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完全に回復した魔王が拾ったのは、お人好しのお姫様
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「魔王様」
「元、魔王だ。今は俺は死んだことになっているからな。ふはははは!」
「ではなんと呼べば?」
「ディアーブルでいい」
「ディア様」
私がそう呼べば、ディア様は私を軽々と抱き上げる。
「愛称で呼ぶか!良いぞ、実に良い!」
「私のことはスノーとお呼びください」
「スノー。スノーホワイトが名前だからか」
「はい。貴方様を殺したはずの英雄。私の夫に、私は捨てられました。そして路頭に迷っていたところに現れた、何故か痩せこけた野良犬のフリをした貴方に回復魔法をかけたら、今度はすっかり元気になり金持ちの人間に扮した貴方に救われた。だから、これから貴方の妻となるために元の名前は捨てます。私はこれからスノーです」
「ほう。なら、俺もこれからはディアで良いか?特別な愛称、というわけでなくなってしまうのはちょっともったいないが…我が妻に合わせるのも、また良い」
ということで、私はディア様の妻スノーとして生きることになった。自分でもなんでこうなったかよくわからないけど。
「時にスノーよ。英雄は将来を誓った幼馴染と逃げたのだろう?復讐はするか?」
「元々お二人は将来を誓った仲。そこに割り込んだのが私ですから。お二人の幸せを願っておりますので、復讐はしません」
「割り込んだと言っても、何も知らなかったのだろう。お前を気に入らない継母が、厄介払いに英雄にお前を押し付けただけだ」
「それでも、それだからこそ。捨てられたという怨みはあれど、幸せを願うのです」
「…人間は難しいな」
ディア様はそう言うと、私を抱き上げて膝の上に乗せた。
「俺はまだ人間を理解できないが、スノーが良い子だというのはわかる。甘やかしてやろう」
そう言ってディア様は私の顔中にキスの雨を降らせる。
「わ、わ、ディア様!」
「可愛い我が妻よ。路頭に迷っていながら、痩せ細った野良犬に扮して体力を回復していた俺に回復魔法を使ってくれた愛おしい人。どうか、俺のそばで幸せになれ」
「…ふふ、はい」
多分、人からみれば哀れな境遇の私だけど。出会って数時間のこの〝夫〟のお陰で、人生で初めての幸せな気持ちになっています。
「スノーホワイト!俺が悪かった、助けてくれ!」
どこからか私のことを聞きつけ、探し出した元夫が現れた。ディア様が私を庇い、後ろに隠してくれる。
「スノーホワイトなど知らんな。ここにいるのは俺の妻、スノーだけだ」
「その気配…まさか!」
「迂闊なことを言うと、首が飛ぶぞ」
ディア様が凄むと、元夫は黙る。
「…わ、わかりました。俺はご夫婦に関しては何も言わないと誓います。だから、妻だけは助けてください!」
「…幼馴染の彼女です?」
「はい、妻は身重なのに流行り病にかかり…スノー様の回復魔法は絶大だと聞きます。どうか助けてください!」
「甘えるな」
ディア様は普段鈍いとよく言われる私にもわかるほど怒っていた。
「我が妻を捨てておいて、よく言う。俺の妻はお前のおもちゃではない」
「それは…」
「しかもお前、駆け落ちするとき我が妻が嫁ぐ際持ってきた全財産を持ち逃げしただろう。こんなクズが英雄だなんてな」
「…妻は、元々身体が丈夫じゃなくて…特級ポーションを買い与えるため、仕方がなかったんだ」
「結果、その金も使い果たしたのか」
私はディア様の背中を抱きしめた。
「ディア様」
「スノー?どうした?」
「許して差し上げましょう」
「…はぁ。我が妻はお人好しが過ぎるから困る」
ディア様はそう言いつつも、もうさっきほどは怒っていない様子だ。
「奥様の元へ案内してください」
「…!スノーホワイト、ありがとう!」
「今の私は、ディア様の妻スノーです」
私が思ったより、冷たい声になってしまった。元夫はなんとも言えない表情になるが、奥様の元へ案内してくれた。
「うう…」
「…光よ」
私は光の精霊に祈る。すると元夫の奥様は回復した。お腹の子もおそらく無事だろう。
「では、私達夫婦は失礼します。行きましょう、ディア様」
「我が妻は本当に素晴らしいな。行こうか」
ディア様と手を繋いで元夫の家を出ると、慌てて元夫が追いかけてきた。
「ありがとうございました!そして、本当に本当に、申し訳ありませんでした!」
元夫のその姿を見て、私は喉元につっかえていた魚の小骨が取れたような気持ちになった。
「ディア様、見てください。流行り病にかかった村を助けたら、こんなにたくさんみずみずしい果実をくださって」
「スノーが好きなものばかりではないか。良い、一緒に食べよう」
「ふふ、はい!」
あの後、私は結局流行り病に喘ぐ人々を前に大人しくしていられず、あちこちで回復魔法を掛けて回った。結果、みんな優しくしてくれた。ただ、継母に存在がバレると面倒なのでディア様の魔法を駆使して各地を転々としているが。
「しかし、元いた国から随分と離れた国に来たのにまだこの病が流行っているとは。我が妻の魔力が心配だ。ほら、俺の魔力を少し受け取れ」
「…ふう、魔力が回復しました。ありがとう、ディア様」
「我が妻は身重だからな。あまり無理をしないように」
「ふふ、はい」
私には今、ディア様の子供がお腹にいる。幸せだ。
「ディア様」
「うん?」
