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少女リュディヴィーヌは返り咲く
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教会の鐘がなる。幼い彼らは、神前で誓った。
「僕は生涯リュディーだけを愛し、生涯リュディーと支え合うと誓います!」
「私は生涯ロイだけを愛し、生涯ロイと支え合うと誓います」
ここに二人の婚約は認められた。二人は誓い通り、常にお互いだけを一途に愛し支え合う。
しかしその結果待っていたのは、リュディヴィーヌの叔父からの一方的な婚約破棄だった。
「リュディー!ここの窓枠の掃除が甘いわよ!また鞭で打たれたいの!?」
「申し訳ありません!すぐに掃除します!」
リュディヴィーヌ・ジャルダン。公爵令嬢であった彼女は、今や孤児院で奴隷のように扱われている。
リュディヴィーヌの母が病気で亡くなると、その後を追うようにリュディヴィーヌの父も事故で亡くなった。葬儀の後すぐに父方の叔父が公爵家を継いだが、叔父夫婦には子供がいたため邪魔なリュディヴィーヌは領内の孤児院に引き渡された。
リュディヴィーヌはお小遣いを寄付したり慰問したりと、公爵家のお嬢様として孤児院を大切にしていた。その時は孤児院の運営をしている大人達はいつも謙り、リュディヴィーヌをちやほやした。だがリュディヴィーヌが一文無しの孤児になったことで、孤児院を運営する大人たちは手のひらを返してリュディヴィーヌを虐待したのだ。
孤児院の子供達はリュディヴィーヌを慕っていたため、最初はリュディヴィーヌを庇った。だが、子供達が庇ったところでなにも変わらない。むしろ子供達が庇えば庇うだけ、リュディヴィーヌの背中に痛々しい鞭の跡が増えた。
「リュディヴィーヌ様、ごめんなさい…」
「痛い?大丈夫?」
「これ、こっそり野生の薬草を煎じたから塗ってあげる」
「ありがとう。謝らなくていいのよ。薬草のおかげで痛みも引いたわ。みんな大好きよ。でも、みんなにまで危害が及んだら悲しいわ。だから、もう私を庇ってはダメよ?」
「…うん」
そう。子供達自身だって、孤児院を運営する大人に逆らうと何をされるかわからない。結局のところ、彼らも見ている以外なにも出来なかった。
そんなある日、とある客人が多額の寄付金を持って訪ねてきた。ジャルダン公爵家と縁のある、隣国の侯爵家の夫婦らしい。
「奥様、寄付金をありがとうございます!」
「それで、リュディヴィーヌはどこかしら」
「…リュディヴィーヌになにか御用でしょうか?」
「彼女は私の姉の実子なの。公爵家を継いだ叔父からここに追いやられたと聞いたわ。私達には子供が出来なくて…養子としてリュディヴィーヌを引き取ることにしたの。私もこれで女侯爵をやっているし、リュディヴィーヌにもそうさせるつもりよ」
孤児院の院長は青ざめる。急いでリュディヴィーヌを身綺麗にさせ、何度も口止めをして女侯爵に引き渡した。母と仲の良かった叔母はいつも手紙で交流しており、公爵家にもたまに遊びに来ていたためリュディヴィーヌも可愛がられていた。そのためあとはとんとん拍子で養子縁組の話が進んだ。
そして、正式に隣国の侯爵家の娘となったリュディヴィーヌは孤児院を告発した。孤児院のリュディヴィーヌを含めた子供達への虐待が明るみになり、孤児院の運営は大きく変わることになった。
新しい院長は清廉潔白で優しい、中央教会から派遣された神父様だ。シスターも優しい人ばかりになり、虐待は無くなった。それどころか寄付金を使って栄養満点のご飯も用意してくれる。衣服も必要な分は買い与えてくれて、教育も積極的に行ってくれる。前の院長は寄付金のほとんどを自分の懐に入れていたので、まさに劇的な変化であった。
リュディヴィーヌが女侯爵に引き取られて、数ヶ月。リュディヴィーヌは女侯爵となるべく勉強を頑張っていた。そんなある日、リュディヴィーヌを訪ねて客人が来るという。しかし、サプライズだと言って相手は教えてもらえない。不思議に思いつつも可愛らしくお洒落をして、リュディヴィーヌは相手を待った。
「リュディー!」
「ロイ…!?」
