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貧民街編
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しおりを挟む今日はプリシラの17歳の誕生日パーティーだ。プリシラは張り切ったリリーの手によって、いつも以上に気合いの入った格好に仕立てられ、パーティーへと送り出された。
プリシラの誕生パーティーのため、会場には見知った顔の人しかおらず、心なしかいつもより気分が少し軽い。兄のエスコートを受け、招待客に挨拶していると、突如、プリシラに声が降りかかった。
「……プリシラ」
「ヨハネス」
呆然とした声で名前を呼ばれ、振り向けば、そこにはヨハネスが立っていた。兄の自分を掴む手が強まる。プリシラは兄に大丈夫と目配せをして近づいた。
「久し振りね」
会うのはヨハネスがテレジアに叱責されたとき以来だ。
あの日以来、彼の自分に対する態度が少しでも改善されることを期待していたが、今日のプリシラのエスコート相手を見れば、残念な結果に終わったことが分かる。
どんな顔をして彼は自分に会いに来たのだろう。
「ああ……」
ヨハネスはプリシラの言葉に頷き、それから沈黙した。
何か話したいことがあるのではなかったのか。プリシラは時間の無駄だと早々に見切りをつけ、会話を切り上げた。
「ごめんなさい、挨拶に回らなくちゃいけないの。それに……」
プリシラはヨハネスの後ろで自分を睨みつけるロザリーを一瞥して、それから彼に視線を戻した。
「じゃあ、また」
言わんとしたことは察してくれ、とプリシラはにこやかにヨハネスに別れの挨拶をした。
プリシラは兄の手を取り、来賓の挨拶回りを再開させようとしたが、「待てよ!」という声と共に、プリシラの腕が強く握られた。
「っ!」
「何をしているんだ!」
プリシラが声のない悲鳴を上げると、見かねた兄がヨハネスの腕を振りほどいた。
プリシラは思わずヨハネスを睨みつける。本当にこの男は何がしたいんだ!
プリシラが兄の背後に隠れると、何事かとぞろぞろと人が集まりだす。これではボナパルトとロートリンゲンのパーティーの時の二の舞だ。プリシラが頭を抱えそうになると、ヨハネスが舌打ちをした。
(何かされる!?)
プリシラはぎゅっと目を閉じる。
「……」
だが、何もされない。
プリシラが恐る恐る目を開けると、ヨハネスは踵を返し、ロザリーとともに立ち去る途中だった。
本当にヨハネスは何をしたかったのだろう……。
プリシラの気持ちとは裏腹に、パーティーは進んでいく。
プリシラとヨハネスの会合が、あの日の出来事を思い出させたのか、パーティーの話題はロートリンゲンの話題で持ちきりだ。現在、ロートリンゲン帝国では、皇子が行方不明で、かつ、国全域でも麻薬が蔓延しているらしい。
(麻薬といえば、リリーがお金を渡せば貧民街の子供たちは麻薬を買ってしまうかもしれないと言っていたわね……。この国でも流行りつつあるのかしら?)
と考えた。だが、逆行前の記憶では、ボナパルトで麻薬が流行することは無かったはず。とりあえず、安心して良さそうだ。
プリシラはなるべくヨハネスとロザリーに接近しないように気を張りながら、なんとか無事パーティーを終えた。
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