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捕まったと気付く日は来るのか来ないのか
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「きゃー!グラシアン様とエメリーヌ様よ!今日も素敵だわ!」
「騎士団長!副騎士団長!こっちを向いてくださいませー!」
エメリーヌと呼ばれた騎士が遠目で見ていたご令嬢達に優しく微笑みゆったりと手を振れば、さらに黄色い声が増す。
エメリーヌ・ジェルヴェーズ。王国騎士団の副騎士団長にして誇り高きジェルヴェーズ伯爵家の末っ子長女である。ジェルヴェーズ伯爵家は代々優れた騎士を輩出する家系であり、その中で最も才覚を発揮するエメリーヌは男にも引けを取らないどころか騎士団長以外に勝てる男はこの国にはいないと言われるほど強い。ちなみに上の兄は爵位を継ぎ領地経営に勤しみ、下の兄は文官として順調に出世コースを歩んでいる。エメリーヌがいれば大丈夫だろうというのが本人達の言い分である。女性騎士も多いこの国では珍しく、男装騎士としても名を馳せる。なぜ男装するかといえば、女性騎士の正装がスカートだからだ。動きづらい。そんな彼女は男装の麗人として男女問わず大人気である。
グラシアン・ガーランド。ガーランド公爵家の三男である彼は余った子爵位が与えられるはずだったが、親の反対を押し切り王国騎士団に入団。親の持つ公爵という爵位で色々と忖度され、あれよあれよと出世コースまっしぐらだった。そんな彼は負けず嫌いが手伝って、親の七光りと馬鹿にしていた他の騎士を剣の実力で凌駕し見返した。あの剣の天才と謳われるエメリーヌと75戦中38勝37敗である。そんな彼は公爵家で蝶よ花よと育てられたのが手伝って見た目も国宝級である。グラシアンとエメリーヌが一緒にいるだけで二人のファンが遠くからきゃあきゃあと騒ぐ程度には、見た目が整っているのだが…彼は実は女性が苦手だった。考えても見てほしい。美人でスタイル抜群とはいえ、知らない女性からベタベタされたり胸を押し付けられたりすれば誰だって怖いと思う。少なくとも彼は怖いと感じた。
そんなグラシアンだから、自分に恋愛感情を向けてこないエメリーヌを大変好ましく思った。好ましく思ったが、好きな人にどう接したらいいのかわからなかった。そうしているうちに、エメリーヌの自分への興味のなさや美しさだけではなく真面目なところやとても気の利く優しいところにまで惹かれ始めた。彼はいつのまにか遅すぎる初恋を拗らせていた。
「エメリーヌ」
「はい」
「私と婚約しないか」
「…?はぁ…?」
あまりに突然の誘いに、そしてその色気のなさにエメリーヌは呆然とした。グラシアンが自分を大切にしていることはなんとなく感じていたが、それはお気に入りの優秀な部下としてだと思っていた。何故それが婚約とかいう話になるのか。
「君、昨日ライトと遅くまで飲んでいただろう」
「はい」
「その、酔わせてお持ち帰りする気だったらどうするんだ」
「ライトは私の部下ですから、そんな色気のある話にはなりません。そもそも恋人との関係についてのお悩み相談でしたし」
「そ、そうか。よかった。だが、世の中には悪い男がいっぱいいるんだ。そんな奴らに君を取られたくない。だから、婚約しよう」
はて?とエメリーヌは思う。取られるも何も、いつ私はこの出来は良いが性格は非常に不器用な男のモノになったのか。いやなっていない。
「お言葉ですが」
「ああ」
「私は一度も騎士団長のモノになった覚えはないので、取られるも何もありません」
「…まあ、それはそうなんだが。そうでなくて、その、だから」
「はっきりと言葉にして頂かなければ分かりません」
エメリーヌのいつもよりツンとした態度に、グラシアンは焦る。ついポロリと言葉がこぼれた。
「す、好きだ」
その一言で、エメリーヌは先程までの態度が嘘のように優しく微笑んだ。
「お受けいたします、グラシアン様」
その微笑みに。その優しい声色に。初めて名前を呼んでくれたその親しみに。グラシアンは天にも昇る心地でエメリーヌを抱きしめる。エメリーヌは、グラシアンの胸に顔を埋めながらその抱擁をただ受け止めた。
ー…グラシアンにはとても見せられない、だらしのない堕落したような顔をして。
そもそも。
エメリーヌの人生には、グラシアンの存在が楔のように打ち込まれている。
初めは、貴族の子供の交流のためのお茶会だった。エメリーヌはグラシアンのあまりの美しさに打ちのめされた。一目惚れである。
しかし、当時は内気だったエメリーヌは女子に囲まれたグラシアンに近づけなかった。そんな中で聞こえた言葉。
「僕は、強い女の子が好きだな」
幼い彼のその言葉を、エメリーヌは本気にした。そこからである。エメリーヌは嘘のように剣術の稽古に打ち込み、寝る間も惜しみ修行した。努力の甲斐もあり、すぐに剣術の天才と呼ばれるまでになる。
