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聖女はなんということをしてくれたのか
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聖王である私の元へ、神託が降った。聖女が妖獣とその花嫁に喧嘩を売りに行った故、大ごとになる前に止めよとの神託だ。聖女が馬車を出して田舎村へ向かったのが一時間前のことだという。
聖女はなんということをしようとしているのか。あの気位だけが高い女は一体何を考えているのだろう。
あの田舎村が一番恩恵を受けているから他の地域への恩恵を感じるものは少ないが、そもそも妖獣がなくては我が国はすぐに干からびてしまうというのに。
とにかく妖獣の元へ行かねば。聖女は妖獣の存在を知る国のトップ層に向けての見せしめとして厳しく処罰しよう。
妖獣の代わりはいないが、聖女の代わりはいくらでもいる。また次の代の聖女を任命するだけだ。聖女なんてものはただの魔力の多い女でしかなく、我が神聖教の理想の偶像でしかないのだから。ましてあの聖女は聖都を離れず理想の偶像の役割すら果たしていなかった。却って消えてくれる方が助かる。
「…はぁ、はぁ」
村に着いたのち、聖王たる私自ら急いで山を登り妖獣の元まで来た。
妖獣の家の玄関を叩くと、妖獣がドアを開けてくれた。
初めてみたが、男の私から見てもなんとも美しい…この世のものとも思えない妖獣。
こんな男が罪人たちを餌にしているなど、信じられないが…。
「誰?」
不機嫌丸出しの妖獣に、ああ手遅れだったと悟る。聖女が喧嘩を売ったあとらしい。
「も、申し訳ない。私は神聖教の聖王だ。うちの聖女が失礼を働いたようで、この度はすまなかった。聖女を回収して罰を与えようと思っているのだが」
「ああ、あれを回収してくれるの。お願い。あ、でもその前にいくつか質問」
「な、なんだ?」
「おれを不要だというのは教会の総意?リーシュ…おれの花嫁を侮り貶める発言も教会の総意なのかな」
「…!!!」
あの聖女、なんということをしてくれたのだ!
「滅相も無い!妖獣…貴方はこの国に必要不可欠!花嫁殿もまた、必要な存在だと我々は弁えている!聖女ひとりの暴走だ!」
「そう…わかった。教会はおれの花嫁を尊重するということでいいんだね?」
「もちろんだ!」
「ならば教会はおれの敵ではないのか。よかった。ならあの女、さっさと回収していってよ」
妖獣の指差す方向に向かう。
すると衝撃的な光景が広がっていた。
あの美しいだけが取り柄の聖女が、顔に大きく傷を作っていた。
あの気位の高い聖女が、床に這い蹲りなにかを舐めとっていた。
「…ああ、それ。その女がヒトの家で粗相をしたから、自分で片付けろって言ったんだ。でももういいから持って帰って」
「わ、わかった…聖女よ…」
「…聖王、猊下?」
虚ろな目でこちらを見る。
一体なにがあったのか、知りたくもない。
「帰るぞ」
「あ、よかった…」
なにを勘違いしているのか知らないが、お前は国のトップ層にのみわかるような形で見せしめにして首を挿げ替える。
我々はお前を今更助けなどしない。
「…甘い処分だったら、許さないから」
すれ違いざまに妖獣に言われて、思わず頭を下げて聖女を引きずりながら慌てて帰る。
心臓がうるさい。
怖かった、教会内の権力闘争より余程怖かった。
どれだけ深呼吸をしても、心臓がうるさい。
聖女の虚ろな目を見ては、また心臓がうるさくなる。ただただ怖い、と思ってしまった。
聖女はなんということをしようとしているのか。あの気位だけが高い女は一体何を考えているのだろう。
あの田舎村が一番恩恵を受けているから他の地域への恩恵を感じるものは少ないが、そもそも妖獣がなくては我が国はすぐに干からびてしまうというのに。
とにかく妖獣の元へ行かねば。聖女は妖獣の存在を知る国のトップ層に向けての見せしめとして厳しく処罰しよう。
妖獣の代わりはいないが、聖女の代わりはいくらでもいる。また次の代の聖女を任命するだけだ。聖女なんてものはただの魔力の多い女でしかなく、我が神聖教の理想の偶像でしかないのだから。ましてあの聖女は聖都を離れず理想の偶像の役割すら果たしていなかった。却って消えてくれる方が助かる。
「…はぁ、はぁ」
村に着いたのち、聖王たる私自ら急いで山を登り妖獣の元まで来た。
妖獣の家の玄関を叩くと、妖獣がドアを開けてくれた。
初めてみたが、男の私から見てもなんとも美しい…この世のものとも思えない妖獣。
こんな男が罪人たちを餌にしているなど、信じられないが…。
「誰?」
不機嫌丸出しの妖獣に、ああ手遅れだったと悟る。聖女が喧嘩を売ったあとらしい。
「も、申し訳ない。私は神聖教の聖王だ。うちの聖女が失礼を働いたようで、この度はすまなかった。聖女を回収して罰を与えようと思っているのだが」
「ああ、あれを回収してくれるの。お願い。あ、でもその前にいくつか質問」
「な、なんだ?」
「おれを不要だというのは教会の総意?リーシュ…おれの花嫁を侮り貶める発言も教会の総意なのかな」
「…!!!」
あの聖女、なんということをしてくれたのだ!
「滅相も無い!妖獣…貴方はこの国に必要不可欠!花嫁殿もまた、必要な存在だと我々は弁えている!聖女ひとりの暴走だ!」
「そう…わかった。教会はおれの花嫁を尊重するということでいいんだね?」
「もちろんだ!」
「ならば教会はおれの敵ではないのか。よかった。ならあの女、さっさと回収していってよ」
妖獣の指差す方向に向かう。
すると衝撃的な光景が広がっていた。
あの美しいだけが取り柄の聖女が、顔に大きく傷を作っていた。
あの気位の高い聖女が、床に這い蹲りなにかを舐めとっていた。
「…ああ、それ。その女がヒトの家で粗相をしたから、自分で片付けろって言ったんだ。でももういいから持って帰って」
「わ、わかった…聖女よ…」
「…聖王、猊下?」
虚ろな目でこちらを見る。
一体なにがあったのか、知りたくもない。
「帰るぞ」
「あ、よかった…」
なにを勘違いしているのか知らないが、お前は国のトップ層にのみわかるような形で見せしめにして首を挿げ替える。
我々はお前を今更助けなどしない。
「…甘い処分だったら、許さないから」
すれ違いざまに妖獣に言われて、思わず頭を下げて聖女を引きずりながら慌てて帰る。
心臓がうるさい。
怖かった、教会内の権力闘争より余程怖かった。
どれだけ深呼吸をしても、心臓がうるさい。
聖女の虚ろな目を見ては、また心臓がうるさくなる。ただただ怖い、と思ってしまった。
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