上 下
18 / 62

皇帝陛下の愛娘は可愛い従妹を可愛がる

しおりを挟む
「従妹?エレーヌが遊びに来るの!?」

「ああ。またリリアージュの叔母と来るらしい」

「やったー!パパありがとう!」

「ああ」

無邪気に喜ぶリリアージュに、ナタナエルは許可を出してよかったと思いつつリリアージュの頭を撫でた。

あの子猫事件の後、リリアージュの叔母はリリアージュの遊び相手になるため良く遊びに来ていた。それは、叔母にエレーヌという一人娘が生まれても、リリアージュに友達が出来ても変わらない。母によく似た叔母によく懐く、髪色以外母そっくりのリリアージュ。他人から見れば親子のように映るかもしれない。

リリアージュは、従妹のエレーヌとも仲が良い。エレーヌもまた叔母そっくりであり、他人が見たらリリアージュと姉妹のように映るだろう。幼い頃からリリアージュから可愛がられて育ったエレーヌは〝リリアージュお姉様〟が大好きである。

「リリアージュお姉様ー!」

「エレーヌ!叔母様もいらっしゃいませ!」

「ふふ、また来てしまいました。エレーヌが次はいつリリアージュ様に会えるのかと落ち着きがなくて」

「わあ…!エレーヌ、そんなに会いたがってくれたんだね!大好きだよ、エレーヌ!」

「私もリリアージュお姉様が大好きです!」

ぎゅうぎゅうと抱きついてリリアージュから離れないエレーヌ。ナタナエルは、なんとなく面白くない。

「おい、仮にもリリアージュの従妹ならもう少し落ち着きを持ったらどうだ」

「皇帝の伯父様はリリアージュお姉様が取られるのが嫌なだけでしょ。あっかんべーだ!」

「…このクソガキ」

「こら、エレーヌ!申し訳ありません、皇帝陛下」

「ふん」

「もう、エレーヌ。エレーヌはとっても可愛いんだから、あっかんべーなんて品のないことしちゃだーめ」

「はい、リリアージュお姉様!」

この通り、リリアージュはエレーヌに甘々である。これだけでリリアージュがナタナエルの血を色濃く受け継いでいるのがわかる。

「エレーヌ、ちょうどいい時間だしお庭でティータイムにしようよ!」

「はい、リリアージュお姉様!」

エレーヌはリリアージュに引っ付いてさっさと庭に出る。リリアージュの叔母とナタナエルは、それを見守る。

「…あのちんちくりんな赤子が、ずいぶんとうるさく育ったものだ」

「リリアージュ様から大層可愛がられて育ちましたから、とても敬愛しているのです。普段はもう少しだけ、大人しく出来るのですが」

「だが、本質はじゃじゃ馬だろう」

「ええ、とっても。でも、あの子が幸せなら私はそれでいいと思っています。一応、人前では淑女の仮面を被ってはいますし」

「ふん」

あの子が幸せならそれでいい。ナタナエルには、痛いほど理解出来る。リリアージュさえ幸せならば、自分もリリアージュの好きにさせるだろう。

「リリアージュ様が少しでも寂しくないようにとエレーヌをよく連れてきましたが、リリアージュ様と上手くいっているようでなによりです」

「あれだけ小さな赤子の頃から見ているんだ、リリアージュも甘くなる」

「あら、では皇帝陛下も?」

「俺が一番可愛いのはリリアージュだ」

ふふ、とリリアージュの叔母は笑う。なんだかんだで、リリアージュのお気に入りであるエレーヌにも甘い方なのは知っているのだ。

「なんだ?」

「いえ。皇帝陛下からこんなにも愛されているリリアージュ様は、世界一幸せですね」

「当たり前だ。リリアージュが幸せでないなら意味がない」

リリアージュの幸せのために生きている。それがナタナエルという男である。

「そういえば、この間また父が皇帝陛下に親戚筋の若い女性を紹介しようとしたとか。申し訳ございません」

「…どうにかしてくれ。俺はリリアージュ以外子供はいらない。リリアージュに兄弟などいらない」

「父なりに、リリアージュ様を思っての行動なんですけどね…気遣いの方向性が斜め下なんですよね…」

リリアージュがエレーヌを可愛がるのを見て、やはりリリアージュに兄弟姉妹をと勧めてくるリリアージュの祖父。決して悪意はないが、善意だけでもない。新しい皇后に、自分が紹介してやったと恩を売る目的もある。もはやナタナエルからは面倒な爺としか思われていない。それでも重用されるのは、ただただリリアージュが懐くお祖父ちゃんだからである。

