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実は実際裏切られてたお話
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パンッ…と音が響く。
私が婚約者に頬を打たれた音。
彼は言う。
「君の嫉妬深さには本当に呆れました。久しぶりに会った親しい従姉と遊びに行っただけで、どうして浮気を疑われなければならないのです?」
「フラン様、私は…」
「しばらく放っておいてください。君の顔はもう見たくない」
冷たく吐き捨てる彼に何も言えなくて、頭を下げてその場を後にした。
「お嬢様、あの」
屋敷に戻ってすぐ、部屋に閉じこもって泣く。
泣いている理由はフラン様に嫌われたからとか、フラン様に打たれたからではない。
自分の嫉妬深さに嫌気がさしたからだ。
「アン、私どうしてこんなに嫉妬深いんだろう…もう自分が嫌…」
「お嬢様…不敬をお許しください」
私の乳姉妹で侍女のアンは、ベッドに蹲っていた私を起こして抱きしめる。
「アン…?」
「私は長らくお嬢様と共にいました。だから、お嬢様のことは誰よりも…あの男よりもわかっているつもりです」
トントンと背中を叩いてもらって、なんだか安心する。
「…お嬢様は、愛が深い方です。誰にでも…使用人達や、領民達、ご両親やお友達、そしてあの男。みんなに優しくて、愛を惜しみなく注ぐ方。だからこそ、私たちはみんなお嬢様を心から愛しています。あの男以外は」
「…えっと、フラン様は悪くないのよ?」
「いえ、あの男も大概です。いくらなんでも女性…それもか弱いお嬢様に手を出すとはなんたる蛮行」
「私がやらかしたから怒られたのだから、そう怒らないで」
アンを宥めるが、アンはフラン様をあんまり好きじゃないみたいだ。
「ともかく。お嬢様はとても愛が深い。普段穏やかで優しいお嬢様が嫉妬にかられるのは、あの男を本気で愛しているからなのでしょう?」
「そのつもり、だけど…盲目的すぎるということかしら?」
「ええ。愛が深いお嬢様だからこそ、愛に囚われてしまったのだと思います。ですから、あえて!」
「あえて?」
「あの男との接触を断つというのはどうでしょうか?」
…たしかに、冷静になる時間は必要だと思う。
フラン様にも放っておいてと言われたし。
「わかった…しばらく私の方からフラン様に連絡したり、プレゼントを贈ったり、会いに行ったりはしない」
「ええ、それがいいでしょう。むしろあちらから接触されても断った方が良いでしょう」
「そ、そこまで?」
「そこまでです。お嬢様は一度冷静になるべきですから」
最近の私はたしかに酷かったから、その方がいいか。
「じゃあ、そうするわ」
「ご立派です、お嬢様」
「でも、フラン様につきまとっていた時間が暇になるわね」
「お嬢様の好きなようにお過ごしください」
「そうよね、じゃあ…久しぶりに養老院や孤児院への慰問と、スラム街での炊き出しのボランティアに参加しようかしら。あとは街の清掃のボランティアとか…うん、やりたいことがいっぱいかも!」
そして、私はフラン様との接触を断つことにした。
フラン様との接触を断つことに決めてから、半年。
本気で一切フラン様に接触をしなかった。
そして、その分の時間をボランティア活動などに充てて精力的に活動した。
結果、慈愛の女神なんて呼ばれるようになってしまった。
元々領内での評判は良かった私だけれど、ここに来て評判がうなぎ登りになったのだ。
「なんだかすっかり人気者になってしまったわ」
「お嬢様は元々人気者ですよ」
「ふふ、そうかもね。でも、おかげでお父様やお母様に自慢の娘と呼ばれて嬉しいわ」
「当主様も奥様も、以前からずっとお嬢様と坊ちゃんのことを自慢しまくってましたけどね」
「やだ、恥ずかしいわ。でも、そう。弟もボランティア活動に参加する私を見て、僕も頑張って立派な侯爵になる!なんて張り切ってくれて…本当に立派になったわ」
「お嬢様の人徳ですね」
フラン様に夢中になって、嫉妬してばかりの毎日だった。
けれどそこから目をそらしたら、私は恵まれていることを改めて認識できた。
今ならフラン様と和解できるかもしれない。
でも、もしフラン様と仲直り出来なかったら?
