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皇帝陛下の愛娘は国に戻る

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リリアージュは朝、国に帰る支度をして気合いを入れる。国に帰ったら、シモンとラウルに気持ちを伝え、ニコラに告白する。心を強く持とうと両頬をパチンと両手で叩く。

「リリアージュ第一皇女殿下。今回は本当にお世話になった。本当にありがとう」

「本当にありがとうございました、リリアージュ第一皇女殿下。またお会い出来るのを楽しみにしていますね」

「モデスト陛下もブノワト殿下も、ありがとうございました!この数日間とっても楽しかったです!またお会い出来るのを楽しみにしていますね」

リリアージュは転移魔法で国に帰る。宮廷に帰ると、ナタナエルとルイス、いつものメンバーが出迎えてくれた。

「リリアージュ、おかえり」

「パパ!ただいま!」

リリアージュはナタナエルに抱きつく。ナタナエルは心底大切そうにリリアージュを抱き上げておでこと頬にキスを落とした。そしてリリアージュもナタナエルの頬にキスを返す。ナタナエルは名残惜しそうにリリアージュを降ろした。

「おかえりなさいませ、リリアージュ様」

「ルイスもただいま。パパは大丈夫だった?」

「はい。このルイスがしっかりと見ていましたよ」

「ありがとう、ルイス」

「…俺は手のかかる子供か何かか?」

ナタナエルがそう言うとリリアージュはころころと笑う。

「ふふ、もう。それだけパパが大事なの!」

「ふん」

いつものメンバーは本当は早くリリアージュにおかえりを言いたいが、ナタナエルが相当心配していただろうとわかっていたため遠慮して大人しく待っていた。

「みんな、ただいま」

「おかえりなさいませ、リリアージュ様」

ニコラが優しく微笑んだ。リリアージュはなんとなくドキドキしてしまって、頬を染めて目をそらす。ニコラは、そんなリリアージュの様子にはてなマークを浮かべていた。

「おかえり、リリアージュ様」

「シモン、ただいま。あのね、後でお話いいかな?」

「…おう」

先程のニコラに対するリリアージュの様子と、そのリリアージュの一言でなんとなく察したシモンだったが、逃げずに受け止めることにした。

「おかえりなさい、リリアージュ様」

ラウルも、ニコラやシモンとのリリアージュのやり取りを見てなんとなく察したが、臆せずおかえりを言う。

「ただいま、ラウル。あのね、後でお話したいことがあるの」

「もちろんお伺いしますよ」

一連の流れで察したエミリアとレオノールも、リリアージュに声をかける。

「おかえり、リリアージュ様」

「ただいま、レオノールちゃん!洋梨のシャルロット、ティータイムに楽しみに待ってるね!」

「うん!」

「おかえりなさいませ、リリアージュ様」

「ただいま、エミリアちゃん!会いたかったよー」

全員に挨拶した後、シモンだけを連れて私室に戻る。そして、言った。

「シモン。私のことを好きになってくれてありがとう」

「おう」

「私、この数日間で気付いたの。…ニコラが好き。だから、シモンの気持ちには答えられない」

「そっか。…幸せになれよ、リリアージュ様。たとえ想いが届かなくたって、俺はリリアージュ様の専属護衛騎士だ。いつだって側にいるからな」

「うん、ありがとう。これからも、よろしくね」

「おう!…じゃあ、俺はちょっと中庭の花を見てくるから。じゃあな」

「…うん」

シモンは最後まで潤んだ瞳は隠して、去っていった。多分、中庭で泣くのだろう。けれどそれを慰めるのは私ではない。リリアージュは、自分を想って泣いてくれる大切な友人を思い追い掛けたい気持ちをぐっと堪えた。