リュディヴィーヌの元婚約者、ロイク・モーリスである。辺境伯家の三男である彼は、リュディヴィーヌと結婚してジャルダン公爵家を継ぐはずであった。ジャルダン公爵家が叔父に代替わりするとその話は無くなったが。
「どうしてここに!?」
「リュディーと結婚するためだよ。待たせてごめんね」
「リュディヴィーヌがジョルダン公爵家から追い出されたのを私達夫婦に教えてくれたのは、ロイク君なのよ。ロイク君のリュディヴィーヌへの熱い愛の言葉を聞いて、二人をもう一度婚約させて欲しいと向こうの両親に打診したの。それがようやく通ったのよ。一度はジョルダン公爵家の都合で一方的に破棄された婚約だから、なかなか難しかったわ。特に中央教会への説得がもう…本当に疲れたわ。だから、幸せになるのよ?リュディヴィーヌ」
リュディヴィーヌは目を見開いた。
「叔母様…ロイ…どうしてそこまで…」
「幼いあの日、二人で神様に誓っただろう?永遠に愛し合い支え合うって。僕は約束は守る男なのさ」
「ロイ…!愛してる!」
「ああ、リュディー…やっとまた、君に触れられる。…愛してる。誰よりも強く。君以外なんて僕には要らない!」
ロイクは、実はジョルダン公爵家を継いだリュディヴィーヌの叔父から自分の娘との婚約を打診されていたが断固拒否していた。全てはこの日の為である。ロイクの両親も、ロイクの気持ちを最大限尊重する優しい人達だったためなんとか間に合ったのだ。
「ふふ。姉様そっくりに育って…リュディヴィーヌ。貴女は私にとって大切な娘よ。愛しているわ。幸せになるのよ」
「叔母様…いいえ、お義母様!本当にありがとうございました!私、立派な女侯爵になって幸せになります!」
「ええ。楽しみにしているわ」
その後リュディヴィーヌは無事にロイクと結婚した。子宝にも恵まれ、その後叔母…いや、義母から爵位を引き継ぎ女侯爵となった。
「さあ、ここから頑張らないとね」
「リュディーなら大丈夫さ。僕もついているからね」
「ふふ、心強いわ」
リュディヴィーヌの治める領地は広大で、発展している。その分管理は大変だが、やり甲斐のある仕事だとリュディヴィーヌは思っている。ロイクはそんなリュディヴィーヌを陰になり日向になり支える。リュディヴィーヌの義母となった叔母はそんな仲睦まじい夫婦を応援している。
「今日も貴方達はラブラブね。でも、もし何かあったら遠慮なく言いなさい。隠居したとはいえ、伊達に長年女侯爵をやっていないわ。必ず貴方達の力になります」
「お義母様、ありがとうございます!大好きです!」
「うふふ。やっぱり娘は良いわ。可愛らしいもの。リュディヴィーヌの子供達は男の子も女の子も可愛らしいし。こんなに可愛い孫に囲まれて幸せだわ」
「ふふ、はい」
そんなこんなで今日は義母と夫婦のお茶会。義父は、今日は生憎と友達に誘われたゴルフで忙しく参加出来なかった。だが、義父も孫達を可愛がってくれる良いお爺ちゃんになっている。リュディヴィーヌ自身にもその夫のロイクにも普通に優しい。
「ところで、聞きましたか?隣国…僕らの祖国では、革命が起きたそうです」
「まあ、怖い。ということは?」
「ええ。貴族は軒並み処刑されました。ジャルダン公爵家も例外なく。うちの親兄弟は早めに見切りをつけてこの国に財産を持って逃げてきて、新たに爵位と領地を買ってまた貴族やってますけどね」
「そう。リュディヴィーヌの叔父はバチが当たったのね。仕方がないことだわ。ロイク君のご家族は先見の明があるのね」
ロイクと義母はにんまり笑った。因果応報だと。しかし、リュディヴィーヌは不安そうに言った。
「この国は大丈夫でしょうか?」
「心配しなくても、隣国と違って金銭的にも文化的にも豊かだし、飢饉も起きていないわ。それに、この国の王族への忠誠心は強いもの。革命なんて起こる理由がないわ」
「それなら良かったです」
リュディヴィーヌは安心してにこりと笑う。しかしその表情はすぐに曇った。
「でも私、いけないことを考えてしまうんです。革命で命を落としたのが、私じゃなくてよかった…なんて。叔父様も可哀想なのに」
「リュディーを孤児院に追い出すような鬼のような叔父なんて気にすることないよ」
「そうよ、リュディヴィーヌ。因果応報というものだわ。貴方が気にすることじゃないわ」