もし、またフラン様に夢中になって嫉妬ばかりの毎日に戻ったら。
「…私、フラン様と離れたらすごく満たされた毎日になったわ」
「はい、お嬢様」
「だからこそフラン様と今なら向き合えるかもしれない。でも、フラン様と会うのが…なんだか怖くなってしまったわ」
「お嬢様…」
アンが私の手を握りしめる。
「大丈夫です、お嬢様。あの男、やはりお嬢様には相応しくなかったようですから」
「え?」
「お嬢様からの干渉がなくなった頃からあの男、怪しい動きをしていたようです。そして調べたら…複数の女性と、ふしだらな関係になっていました」
「…!?」
「お嬢様との婚約は破棄されました。もちろんあちらの有責で。お伝えするのが遅くなり申し訳ございません」
軽くパニックになるが、とりあえず頭を下げるアンを慰める。
「いえ、いいのよ。でも、そんなことになっていたの…」
「はい。慰謝料は近々お嬢様に振り込まれますので、ぱあっとお使いください」
「じゃあ、孤児院や養老院に配って…あと、教会にも寄付して炊き出しの回数も増やせるようにしようかしら」
「…お嬢様は本当に優しい方ですね」
「でも、私との接触を断ってからだなんて…やはりフラン様に無理を強いていたのね、私。フラン様はきっと、ストレスからそんなことをしたのだわ」
反省しなければと言うと、アンは首を振った。
「いえ、そんなことはありませんお嬢様。あの男は元々、お嬢様の前で他の女性を褒めたりしていたではありませんか。婚約者の目の前で女性を口説く、元々そういう男だったのです」
「そうだったかしら…?そうだったかも…」
「お嬢様は恋に盲目状態でしたから、仕方がありません。ですが、冷静になると見えてくるものもございますでしょう?」
「…そうね。私は私で嫉妬深さは反省だけれど…ちょっと盲目すぎたかも。彼は今は?」
「お嬢様との婚約破棄を理由に勘当されたそうです。そしてスラム街にいたところ、男好きなマダムに引き取られたとかなんとか」
なんともすごい展開にびっくりする。
でも男好きなマダムに引き取られたならまだマシだろう。
彼は見た目がとても良いから、大切にされるはずだ。
「そう…彼の実家は?」
「あの家はお嬢様への慰謝料の支払いで多少厳しいそうですが、まだ大丈夫みたいですよ。後継も、あの男の弟がいますから問題ないみたいです」
「なら良かった」
彼の実家も大事にはならなくてほっとした。
「私の婚約はどうなるのかしら?」
「それが…」
「どうしたの?」
「その、王弟殿下が…ぜひお嬢様が欲しいと」
「!??」
王弟殿下。
最近即位した国王陛下の弟で、私とは同い年の彼。
親戚ということもあり、昔はよく一緒に遊んだものだが…最近はあまり会えていなかったのに。
覚えていてくれたのは嬉しいけれど。
「でもどうして私なのかしら」
「お嬢様が好きだからだそうですよ」
「…え?」
「だからこの歳まで駄々を捏ねてまで婚約をせずフリーでいたそうです」
「ええええええ…?」
なんてことだろう、全然気付かなかった。
「まあ、お嬢様に懸想していたことは誰も気付いていませんでしたから…」
「そ、そう…」
「で、お受けしますか?」
「…」
どうしようか迷ったものの、迷った時点で答えは決まっていた。
「御機嫌よう、王弟殿下」
「御機嫌よう。婚約、受けてくれて嬉しいよ」
「ふふ、王弟殿下なら良いと思いまして」
「なら良かった。俺は君じゃなきゃダメだったからな」
「まあ」
王弟殿下の直球な言葉に嬉しくなる。
「あの男もバカだな。遊びたい盛りなのはわかるが、君を手放すなんて有り得ない」
「そうかしら」
「君は最高の女性だからな」
「買いかぶりすぎですわ」
「そんなことはない」
王弟殿下は跪き、私の手を取って口付けた。
「君を一生守る」
「あらあら…ふふ、ええ。私だけの騎士様、どうかこれから、末永くよろしくお願いしますわ」
「もちろんだ」
人生何がどう転ぶか、わからないものね。
