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やっと出会えた優しい人
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私はアリス。
侯爵家の愛されない娘。
妾の子である私は、母を亡くすと父に顧みられることが無くなった。
「あの、お父様!私…」
「もうお前には用はない」
「……!」
悲しかった。
優しかった父はもうどこにもいない。
価値があったのは母だけで、父にとって私は要らない子だったのだ。
そして継母といえばいいのか、父の正妻には鞭打ちなどの虐待を受けた。
「泥棒猫の娘の分際で!このっ」
「痛いっ痛いっ…」
「うるさい!声を上げるな!」
「…っ」
彼女の理不尽な暴力に耐える日々は辛かった。
さらに腹違いの兄二人は、私を疎む。
「お前さえいなければ母は優しい人でいられたのに」
「お前さえいなければ」
「…ごめんなさい」
私だって好きでここにいるわけじゃない。
けれど頼る当ては他になかった。
そんな愛されない私に、婚約者ができた。
公爵家の長男のミカエル様。
彼は私に微笑んでくれた。
「はじめまして、お姫様。これからよろしくね」
「…っ、はい!よろしくお願いします!」
けれど彼は、呪われていた。
醜い豚のような醜悪な見た目になる呪い。
でも私にとってはそんなことはどうでもいい。
初めて私に微笑んでくれた人。
それだけで十分だった。
そして彼は、醜悪な見た目以外は完璧な人でもあった。
神童と呼ばれるほど優秀で、領民たちや使用人にも優しい。
彼の家族も彼を愛していた。
私も、こんな私に笑顔を向けてくれた彼を愛してしまった。
だから私は、彼のために命を使ってみようと思う。
「それでその、ミカエル様。もしよろしければ私の祝福をミカエル様に使ってもいいですか?」
「君の祝福を?どんな祝福なの?」
「サプライズしたいので秘密です。でも絶対にお役に立ちますから」
「…わかった、それならお願いするね」
我が国の国民は、十八歳になると神からそれぞれ祝福を授かる。
私の祝福は、魔を払う力。
けれど代償がある。
魔を払えば、その分だけ生命力を失う。
もちろん休めば回復して元気になるが、休む暇もないほどの生命力を失えば終わりだ。
魔を払う力は呪いにも効く。
私は、ミカエル様のために力を使った。
ミカエル様はたちまち人の姿になった。
それもとても美しい人になった。
彼は喜んだ。
彼の家族も喜んだ。
そんな彼らを見て私も喜んだ。
「アリス…君は僕の恩人だ!」
「アリスちゃん、息子を助けてくれてありがとう…!」
「ああ、これはお礼をしなくては!お礼はなにがいいだろうか」
「いえ…お役に立てて、よかった…です」
「…アリス?…アリス!!!」
そして私は意識を手放した。
目が覚めると、私は生きていて彼の部屋のベッドで寝かされていた。
彼が言うには、ギリギリ生命力が残っていた私に彼が祝福を使ったらしい。
彼の祝福は、生命力を人に分け与える力。
しかし代償として、身体にものすごい激痛が走るらしい。
そこまでして、彼は私を救ってくれたのだ。
「どうして祝福の代償を言わなかったの」
「言ったら使わせてもらえないと思って」
「…どうしてそこまで」
「母が亡くなってから…初めて、人に微笑みを向けてもらえたんです」
「え?」
彼はきょとんとする。
「妾であった母を亡くしてから、父は私を相手にしてくれなくなりました。継母からは鞭打ちなどの暴力を受けました。腹違いの兄たちからは憎まれました。母を亡くしてから…ミカエル様が初めて、私に優しくしてくれた」
「…!!!」
「恩返しがしたかったんです。お役に立ちたかった。でも、結果としてミカエル様に祝福を使わせて痛みを与えてしまった…ごめんなさい」
「…僕は、呪いが解けて本当に嬉しい。だからあの程度の痛みくらいなんともない。それよりも…君がそんな風に思い詰めてしまうほど、君を傷つけた人たちが今は憎いよ」
お優しいミカエル様の口から、憎いという言葉が出て驚いた。
「僕が…これからは僕が君を守る。だから、そんな風に自分を傷つける考え方はもうやめて?」
「ミカエル様…」
「とりあえず、今はゆっくりおやすみ」
そして私は、そのままミカエル様のところに結婚という形で引き取られた。
本来なら婚約段階で、正式な結婚はまだ先のはずだった。
けれどミカエル様とご両親がどうしてもと譲らず、結婚式もあげないまま書類だけ出して結婚した。
そしてミカエル様とご両親は、継母による私への長年の虐待を告発した。
結果母は牢に入れられることとなり、父と兄たちは貴族社会で信用を失った。
最終的に、家族の中で私だけが幸せになった。
「これでもう君を脅かすものはなにもないよ」
「ミカエル様…」
「自罰的な性格はこれから少しずつ変えていこうね」
「は、はい…」
ミカエル様にぎゅっと抱きしめられる。
「僕の天使。僕を救ってくれた君に、最大の愛と感謝を。今まで虐げられてきた分まで、僕が君を幸せにするから」
「…こんなに幸せでいいんでしょうか」
「もちろんだよ、世界で一番幸せにする」
そう言って私の頬にキスをするミカエル様。
