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終章

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大変申し訳ありません。4話と5話逆でした。
本当に申し訳ありません。訂正致しましたので、4話からお読みお願い致します。感想で教えてくださった皆様、ありがとうございます(TT) お詫びの気持ちですが、最終話まで予約投稿解除致しました。




プリシラはシャーリーと別れると、元来た街道へと戻った。そして、先ほど見かけた新聞を配っていた若い男を見つけると、プリシラは彼に詰め寄った。

「ちょ、やめてくださいよ!」

男がプリシラを引き払う。だが、プリシラは気にも止めず、淡々と告げる。

「貴方、いくら?」
「……は?」

見知らぬ女の口から放たれた意味不明な言葉に、男の口から戸惑いの声が漏れた。

「今の10倍出すわ。だから、貴方、私に雇われなさい」
そう言って、プリシラは手首にかけてある腕輪を男に押し付ける。外国の商人から手に入れた、純金とダイアモンドから成る腕輪だ。これを売り払えば小さな屋敷なら余裕で一軒建てられるだろう。
プリシラの要求は理不尽であると自覚はしていたが、腕輪を見た男の目の色が変わった。

「も、もちろんです! お嬢様。……ですが、俺は一体何をしたら良いんですか?」

先ほどの無愛想な態度とは一変、男は見るからにプリシラに胡麻をすりはじめた。

「簡単なことよ。新しく新聞を刷って欲しいの。できる?」
「……そりゃあ、お安いご用ですけど、こんな時に何でまた?」

ボナパルトでは印刷技術が優れているため、紙媒体の情報源の刷新は早さが効く。
プリシラは男の疑問に、口の端を吊り上げて言った。

「それはこれからのお楽しみよ」


◇◇◇


「本当にこの内容でいいんですか?」
「もちろんよ」

新聞記者の男が冷や汗をかきながら、プリシラに尋ねる。

「何か問題が生じても、私が全ての責任を負うわ」
プリシラがこの言葉を述べると「本当にですか? 本当に?」と何度も確認され、漸く男は新聞を刷りに行った。

プリシラは男が作業に入ったのを確認すると、貧民街へと戻った。シャーリーもプリシラが頼んだ人を搔き集め終えたようで、プリシラの姿を見かけると、彼女に駆け寄った。

「シャーリー、お願いを聞いてくれてありがとう」
「お安い御用よ。……で、次は何をすればいいの?」

シャーリーが小首を傾げる。

「今から新聞を配りに行くのだけれど、それを手伝ってもらいたいの。いい?」
「ええ、もちろんよ」

プリシラはシャーリーと彼女に集めてもらった人たちを引きつれて、再び新聞記者の元へ戻った。記者の近くには、プリシラが頼んだ内容の新聞が大量に積み重なっている。

「これを街にいる人に配ってほしいの」
「いいぜ!」

ティムが新聞を奪うように掲げ、眺める。

「ま、俺達には字なんて読めないけどな!」

そう言って、彼はニカっと笑った。

(だからあなた達に頼むのよ……)
「……」


ロートリンゲンとボナパルトの新聞に混じって、新しい新聞を配布する。すると、人々は新聞の内容に目を通し、悲鳴を上げた。

「なんだこれは!」
「いったいどうなっているんだ!」
「この女のせいなのか!」

プリシラは民衆の反応を察すると早々に貧民街に引き上げた。

「ねえ、あの新聞には何が書かれていたの?」

シャーリーが民衆の阿鼻叫喚を見て、困惑した顔でプリシラに尋ねる。

「……シャーリー、貴女もう疲れたでしょう。ゆっくり休むといいわ」
プリシラは話を転換する。

「……でも」
「いいわね?」
「……分かったわ」

プリシラがシャーリーに詰め寄ると、彼女は渋々頷いた。心優しい彼女には、これ以上自分の都合に振り回す訳にも行かない。
シャーリーはプリシラを心配そうに振り返り、それからとぼとぼと貧民街に帰っていった。
 

「……行くわよ」

プリシラは貧民街に消えて行くシャーリーの後ろ姿を眺め、それからロザリーが待つメディチ家へと足を進めた。


◇◇◇


数日振りに帰って来たメディチ家は散々な有り様だった。屋敷中を民衆が取り囲み、窓は石を投げられたのか、割れた硝子があちこちに散乱している。

「……酷いわね」

プリシラが呟く。 
まあ、これも自分のせいなのだが。 
プリシラが屋敷の凄惨な光景に目を細めていると……

「やめなさいよ!!!」
「私を誰だと思っているんだ!!」

屋敷の中からピンクゴールドの髪の少女と金髪碧眼の男性……ロザリーとヨハネス、それからミレーヌとダグラス、ダミアンが民衆たちの手によって引きずり出されていた。
彼らを見つめる民衆たちは皆憎悪に瞳を染め、その顔は悪鬼のように醜く歪んでいた。

「……」

プリシラは、口の端がつり上がらないように注意しながら、できるだけ平静を保った。

「……お姉さま?」

地面に引きずられ、髪もドレスもぐちゃぐちゃになり、土埃にまみれたロザリーがプリシラに気づいた。
そして

「助けてください!」
悲鳴を上げた。 

ロザリーのプリシラを呼んだ「お姉さま」という声に、民衆から戸惑いの声が上がる。

「あの人がこの女の姉?」
「……けれど、あの人は俺たちに真実を伝えてくれたじゃないか」
「だが、姉というなら同罪じゃないか?」

民衆からプリシラに疑惑の目が向けられる。  
そしてプリシラは──




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