私が婚約者に頬を打たれた音。
彼は言う。
「君の嫉妬深さには本当に呆れました。久しぶりに会った親しい従姉と遊びに行っただけで、どうして浮気を疑われなければならないのです?」
「フラン様、私は…」
「しばらく放っておいてください。君の顔はもう見たくない」
冷たく吐き捨てる彼に何も言えなくて、頭を下げてその場を後にした。
「お嬢様、あの」
屋敷に戻ってすぐ、部屋に閉じこもって泣く。
泣いている理由はフラン様に嫌われたからとか、フラン様に打たれたからではない。
自分の嫉妬深さに嫌気がさしたからだ。
「アン、私どうしてこんなに嫉妬深いんだろう…もう自分が嫌…」
「お嬢様…不敬をお許しください」
私の乳姉妹で侍女のアンは、ベッドに蹲っていた私を起こして抱きしめる。
「アン…?」
「私は長らくお嬢様と共にいました。だから、お嬢様のことは誰よりも…あの男よりもわかっているつもりです」
トントンと背中を叩いてもらって、なんだか安心する。
「…お嬢様は、愛が深い方です。誰にでも…使用人達や、領民達、ご両親やお友達、そしてあの男。みんなに優しくて、愛を惜しみなく注ぐ方。だからこそ、私たちはみんなお嬢様を心から愛しています。あの男以外は」
「…えっと、フラン様は悪くないのよ?」
「いえ、あの男も大概です。いくらなんでも女性…それもか弱いお嬢様に手を出すとはなんたる蛮行」
「私がやらかしたから怒られたのだから、そう怒らないで」
アンを宥めるが、アンはフラン様をあんまり好きじゃないみたいだ。
「ともかく。お嬢様はとても愛が深い。普段穏やかで優しいお嬢様が嫉妬にかられるのは、あの男を本気で愛しているからなのでしょう?」
「そのつもり、だけど…盲目的すぎるということかしら?」
「ええ。愛が深いお嬢様だからこそ、愛に囚われてしまったのだと思います。ですから、あえて!」
「あえて?」
「あの男との接触を断つというのはどうでしょうか?」
…たしかに、冷静になる時間は必要だと思う。
フラン様にも放っておいてと言われたし。
「わかった…しばらく私の方からフラン様に連絡したり、プレゼントを贈ったり、会いに行ったりはしない」
「ええ、それがいいでしょう。むしろあちらから接触されても断った方が良いでしょう」
「そ、そこまで?」
「そこまでです。お嬢様は一度冷静になるべきですから」
最近の私はたしかに酷かったから、その方がいいか。
「じゃあ、そうするわ」
「ご立派です、お嬢様」
「でも、フラン様につきまとっていた時間が暇になるわね」
「お嬢様の好きなようにお過ごしください」
「そうよね、じゃあ…久しぶりに養老院や孤児院への慰問と、スラム街での炊き出しのボランティアに参加しようかしら。あとは街の清掃のボランティアとか…うん、やりたいことがいっぱいかも!」
そして、私はフラン様との接触を断つことにした。
フラン様との接触を断つことに決めてから、半年。
本気で一切フラン様に接触をしなかった。
そして、その分の時間をボランティア活動などに充てて精力的に活動した。
結果、慈愛の女神なんて呼ばれるようになってしまった。
元々領内での評判は良かった私だけれど、ここに来て評判がうなぎ登りになったのだ。
「なんだかすっかり人気者になってしまったわ」
「お嬢様は元々人気者ですよ」
「ふふ、そうかもね。でも、おかげでお父様やお母様に自慢の娘と呼ばれて嬉しいわ」
「当主様も奥様も、以前からずっとお嬢様と坊ちゃんのことを自慢しまくってましたけどね」
「やだ、恥ずかしいわ。でも、そう。弟もボランティア活動に参加する私を見て、僕も頑張って立派な侯爵になる!なんて張り切ってくれて…本当に立派になったわ」
「お嬢様の人徳ですね」
フラン様に夢中になって、嫉妬してばかりの毎日だった。
けれどそこから目をそらしたら、私は恵まれていることを改めて認識できた。
今ならフラン様と和解できるかもしれない。
でも、もしフラン様と仲直り出来なかったら?
