エネストーンで出来た物だった。
 そしてこれを使うに当たって剣聖はあるリスクを背負う事になる。
 権威を使うと何故か反エネストーンが効く様になってしまう。
 つまり、反エネストーンを使うならば、権威を解かなくてはいけない。
 それすなわち、一撃でも当たれば即死。
 彼はこのリスクを背負い、少年に攻撃を当てようとしているのだ。
 まさに諸刃の剣。

「よし来い!」

 剣聖が大きな声で叫ぶと、少年も直ぐに答える。

「言われなくても…行くよ」

 目にも留まらぬ速さで距離を詰める少年、そしてそこから繰り出される一撃は素早く重い。
 剣聖は紙一重で、二本の短刀を交差させる形で体の前で攻撃を止めた。
 すると、少年の権威で出来た剣がみるみると黒い粉を出しながら溶けていった。

ーーよし。効いている

 剣聖は自分のペースを取り戻し、今度は反撃に出た。反エネストーンで出来た剣は少年の武具をみるみるうちに蝕んで行く。
 盾も穴が空き、剣も半分無くなった少年はその場に立ち尽くしていた。

ーーよし。今なら気絶させられる!

 剣聖はすぐに少年の後ろに回り、手刀で気絶を狙った。
 しかし、その手は少年に届くことは無かった。
 少年の剣の持ち手部分が急速に伸び、更には鋭くなり剣聖の左腕を貫通したのだ。

ーーっ…!これは本物のバケモンだ。

 剣聖は一度距離を取り、腕の止血をする。
 彼は自身の服を破り、無造作に縛り付けた。
 それから剣聖はポケットからチョークの様な物を取り出し、地面に何かを書き始めた。
 しかしその間を少年が待つはずも無い。
 少年は盾を捨て剣を片手に再び剣聖を襲う。
 だが、剣聖もやられっぱなしでは無い。
 彼は再びポケットからカプセル状の物を取り出し、少年に投げつけた。
 瞬間、目を焼き尽くす様な閃光が走る。
 少年は目が眩み、その場に膝をつく。
 あらかじめ目を瞑っていた剣聖はなんの影響もなく、再び地面に何かを書き始めた。
 
 少年がやっと目が見える様になってきた頃、剣聖も何かを書き終えていた。
 少年が再度、剣聖を襲う時、剣聖はその地面に書かれた何かの後ろにおり、少年はそれを通る様に襲ってきた。
 瞬間、電気の様なものが少年の身体中を駆け巡る。突然の強烈な刺激に、少年は気絶してしまう。

 「まさか呪術を使わなくちゃいけないとはね。僕の戦術勝ちだね」

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