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大切な大切な幼馴染とやらと手と手を取り合えば?
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「ロザリア。今日のデートなのだが、またあの子を呼んでもいいだろうか?また父親が昼間から酒を飲んで暴れているらしい。使い魔を使って連絡があった」
「…もちろん構いませんよ」
「ありがとうロザリア!早速エミリアを迎えに行こう」
バカじゃないの、と心の中で呟く。この人は私の婚約者なのに、幼馴染でしかない女の子ばかりを優先するから。私の気持ちなんて一切考えていないんだろう。それで正義の味方気取りなんだから、本当に笑わせる。
「エミリアを迎えに来ました。エミリアと一緒に出掛けようと思います。いいですか?」
「まあ、ムジーク様!本当にありがとうございます!私ではあの人を止められなくて…エミリアだけでも、安全な貴方の側においてあげてください」
優しい母親のフリをした狡いおばさん。幼馴染、というのを武器に公爵令息である私の婚約者を略奪させたいのが見え見えだ。気持ち悪い。
「ムジーク様!助けに来てくださったのですね!」
「エミリア!怖かっただろう?もう大丈夫だ」
婚約者である私の目の前で、その胸に飛び込んで抱き着く計算高い女。気持ち悪いけど、心が決まった今では却って有り難い。
「こら、エミリア。婚約者のいるムジーク様に抱き着くなんていけません。婚約者様が見ているのですよ」
「あ、ごめんなさい、ロザリア様。いると思わなくて」
この女は喧嘩を売っているのだろうか?売っているな。お忘れかもしれないが、私は公爵令嬢であんたらはただの伯爵令嬢なんだけど。…まあ、これも証拠になるからどうでもいいか。
「じゃあ、行きましょうか。ムジーク様」
「ああ。エミリア、おいで」
「はい、ムジーク様」
気持ち悪い。何もかもが気持ち悪い。…けど、それも今日までだ。証拠は今、ここにある。私のかけている眼鏡の形をした魔道具。これには、映像や音楽を一日分記録することができる。ムジーク様が幼馴染ばかりを優先している証拠も、今日までで随分と溜まった。幼馴染がデートの度に邪魔をしてくるのも、婚約者の私の目の前でムジーク様に抱きついたり腕に絡みついたりとはしたない振る舞いをしてくるのも何度も何度も記録した。
私はムジーク様との最後のデートを、証拠の記録を残すことにのみ費やした。
「どうだった?ロザリア。証拠は固まったかな」
「はい、お義兄様。お義兄様の貸してくださった眼鏡のお陰です」
「ははは。…僕も、僕の婚約者に陰で浮気をされた時には流石に堪えたからね。目の前で見せつけられ続けたロザリアは、相当辛かっただろう?」
「うう…お義兄様ぁっ!!!」
「よしよし、よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」
お義兄様は、我が公爵家に養子に入った遠縁の親戚。お父様とお母様は愛人も作らないほどラブラブなのだけど、子供は私しか恵まれなかった。そのため家を継げる優秀な親戚の子を確保する必要があって、それがお義兄様だった。でも、私達兄妹はお互い婚約者に恵まれなかったらしい。とても辛い。
「僕も辛かったけどね、相手の侯爵令嬢とその浮気相手からは慰謝料を分捕ってやったし、今では却ってすっきりしているんだよ。ロザリアも、その内楽になる日が来るからね」
「はい、お義兄様」
ぐずぐずとお義兄様に泣きつきながら、ムジーク様への想いを少しずつ捨てていく。政略結婚のための、最初から親に決められた婚約だったけど。確かに、愛していたのに。年頃になった頃から、あの子の邪魔が入るようになって。悲しいより、ただただ悔しい。ああ、そうだ。私は悔しいのだ。…絶対に、後悔させてやる。
私はあの後、証拠の記録を両親に全部見せた。
「政略結婚とはいえ娘を不幸にさせる気はない!!!」
「ロザリア!ここまでコケにされたのだから貴族裁判を起こすわよ!」
「お父様、お母様、ありがとう!」
「今まで我慢させて、ごめんな。ロザリアは私達の宝物なのだから、幸せになっておくれ」
「お父様…!」
そして裁判が始まった。結果はもちろん勝訴。裁判官すら証拠の山とその内容に呆れ果てていた。
「お義兄様!私達の婚約が無事破棄されたわ!慰謝料その他諸々をムジーク様とエミリア様から分捕ったわよ!」
「あはは!よくやったね、ロザリア!公爵家の人間のムジーク殿は経済的にはそこまで痛手はないかもしれないが、伯爵令嬢でしかないエミリアとかいう女は家が傾くだろうね」
「しかも今回の件はもう広まっているから、二人とも婚約者探しにも難航するわね!いっそ本当に二人とも結婚しちゃうのかしら?だとしても上手くいかないわよね!貴族社会で爪弾きにされるもの!」
「さらに言えば、そもそも貴族裁判を起こされた側というのはそれだけで貴族社会で陰口を叩かれるものだ。だからこそ敗訴した場合逆に名誉毀損で裁判を起こされたりとか色々面倒なのだが、今回は完全な勝訴だからね!ざまぁみろだ!!!」
お義兄様と手を取り合ってぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。勝った!勝ったわ!私は勝ったのよ!!!