もし、またフラン様に夢中になって嫉妬ばかりの毎日に戻ったら。
「…私、フラン様と離れたらすごく満たされた毎日になったわ」
「はい、お嬢様」
「だからこそフラン様と今なら向き合えるかもしれない。でも、フラン様と会うのが…なんだか怖くなってしまったわ」
「お嬢様…」
アンが私の手を握りしめる。
「大丈夫です、お嬢様。あの男、やはりお嬢様には相応しくなかったようですから」
「え?」
「お嬢様からの干渉がなくなった頃からあの男、怪しい動きをしていたようです。そして調べたら…複数の女性と、ふしだらな関係になっていました」
「…!?」
「お嬢様との婚約は破棄されました。もちろんあちらの有責で。お伝えするのが遅くなり申し訳ございません」
軽くパニックになるが、とりあえず頭を下げるアンを慰める。
「いえ、いいのよ。でも、そんなことになっていたの…」
「はい。慰謝料は近々お嬢様に振り込まれますので、ぱあっとお使いください」
「じゃあ、孤児院や養老院に配って…あと、教会にも寄付して炊き出しの回数も増やせるようにしようかしら」
「…お嬢様は本当に優しい方ですね」
「でも、私との接触を断ってからだなんて…やはりフラン様に無理を強いていたのね、私。フラン様はきっと、ストレスからそんなことをしたのだわ」
反省しなければと言うと、アンは首を振った。
「いえ、そんなことはありませんお嬢様。あの男は元々、お嬢様の前で他の女性を褒めたりしていたではありませんか。婚約者の目の前で女性を口説く、元々そういう男だったのです」
「そうだったかしら…?そうだったかも…」
「お嬢様は恋に盲目状態でしたから、仕方がありません。ですが、冷静になると見えてくるものもございますでしょう?」
「…そうね。私は私で嫉妬深さは反省だけれど…ちょっと盲目すぎたかも。彼は今は?」
「お嬢様との婚約破棄を理由に勘当されたそうです。そしてスラム街にいたところ、男好きなマダムに引き取られたとかなんとか」
なんともすごい展開にびっくりする。
でも男好きなマダムに引き取られたならまだマシだろう。
彼は見た目がとても良いから、大切にされるはずだ。
「そう…彼の実家は?」
「あの家はお嬢様への慰謝料の支払いで多少厳しいそうですが、まだ大丈夫みたいですよ。後継も、あの男の弟がいますから問題ないみたいです」
「なら良かった」
彼の実家も大事にはならなくてほっとした。
「私の婚約はどうなるのかしら?」
「それが…」
「どうしたの?」
「その、王弟殿下が…ぜひお嬢様が欲しいと」
「!??」
王弟殿下。
最近即位した国王陛下の弟で、私とは同い年の彼。
親戚ということもあり、昔はよく一緒に遊んだものだが…最近はあまり会えていなかったのに。
覚えていてくれたのは嬉しいけれど。
「でもどうして私なのかしら」
「お嬢様が好きだからだそうですよ」
「…え?」
「だからこの歳まで駄々を捏ねてまで婚約をせずフリーでいたそうです」
「ええええええ…?」
なんてことだろう、全然気付かなかった。
「まあ、お嬢様に懸想していたことは誰も気付いていませんでしたから…」
「そ、そう…」
「で、お受けしますか?」
「…」
どうしようか迷ったものの、迷った時点で答えは決まっていた。
「御機嫌よう、王弟殿下」
「御機嫌よう。婚約、受けてくれて嬉しいよ」
「ふふ、王弟殿下なら良いと思いまして」
「なら良かった。俺は君じゃなきゃダメだったからな」
「まあ」
王弟殿下の直球な言葉に嬉しくなる。
「あの男もバカだな。遊びたい盛りなのはわかるが、君を手放すなんて有り得ない」
「そうかしら」
「君は最高の女性だからな」
「買いかぶりすぎですわ」
「そんなことはない」
王弟殿下は跪き、私の手を取って口付けた。
「君を一生守る」
「あらあら…ふふ、ええ。私だけの騎士様、どうかこれから、末永くよろしくお願いしますわ」
「もちろんだ」
人生何がどう転ぶか、わからないものね。
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