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可哀想な子を拾った

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この世の中は不条理で溢れている。

人の命は平等と謳う我が国の国教はその実貴族からの寄付で肥え、飢えた平民や棄民たちを救うことはほとんどない。

貴族はノブレスオブリージュなんて言葉を知らないように、自らの利益ばかりを追求する。

王家は貴族や他国の王族との駆け引きばかりで、下々の者に見向きもしない。

「ああ、なんて可哀想なんだ」

オレのような恵まれた貴族と違い、生まれた時点で貧乏くじ。

とても哀れで、だからオレは貴族としての面子を保つためのお金以外の自分の自由になるお金を領の内外問わず貧民救済に使っている。領外の貧民を救済する時は、その地域の領主に許可をもらうのも忘れない。

オレは一応立場ある公爵様で、使用人たちからも領民たちからも取引のある商人からも評判がいい。

だから表立ってオレの悪口を言う貴族はいないけれど、影では貧民救済なんてバカじゃないかと言われているのは知っている。

だけれど、恵まれた者が持たざる者を助けるのは当たり前のことだろう?

「そう思って、ここまで色々やってきたけれど」

だからと言って、これは予想外。

屋敷の前に、アルビノの子供が捨てられていたと報告があった。

白い髪、白い肌、赤い瞳。

カラフルな髪や目の色の多い我が国でも、アルビノは珍しかったりはする。

だから、保護してあげなければその子がどうなるかなんて分かりきっていた。

「…迎えに行くから、追い払ったりしないでね」

その子を迎えに行く。

本当に見事なアルビノで、さらに顔立ちも整っている。

だけれどその白い肌には沢山の痣があり、髪もボサボサでやせ細っていた。身につける服もボロ切れと言っていい。

彼女は感情のない目をこちらに向けてくるから、優しく手を差し伸べる。

彼女は不思議そうにその手を見つめるので、優しく声を掛けてあげた。

「おいで、今日から君はオレのモノだ」

「…そう、本当に拾ってくれるのね」

「冷めてるなぁ…」

綺麗な声で冷めたことを言うこの子供は、どんな人生を送ってきたのだろう。

養子縁組はしない、貴族籍は与えない。それは安易にしていいことではないから。

だけど、オレのモノとして育てよう。

名目はなんでもいい。奴隷候補でも、侍女候補でも、お嫁さん候補でも。

とにかくこの子供を救うことさえできれば、どうでもよかった。










「…なるほどなぁ。だからそのお嬢さんを引き取ったと」

「そう、さっさと診察してくれる?」

「わかったわかった」

この子をメイドたちにお風呂に入れさせている間に、小さな頃から世話になっているお爺ちゃん先生を呼んだ。

お風呂から上がって、髪を乾かして切りそろえたところでちょうどきてくれた。

この子の服はとりあえずメイドの子供の頃の服を譲ってもらって着せた、あとで買う。

「ふむ、とりあえず痣とボロボロになった身体の中身はワシの回復魔術で治せるな。行くぞ」

お爺ちゃん先生はさらっと彼女の痣と栄養失調でボロボロになった中身を治す。

「胃腸の調子も治してあるから、とりあえず今は飯をたらふく食わせてやれ。それで痩せすぎた身体も戻るじゃろ。感染症とかも治してあるから安心せい。ただ、背中の火傷の跡はちょっとな…ワシでも手に負えんが、塗り薬を処方しよう。貴重な薬だからここまで酷くとも少しずつ綺麗になるはずじゃ」

「ありがとう、これお代ね」

「おーおー、相変わらずすごい額くれるのぉ。いつもなら多すぎると困るところじゃが、今回は薬代が高いからトントンじゃな」

「え、そんな高い薬なの」

「その分よく効くぞー」

お爺ちゃん先生はニコニコ笑うが、この子はにこりともしない。

ただ、何も感じないわけではないらしい。

「ありがとう、お医者様。身体がすごく楽になったわ。本当に感謝しています。お兄さんも」

「このくらいならお安い御用じゃ」

「ほとんど治ってよかったよ」

ポンポンとこの子の頭を撫でてあげれば、一瞬戸惑った表情を浮かべたがすぐに真顔に戻った。

「じゃあ、ワシはこれで帰るからの」

「ありがとう、また頼むよ」

「いい加減引退したいんじゃがなぁ」

ぼやきつつも帰っていくお爺ちゃん先生を見送ってから、この子に声を掛けた。

「じゃあ、次は必要なものを買おうか」

商人にも既に連絡済み。

すぐに来るはずだ。
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