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聖域について
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さて、旅が始まった。てくてくと三人で歩く。
「あの…」
「どうした?何か聞きたいことがあるのなら遠慮なく聞くといい。私は人の子が好きだからな。答えられることならなんでも答えよう」
「柚子さんてその…神様なんですよね?」
「ああ。日本刀の付喪神だ」
「なんで柚子っていうんですか?」
「ああ…なに、昔私を扱っていた人間の名前を貰っただけだ。刀としての名前は、結局つけられたこともない。彼女は女剣士でな、珍しいだろう?だが、私達刀を大切にしてくれる人だった。おかげで私には自我と命が宿ったのさ」
「そうなんですね」
「他にも聞きたいことがあればじゃんじゃん聞きなさい」
「じゃあ…柚子さんの力を回復するための旅ってことですけど、具体的にどうやって回復されるんですか?」
「ん。それを説明していなかったか。すまんな」
「いえいえ!」
「この世界には聖域とされる特別な場所がいくつもあってな。神がそこに降り立てば清らかな力が回復するのだ。神以外には恩恵がないがな」
「へー…すごい場所なんですね」
「ああ。特に私達が目指すのは千年桜のある聖域だ。千年桜に触れれば瞬く間に力がみなぎるのでな。ただ、千年桜までの距離は長いから、その途中途中の聖域にも寄って少しずつ回復するつもりではいるが」
「千年桜…」
「ああ。見応えがあるぞ?一年中咲き誇るから、桜も楽しみにしていなさい」
「はい!」
私が返事をすると柚子さんが私の頭を撫でてくれる。なんとなくほっとする。
「柚子」
「なんだ小鬼」
「もう小鬼じゃない。あんたそこまで知っててなんで今まで回復しに行かなかったんだ?」
「んー?まあ、なんだ。必要がないと思っていたからな」
「なんで」
「私は日本刀の付喪神。日の本の人の子を守ることこそ我が務め。だが、最近のあちら側は平穏だ。私の出る幕もない。ならば、わざわざ苦労してまで力を貯める必要もなかったのだ。…桜がこうして現れるまではな」
「…そうか、あんた消えるつもりだったのか」
「え!?」
「ははははは。まあ、良いではないか。結局こうして力を回復するつもりなのだから。千年桜に触れればあと五千年は長生きするぞ?」
「あんたな…良いわけないだろ。桜が来なかったら誰にもなにも言わずに勝手に消えてたんだろ」
「まあ、そう怖い顔をするな小鬼。私はまだ必要とされていることがわかったのだ。もう馬鹿な考えはしないよ」
「柚子さん…あの…」
「どうした?」
「消えないでください…消えちゃイヤです…」
私は思わず涙ぐむ。涙が溢れないよう、俯いて堪える。
「あ、ああ…桜…そう泣きそうな顔をするな。顔をお上げ。そうだ、近くに甘味処があるぞ?寄っていくか?それともかんざしでも買い与えようか…。ほら、私はこの通り健在だ。消えたりしないよ。だから不安になる必要はない。大丈夫だ」
「本当ですか…?」
「もちろん本当だとも。なあ小鬼」
「勝手に消えたらぶん殴る」
「そう怒るな、小鬼。な、桜。私は小鬼に殴られたくはないから消えないよ。安心しておくれ」
「…はい、柚子さん」
柚子さんが白いレースのついた綺麗なハンカチで私の涙をぬぐってくれる。
「さあ、ではまずあの店でかんざしを買おう」
「え、大丈夫です!悪いですから!」
「柚子に泣かされたんだ。柚子に買わせておけ」
「そんな、太一まで…」
「いい、いい。是非買わせておくれ、桜。桜にはきっと桜をモチーフにしたこのかんざしが似合うな。よし、店主。これをくれ」
「はい、まいどあり!」
「ほら、桜。もう買ってしまったから遠慮する必要はない。つけてみておくれ」
「ありがとうございます、柚子さん…では、つけますね」
「おお、やはり似合っている。なあ、小鬼」
「桜、可愛いぞ」
「あ、ありがとうございます…」
「なんだ。照れているのか?愛い奴め」
また柚子さんに頭を撫でられる。嬉しい。
「さあ、次は甘味処だったな。桜は甘いものは好きか?」
「はい、好きです!」
「ならば好きなものを頼むといい」
「じゃあ、白玉ぜんざいを食べたいです」
「…よし、店主!白玉ぜんざいを三人分頼む!」
「あんた、勝手に俺の分まで…」
「良いではないか。なあ、桜」
「ふふ、二人とも仲がいいんですね」
「まあ、長い付き合いになるしな」
「小鬼を揶揄うのは楽しいからな」
「あんたいい加減にしないとそのうち殴るからな」
「おお、怖い。桜、こういう乱暴な男には気をつけなさい」
「どの口が言う。妖との揉め事になると実力行使も厭わないくせに」
「なにを言う。それは話の通じない輩にだけではないか。私だけが悪いわけではない」
「あんたなぁ…そのうち刺されても知らないからな」
「私に怪我をさせられる妖がいれば、な」
「ふふ。二人と一緒にいると、なんだか楽しいです」
「そうか?」
「小鬼が愉快な奴だからな」
「あんただってそうだろ」
「そうか?」
「お待たせしました。白玉ぜんざいです」
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
「いただきます…うん、この甘味処は当たりだと覚えておこう」