「愛してます」
「俺もだ」
色々なことがあったけど、私は今とても恵まれている。
「元、魔王だ。今は俺は死んだことになっているからな。ふはははは!」
「ではなんと呼べば?」
「ディアーブルでいい」
「ディア様」
私がそう呼べば、ディア様は私を軽々と抱き上げる。
「愛称で呼ぶか!良いぞ、実に良い!」
「私のことはスノーとお呼びください」
「スノー。スノーホワイトが名前だからか」
「はい。貴方様を殺したはずの英雄。私の夫に、私は捨てられました。そして路頭に迷っていたところに現れた、何故か痩せこけた野良犬のフリをした貴方に回復魔法をかけたら、今度はすっかり元気になり金持ちの人間に扮した貴方に救われた。だから、これから貴方の妻となるために元の名前は捨てます。私はこれからスノーです」
「ほう。なら、俺もこれからはディアで良いか?特別な愛称、というわけでなくなってしまうのはちょっともったいないが…我が妻に合わせるのも、また良い」
ということで、私はディア様の妻スノーとして生きることになった。自分でもなんでこうなったかよくわからないけど。
「時にスノーよ。英雄は将来を誓った幼馴染と逃げたのだろう?復讐はするか?」
「元々お二人は将来を誓った仲。そこに割り込んだのが私ですから。お二人の幸せを願っておりますので、復讐はしません」
「割り込んだと言っても、何も知らなかったのだろう。お前を気に入らない継母が、厄介払いに英雄にお前を押し付けただけだ」
「それでも、それだからこそ。捨てられたという怨みはあれど、幸せを願うのです」
「…人間は難しいな」
ディア様はそう言うと、私を抱き上げて膝の上に乗せた。
「俺はまだ人間を理解できないが、スノーが良い子だというのはわかる。甘やかしてやろう」
そう言ってディア様は私の顔中にキスの雨を降らせる。
「わ、わ、ディア様!」
「可愛い我が妻よ。路頭に迷っていながら、痩せ細った野良犬に扮して体力を回復していた俺に回復魔法を使ってくれた愛おしい人。どうか、俺のそばで幸せになれ」
「…ふふ、はい」
多分、人からみれば哀れな境遇の私だけど。出会って数時間のこの〝夫〟のお陰で、人生で初めての幸せな気持ちになっています。
「スノーホワイト!俺が悪かった、助けてくれ!」
どこからか私のことを聞きつけ、探し出した元夫が現れた。ディア様が私を庇い、後ろに隠してくれる。
「スノーホワイトなど知らんな。ここにいるのは俺の妻、スノーだけだ」
「その気配…まさか!」
「迂闊なことを言うと、首が飛ぶぞ」
ディア様が凄むと、元夫は黙る。
「…わ、わかりました。俺はご夫婦に関しては何も言わないと誓います。だから、妻だけは助けてください!」
「…幼馴染の彼女です?」
「はい、妻は身重なのに流行り病にかかり…スノー様の回復魔法は絶大だと聞きます。どうか助けてください!」
「甘えるな」
ディア様は普段鈍いとよく言われる私にもわかるほど怒っていた。
「我が妻を捨てておいて、よく言う。俺の妻はお前のおもちゃではない」
「それは…」
「しかもお前、駆け落ちするとき我が妻が嫁ぐ際持ってきた全財産を持ち逃げしただろう。こんなクズが英雄だなんてな」
「…妻は、元々身体が丈夫じゃなくて…特級ポーションを買い与えるため、仕方がなかったんだ」
「結果、その金も使い果たしたのか」
私はディア様の背中を抱きしめた。
「ディア様」
「スノー?どうした?」
「許して差し上げましょう」
「…はぁ。我が妻はお人好しが過ぎるから困る」
ディア様はそう言いつつも、もうさっきほどは怒っていない様子だ。
「奥様の元へ案内してください」
「…!スノーホワイト、ありがとう!」
「今の私は、ディア様の妻スノーです」
私が思ったより、冷たい声になってしまった。元夫はなんとも言えない表情になるが、奥様の元へ案内してくれた。
「うう…」
「…光よ」
私は光の精霊に祈る。すると元夫の奥様は回復した。お腹の子もおそらく無事だろう。
「では、私達夫婦は失礼します。行きましょう、ディア様」
「我が妻は本当に素晴らしいな。行こうか」
ディア様と手を繋いで元夫の家を出ると、慌てて元夫が追いかけてきた。
「ありがとうございました!そして、本当に本当に、申し訳ありませんでした!」
元夫のその姿を見て、私は喉元につっかえていた魚の小骨が取れたような気持ちになった。
「ディア様、見てください。流行り病にかかった村を助けたら、こんなにたくさんみずみずしい果実をくださって」
「スノーが好きなものばかりではないか。良い、一緒に食べよう」
「ふふ、はい!」
あの後、私は結局流行り病に喘ぐ人々を前に大人しくしていられず、あちこちで回復魔法を掛けて回った。結果、みんな優しくしてくれた。ただ、継母に存在がバレると面倒なのでディア様の魔法を駆使して各地を転々としているが。
「しかし、元いた国から随分と離れた国に来たのにまだこの病が流行っているとは。我が妻の魔力が心配だ。ほら、俺の魔力を少し受け取れ」
「…ふう、魔力が回復しました。ありがとう、ディア様」
「我が妻は身重だからな。あまり無理をしないように」
「ふふ、はい」
私には今、ディア様の子供がお腹にいる。幸せだ。
「ディア様」
「うん?」
「愛してます」
「俺もだ」
色々なことがあったけど、私は今とても恵まれている。
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