これで声を掛けて貰えるのではないかと期待したエメリーヌだが、その後のお茶会で彼は女子に囲まれてこういった。
「僕は、かっこいい女の子が好きだな」
彼女はスカートやドレスを捨てた。化粧もやめた。元々中性的な美少女であった彼女。男装の麗人の完成である。
これで少しは近づけたかと思ったエメリーヌ。次のお茶会でグラシアンはまたも女子に囲まれていて、近づけない。彼はこう言った。
「僕は、優しい人が好きだな」
彼女は男装の麗人となってから自分のファンになったという人々に辟易していたが、一転優しく微笑み手を振るようになった。細やかな気遣いもできるように努力もした。
その後のお茶会。彼はまた女子に囲まれてこう言った。
「僕は、ベタベタと無遠慮に触ってこない節度ある人が好きだな。僕に興味がなければなお良し」
エメリーヌは、グラシアンに無理に近づこうとするのをやめた。好意も悟られないように振る舞うと誓う。
そしてそのお茶会の席で、彼は言った。
「僕は、王国騎士団に入団するのが夢なんだ。過保護な家族には反対されるだろうから、言えないけどね。いつかは反対を押し切って入るつもり」
エメリーヌは、将来騎士団に所属することを決めた。
そして現在に至る。
ちなみに、グラシアンは、その時々で女子を避けるために有りもしない好きな人のタイプを語っていただけである。実際には好きなタイプどころか女子が苦手だった。だが、結果的にエメリーヌを好きになったのだからエメリーヌにとっては問題ない。
エメリーヌがライトのお悩み相談を受けたのだって、優しいエメリーヌをアピールするためだ。まさかそれで嫉妬してもらえるとは、僥倖である。
優秀な部下としてしか見られていないと思っていたので誤算も誤算だが、嬉しい誤算だ。
告白されてもいないのに、取られるのは嫌だとかはて?とは思ったがそういう子供なところも悪くはない。
エメリーヌは、たった今。自分に人生の楔を打ち込んだ男に、自分という楔を打ち込んだのだと確信した。エメリーヌは、その愉悦に浸ってつい緩む表情をなんとか押さえつけて顔を上げ、グラシアンの頬にキスを落とす。何も知らないグラシアンは、ただ幸せそうに笑った。
「騎士団長!副騎士団長!こっちを向いてくださいませー!」
エメリーヌと呼ばれた騎士が遠目で見ていたご令嬢達に優しく微笑みゆったりと手を振れば、さらに黄色い声が増す。
エメリーヌ・ジェルヴェーズ。王国騎士団の副騎士団長にして誇り高きジェルヴェーズ伯爵家の末っ子長女である。ジェルヴェーズ伯爵家は代々優れた騎士を輩出する家系であり、その中で最も才覚を発揮するエメリーヌは男にも引けを取らないどころか騎士団長以外に勝てる男はこの国にはいないと言われるほど強い。ちなみに上の兄は爵位を継ぎ領地経営に勤しみ、下の兄は文官として順調に出世コースを歩んでいる。エメリーヌがいれば大丈夫だろうというのが本人達の言い分である。女性騎士も多いこの国では珍しく、男装騎士としても名を馳せる。なぜ男装するかといえば、女性騎士の正装がスカートだからだ。動きづらい。そんな彼女は男装の麗人として男女問わず大人気である。
グラシアン・ガーランド。ガーランド公爵家の三男である彼は余った子爵位が与えられるはずだったが、親の反対を押し切り王国騎士団に入団。親の持つ公爵という爵位で色々と忖度され、あれよあれよと出世コースまっしぐらだった。そんな彼は負けず嫌いが手伝って、親の七光りと馬鹿にしていた他の騎士を剣の実力で凌駕し見返した。あの剣の天才と謳われるエメリーヌと75戦中38勝37敗である。そんな彼は公爵家で蝶よ花よと育てられたのが手伝って見た目も国宝級である。グラシアンとエメリーヌが一緒にいるだけで二人のファンが遠くからきゃあきゃあと騒ぐ程度には、見た目が整っているのだが…彼は実は女性が苦手だった。考えても見てほしい。美人でスタイル抜群とはいえ、知らない女性からベタベタされたり胸を押し付けられたりすれば誰だって怖いと思う。少なくとも彼は怖いと感じた。
そんなグラシアンだから、自分に恋愛感情を向けてこないエメリーヌを大変好ましく思った。好ましく思ったが、好きな人にどう接したらいいのかわからなかった。そうしているうちに、エメリーヌの自分への興味のなさや美しさだけではなく真面目なところやとても気の利く優しいところにまで惹かれ始めた。彼はいつのまにか遅すぎる初恋を拗らせていた。
「エメリーヌ」
「はい」
「私と婚約しないか」
「…?はぁ…?」
あまりに突然の誘いに、そしてその色気のなさにエメリーヌは呆然とした。グラシアンが自分を大切にしていることはなんとなく感じていたが、それはお気に入りの優秀な部下としてだと思っていた。何故それが婚約とかいう話になるのか。
「君、昨日ライトと遅くまで飲んでいただろう」
「はい」
「その、酔わせてお持ち帰りする気だったらどうするんだ」