「ですね。とっても美味しいです」
「美味い」
こうして旅は続くのでした。
「あの…」
「どうした?何か聞きたいことがあるのなら遠慮なく聞くといい。私は人の子が好きだからな。答えられることならなんでも答えよう」
「柚子さんてその…神様なんですよね?」
「ああ。日本刀の付喪神だ」
「なんで柚子っていうんですか?」
「ああ…なに、昔私を扱っていた人間の名前を貰っただけだ。刀としての名前は、結局つけられたこともない。彼女は女剣士でな、珍しいだろう?だが、私達刀を大切にしてくれる人だった。おかげで私には自我と命が宿ったのさ」
「そうなんですね」
「他にも聞きたいことがあればじゃんじゃん聞きなさい」
「じゃあ…柚子さんの力を回復するための旅ってことですけど、具体的にどうやって回復されるんですか?」
「ん。それを説明していなかったか。すまんな」
「いえいえ!」
「この世界には聖域とされる特別な場所がいくつもあってな。神がそこに降り立てば清らかな力が回復するのだ。神以外には恩恵がないがな」
「へー…すごい場所なんですね」
「ああ。特に私達が目指すのは千年桜のある聖域だ。千年桜に触れれば瞬く間に力がみなぎるのでな。ただ、千年桜までの距離は長いから、その途中途中の聖域にも寄って少しずつ回復するつもりではいるが」
「千年桜…」
「ああ。見応えがあるぞ?一年中咲き誇るから、桜も楽しみにしていなさい」
「はい!」
私が返事をすると柚子さんが私の頭を撫でてくれる。なんとなくほっとする。
「柚子」
「なんだ小鬼」
「もう小鬼じゃない。あんたそこまで知っててなんで今まで回復しに行かなかったんだ?」
「んー?まあ、なんだ。必要がないと思っていたからな」
「なんで」
「私は日本刀の付喪神。日の本の人の子を守ることこそ我が務め。だが、最近のあちら側は平穏だ。私の出る幕もない。ならば、わざわざ苦労してまで力を貯める必要もなかったのだ。…桜がこうして現れるまではな」
「…そうか、あんた消えるつもりだったのか」
「え!?」
「ははははは。まあ、良いではないか。結局こうして力を回復するつもりなのだから。千年桜に触れればあと五千年は長生きするぞ?」
「あんたな…良いわけないだろ。桜が来なかったら誰にもなにも言わずに勝手に消えてたんだろ」
「まあ、そう怖い顔をするな小鬼。私はまだ必要とされていることがわかったのだ。もう馬鹿な考えはしないよ」
「柚子さん…あの…」
「どうした?」
「消えないでください…消えちゃイヤです…」
私は思わず涙ぐむ。涙が溢れないよう、俯いて堪える。
「あ、ああ…桜…そう泣きそうな顔をするな。顔をお上げ。そうだ、近くに甘味処があるぞ?寄っていくか?それともかんざしでも買い与えようか…。ほら、私はこの通り健在だ。消えたりしないよ。だから不安になる必要はない。大丈夫だ」
「本当ですか…?」
「もちろん本当だとも。なあ小鬼」
「勝手に消えたらぶん殴る」
「そう怒るな、小鬼。な、桜。私は小鬼に殴られたくはないから消えないよ。安心しておくれ」
「…はい、柚子さん」
柚子さんが白いレースのついた綺麗なハンカチで私の涙をぬぐってくれる。
「さあ、ではまずあの店でかんざしを買おう」
「え、大丈夫です!悪いですから!」
「柚子に泣かされたんだ。柚子に買わせておけ」
「そんな、太一まで…」
「いい、いい。是非買わせておくれ、桜。桜にはきっと桜をモチーフにしたこのかんざしが似合うな。よし、店主。これをくれ」
「はい、まいどあり!」
「ほら、桜。もう買ってしまったから遠慮する必要はない。つけてみておくれ」
「ありがとうございます、柚子さん…では、つけますね」
「おお、やはり似合っている。なあ、小鬼」
「桜、可愛いぞ」
「あ、ありがとうございます…」
「なんだ。照れているのか?愛い奴め」
また柚子さんに頭を撫でられる。嬉しい。
「さあ、次は甘味処だったな。桜は甘いものは好きか?」
「はい、好きです!」
「ならば好きなものを頼むといい」
「じゃあ、白玉ぜんざいを食べたいです」
「…よし、店主!白玉ぜんざいを三人分頼む!」
「あんた、勝手に俺の分まで…」
「良いではないか。なあ、桜」
「ふふ、二人とも仲がいいんですね」
「まあ、長い付き合いになるしな」
「小鬼を揶揄うのは楽しいからな」
「あんたいい加減にしないとそのうち殴るからな」
「おお、怖い。桜、こういう乱暴な男には気をつけなさい」
「どの口が言う。妖との揉め事になると実力行使も厭わないくせに」
「なにを言う。それは話の通じない輩にだけではないか。私だけが悪いわけではない」
「あんたなぁ…そのうち刺されても知らないからな」
「私に怪我をさせられる妖がいれば、な」
「ふふ。二人と一緒にいると、なんだか楽しいです」
「そうか?」
「小鬼が愉快な奴だからな」
「あんただってそうだろ」
「そうか?」
「お待たせしました。白玉ぜんざいです」
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
「いただきます…うん、この甘味処は当たりだと覚えておこう」
「ですね。とっても美味しいです」
「美味い」
こうして旅は続くのでした。
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