「…まあ、リリアージュが皇太子となれば少しは静かになるか。それを思えば十八になるのが待ち遠しいな」

「あら、子供の成長などあっという間ですよ。後でやっぱりまだ成長するななどと仰らないでくださいね?」

「あの子が大人になろうと、あの子は俺が見守る。問題ない」

「もう。皇帝陛下、リリアージュ様もいつかは恋をして親離れなさるのですよ。いい加減子離れしないと」

「…恋か。皇配になる男は幸せ者だな」

いつもリリアージュに恋は早いと呪文のように唱えるナタナエルの成長に、リリアージュの叔母は感動する。

「皇帝陛下が…ついにリリアージュ様の恋を…!」

「まあ、皇太子になる頃までには皇配を見つけないといけないしな。じゃないとあの爺がまたうるさくなる」

「ああ…皇帝陛下の意向を聞き恋愛結婚を認めてはいますが、リリアージュ様に良い人が見つからなければ良い御令息を紹介するのだと息巻いてますしね…」

「うるさくてたまらん。本当になんとかしてくれ」

「重ね重ね申し訳ございません…」

ふとリリアージュ達の方に目をやれば、エレーヌの髪型をあれこれと弄るリリアージュと嬉しそうなエレーヌの姿。本当にあのうるさい爺の血が入っているとは思えないが、残念ながら二人の大好きなお祖父ちゃんである。

そんなリリアージュ、ナタナエルの方を向いて無邪気に笑って手を振ってきた。そんなリリアージュにナタナエルは微笑んで片手をあげる。そんなナタナエルを、リリアージュの叔母は微笑ましく思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

高熱を出して倒れてから天の声が聞こえるようになった悪役令嬢のお話

下菊みこと
恋愛
高熱を出して倒れてから天の声が聞こえるようになった悪役令嬢。誰とも知らぬ天の声に導かれて、いつのまにか小説に出てくる悪役全員を救いヒロイン枠になる。その後も本物のヒロインとは良好な関係のまま、みんなが幸せになる。 みたいなお話です。天の声さん若干うるさいかも知れません。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます

下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。 悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。 悪役令嬢は諦めも早かった。 ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

身勝手だったのは、誰なのでしょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢になるはずの子が、潔く(?)身を引いたらこうなりました。なんで? 聖女様が現れた。聖女の力は確かにあるのになかなか開花せず封じられたままだけど、予言を的中させみんなの心を掴んだ。ルーチェは、そんな聖女様に心惹かれる婚約者を繋ぎ止める気は起きなかった。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄された公爵令嬢と泥棒猫の兄

小笠原 ゆか
恋愛
シュテルン王国王太子ローデリヒと公爵令嬢であるディアナは婚約当初より不仲であった。王太子に一方的に無視されたまま数年の時が経ち、学院の最終学年次に編入してきたキャサリンという少女の登場によって、更に冷遇される。結婚に対し不満を抱いたディアナだったが、王家の事情を考えれば解消は望めない。悶々とした日々を過ごしていたある日、キャサリンの兄と名乗る男が妹の退学手続きを取りに来た場面に居合わせたのだった。 15000字前後の短編です。 この話は、『小説家になろう』にも掲載する予定です。

気弱な公爵夫人様、ある日発狂する〜使用人達から虐待された結果邸内を破壊しまくると、何故か公爵に甘やかされる〜

下菊みこと
恋愛
狂犬卿の妻もまた狂犬のようです。 シャルロットは狂犬卿と呼ばれるレオと結婚するが、そんな夫には相手にされていない。使用人たちからはそれが理由で舐められて虐待され、しかし自分一人では何もできないため逃げ出すことすら出来ないシャルロット。シャルロットはついに壊れて発狂する。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

処理中です...