でも、少しすると勝訴の喜びを押し潰すほどの虚しさが襲ってきた。ムジーク様のことは本当に好きだった。二人の幸せな結婚を夢見てた。…今更だけど、やっぱり虚しい。
それでも、多額のお金が私名義で一括で入ったのだもの。これを元手に何か商売を始めてみるのもいいのかも?金持ちの道楽というやつね。気が紛れるかも。
「ねえ、お義兄様。私、しばらく恋愛はいいわ」
「そうだね。義父上と義母上は浮気された僕に猶予期間を与えて、その間好きな人が出来れば婚約してもいいと言ってくれてる。ロザリアにもおそらくそうしてくれるんじゃないかな」
「なら私、その間商売をしようと思うの!」
「いいね。なら僕もお手伝いしてもいいかい?浮気された時分捕った慰謝料から出資もしてあげようか」
「ならいっそ二人でやりましょうよ!きっと楽しいわ!」
こうして私は、虚しさから目を背けるためにお義兄様と商売を始めることにした。
あれから半年が経った。私とお義兄様は、相談して貴族向けのレストランを始めてみた。外国に修行しに行って何年も経つシェフたちに声を掛けて呼び戻し、レストランで働いて貰ったらこれが大成功した。もちろんシェフやその他スタッフだけでなくレストラン自体にもお金をかけ、立地も建物も最高のものを用意したけど、結局は味が最高なのがウケたらしい。
「大成功ね!お義兄様!」
「そうだね。大分初期投資が掛かったけれど、まさかこんなに早く取り戻せるとは思わなかったよ。どうせ泡銭だし、なんならロザリアの気持ちが晴れれば大損してもいいかななんて思っていたのだけど」
「お義兄様…大好き!」
「僕も大好きだよ、ロザリア」
ムジーク様とエミリア様は結局、傷を舐め合うように結婚したけれど貴族社会では爪弾きにされている。エミリア様のご実家は傾きかけたけれど、ムジーク様の個人資産からの融資でなんとかなったらしいがやはりヒソヒソされて辛い思いをしているらしい。ムジーク様の家も、爵位はそのままだけれど信用は無くなった。取り戻せるまで時間はかかるだろう。
「なんだかんだで、これでよかったと思えるようになったわ!全部お義兄様のおかげよ!」
「僕が元婚約者の浮気で苦しんでいる時、一番に僕の様子の変化に気付いて理由も知らないまま元気付けようとしてくれたのはロザリアだからね。そんなロザリアに感謝しているし、可愛い妹がもっと可愛くなったもの。これくらい当然さ」
ちなみにお義兄様の元婚約者と浮気相手の末路も同じ感じらしい。ざまぁ。
「それでね、あの、お義兄様…」
「うん?」
「お義兄様は遠縁の親戚で、血が繋がっているとはいえ、結婚しようと思えば出来るでしょう?」
「ああ、待って。その先は僕に言わせておくれ」
お義兄様…レオン様が、私の前に跪く。
「ロザリア、君と結婚したい。二人で幸せになろう」
「…はい!」
血の繋がりは薄いとはいえ、義兄妹として育った私達だけど。共に元気付け合う中で、愛を育んでしまった。一応、血縁関係は離れているし問題はないんだけど…報告の際の両親の反応は怖いな、なんて思っていたのだけど。
「あら、やっと進展したのね。おめでとう」
「よし、早速発表しよう。式を挙げる日が楽しみだな」
意外と肯定的な両親に祝福されて、安心するやら照れるやら。挙式に向けて準備をゆっくり進めている今が、もしかしたら人生で一番幸せなのかも、なんて思ったりしている。
「…もちろん構いませんよ」
「ありがとうロザリア!早速エミリアを迎えに行こう」
バカじゃないの、と心の中で呟く。この人は私の婚約者なのに、幼馴染でしかない女の子ばかりを優先するから。私の気持ちなんて一切考えていないんだろう。それで正義の味方気取りなんだから、本当に笑わせる。
「エミリアを迎えに来ました。エミリアと一緒に出掛けようと思います。いいですか?」
「まあ、ムジーク様!本当にありがとうございます!私ではあの人を止められなくて…エミリアだけでも、安全な貴方の側においてあげてください」
優しい母親のフリをした狡いおばさん。幼馴染、というのを武器に公爵令息である私の婚約者を略奪させたいのが見え見えだ。気持ち悪い。