二人に慰められ、リュディヴィーヌに笑顔が戻る。これからもリュディヴィーヌは、たくさんの愛に囲まれて幸せに生きていくこととなった。
「僕は生涯リュディーだけを愛し、生涯リュディーと支え合うと誓います!」
「私は生涯ロイだけを愛し、生涯ロイと支え合うと誓います」
ここに二人の婚約は認められた。二人は誓い通り、常にお互いだけを一途に愛し支え合う。
しかしその結果待っていたのは、リュディヴィーヌの叔父からの一方的な婚約破棄だった。
「リュディー!ここの窓枠の掃除が甘いわよ!また鞭で打たれたいの!?」
「申し訳ありません!すぐに掃除します!」
リュディヴィーヌ・ジャルダン。公爵令嬢であった彼女は、今や孤児院で奴隷のように扱われている。
リュディヴィーヌの母が病気で亡くなると、その後を追うようにリュディヴィーヌの父も事故で亡くなった。葬儀の後すぐに父方の叔父が公爵家を継いだが、叔父夫婦には子供がいたため邪魔なリュディヴィーヌは領内の孤児院に引き渡された。
リュディヴィーヌはお小遣いを寄付したり慰問したりと、公爵家のお嬢様として孤児院を大切にしていた。その時は孤児院の運営をしている大人達はいつも謙り、リュディヴィーヌをちやほやした。だがリュディヴィーヌが一文無しの孤児になったことで、孤児院を運営する大人たちは手のひらを返してリュディヴィーヌを虐待したのだ。
孤児院の子供達はリュディヴィーヌを慕っていたため、最初はリュディヴィーヌを庇った。だが、子供達が庇ったところでなにも変わらない。むしろ子供達が庇えば庇うだけ、リュディヴィーヌの背中に痛々しい鞭の跡が増えた。
「リュディヴィーヌ様、ごめんなさい…」
「痛い?大丈夫?」
「これ、こっそり野生の薬草を煎じたから塗ってあげる」
「ありがとう。謝らなくていいのよ。薬草のおかげで痛みも引いたわ。みんな大好きよ。でも、みんなにまで危害が及んだら悲しいわ。だから、もう私を庇ってはダメよ?」
「…うん」
そう。子供達自身だって、孤児院を運営する大人に逆らうと何をされるかわからない。結局のところ、彼らも見ている以外なにも出来なかった。
そんなある日、とある客人が多額の寄付金を持って訪ねてきた。ジャルダン公爵家と縁のある、隣国の侯爵家の夫婦らしい。
「奥様、寄付金をありがとうございます!」
「それで、リュディヴィーヌはどこかしら」
「…リュディヴィーヌになにか御用でしょうか?」
「彼女は私の姉の実子なの。公爵家を継いだ叔父からここに追いやられたと聞いたわ。私達には子供が出来なくて…養子としてリュディヴィーヌを引き取ることにしたの。私もこれで女侯爵をやっているし、リュディヴィーヌにもそうさせるつもりよ」
孤児院の院長は青ざめる。急いでリュディヴィーヌを身綺麗にさせ、何度も口止めをして女侯爵に引き渡した。母と仲の良かった叔母はいつも手紙で交流しており、公爵家にもたまに遊びに来ていたためリュディヴィーヌも可愛がられていた。そのためあとはとんとん拍子で養子縁組の話が進んだ。
そして、正式に隣国の侯爵家の娘となったリュディヴィーヌは孤児院を告発した。孤児院のリュディヴィーヌを含めた子供達への虐待が明るみになり、孤児院の運営は大きく変わることになった。
新しい院長は清廉潔白で優しい、中央教会から派遣された神父様だ。シスターも優しい人ばかりになり、虐待は無くなった。それどころか寄付金を使って栄養満点のご飯も用意してくれる。衣服も必要な分は買い与えてくれて、教育も積極的に行ってくれる。前の院長は寄付金のほとんどを自分の懐に入れていたので、まさに劇的な変化であった。
リュディヴィーヌが女侯爵に引き取られて、数ヶ月。リュディヴィーヌは女侯爵となるべく勉強を頑張っていた。そんなある日、リュディヴィーヌを訪ねて客人が来るという。しかし、サプライズだと言って相手は教えてもらえない。不思議に思いつつも可愛らしくお洒落をして、リュディヴィーヌは相手を待った。
「リュディー!」
「ロイ…!?」
リュディヴィーヌの元婚約者、ロイク・モーリスである。辺境伯家の三男である彼は、リュディヴィーヌと結婚してジャルダン公爵家を継ぐはずであった。ジャルダン公爵家が叔父に代替わりするとその話は無くなったが。
「どうしてここに!?」
「リュディーと結婚するためだよ。待たせてごめんね」
「リュディヴィーヌがジョルダン公爵家から追い出されたのを私達夫婦に教えてくれたのは、ロイク君なのよ。ロイク君のリュディヴィーヌへの熱い愛の言葉を聞いて、二人をもう一度婚約させて欲しいと向こうの両親に打診したの。それがようやく通ったのよ。一度はジョルダン公爵家の都合で一方的に破棄された婚約だから、なかなか難しかったわ。特に中央教会への説得がもう…本当に疲れたわ。だから、幸せになるのよ?リュディヴィーヌ」
リュディヴィーヌは目を見開いた。
「叔母様…ロイ…どうしてそこまで…」
「幼いあの日、二人で神様に誓っただろう?永遠に愛し合い支え合うって。僕は約束は守る男なのさ」
「ロイ…!愛してる!」
「ああ、リュディー…やっとまた、君に触れられる。…愛してる。誰よりも強く。君以外なんて僕には要らない!」
ロイクは、実はジョルダン公爵家を継いだリュディヴィーヌの叔父から自分の娘との婚約を打診されていたが断固拒否していた。全てはこの日の為である。ロイクの両親も、ロイクの気持ちを最大限尊重する優しい人達だったためなんとか間に合ったのだ。
「ふふ。姉様そっくりに育って…リュディヴィーヌ。貴女は私にとって大切な娘よ。愛しているわ。幸せになるのよ」
「叔母様…いいえ、お義母様!本当にありがとうございました!私、立派な女侯爵になって幸せになります!」
「ええ。楽しみにしているわ」
その後リュディヴィーヌは無事にロイクと結婚した。子宝にも恵まれ、その後叔母…いや、義母から爵位を引き継ぎ女侯爵となった。
「さあ、ここから頑張らないとね」
「リュディーなら大丈夫さ。僕もついているからね」
「ふふ、心強いわ」
リュディヴィーヌの治める領地は広大で、発展している。その分管理は大変だが、やり甲斐のある仕事だとリュディヴィーヌは思っている。ロイクはそんなリュディヴィーヌを陰になり日向になり支える。リュディヴィーヌの義母となった叔母はそんな仲睦まじい夫婦を応援している。
「今日も貴方達はラブラブね。でも、もし何かあったら遠慮なく言いなさい。隠居したとはいえ、伊達に長年女侯爵をやっていないわ。必ず貴方達の力になります」
「お義母様、ありがとうございます!大好きです!」
「うふふ。やっぱり娘は良いわ。可愛らしいもの。リュディヴィーヌの子供達は男の子も女の子も可愛らしいし。こんなに可愛い孫に囲まれて幸せだわ」
「ふふ、はい」
そんなこんなで今日は義母と夫婦のお茶会。義父は、今日は生憎と友達に誘われたゴルフで忙しく参加出来なかった。だが、義父も孫達を可愛がってくれる良いお爺ちゃんになっている。リュディヴィーヌ自身にもその夫のロイクにも普通に優しい。
「ところで、聞きましたか?隣国…僕らの祖国では、革命が起きたそうです」
「まあ、怖い。ということは?」
「ええ。貴族は軒並み処刑されました。ジャルダン公爵家も例外なく。うちの親兄弟は早めに見切りをつけてこの国に財産を持って逃げてきて、新たに爵位と領地を買ってまた貴族やってますけどね」
「そう。リュディヴィーヌの叔父はバチが当たったのね。仕方がないことだわ。ロイク君のご家族は先見の明があるのね」
ロイクと義母はにんまり笑った。因果応報だと。しかし、リュディヴィーヌは不安そうに言った。
「この国は大丈夫でしょうか?」
「心配しなくても、隣国と違って金銭的にも文化的にも豊かだし、飢饉も起きていないわ。それに、この国の王族への忠誠心は強いもの。革命なんて起こる理由がないわ」
「それなら良かったです」
リュディヴィーヌは安心してにこりと笑う。しかしその表情はすぐに曇った。
「でも私、いけないことを考えてしまうんです。革命で命を落としたのが、私じゃなくてよかった…なんて。叔父様も可哀想なのに」
「リュディーを孤児院に追い出すような鬼のような叔父なんて気にすることないよ」
「そうよ、リュディヴィーヌ。因果応報というものだわ。貴方が気にすることじゃないわ」
二人に慰められ、リュディヴィーヌに笑顔が戻る。これからもリュディヴィーヌは、たくさんの愛に囲まれて幸せに生きていくこととなった。
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