ー…

「…っ」

中庭で、誰にも見られないように茂みに隠れてそっと泣く。声を押し殺す。だから、背後からエミリアの気配がしてびびって肩が飛び跳ねた。

「あら、さすがはリリアージュ様の専属護衛騎士様ですわね。私の気配にすぐに反応なさいますのね」

「…なんだよ」

「別になんでも?ただ、中庭のお花を見に来ただけですわ」

ツンと澄まして言うエミリアにシモンは少し笑った。エミリアの不器用な優しさが、今は嬉しい。

「…薔薇の露が頬に流れていますわよ。ハンカチを差し上げますわ」

「ん。ありがとう」

「返却は結構ですから」

「なら、大切にする」

「そうしてくださいまし」

そこからしばらく、無言が続いた。嫌な沈黙ではなく、シモンの涙が止まるまでエミリアはずっと待っていてくれた。

「一応、聞いておきますけれども」

「ん?」

「私と婚約するつもりはあるかしら」

「…は!?」

エミリアの爆弾発言にシモンは一瞬反応が遅れる。それを見てエミリアはいつも思っていたけれど、やはり面白い人だと思った。

「そろそろ私達も婚約者を探す年頃でしょう。変な人に嫁ぐより気心の知れた貴方の方が無難ですわ」

「けど」

「言っておきますが、私の最優先はリリアージュ様。貴方もそうでしょう?そういう意味でも都合が良いんですの。どうします?」

「…俺も、変な奴と結婚するよりはお前の方が良いけど」

「でしょう?でしたら決まりですわね。貴方から家族に頼んで私の家に婚約を申し込みなさい」

「はぁーっ、わかったよ!申し込むよ!一応俺、傷心中なんだけどな!」

「あらまあ可哀想」

「お前なぁ…」

こうしてリリアージュの知らないところでカップルが一組成立した。

ー…

シモンと別れた後、リリアージュはラウルを呼び出した。ラウルは覚悟を決めてリリアージュの言葉を待つ。

「ラウル。あのね、私ラウルからこんなにも想われてすごく幸せだと思う」

「ええ」

「けど私、ニコラが好きなの。だからラウルの気持ちには答えられない」

「…そうですか」

「でも、本当に嬉しかった。私を好きになってくれて、ありがとう」

「貴女は世界で一番素敵な方ですから。近くにいた俺が惹かれるのは当然でしょう。…愛しています。どうか、ニコラとお幸せに」

「うん」

「ああ、ですが」

「?」

「俺は振られたからと言って貴女の側を離れませんし、もしニコラに貴女が泣かされたら全力でニコラを叩きのめしますから。もちろん貴女の友人の一人として、ね」

そう言ってにこりと笑うラウルに、リリアージュは小さく笑う。そんなリリアージュを見て、安心したように息を吐くとラウルは静かに退室した。

ー…

「…はぁ」

魔法訓練室で、的にぼかすか攻撃魔法を打ち込みまくるラウル。その時背後で気配がした。と同時に目隠しされる。仕方なく攻撃魔法を中断する。

「だーれだ!」

「いつものお節介焼きさんですね」

「あたりー」

レオノールだった。その手には可愛らしいラッピングの施された焼き菓子がある。

「食べる?」

「食べます」

ラウルは適当なところに腰掛け、ラッピングを丁寧に取り、焼き菓子を一口口に含む。

「甘い」

「そりゃあ焼き菓子だもの。美味しい?」

「すごく美味しいですよ。貴女は本当に世話焼きですね」

「まあねー」

いつのまにか隣に座っていたレオノールは、ラウルに優しく微笑んだ。

「甘いもの食べると、気分が上がるでしょ」

「ええ」

「女のくせにって言われるかもしれないけど、私もリリアージュ様が好きなんだ」

「…知ってます」

「ふふ。だからね、男だからリリアージュ様に告白出来るラウル達に嫉妬してた。でも、こうして断られる可能性があるのに告白出来る勇気に憧れもした。すごいね、ラウルは。ちゃんと伝えられて」

「そんな綺麗なものではありません。俺はただ、あの綺麗な方の心が欲しかっただけです」

「そっかあ」

「そうですよ」

沈黙が流れる。先に切り出したのは、レオノールの方だった。

「…ねえ、もしも私とラウルがくっついたら、リリアージュ様とずっと一緒にいられるかな」

「まあ、宮廷魔術師の俺の妻でリリアージュ様の友人となれば宮廷にも来やすいのでは?でも、そもそもリリアージュ様のためのパティシエールなんですから心配ないのでは?」

「結婚したらさすがに辞めなきゃいけないらしくてさ」

「…あー」

また沈黙が流れる。今度はラウルの方から切り出した。

「…お嫁に来ますか?リリアージュ様の為に」

「是非お願いします」

こうしてもう一組、リリアージュの知らないところでカップルが成立した。

ー…

次にリリアージュは、ニコラを呼び出した。さすがに一連の流れを見て、ニコラもなんとなく察した。お互いにそわそわしている。

「あのね、ニコラ、私…ニコラが好き!婚約してください!」

「も、もちろんです。絶対に幸せにします、リリアージュ様」

大事なところで噛んだニコラだったが、優しく微笑んでリリアージュをそっと抱きしめる。

「愛しています。幸せです。まさか、この想いが通じるなんて…リリアージュ様、大好きです」

「私も大好き、愛してる…」

しばらく無言で抱きしめ合う。

「ニコラ、それであの」

「皇帝陛下へのご報告ですね。行きましょう」

「うん!」

リリアージュはニコラと共にナタナエルの私室を訪れた。そこには執務を行うナタナエルとルイスの姿がある。

「どうした、リリアージュ」

「あのね、パパとルイスに報告があるの」

「…どうした?」

「私、ニコラと…」

「リリアージュ様と交際することになりました。婚約の許可をください」

ニコラがリリアージュの言葉を遮ってナタナエルに伝えた。ナタナエルはニコラを見遣る。ニコラは至って真剣な表情だった。ナタナエルはしばらく葛藤した様子だったが、不安そうに瞳を潤ませるリリアージュを見て白旗を揚げた。

「いいだろう。好きにしろ」

「パパ、ありがとう!」

「…ありがとうございます!」

ルイスもその様子を見て満足そうに頷いている。

「リリアージュ様、ニコラをよろしくお願いしますね」

「ふふ、はい!」

こうしてリリアージュはニコラと婚約をすることとなった。

ナタナエルはすぐさま中央教会の神官を呼び出して、婚約届けにサインをする。ニコラは身元引き受け人がルイスであるため、保護者欄はルイスが書き込む。リリアージュとニコラもサインして、神官が受け取った。これでリリアージュとニコラの婚約は成立した。

その後、みんなでリリアージュの私室に集まった際にリリアージュとニコラとの婚約を伝えた。みんな祝福してくれて、リリアージュはこの上なく幸せな気持ちになった。
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