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第二章
No.34 苦戦
しおりを挟むもう限界だ、と拘束シールドが音を上げる。
駄目だ、もう破られてしまう。カトレナさんが来てさえくれれば、とパメラとダンは歯軋りした。
首領室全体に、シールドから溢れ出たリリィのオーラが稲妻の様に辺りを走った。
そして遂に、拘束シールドは破られた。
パメラはすぐに切り替えてガン・キューブをもう一度撃ち込み、自分と自分の背後にいる数人の者達をシールドで囲った。
が、ダンは破られた衝撃でガン・キューブを床に落としてしまった様だ。それを急いで拾おうとした時には、もう遅かった。
「ダン!!早くーーーー」
言い切る頃には、ダンと他の数人はリリィの強力な拒絶により吹き飛ばされ、壁へ押し潰されてしまっていた。
クソ、と短く吐き捨て、パメラはこちらを向くリリィを睨み付けた。
何か、何かおかしい。レイドール国の戦いでは、操りの糸はナーチャーの能力までは操られない様だったのに。
だが、今はそんな事は考えていられない。パメラはもう一度、と拘束シールドをリリィ目掛けて撃った。
しかしそれは容易に弾かれてしまった。
先程の拘束シールド、そして今のシールドによってパメラは殆どの力を使い果たしていた。そうで無くても、もしかしたらこのリリィには敵わなかったのかもしれないが。
「これまでか...」
リリィの拒絶がこちらへ向けられる。
このシールドももう破られるだろう。
パメラは悔しさに顔を歪ませ、目を閉じた。
その時、数回のガン・キューブの発砲音と、首領室の扉が破られた大きな音がシールドを通して聞こえた。
パメラは驚いて目を開けた。
そして目に映った人物は、鋭く青いオーラに包まれたカトレナだった。
パメラと同じく、リリィもカトレナに目を向けていた。一瞬リリィの瞳の奥に何らかの感情が見えた様な気がしたが、それはすぐに消え去った。
「この大馬鹿者が。」
そう静かに言い放ち、カトレナはガン・キューブをリリィへと構えた。
リリィも、パメラからカトレナへ気を移し、強大なヒーリスを念じる。まだそんな力が残っているのか、とパメラは身震いした。
が、リリィが攻撃を仕掛ける前にカトレナがガン・キューブを撃った。
拘束シールドだ。今度は弾かれない。
パメラとダンに捉えられた時の様に、リリィはまた身動きが取れなくなった。
その拘束シールドは、二人がかりで作り出した物よりもずっと頑丈で質が高い。流石、とパメラはカトレナに畏敬の視線を送った。
「クラド、完了した。」
「よし、そのままギルが来るまで縛り付けておいてくれ。パメラ、大丈夫かい?」
次に姿を現したクラド。そしてマドズ。
三人の姿に気を緩ませ、パメラは張っていたシールドを解いてその場に崩れる様に座り込んだ。
「ク、クラド...すまない。」
無残にも潰れて息絶えたダン。
すまないとは、その姿に対してだろう。
クラドはフルマスクを外し、安心させる様にパメラに向かって微笑んだ。が、その目には隠し切れない悲しみが宿っている。それに気付き、パメラの心はキリキリと痛んだ。
「おい、侵入者は?」
クラドの後ろでマドズが言った。
気配も感じられない。まさか、あのアランと対峙して逃げ果せたわけでは無いだろう。
パメラは少し考えた後、首を横に振った。
「わからない。さっきまで部屋の外でリーダーが応戦していたんだが...きっと戦いの場を外に変えたんだろう。」
「ほう、あのリーダーと戦ってまだ生きているかもしれないってのか。かなりの強敵の様だな。」
「その様だね。マドズ、君はここにいてカトレナと共にギルを待ってくれ。俺はリーダーと共に侵入者の拘束へ...」
そこで、クラドは言葉を切った。
全員気が付いた。
突如、背後から気配。そして冷気。
クラドとマドズは瞬時にディスターを発動させ、ガン・キューブを手に振り返った。
その視線の先が見えなくても、パメラにはわかっていた。この痛い程の冷気はあの少女から発せられるものだと。
「次から次へと、本当に面倒くさいなぁ。」
「...何だ、貴様は?」
ため息を吐くアルビノ。
その姿を見て眉を顰めるカトレナ。
クラドとマドズもカトレナと同じ様な表情を浮かべてはいるが、異様に思う点が違っているだろうとパメラは感じた。
青いドレスの可憐な少女。その外見でクラドとマドズは異様だと感じているはずだ。
が、カトレナは自分と同じく、そのヒーリスに似通ってはいるがまるで違う、少女のオーラを異様に感じているのだと。
「何者だと聞いている。ラギスの者か?」
クラドが鋭い殺気を込めて言った。
が、アルビノはまた子供らしい笑い声を上げた。
「そうね、初対面の人には自己紹介しなきゃ。私はアルビノ。好きな食べ物はチョコレートで好きなお花はマリーゴールド。闇組織ガーロンの一員なの、これからよろしくねぇ。」
そう言って、可愛らしくお辞儀をする。
ガーロンの名に四人は目を見開いた。ラギス国が雇ったといわれている闇組織だ。
やはり、ラギス国の差し金か。
「そうか、アルビノ。よろしくな。後でもっと詳しく自己紹介し合おうか。」
カトレナが言った。
そして、それと同時にクラドとマドズの間を青い閃光が飛び抜いて行った。
「わっ、ビックリしたぁ。」
アルビノは一瞬にして拘束された。
