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決闘とその結末

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アルヴァン王国筆頭公爵家、アヴェリーノ家。権力、地位、財力全てを持ち合わせており、広大な土地を治める。領内も優れた統治で年々豊かになり、領民からの信頼も厚い。また有り余る財力を使い国に尽くす姿勢から、領内外問わず貴族と平民両方から支持されている。教会にも多額の寄付をしていることから、その信仰の篤さを尊ぶ教会関係者も多い。もちろん王室も、忠義を尽くし国を豊かにするアヴェリーノ家に信頼を置いて優遇していた。

将来の王太子となる第一王子クレールとアヴェリーノ家の第一子であるルーヴルナとの間の生まれながらの婚約は、長年王室に尽くしたアヴェリーノ家への褒美であると共にクレールへの強い後ろ盾を得るためであった。

それなのに。

「クレール殿下は、なんて恥知らずなんだ。ルーヴルナ姫君を裏切り、あんなどこの馬の骨とも知れない男爵令嬢を隣に置くなんて」

「あんな娘よりルーヴルナ様の方がお美しいのに、殿下は見る目のない方ですこと」

「あんな田舎娘を隣に置いて恥ずかしくないのか」

クレールは、ルーヴルナを裏切った。冴えない田舎の男爵、クロード家の娘であるアナとの恋に落ちたのだ。クレールは長年、美しく優秀なルーヴルナを疎ましく思っていた。実際蔑ろにしていたが、ルーヴルナは根気強くクレールに寄り添って一途にクレールを愛してきた。その結果がこれである。いい加減ルーヴルナはキレた。

「お父様」

「ルーヴルナ、どうした?そんなに怖い顔をして。美しい顔が台無しだぞ」

「クレール様の最近の行動は目に余ります」

公爵はそれを聞き、眉を寄せた。

「…ああ、それなら私も思っていた。公式に、王家に抗議をするつもりだ」

「では…クレール様の方はお父様にお任せしますわ」

「…ルーヴルナ、あの田舎娘の息の根を止めるのだな?」

「二度と王都に近寄れなくしてやりますわ」

ルーヴルナの瞳に燃え盛る炎を見て、公爵はアナに少し同情した。












その後、パーティーが王宮で開かれた。クレールは、ルーヴルナをエスコートしないばかりかアナをエスコートしていた。貴族たちは騒つく。そこに公爵のエスコートでルーヴルナが登場した。ルーヴルナは公爵と共に真っ直ぐクレールとアナに近寄っていき、手袋を外してアナの横っ面に投げつけた。

「え…」

「ルーヴルナ、なんのつもりだ」

「なんのつもりはこちらのセリフですわ」

クレールは初めてルーヴルナに睨みつけられその迫力に押し黙る。

「アナさん。貴女、私がクレール様と婚約関係にあると知りながらクレール様に近寄りましたわよね?」

「え、あ」

アナが青ざめる。

「そして、このような公の場でクレール様のエスコートをお受けした。これは私への侮辱と受け取りますわ」

「そ、それは…!」

「私は、名誉回復のため貴女に決闘を申し込みますわ!」

高らかに宣言するルーヴルナに、貴族たちは拍手を送り同意を示した。

「私は信頼できる騎士を代理にします。貴女も騎士を代理にたてることは認めましょう。しかし、騎士を選ぶ際クレール様のお力を借りることは許しませんわ」

「そんなっ…!」

「私が負ければ貴女の望む通りにします。私達の婚約破棄とクレール様とアナさんとの婚約を望むならそれをなんとしてでも叶えましょう。ですが、貴女が負ければ…分かりますわよね?」

アナはもはや涙目である。しかし、こうなるまで調子に乗っていた彼女自身の責任と言えた。

「公爵!娘の横暴を許すのか!」

クレールは公爵に文句を言うが、公爵は逆にクレールを糾弾した。

「我が娘との婚約がありながらこのような行いをする貴方の方が横暴なのではありませんか?殿下」

「私に逆らうのか!」

「国王陛下、見ての通りです。我が公爵家は、クレール殿下をお守りすることはこれ以上出来ません。厳重に抗議いたします!」

「…うむ。しかと受け止めた」

「父上!?」

父親は味方だと思っていたクレールは信じられないと目を見開いた。

「クレール。貴様、アヴェリーノ家と王室の間に溝を作った責任は重いぞ」

「父上、私は…!」

「追って沙汰を下す。クレールを離宮に謹慎させろ!」

「はっ!」

クレールは近衛達に連れられ場を後にした。パーティーはここでお開きとなった。













結局。クロード家は代理の騎士を用意はしたがアヴェリーノ家の騎士に匹敵する相手ではなかった。決闘に負けたクロード家は、ルーヴルナの名誉を侵害したことを認めさせられる形となり多額の賠償金を課された。クロード家は借金をして一括でルーヴルナに賠償し、爵位と領地を国に返還した。残ったのは借金ばかりである。その借金を返すため、アナは高級娼館に売られた。幸いにも、「元王子クレールの愛人」として高く売れてアナの家族は借金を返すことはできた。平民として慎ましくいきていけばなんとかなるだろう。

「うっ…ぐすっ…」

アナは高級娼館に、高く買ってもらった恩があるため逃げられない。客への笑顔の裏で泣き暮らしていた。あんなことをしなければ貴族でいられたのに。後悔は尽きないが、もう遅かった。











「私が子をなせない身体にされて出家…?」

「そうだ。愚かなお前にはそれでも生温い。せいぜい中央教会で鍛え直してもらうことだ。特別扱いは期待するなよ。聖王をやっている弟には事の顛末は話してある。アヴェリーノ家を気に入っているアイツは、怒り心頭だ」

「そんな…!」

アナが高級娼館に売られた一方で、クレールはルーヴルナとの婚約を白紙に戻された。そして去勢手術と出家を父親である国王に命じられた。

「王位はお前の弟、第二王子であるディオンに継がせる。アイツはお前と違い誠実で優秀だ。良い王になるだろう」

「…ルーヴルナは?」

「ディオンには婚約者を決めていなかった。お前たちの結婚後、政治的に上手く使うつもりでな。だが、こうなった。残念だ。…なので、そのままディオンの婚約者になってもらうことにした。美しく優秀なルーヴルナは、王妃にふさわしいからな」

「…うわぁああああああ!」

クレールは、自業自得だというのに発狂寸前だ。国王はそんなダメ息子を見捨てて離宮を後にした。










「ふふ、ルーヴルナ。君が僕の妃になるなんて夢みたいだ」

「ディオン様と婚約出来て、私も却って良かったのかもしれませんわ」

ルーヴルナはディオンと婚約を結び直すと、国民達から祝福された。ディオンは正直クレールより人気があったので、美しく聡明で優しいルーヴルナが幸せになれると喜ばれた。王室とアヴェリーノ家の仲もこれにより表向きは修復された。表向きは、だが。…実際にはまだ、公爵は怒りを抱いていたし国王もそれを承知している。しかし、ディオンがルーヴルナを大切にしていればいずれは許されるだろう。

「これから、穏やかな愛を育んで行こうね」

「はい、ディオン様」

ディオンの優しい手に両手を包まれる。ルーヴルナは、穏やかな笑みを浮かべた。今度こそ素敵な恋になればいい、という心からの彼女の願いは密かに想いを募らせていたディオンによって叶うだろう。
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