「ライトは私の部下ですから、そんな色気のある話にはなりません。そもそも恋人との関係についてのお悩み相談でしたし」
「そ、そうか。よかった。だが、世の中には悪い男がいっぱいいるんだ。そんな奴らに君を取られたくない。だから、婚約しよう」
はて?とエメリーヌは思う。取られるも何も、いつ私はこの出来は良いが性格は非常に不器用な男のモノになったのか。いやなっていない。
「お言葉ですが」
「ああ」
「私は一度も騎士団長のモノになった覚えはないので、取られるも何もありません」
「…まあ、それはそうなんだが。そうでなくて、その、だから」
「はっきりと言葉にして頂かなければ分かりません」
エメリーヌのいつもよりツンとした態度に、グラシアンは焦る。ついポロリと言葉がこぼれた。
「す、好きだ」
その一言で、エメリーヌは先程までの態度が嘘のように優しく微笑んだ。
「お受けいたします、グラシアン様」
その微笑みに。その優しい声色に。初めて名前を呼んでくれたその親しみに。グラシアンは天にも昇る心地でエメリーヌを抱きしめる。エメリーヌは、グラシアンの胸に顔を埋めながらその抱擁をただ受け止めた。
ー…グラシアンにはとても見せられない、だらしのない堕落したような顔をして。
そもそも。
エメリーヌの人生には、グラシアンの存在が楔のように打ち込まれている。
初めは、貴族の子供の交流のためのお茶会だった。エメリーヌはグラシアンのあまりの美しさに打ちのめされた。一目惚れである。
しかし、当時は内気だったエメリーヌは女子に囲まれたグラシアンに近づけなかった。そんな中で聞こえた言葉。
「僕は、強い女の子が好きだな」
幼い彼のその言葉を、エメリーヌは本気にした。そこからである。エメリーヌは嘘のように剣術の稽古に打ち込み、寝る間も惜しみ修行した。努力の甲斐もあり、すぐに剣術の天才と呼ばれるまでになる。
これで声を掛けて貰えるのではないかと期待したエメリーヌだが、その後のお茶会で彼は女子に囲まれてこういった。
「僕は、かっこいい女の子が好きだな」
彼女はスカートやドレスを捨てた。化粧もやめた。元々中性的な美少女であった彼女。男装の麗人の完成である。
これで少しは近づけたかと思ったエメリーヌ。次のお茶会でグラシアンはまたも女子に囲まれていて、近づけない。彼はこう言った。
「僕は、優しい人が好きだな」
彼女は男装の麗人となってから自分のファンになったという人々に辟易していたが、一転優しく微笑み手を振るようになった。細やかな気遣いもできるように努力もした。
その後のお茶会。彼はまた女子に囲まれてこう言った。
「僕は、ベタベタと無遠慮に触ってこない節度ある人が好きだな。僕に興味がなければなお良し」
エメリーヌは、グラシアンに無理に近づこうとするのをやめた。好意も悟られないように振る舞うと誓う。
そしてそのお茶会の席で、彼は言った。
「僕は、王国騎士団に入団するのが夢なんだ。過保護な家族には反対されるだろうから、言えないけどね。いつかは反対を押し切って入るつもり」
エメリーヌは、将来騎士団に所属することを決めた。
そして現在に至る。
ちなみに、グラシアンは、その時々で女子を避けるために有りもしない好きな人のタイプを語っていただけである。実際には好きなタイプどころか女子が苦手だった。だが、結果的にエメリーヌを好きになったのだからエメリーヌにとっては問題ない。
エメリーヌがライトのお悩み相談を受けたのだって、優しいエメリーヌをアピールするためだ。まさかそれで嫉妬してもらえるとは、僥倖である。
優秀な部下としてしか見られていないと思っていたので誤算も誤算だが、嬉しい誤算だ。
告白されてもいないのに、取られるのは嫌だとかはて?とは思ったがそういう子供なところも悪くはない。
エメリーヌは、たった今。自分に人生の楔を打ち込んだ男に、自分という楔を打ち込んだのだと確信した。エメリーヌは、その愉悦に浸ってつい緩む表情をなんとか押さえつけて顔を上げ、グラシアンの頬にキスを落とす。何も知らないグラシアンは、ただ幸せそうに笑った。
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(*´ω`*)素敵なお話をありがとうございました♪
エメリーヌちゃんの努力が報われてよかった。グラシアンくんとのカップリングにきっと世の女子たちも納得でしょう♡
感想ありがとうございます。グラシアンとエメリーヌのファン達が狂喜乱舞する姿が見えますね。読んでくださってありがとうございました!
エメリーヌの頑張りが報われて良かった😆。
感想ありがとうございます。なんだかんだでぶっ飛んだ奥さんですが、これから先大切に愛される日々は間違いないです!
こういう系大っ好きです!素敵なお話をありがとうございます!!!
感想ありがとうございます。こちらこそ楽しんでいただけて嬉しいです!読んでくださってありがとうございました!