「ムジーク様!助けに来てくださったのですね!」
「エミリア!怖かっただろう?もう大丈夫だ」
婚約者である私の目の前で、その胸に飛び込んで抱き着く計算高い女。気持ち悪いけど、心が決まった今では却って有り難い。
「こら、エミリア。婚約者のいるムジーク様に抱き着くなんていけません。婚約者様が見ているのですよ」
「あ、ごめんなさい、ロザリア様。いると思わなくて」
この女は喧嘩を売っているのだろうか?売っているな。お忘れかもしれないが、私は公爵令嬢であんたらはただの伯爵令嬢なんだけど。…まあ、これも証拠になるからどうでもいいか。
「じゃあ、行きましょうか。ムジーク様」
「ああ。エミリア、おいで」
「はい、ムジーク様」
気持ち悪い。何もかもが気持ち悪い。…けど、それも今日までだ。証拠は今、ここにある。私のかけている眼鏡の形をした魔道具。これには、映像や音楽を一日分記録することができる。ムジーク様が幼馴染ばかりを優先している証拠も、今日までで随分と溜まった。幼馴染がデートの度に邪魔をしてくるのも、婚約者の私の目の前でムジーク様に抱きついたり腕に絡みついたりとはしたない振る舞いをしてくるのも何度も何度も記録した。
私はムジーク様との最後のデートを、証拠の記録を残すことにのみ費やした。
「どうだった?ロザリア。証拠は固まったかな」
「はい、お義兄様。お義兄様の貸してくださった眼鏡のお陰です」
「ははは。…僕も、僕の婚約者に陰で浮気をされた時には流石に堪えたからね。目の前で見せつけられ続けたロザリアは、相当辛かっただろう?」
「うう…お義兄様ぁっ!!!」
「よしよし、よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」
お義兄様は、我が公爵家に養子に入った遠縁の親戚。お父様とお母様は愛人も作らないほどラブラブなのだけど、子供は私しか恵まれなかった。そのため家を継げる優秀な親戚の子を確保する必要があって、それがお義兄様だった。でも、私達兄妹はお互い婚約者に恵まれなかったらしい。とても辛い。
「僕も辛かったけどね、相手の侯爵令嬢とその浮気相手からは慰謝料を分捕ってやったし、今では却ってすっきりしているんだよ。ロザリアも、その内楽になる日が来るからね」
「はい、お義兄様」
ぐずぐずとお義兄様に泣きつきながら、ムジーク様への想いを少しずつ捨てていく。政略結婚のための、最初から親に決められた婚約だったけど。確かに、愛していたのに。年頃になった頃から、あの子の邪魔が入るようになって。悲しいより、ただただ悔しい。ああ、そうだ。私は悔しいのだ。…絶対に、後悔させてやる。
私はあの後、証拠の記録を両親に全部見せた。
「政略結婚とはいえ娘を不幸にさせる気はない!!!」
「ロザリア!ここまでコケにされたのだから貴族裁判を起こすわよ!」
「お父様、お母様、ありがとう!」
「今まで我慢させて、ごめんな。ロザリアは私達の宝物なのだから、幸せになっておくれ」
「お父様…!」
そして裁判が始まった。結果はもちろん勝訴。裁判官すら証拠の山とその内容に呆れ果てていた。
「お義兄様!私達の婚約が無事破棄されたわ!慰謝料その他諸々をムジーク様とエミリア様から分捕ったわよ!」
「あはは!よくやったね、ロザリア!公爵家の人間のムジーク殿は経済的にはそこまで痛手はないかもしれないが、伯爵令嬢でしかないエミリアとかいう女は家が傾くだろうね」
「しかも今回の件はもう広まっているから、二人とも婚約者探しにも難航するわね!いっそ本当に二人とも結婚しちゃうのかしら?だとしても上手くいかないわよね!貴族社会で爪弾きにされるもの!」
「さらに言えば、そもそも貴族裁判を起こされた側というのはそれだけで貴族社会で陰口を叩かれるものだ。だからこそ敗訴した場合逆に名誉毀損で裁判を起こされたりとか色々面倒なのだが、今回は完全な勝訴だからね!ざまぁみろだ!!!」
お義兄様と手を取り合ってぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。勝った!勝ったわ!私は勝ったのよ!!!
