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序章

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「プリシラ・メディチ! 今この時を以て、お前との婚約を破棄させてもらう! 二年もの間、実の妹であるロザリーを虐げるとはどういう了見だ!」



「──は?」



王太子であり、プリシラの婚約者でもあるヨハネスのその一方的な宣言に、彼女は言葉を失った。

プリシラが彼の言葉に絶句したのは、その一方的な婚約破棄がヨハネスとプリシラの正式な婚約を知らせるパーティーで行われたことでも、婚約発表という神聖な場でプリシラの名前を呼び捨てにしたことでもない。

自分がという、全く身に覚えのないことを言われ、本気で戸惑っているのだ。



「惚とぼけるな! 」



ヨハネスが一喝する。



「貴様の家族が証人だ!」



ヨハネスの言葉に、プリシラはバッと家族が立つ方を振り返る。

父と母、そして兄の侮蔑と憎悪を含んだ視線を一身に浴び、プリシラは思わず息を飲んだ。

だが、



(──ロザリー!)



ロザリーは、彼女を庇うようにして立つ兄の後ろから不安そうにプリシラを眺めていた。



(ああ、大丈夫よ、ロザリー。そんなに心配した顔で見ないで。私は平気よ)



プリシラは、パーティー会場にいるほとんど全員から蔑むような視線を送られているというのに、唯一人、義妹ロザリーだけが彼女を心配してくれている。その事実に彼女は酷く安堵した。



「捕らえろ!」



ヨハネスの怒鳴声が会場に響いた。

プリシラを逃がさないよう、彼女の周囲を兵士たちか囲ったが、彼女は冤罪であると釈明することなく、無抵抗のまま兵士たちに捕まった。



(だって、私が無実だと叫んでも、誰も信用してくれないもの。それに……)



プリシラは内心でほの暗く笑う。

彼女は由緒正しき公爵令嬢であるというのに家ではメイドたちから酷い苛めを受け、家族はそれを見て見ぬふりをし、かつての友人たちは皆手の平を返しプリシラを嘲笑した。王太子ヨハネスの婚約者でなければとっくに社交界から追放されていただろう。だが、そんな時でも、ロザリーだけは彼女を庇ってくれたのだ。



(きっとロザリーが誤解を解いて、いつものように私を助けてくれるわ)



そんな確証があった。

プリシラは、自分の聞くに耐えない言葉と、冷ややかな視線に晒されながら、兵士たちによって牢獄へと誘われた。

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