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宰相のお孫さんは好きな子を虐めたいタイプでした。もうしません。
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「パパー!」
「リリアージュ。走るな、転ぶぞ」
冷血の皇帝、ナタナエル。プロスペール皇国の第三皇子として生まれた彼は、父親である皇帝からは蔑ろにされ義母である皇后からは虐待され、母であった側妃は早くに亡くしていた。皇后の実子である兄達からも虐められるも、教養や剣術、魔術は兄弟の誰よりも優れていた。だが、本来なら帝位を継ぐはずではなかった。
そんな彼だが、兄二人は流行病で死亡。皇后も兄二人の死に精神を病み、衰弱して死亡。失意の皇帝も自害とくれば帝位を継ぐほかなかった。
ナタナエルは皇帝に即位した後、すぐに隣国と戦争を開始。理由などない、一方的な宣戦布告。騎士団の出番はほぼなく、ナタナエルの極大魔法で戦場は更地と化した。そのあまりの強さに、隣国は即降伏。プロスペール皇国の一部となった。
近隣諸国は恐れをなし、皇国の一部となる道を選んだり、同盟国となったりした。普通の特筆することもない平凡な国であったプロスペール皇国の領土は一気に拡大し、またなんだかんだで優秀なナタナエルの導きもあり経済大国にまでなった。
たまに歯向かう国もあったが、ナタナエルが気まぐれに極大魔法を打ち込めば王族達がひれ伏し首を差し出した。
そんなナタナエル、基本的に人を信じないが血筋を残さない訳にはいかないと臣下に何度も土下座されて、まあたまにならと気まぐれに名前も知らない女を抱いた。結果生まれたのがリリアージュ・プロスペール第一皇女殿下である。
女は一応皇后ということにはなっているが表舞台には出ず、離宮でリリアージュを大切に育てた。ナタナエルは、血筋というなら皇女が一人いれば充分だろうと子供をこれ以上設けようとしなかった。女もそれでよかったらしい。聞き分けがいいのがその女の良いところだった。
その女はリリアージュが五歳の時に死んだ。ナタナエルは、さすがに国葬には顔を出した。そしてそこで初めて我が子を見た。プロスペール皇国の皇族の証である、深い緑の美しい髪を長く伸ばし、母親譲りの蒼い瞳からはぼろぼろと涙を流す。その姿にナタナエルはくらりと眩暈がした。
あれは、子供の頃の自分だ。母を亡くした時の自分だ。このままあの子に愛を注がなければ、あの子は俺と同じになる。
ナタナエルは、その日からリリアージュを自分の宮に引き取り、不器用な愛を注いだ。リリアージュは、最初は塞ぎがちだったが段々と生来の明るさを取り戻し、ナタナエルによく懐いた。そんなリリアージュが、ナタナエルは心底愛おしくなってしまった。今ならば本当に、目に入れても痛くない。
「パパー、あのね、リリーね、聞いたよ!」
「何をだ」
「リリー、宰相のおじさまのお孫さんと婚約するんでしょ?」
なんだそれは。初耳だ。そもそもさせるか。
「お前に政略結婚のための婚約者は用意しない。自由恋愛で結婚しろ。…誰から聞いた?」
「宰相のおじさまだよ?嘘ついたの?」
「ああ。あの古狸は当てにならん。一々真に受けるな」
「でもリリーね、おじさまに着いてきたお孫さんに婚約破棄だって叫ばれたよ?」
「は?」
「もっと可愛い女の子が良いって。緑の髪なんて変だって。宰相のおじさまはお孫さんに怒ってたけど」
「…は?」
ナタナエル、ブチギレ案件である。即座に宰相は職を外され、孫は皇女への侮辱の罪で投獄された。まあ、さすがに子供なので一日で解放されたが余程怖かったらしくもうしないと泣いたようだ。
新しい宰相には、もっとマシな男が選ばれた。そんなことなど何も知らないリリアージュは、今日も無邪気に笑う。婚約破棄騒動は、これにて一件落着した。リリアージュを傷つけたら冷血の皇帝の怒りを買うと知らしめられて。
「リリアージュ。走るな、転ぶぞ」
冷血の皇帝、ナタナエル。プロスペール皇国の第三皇子として生まれた彼は、父親である皇帝からは蔑ろにされ義母である皇后からは虐待され、母であった側妃は早くに亡くしていた。皇后の実子である兄達からも虐められるも、教養や剣術、魔術は兄弟の誰よりも優れていた。だが、本来なら帝位を継ぐはずではなかった。
そんな彼だが、兄二人は流行病で死亡。皇后も兄二人の死に精神を病み、衰弱して死亡。失意の皇帝も自害とくれば帝位を継ぐほかなかった。
ナタナエルは皇帝に即位した後、すぐに隣国と戦争を開始。理由などない、一方的な宣戦布告。騎士団の出番はほぼなく、ナタナエルの極大魔法で戦場は更地と化した。そのあまりの強さに、隣国は即降伏。プロスペール皇国の一部となった。
近隣諸国は恐れをなし、皇国の一部となる道を選んだり、同盟国となったりした。普通の特筆することもない平凡な国であったプロスペール皇国の領土は一気に拡大し、またなんだかんだで優秀なナタナエルの導きもあり経済大国にまでなった。
たまに歯向かう国もあったが、ナタナエルが気まぐれに極大魔法を打ち込めば王族達がひれ伏し首を差し出した。
そんなナタナエル、基本的に人を信じないが血筋を残さない訳にはいかないと臣下に何度も土下座されて、まあたまにならと気まぐれに名前も知らない女を抱いた。結果生まれたのがリリアージュ・プロスペール第一皇女殿下である。
女は一応皇后ということにはなっているが表舞台には出ず、離宮でリリアージュを大切に育てた。ナタナエルは、血筋というなら皇女が一人いれば充分だろうと子供をこれ以上設けようとしなかった。女もそれでよかったらしい。聞き分けがいいのがその女の良いところだった。
その女はリリアージュが五歳の時に死んだ。ナタナエルは、さすがに国葬には顔を出した。そしてそこで初めて我が子を見た。プロスペール皇国の皇族の証である、深い緑の美しい髪を長く伸ばし、母親譲りの蒼い瞳からはぼろぼろと涙を流す。その姿にナタナエルはくらりと眩暈がした。
あれは、子供の頃の自分だ。母を亡くした時の自分だ。このままあの子に愛を注がなければ、あの子は俺と同じになる。
ナタナエルは、その日からリリアージュを自分の宮に引き取り、不器用な愛を注いだ。リリアージュは、最初は塞ぎがちだったが段々と生来の明るさを取り戻し、ナタナエルによく懐いた。そんなリリアージュが、ナタナエルは心底愛おしくなってしまった。今ならば本当に、目に入れても痛くない。
「パパー、あのね、リリーね、聞いたよ!」
「何をだ」
「リリー、宰相のおじさまのお孫さんと婚約するんでしょ?」
なんだそれは。初耳だ。そもそもさせるか。
「お前に政略結婚のための婚約者は用意しない。自由恋愛で結婚しろ。…誰から聞いた?」
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「は?」
「もっと可愛い女の子が良いって。緑の髪なんて変だって。宰相のおじさまはお孫さんに怒ってたけど」
「…は?」
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