でも、少しすると勝訴の喜びを押し潰すほどの虚しさが襲ってきた。ムジーク様のことは本当に好きだった。二人の幸せな結婚を夢見てた。…今更だけど、やっぱり虚しい。
それでも、多額のお金が私名義で一括で入ったのだもの。これを元手に何か商売を始めてみるのもいいのかも?金持ちの道楽というやつね。気が紛れるかも。
「ねえ、お義兄様。私、しばらく恋愛はいいわ」
「そうだね。義父上と義母上は浮気された僕に猶予期間を与えて、その間好きな人が出来れば婚約してもいいと言ってくれてる。ロザリアにもおそらくそうしてくれるんじゃないかな」
「なら私、その間商売をしようと思うの!」
「いいね。なら僕もお手伝いしてもいいかい?浮気された時分捕った慰謝料から出資もしてあげようか」
「ならいっそ二人でやりましょうよ!きっと楽しいわ!」
こうして私は、虚しさから目を背けるためにお義兄様と商売を始めることにした。
あれから半年が経った。私とお義兄様は、相談して貴族向けのレストランを始めてみた。外国に修行しに行って何年も経つシェフたちに声を掛けて呼び戻し、レストランで働いて貰ったらこれが大成功した。もちろんシェフやその他スタッフだけでなくレストラン自体にもお金をかけ、立地も建物も最高のものを用意したけど、結局は味が最高なのがウケたらしい。
「大成功ね!お義兄様!」
「そうだね。大分初期投資が掛かったけれど、まさかこんなに早く取り戻せるとは思わなかったよ。どうせ泡銭だし、なんならロザリアの気持ちが晴れれば大損してもいいかななんて思っていたのだけど」
「お義兄様…大好き!」
「僕も大好きだよ、ロザリア」
ムジーク様とエミリア様は結局、傷を舐め合うように結婚したけれど貴族社会では爪弾きにされている。エミリア様のご実家は傾きかけたけれど、ムジーク様の個人資産からの融資でなんとかなったらしいがやはりヒソヒソされて辛い思いをしているらしい。ムジーク様の家も、爵位はそのままだけれど信用は無くなった。取り戻せるまで時間はかかるだろう。
「なんだかんだで、これでよかったと思えるようになったわ!全部お義兄様のおかげよ!」
「僕が元婚約者の浮気で苦しんでいる時、一番に僕の様子の変化に気付いて理由も知らないまま元気付けようとしてくれたのはロザリアだからね。そんなロザリアに感謝しているし、可愛い妹がもっと可愛くなったもの。これくらい当然さ」
ちなみにお義兄様の元婚約者と浮気相手の末路も同じ感じらしい。ざまぁ。
「それでね、あの、お義兄様…」
「うん?」
「お義兄様は遠縁の親戚で、血が繋がっているとはいえ、結婚しようと思えば出来るでしょう?」
「ああ、待って。その先は僕に言わせておくれ」
お義兄様…レオン様が、私の前に跪く。
「ロザリア、君と結婚したい。二人で幸せになろう」
「…はい!」
血の繋がりは薄いとはいえ、義兄妹として育った私達だけど。共に元気付け合う中で、愛を育んでしまった。一応、血縁関係は離れているし問題はないんだけど…報告の際の両親の反応は怖いな、なんて思っていたのだけど。
「あら、やっと進展したのね。おめでとう」
「よし、早速発表しよう。式を挙げる日が楽しみだな」
意外と肯定的な両親に祝福されて、安心するやら照れるやら。挙式に向けて準備をゆっくり進めている今が、もしかしたら人生で一番幸せなのかも、なんて思ったりしている。
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