14 / 76
いつか償う日が来るのだろう
しおりを挟む
私はしがない平民の娘だった。
名前はグラツィア。
家は貧しく、幼い頃から花売りの仕事をさせられていた。
そこで出会ったのが旦那様。
旦那様の名前はナルチーゾ様。
『美しいお嬢さん、お花を一つ貰おうか』
花が売れず、このままでは家に帰っても入れてもらえないと途方にくれていた時にそう声を掛けてくださった旦那様。
旦那様は花を買うと私の身の上話を聞いてくれて、それならばと持ってきていたお小遣いを全てくださって大量の花を持って帰った。
それから毎日会いに来てはたくさんのお花を買ってくれる旦那様。聞けば私に一目惚れしてくださったのだとか。
気付けば貧しかった我が家は普通に生活出来るまでになり、そんな生活をくださった旦那様にいつからか心惹かれていた。
けれど旦那様は男爵家の長男。決して結ばれることはない二人。筋違いにもほどがあるが、旦那様の婚約者…リーヴァ様という女性を憎んでしまった。完全なる嫉妬だった。
『ナルチーゾ様…私は、こんな風に思ってしまう自分が汚らわしくて…』
『そんなことはない。私だって、あの女さえ居なければ君と結ばれるのにと思っている』
旦那様のそんな心ない言葉すら嬉しく感じてしまう。
旦那様がリーヴァ様を蔑ろにするほど心が満たされていく。
そして旦那様はリーヴァ様と結婚した。
嫉妬で狂いそうだった。
けれどリーヴァ様がリーシュを産むと、旦那様は私の元へ入り浸るようになった。
「リーヴァ様は帰ってこない旦那様を待ち続け、心身ともに病んで死んでしまった」
人の死はとても悲しいことで、その引き金となったのは私。
それなのに私は仄暗い喜びを噛み締めていた。
そしてそれは旦那様も同じだった。
旦那様はリーヴァ様の葬儀の後、私と娘を男爵家に迎え入れてくれた。
娘はもちろん旦那様の子。それを魔術で証明して、戸籍にも娘を入れてもらった。
「リーヴァ様が亡くなったおかげで、何もかもが上手くいった」
嫁いですぐ、リーシュと会った。
当たり前だ、リーシュも一緒に暮らすのだから。
前妻との子だとはいえ、旦那様の子供。
慈しんで大切にしようと思った。
だけど。
「リーヴァ様と瓜二つだという彼女を、愛せはしなかった」
憎しみを持ってしまった。
旦那様がぞんざいに扱うたびに、愉悦を感じた。
娘が嫌がらせをするのを見て、愉悦を感じてしまった。
そんな私を見た娘が、嫌がらせを加速させることにも注意すらしなかった。
「そして、そんな日々の中彼女は妖獣の花嫁に選ばれた」
彼女は可哀想だ。
私に父親を奪われ、母親を間接的に殺され。
娘に…ブルローネに母親の形見の品を奪われ、婚約者をいつのまにか寝取られ。
そして、人を喰う妖獣の花嫁なんかにされて。
そんな彼女の不幸を、私はとても甘美に感じてしまう。
「こんなに幸せで、こんなに満たされた気持ちになる。私はもう、心がこれ以上ないほどに汚れきっているのでしょうね」
もう戻れないところまできてしまったのだろう。
旦那様は何もかもが上手くいったと笑っているが、私はいつか犯した罪は全て私たちに帰ってくるのだと思っている。
旦那様や私はもちろん、腹違いとはいえ実の姉を虐待したブルローネにだって罰は下る。
ブルローネの悪事だけでも止めてあげるべきだったのに、愉悦を感じるからといって止めなかった私のせいで…きっと娘は不幸になる。
娘が寝とった彼だって、きっと幸せにはならないだろう。
「…いつこの幸せが崩れるのか、それがただただ怖いの」
不安を胸に、今日も旦那様の腕の中で眠る。
いつか来る終わりにただただ怯える日々は、本当に幸せだと言えるだろうか。
名前はグラツィア。