もうすでに世界一幸せなのですが、幸せ過ぎてキャパオーバーになりそうな時にはどうしたらいいのでしょうか。
侯爵家の愛されない娘。
妾の子である私は、母を亡くすと父に顧みられることが無くなった。
「あの、お父様!私…」
「もうお前には用はない」
「……!」
悲しかった。
優しかった父はもうどこにもいない。
価値があったのは母だけで、父にとって私は要らない子だったのだ。
そして継母といえばいいのか、父の正妻には鞭打ちなどの虐待を受けた。
「泥棒猫の娘の分際で!このっ」
「痛いっ痛いっ…」
「うるさい!声を上げるな!」
「…っ」
彼女の理不尽な暴力に耐える日々は辛かった。
さらに腹違いの兄二人は、私を疎む。
「お前さえいなければ母は優しい人でいられたのに」
「お前さえいなければ」
「…ごめんなさい」
私だって好きでここにいるわけじゃない。
けれど頼る当ては他になかった。
そんな愛されない私に、婚約者ができた。
公爵家の長男のミカエル様。
彼は私に微笑んでくれた。
「はじめまして、お姫様。これからよろしくね」
「…っ、はい!よろしくお願いします!」
けれど彼は、呪われていた。
醜い豚のような醜悪な見た目になる呪い。
でも私にとってはそんなことはどうでもいい。
初めて私に微笑んでくれた人。
それだけで十分だった。
そして彼は、醜悪な見た目以外は完璧な人でもあった。
神童と呼ばれるほど優秀で、領民たちや使用人にも優しい。
彼の家族も彼を愛していた。
私も、こんな私に笑顔を向けてくれた彼を愛してしまった。
だから私は、彼のために命を使ってみようと思う。
「それでその、ミカエル様。もしよろしければ私の祝福をミカエル様に使ってもいいですか?」
「君の祝福を?どんな祝福なの?」
「サプライズしたいので秘密です。でも絶対にお役に立ちますから」
「…わかった、それならお願いするね」
我が国の国民は、十八歳になると神からそれぞれ祝福を授かる。
私の祝福は、魔を払う力。
けれど代償がある。
魔を払えば、その分だけ生命力を失う。
もちろん休めば回復して元気になるが、休む暇もないほどの生命力を失えば終わりだ。
魔を払う力は呪いにも効く。
私は、ミカエル様のために力を使った。
ミカエル様はたちまち人の姿になった。
それもとても美しい人になった。
彼は喜んだ。
彼の家族も喜んだ。
そんな彼らを見て私も喜んだ。
「アリス…君は僕の恩人だ!」
「アリスちゃん、息子を助けてくれてありがとう…!」
「ああ、これはお礼をしなくては!お礼はなにがいいだろうか」
「いえ…お役に立てて、よかった…です」
「…アリス?…アリス!!!」
そして私は意識を手放した。
目が覚めると、私は生きていて彼の部屋のベッドで寝かされていた。
彼が言うには、ギリギリ生命力が残っていた私に彼が祝福を使ったらしい。
彼の祝福は、生命力を人に分け与える力。
しかし代償として、身体にものすごい激痛が走るらしい。
そこまでして、彼は私を救ってくれたのだ。
「どうして祝福の代償を言わなかったの」
「言ったら使わせてもらえないと思って」
「…どうしてそこまで」
「母が亡くなってから…初めて、人に微笑みを向けてもらえたんです」
「え?」
彼はきょとんとする。
「妾であった母を亡くしてから、父は私を相手にしてくれなくなりました。継母からは鞭打ちなどの暴力を受けました。腹違いの兄たちからは憎まれました。母を亡くしてから…ミカエル様が初めて、私に優しくしてくれた」
「…!!!」
「恩返しがしたかったんです。お役に立ちたかった。でも、結果としてミカエル様に祝福を使わせて痛みを与えてしまった…ごめんなさい」
「…僕は、呪いが解けて本当に嬉しい。だからあの程度の痛みくらいなんともない。それよりも…君がそんな風に思い詰めてしまうほど、君を傷つけた人たちが今は憎いよ」
お優しいミカエル様の口から、憎いという言葉が出て驚いた。
「僕が…これからは僕が君を守る。だから、そんな風に自分を傷つける考え方はもうやめて?」
「ミカエル様…」
「とりあえず、今はゆっくりおやすみ」
そして私は、そのままミカエル様のところに結婚という形で引き取られた。
本来なら婚約段階で、正式な結婚はまだ先のはずだった。
けれどミカエル様とご両親がどうしてもと譲らず、結婚式もあげないまま書類だけ出して結婚した。
そしてミカエル様とご両親は、継母による私への長年の虐待を告発した。
結果母は牢に入れられることとなり、父と兄たちは貴族社会で信用を失った。
最終的に、家族の中で私だけが幸せになった。
「これでもう君を脅かすものはなにもないよ」
「ミカエル様…」
「自罰的な性格はこれから少しずつ変えていこうね」
「は、はい…」
ミカエル様にぎゅっと抱きしめられる。
「僕の天使。僕を救ってくれた君に、最大の愛と感謝を。今まで虐げられてきた分まで、僕が君を幸せにするから」
「…こんなに幸せでいいんでしょうか」
「もちろんだよ、世界で一番幸せにする」
そう言って私の頬にキスをするミカエル様。
もうすでに世界一幸せなのですが、幸せ過ぎてキャパオーバーになりそうな時にはどうしたらいいのでしょうか。
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