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皇帝陛下の愛娘は国の一部が地震に襲われ奔走する

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その日、プロスペール皇国の一部であるガレオ地方が地震に見舞われたとの報せが入った。

ナタナエルは皇国騎士団に、応援に行き人命を優先して救出活動を行うように指示。ただし、何かあれば自分の命は投げ出さず避難することを厳命した。

皇国騎士団はシモンの父である騎士団長が指揮を執り、転移魔法でガレオ地方に向かうと人命救助を開始。

騎士団長が魔法で瓦礫を少しずつではあるが払い除け、中にいる人を助けていく。

中には無惨な姿になった人々もいたが、騎士達が助けられなかったせめてもの償いとして治癒魔法を掛けて綺麗な状態の遺体にした。遺体は広場に集められた。広場には親の遺体に泣きつく子供達の姿もあった。騎士達は涙をぐっと飲み込んで救出活動を急ぐ。

助けられた人々は口々に騎士達にお礼を言う。中には妊婦もいて、ストレスがかかるとお腹に悪いと転移魔法で安全な場所にある病院に送り届けられた。

ナタナエルは魔水晶を使い一部始終を把握。追加の応援も送る。しかし、そもそも地震の少ないこの地方では大きな地震への備えなどなく建物も次々と倒壊しており、完全に手が足りていない。

騎士達も必死に瓦礫を掻き分け人命救助を急ぐが、このままでは救える命も救えなくなる。

さらに、助け出された人々の中には当然怪我人や病人もいる。騎士達の治癒魔法が効く人々は助かったが、中には治癒魔法への適性があり治癒魔法が効きづらい人々もいた。医者や看護師も人手が足りない。

ナタナエルもルイスも焦りを感じていたところに、リリアージュが現れた。

「パパ!ガレオ地方が地震に見舞われたって本当!?状況は!?」

「リリアージュ。今騎士団が頑張っているところだ。現地の医師や看護師も頑張っているが、なかなか手が回らない」

ナタナエルはリリアージュを見たことで少しだけ落ち着きを取り戻す。リリアージュはナタナエルの精神安定剤である。

一方のリリアージュは、なにかを考えるような素振りをした後ナタナエルに向き直る。

「パパ。お願い」

「却下」

リリアージュが決意を固めてナタナエルに声を掛けるが、ナタナエルは認めない。そもそも聞く気がない。リリアージュがなにを言いたいか分かるから。

「パパ。心配しなくても、大丈夫だから」

「なにが大丈夫だ。また地震が起きたらどうする。お前に何かあれば、それは国の損失だ」

「それはそうだけど…」

リリアージュはルイスを見る。しかし、ルイスも厳しい表情で首を振る。

「せめてもう少し状況が落ち着いてからの方がよろしいのではありませんか?いつまた地震が来てもおかしくありません。それに津波も…」

そこまで言ってルイスは青ざめる。ナタナエルもぴたっと動きが止まった。次の瞬間、ナタナエルが伝達魔法を使い叫んだ。

「騎士団員全員に告ぐ!今すぐ広場に避難している人々を転移魔法で高台に移せ!遺体も、出来れば回収してやれ!津波の危険がある!急げ!可能な限り避難が遅れている人々も高台に連れて行け!ただし騎士団員の命を優先しろ!」

これを聞いた騎士達はすぐに行動を開始。避難している人々と助けられなかった人々の遺体を転移魔法で広場から高台に移し、街中に残された人はいないか駆けずり回り見つけ次第転移魔法で高台に連れて行く。

リリアージュが固唾を飲んで見守るが、幸い津波は起きなかった。しかし、住民達は高台に避難させた騎士達にさらなる感謝の言葉を告げる。

「もし津波が来ていたら大変でした、ありがとうございました」

その言葉に騎士達は救われる思いだった。一応ということで高台の公園に留まる住民達。これから避難拠点は高台の公園に移されることになった。

津波が起きなかったことで、また人命救助が開始される。リリアージュはもう見ていられなかった。

「パパ、お願い!私も救助活動に向かわせて!」

「だめだ」

「こんな時のための妖精王様の加護と祝福だよ!お願い!」

「どれだけ危険なのかお前はわかっているのか?」

「それでもどうしても行きたいの!」

「祝福の力を使って人命を助けて、そのあと疲労で倒れたお前を一体誰が助けるんだ?」

「一日寝てれば回復するから!」

「リリアージュ」

「…パパ、お願い!私が祝福の力を使って人命を助けるから、パパの極大魔法で瓦礫を撤去して生き埋めになった人々を救い出して!お願い!パパも一緒なら大丈夫でしょう!?パパなら何があっても私を守ってくれるもん!」

「リリアージュ…」

リリアージュの必死の訴えに、今度こそナタナエルは白旗を揚げた。

「…わかった。行くぞリリアージュ」

「パパ、ありがとう!」

ナタナエルとリリアージュ、ルイスが転移魔法でガレオ地方の中心にある高台に向かう。突然の皇帝と皇女の登場に誰もが驚いたが、構わずリリアージュは祝福の力を使う。大地から光が溢れ出しみるみるうちにたくさんの人々の病気や怪我、欠損が治った。その光は生き埋めにされている人々にも届く。リリアージュはその後すぐに疲労で気絶するように眠った。そのリリアージュの姿に人々は涙ぐむ。皇女様はこれほどまでに国民を気にかけてくださると。