家は貧しく、幼い頃から花売りの仕事をさせられていた。
そこで出会ったのが旦那様。
旦那様の名前はナルチーゾ様。
『美しいお嬢さん、お花を一つ貰おうか』
花が売れず、このままでは家に帰っても入れてもらえないと途方にくれていた時にそう声を掛けてくださった旦那様。
旦那様は花を買うと私の身の上話を聞いてくれて、それならばと持ってきていたお小遣いを全てくださって大量の花を持って帰った。
それから毎日会いに来てはたくさんのお花を買ってくれる旦那様。聞けば私に一目惚れしてくださったのだとか。
気付けば貧しかった我が家は普通に生活出来るまでになり、そんな生活をくださった旦那様にいつからか心惹かれていた。
けれど旦那様は男爵家の長男。決して結ばれることはない二人。筋違いにもほどがあるが、旦那様の婚約者…リーヴァ様という女性を憎んでしまった。完全なる嫉妬だった。
『ナルチーゾ様…私は、こんな風に思ってしまう自分が汚らわしくて…』
『そんなことはない。私だって、あの女さえ居なければ君と結ばれるのにと思っている』
旦那様のそんな心ない言葉すら嬉しく感じてしまう。
旦那様がリーヴァ様を蔑ろにするほど心が満たされていく。
そして旦那様はリーヴァ様と結婚した。
嫉妬で狂いそうだった。
けれどリーヴァ様がリーシュを産むと、旦那様は私の元へ入り浸るようになった。
「リーヴァ様は帰ってこない旦那様を待ち続け、心身ともに病んで死んでしまった」
人の死はとても悲しいことで、その引き金となったのは私。
それなのに私は仄暗い喜びを噛み締めていた。
そしてそれは旦那様も同じだった。
旦那様はリーヴァ様の葬儀の後、私と娘を男爵家に迎え入れてくれた。
娘はもちろん旦那様の子。それを魔術で証明して、戸籍にも娘を入れてもらった。
「リーヴァ様が亡くなったおかげで、何もかもが上手くいった」
嫁いですぐ、リーシュと会った。
当たり前だ、リーシュも一緒に暮らすのだから。
前妻との子だとはいえ、旦那様の子供。
慈しんで大切にしようと思った。
だけど。
「リーヴァ様と瓜二つだという彼女を、愛せはしなかった」
憎しみを持ってしまった。
旦那様がぞんざいに扱うたびに、愉悦を感じた。
娘が嫌がらせをするのを見て、愉悦を感じてしまった。
そんな私を見た娘が、嫌がらせを加速させることにも注意すらしなかった。
「そして、そんな日々の中彼女は妖獣の花嫁に選ばれた」
彼女は可哀想だ。
私に父親を奪われ、母親を間接的に殺され。
娘に…ブルローネに母親の形見の品を奪われ、婚約者をいつのまにか寝取られ。
そして、人を喰う妖獣の花嫁なんかにされて。
そんな彼女の不幸を、私はとても甘美に感じてしまう。
「こんなに幸せで、こんなに満たされた気持ちになる。私はもう、心がこれ以上ないほどに汚れきっているのでしょうね」
もう戻れないところまできてしまったのだろう。
旦那様は何もかもが上手くいったと笑っているが、私はいつか犯した罪は全て私たちに帰ってくるのだと思っている。
旦那様や私はもちろん、腹違いとはいえ実の姉を虐待したブルローネにだって罰は下る。
ブルローネの悪事だけでも止めてあげるべきだったのに、愉悦を感じるからといって止めなかった私のせいで…きっと娘は不幸になる。
娘が寝とった彼だって、きっと幸せにはならないだろう。
「…いつこの幸せが崩れるのか、それがただただ怖いの」
不安を胸に、今日も旦那様の腕の中で眠る。
いつか来る終わりにただただ怯える日々は、本当に幸せだと言えるだろうか。
133
お気に入りに追加
307
あなたにおすすめの小説
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる