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ホタテのグラタン

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今日の依頼は妖精の鱗粉集め。妖精は気まぐれで無邪気、無垢にして残忍な性格だ。その上どんな魔法も平気で使う。いくら才能がある方とはいえ、私でも油断すれば簡単に殺される。

防具の強化を図り、結界を何重にも張り最大限努力して妖精の住む森に向かう。妖精達は人間の客は珍しいようで、すぐに囲まれた。

「人間!人間!」

「可愛いわ!か弱いわ!」

「どうして森に入ったの?」

好き勝手に言われるけれど、機嫌を損ねるわけにはいかないので放置。質問にはきちんと答える。

「妖精の鱗粉を集めに来たの。鱗粉をいただけるかしら」

妖精達は首をこてんと可愛らしく傾ける。見た目と仕草だけは可愛いのよね。こんなに危険な存在なのに。

「羽から自然に落ちたのならどうでもいいからいいけど、価値があるの?」

「魔力の塊のようなものだから、様々な魔道具に使えるわ」

「そうなのね!そうなのね!」

「人間の考えることは面白い!」

「わかったわ。好きなだけ持って行っていいわ。でも、集めるのは大変そうね」

「光魔法でその辺に落ちたものを一気に集めるから大丈夫よ」

私は必要なものを手元に集めるための光魔法を発動した。一瞬で依頼された小瓶五つに鱗粉が詰め込まれる。蓋を閉めれば完了。あとは依頼者に引き渡せば依頼完遂になる。

「ありがとう、お陰で助かったわ」

「どういたしまして。でも、こんなに上手に魔法を使う人間もいるのね」

「すごい、すごい!」

「か弱いだけじゃなかった!」

「いえ、私はか弱い生き物よ。それでも、私を待っている子がいるの。だから、頑張れる」

それは孤児院の兄弟達であり、リオルもだ。

「だから、そろそろ帰るわ。今日は本当にありがとう、さようなら」

「ええ、さようなら」

「バイバイ!」

「バイバイ!」

なんとか妖精達の機嫌を損ねることなく、無事森を抜ける。よかった。依頼者に妖精達の鱗粉を引き渡し依頼料を受け取ると、私はリオルの元へ急いだ。なんとなく、顔を見たい。緊張しっぱなしだったから、癒されたい。

「リオル、ただいま」

「リリア!おかえりなのじゃー」

リオルの頭をよしよしと撫でる。あー、癒されるー。

「今日は宿の人が、お夕飯を作ってくれるそうなのじゃ!一緒に食べるのじゃ!」

「あら、そうなの?今日は依頼料もほくほくだし、多少なら高くても大丈夫ね。いいわ、宿で食べましょう」

ということで、夕飯の支度が整うまでリオルとトランプなどで遊び暇をつぶす。癒されるー。と、部屋のドアがノックされた。返事をすると宿の人が入ってくる。その後ろには美味しそうな香りのグラタンとパン、オニオンスープの乗った台。ちゃんとリオルと私の分がある様子。

「お待たせしました。ホタテのグラタンとパン、オニオンスープです 」

「ありがとう。テーブルに置いてくれる?」

「もちろんです」

「ありがとうなのじゃ!」

「あとで下げに来ますので、ごゆっくり」

「ええ」

宿の人が部屋から出たら、リオルとテーブルに向かう。美味しそうな香りが食欲を増進する。

「いただきますなのじゃー!」

「いただきます」

「…んー!うわー!はふ、これ熱々で美味しいのじゃー!…はふ、はふ。このグラタンとかいうの、美味しいのじゃ!これも牛の乳かの?」

「ええ、そうよ」

「あと、この味は魚介類とかいうのなのじゃ!」

「あたり。これはホタテね。」

「クリーミーで、ぷりぷりで、熱々で、大好きなのじゃ!ホタテがいっぱい入ってて、なんだかすごく贅沢なのじゃー!」

「なんでホタテとグラタンの相性はこんなにも抜群なのかしら。パンの上にグラタンを乗っけると…ああ、やっぱり合う。合うわ」

「わしもやるのじゃ!…うわー!この食べ方、カリカリのパンがグラタンに合うのじゃ、無限に食べられるのじゃー!」

「オニオンスープも温かくて美味しい。優しい味だわ」

「ほわー、幸せの味なのじゃー」

思う存分夕飯を食べ、宿の人に下げてもらう。とても大満足だったのに、翌朝請求された宿代と食費は思いの外安くてびっくりした。良心的なお店に、また来たくなった。
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