クラドとマドズが後ろを振り向くと、カトレナは両手にガン・キューブを持ち、リリィとアルビノを同時に拘束させていた。
その表情は涼しい。マドズは笑みを浮かべながら、小さく口笛を吹いてみせた。
「流石、カトレナちゃん。やるねぇ。」
「フン、他愛も無い。」
発動を解くクラドとマドズ。
カトレナは余裕綽々に鼻を鳴らした。部屋の隅でパメラは唖然としている。やはり、自分とは格が違う。
「リーダーが来る前に片付けたね。」
そう言ってクラドが通路に空いた大きな穴へと視線を向けた。丁度、アランがそこから入って来た所だった。
随分前から既にアランの気配は感じていたのだ。
「リーダー、遅かったな。」
「...お前達の気配は感じていたからな。急ぐ事は無かった。」
「まあ、そうだろうな。それにしても苦戦したな。あんたがこれだけ時間をかけた事なんて今まで無かった。」
幾ら生け捕りに向かない能力だとしても、両手足を焼いて千切ってしまえば良かったのに。
マドズはそう言って肩を竦めた。
その横で、拘束器具を取りに行けとクラドが首領室にいる者達に声をかけている。危機は去ったと、誰もが完璧に油断してしまっている。
アランは何も言わずアルビノを見た。
アルビノもまた、アランを無言で見つめた。
「...そう、お情けね。別に必要無かったけど。」
「ん?何か言ったか?」
マドズがまたアルビノを見た。
が、シールドの中にその姿は無かった。
そしてそれを確認出来た時には、既にアルビノはマドズとクラドの横に移動していた。
「何っ...」
驚愕と油断。それにより、二人共ディスターの発動が遅れた。見ると、アルビノの手にはいつの間にかガン・キューブとソード・レックが握られていた。
アルビノのガン・キューブがマドズに、ソード・レックがクラドに向けられる。
二人とも瞬時に動いたが、マドズは右足を砕かれ、クラドは脇腹に深い傷を負った。
そのまま二人が通路の方へ飛ばされる。
カトレナがもう一度、と至近距離に来たアルビノへ拘束シールドを放とうとしたが、それよりも先にアランがガン・キューブをアルビノに撃ち込んだ。そしてそれはアルビノの顔面を直撃した。
殺してしまったか。
だがまあ、正体は自分からバラしたのだし、それで良いだろう。
カトレナはそう思って、頭の無いアルビノへ向けていたガン・キューブを下ろした。
が、頭の無い胴体は、それでも動いた。
カトレナに銃口を向ける。間に合わない。
完璧にカトレナは警戒を解いていた。
「危ない!!」
声、そして衝撃、発砲音。
カトレナは床に倒れていた。
左肩に鋭い痛み。ガン・キューブの攻撃を掠めてしまったらしく、少し抉られていた。
掠めた?あの距離で、掠めただけ?ハッとして、カトレナは今自分が立っていた場所を見た。
そこにはパメラが倒れていた。
無惨にも、胴体だけとなって。
代わりにアルビノの顔は元に戻っていた。
「貴様...!!」
「もう、邪魔だな。あっち行って。」
怒りに目を光らせ、カトレナはソード・レックを持ちアルビノへと攻撃を仕掛けた。
が、アルビノは剣を最も簡単に交わし、カトレナの横腹に蹴りを入れた。
その華奢な身体の何処にそんな力があるのか。驚く程の力だ。ナーチャーなのだろうが、今は能力を発動すらしていないのに。
カトレナは通路へと飛ばされ、血を吐いた。
既にマドズとクラドが傷を負って片膝をついている。
まずい、今首領室にはリリィとアルビノだけだ。それにカトレナの拘束は解かれ、リリィは自由の身となっている。
アランが前に出た。
が、向かう事をアルビノは許さなかった。
「バイバイ、また会おうね。」
そう言って、アルビノは息を吹いた。
蝋燭の火を消す様に。
その息は冷気となり、通路にいたアラン達四人を取り囲んで大きな氷を作り出した。
アランが立ち止まり、後退りしながらガン・キューブを氷に向けて何度も撃ち込んだが、ディスターの熱さえそれは冷やした。ただの氷では無い。
もう、アルビノとリリィの姿は見えない。
「...クソが!」
悪態を吐きながら、マドズがガン・キューブを強固な壁となった氷に向かって何度も撃ち込んだ。が、アランがそうした時と同じ様に、その熱は冷気に吸い込まれてしまった。
「...君らしくないね、リーダー。」
カトレナに治癒を施されながら、クラドが言った。
傷はかなり深い。それにカトレナは治癒を得意としてはいない。溢れ出る血はようやく止まりつつあるものの、クラドの顔は真っ青だ。
「何だか、迷いながら戦っているようだった。相手は確かに強敵だったけど、普段の君なら敵ったはずだ。」
「...よく見てるな。」
「誰だってわかるさ。怒るかもしれないけど、君は結構感情が表に出やすいしね。」
その言葉にアランは鼻を鳴らした。
何年か前にも、同じような事を誰かに言われた記憶があった。
「...あいつは、西の大陸にいた時...少しだけ共に行動していた時期があった。」
三人共、アランを見た。
闇組織に属する者達は西の大陸出身者が多いとは言われているが、まさか知り合いとは。
が、今何か聞く気にはならなかった。そうさせないオーラをアランは醸し出していた。
「ゾーイを待とう。あいつなら、これを破れる。」
近付いてくるゾーイの気配を感じ取り、アランがとても疲れた声で言った。
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