上 下
4 / 62

愛娘を溺愛する皇帝陛下は昔を思い出す

しおりを挟む
「ねえ、皇帝陛下」

「なんだ」

「もしも皇帝陛下との間に御子が生まれたら、その子はきっと皇帝陛下の大切な家族になれると思うのです」

あの女はいつだってそうだった。謙虚で、控えめで、優しくて、繊細で、だというのにとても強い。そう、この頃にはあの女は少しずつ自分を不治の病が蝕んでいくのに気付いていたはずなのだ。だというのに、誰にもそれを言わず、リリアージュを健康に生み、育てて、リリアージュが五歳になるとこの世を去った。

献身的な女だった。俺は愛してなどいなかったのに、あの女はいつだってどんなことでも俺を常に優先した。俺に愛していると囁いた。リリアージュが生まれてからは俺よりもリリアージュを優先するようにはなったが、それでいいと今は思う。それでこそあの女だと。

名前は、なんといったか。名前すら、すらすらとは出てこない。なのに、印象に残る女。俺の心から離れてくれない。リリアージュを引き取ってからは、その想いが増した。ルイスに相談したら、困った顔でご自身で気付くべき感情ですよと言われた。一体この感情はなんなのか。

そう。リリア。リリアという名前だった。リリアージュの名前は、リリアから来ているのか。そうか。…なんだか、今日は余計なことばかりを思い出す。余計なことばかりを考える。…酔いが回ったか。酒はもうやめよう。

「パパ!」

「リリアージュ、どうした?こんな夜中に。眠れないのか?」

「夢でね、ママがパパのこと大好きだって!リリーもパパが大好きよって言ったら、パパとママもリリーが大好きよって!パパはママのことが好き?」

「…印象に残る女だった。リリアは、優しい人だった。…俺は、いつでも彼女に甘えていたんだと、今になってようやくわかったよ」

酔いが回って、何を言っているのかすら曖昧になる。ただ…。

「…三人で過ごしたり、してみたかった。すまない、リリアージュ。俺は、不甲斐ない男だ」

「パパ、大丈夫だよ!ママはいつだって、私達の側に居てくれるもの!ねえ、今日は一緒に寝よう?ママのお話、たくさんしたいの!聞いてくれる?」

「もちろんだ」

リリアージュの話を聞き、リリアの知らない一面を知るたびに何とも言えない感情に囚われる。

そう、これは、きっと気付くのが遅すぎた初恋。愛してすらいない女だったはずなのに、こんなにも愛おしい。苦しい。辛い。会いたい。せめて、死に目にくらい会えば良かった。女々しい男が、初恋との間に生まれた最愛の言葉に耳を傾けながら、ゆっくりと微睡んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

見た目は抜群なのに趣味がアレな女と、その良き理解者の男のお話

下菊みこと
恋愛
タイトルそのままの御都合主義のお話。 実はお互い求めあっているけれどこれ以上の進展はないだろう二人のお話。 二人にとってはこれが幸せなのでハッピーエンドだということにして欲しいです。 当て馬くんが一番の被害者。 小説家になろう様でも投稿しています。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

何度死んで何度生まれ変わっても

下菊みこと
恋愛
ちょっとだけ人を選ぶお話かもしれないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。

餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!  4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。  無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。  日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m ※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m ※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)> ~~~ ~~ ~~~  織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。  なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。  優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。  しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。  それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。  彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。  おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

処理中です...