ナタナエルは、極大魔法を使い瓦礫を吹き飛ばす。その際生き埋めにされている人々が巻き込まれないように、人にのみ効く結界を張るのも忘れない。これによって人命は全て救助され、騎士達の誘導で皆高台の公園に避難できた。ナタナエルは、魔法の使い過ぎで魔力を消耗し疲れ果てていたがそんな素振りは一切見せずにリリアージュとルイスを連れて転移魔法で宮廷に戻る。そんなナタナエルの素振りに人々は歓声を上げる。我らが皇帝陛下が助けてくださったと。

そんなわけで今回の地震は建物の倒壊を巻き起こし人々の命を奪ったが、リリアージュとナタナエルと騎士団の力で被害は最小限で済んだ。それでも失ってしまった命にはただただ祈りを捧げるしかできないが、それでもリリアージュやナタナエルへの忠誠心がガレオ地方では一気に増した。

そんなナタナエルはリリアージュを自分の部屋のベッドに寝かせて、疲労困憊の身体を無視して騎士団と連携して今後また続けて地震が来た場合に備えつつ、食料品や日用品などの物資の支援に当たる。やはりこういう時には有能な皇帝となるナタナエルに、ルイスは溜め息を吐いた。

本心を言えば、少しは休んでほしい。しかし、それは皇帝という地位が許さない。疲労困憊の中それをひた隠しにして懸命に出来ることを一つ一つこなしていく我が主人に、ルイスは尊敬と呆れの両方を感じていた。

結局、リリアージュが目を覚ましたのは次の朝のことだった。まだ怠い身体を無理矢理起こして、ナタナエルに状況を聞く。

「とりあえず今のところ新たな地震は、そこまで大きなものは来ていない。それでも小さな地震はあるから、油断はできないが。ガレオ地方の建物は地震に弱いしな。ただ、全員高台の公園に避難しているから心配しなくてもいい」

リリアージュはその言葉に安心する。

「パパ、わがままを聞いてくれてありがとう」

「娘を大切にするのは親の特権だ」

ナタナエルはリリアージュの頭を優しく撫でた。

「皇帝陛下、高台の公園への追加の支援物資が今届けられました。しばらくはこのルイスに任せて、皇帝陛下はお休みください。寝てないのですから」

ナタナエルは余計なことを言うなとルイスを睨んだが、後の祭りである。

「パパ寝てないの!?ダメだよ、今すぐ寝て!」

「リリアージュ、まだ仕事があるから」

「ルイスに任せて寝て!」

「…わかった。ある程度寝たら起こしてくれ」

「わかりました、皇帝陛下。ですから寝てください」

「…リリアージュ、おやすみ」

「おやすみなさい、パパ」

ナタナエルはベッドに横になる。秒で寝た。疲れ果てていたので当然である。

「で、ルイス。私に出来ることは?」

「転移魔法で高台の公園に行って住民達を励ましてくださいますか?遺体は昨日のうちに遺族達と話し合って簡易的なお墓を作り埋めましたが、住民達の中には綺麗な状態にされているとはいえ遺体やそれにすがりつく遺族を見てかなり辛い思いをしている者達もいますから。遺族は言わずもがなです」

「わかった、行ってくるね。ルイスは出来る限りパパを休ませてあげてね」

「お任せください。皇帝陛下は少し無理をし過ぎですので」

「ルイスがいてくれて助かってるよ、ありがとう」

「光栄です」

リリアージュは転移魔法で高台の公園に行って、避難者達を慰める。昨日の祝福の奇跡、そして今日の自分も疲れていてしんどいはずなのに避難者達を慰めて励ますリリアージュの姿に避難者達は神々しいものを感じた。避難者達は心が少しだけ救われる気持ちになる。

リリアージュが避難者達を慰めてから転移魔法で宮廷に戻ると、ルイスと喧嘩しているいつものメンバー達がいた。どうも地震のニュースにショックを受けているだろうとリリアージュを訪ねて来た際、ナタナエルが寝ている間にリリアージュを高台の公園に向かわせたことを知り冷静でいられなくなったらしい。ルイスは安全を確認してからリリアージュを向かわせたと言っているが、聞く耳を持たない。

「ニコラ。みんなも待って」

「リリアージュ!無事でよかった!」

ニコラが強い力でリリアージュを抱きしめる。リリアージュも優しく抱きしめ返した。そしてみんなに言う。

「ルイスはちゃんと安全を確認してから私に出来ることを教えてくれただけだよ。どうせパパが起きたらパパからも怒られるんだからそんなに怒らないであげて」

リリアージュのその言葉に全員が黙った。ナタナエルなら確かに怒る。ルイスはぎちぎちに締め上げられるだろう。

「それよりも、みんなも食料品や日用品の支援を手伝ってくれる?まだ物資が足りないものもあるみたいなの」

リリアージュのその言葉に全員が頷き行動を開始した。ナタナエルが起きた頃には、支援物資は完全に行き届いていたという。ナタナエルはリリアージュの親衛隊のようになっている彼らに少し引いたらしい。
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