上 下
4 / 7

推しキャラからお嬢って呼ばれるの良いよね

しおりを挟む
「お嬢」

「ファルファッラ。どうしたの?」

「取り急いで耳に入れたい情報がある」

アザレアは頬を緩めてファルファッラに耳を貸した。

ファルファッラはアザレアの一番の推しキャラだ。ファルファッラのためにゲームを攻略していたと言っても過言ではない。

とはいえ、ここは現実。ゲームではないので、忠臣として可愛がるのみで手を出す気はさらさらない。恋愛感情というより可愛い妹みたいなものだ。

ファルファッラは乙女ゲーム本来の設定と違い、優しく可憐なアザレアを命に代えても守るべき大切な主人と定めている。こちらも恋愛感情はない。

しかし。

「アザレア、遊びに来たよ…え」

婚約者に見られてしまえば、ちょっとばかり面倒なシーンなのは言うまでもない。

「…アザレア、浮気かい?」

「く、クリス様違います!この子は私の腹心の部下で、疚しい気持ちなんて一切ないです!」

「ふーん。どう思う?リュカ」

「お嬢様は嘘をつく方ではありません。ただ、ちょっと無防備すぎるというか…彼も、忠臣だと言うのならもう少し主人の評判を落とす行為は控えるべきですねー」

「…そう。お前の目にそう見えるなら、そうなんだろうね」

クリザンテーモはリュカの言葉に少し落ち着いたらしい。

ファルファッラはそんなクリザンテーモに土下座する。

「ファル!?なにしてっ」

「恐れ多くも婚約者がいるお嬢様に気安く触ってしまい申し訳ありませんでした」

「…アザレアが腹心の部下と呼ぶほどだ。役に立つ人材だろうし、我が国にアザレアが嫁に来る時にはむしろついてきて欲しい。だが、そのときのためにも今のうちにリュカに適切な距離を学んでおきなよ」

「えー、私ですか?まあいいですけど…どうせなら女の子が良かったなぁ」

「…はい?」

ファルファッラがリュカの言葉に首をかしげる。

クリザンテーモとリュカはその反応に引っかかりを覚えて、聞いた。

「え、アザレア…この子は男の子だよね?」

「いえ、女の子ですけど…短髪だし中性的な美女で、背も高いし筋肉質だから間違えちゃいました?」

アザレアはわかっていて白々しく返す。

ファルファッラとの恋は、禁断の百合ルートとしてプレイヤーの間でもそれはもう人気が高かった。

「…すっすまない!こちらの早とちりだったようだ!」

「いえ、自分が男勝りなのはわかっていましたから。初見では見間違えますよね…声も低いですし」

「うぐっ」

しょぼんとするファルファッラにクリザンテーモは良心を抉られる。

「なら、色々お勉強しないとですねー」

「え?」

「普段男に見間違われる仕事着を着ている時のお嬢様への振る舞い。プライベートで女の子として過ごす時のお嬢様への振る舞い。両方お勉強しましょうねー」

「は、はい」

「あと、お嬢様の隣に女の子として立つ時のファッションや小物の選び方なんかも覚えましょうか。主人に恥をかかせるのは忠臣の名折れですよ」

上手いことファルファッラを口車に乗せるリュカ。

なんで鮮やかな手口だろうとアザレアは閉口する。

クリザンテーモはいつもの悪い癖が出てるなぁと遠巻きに眺めていた。

「では、そういうことでさっそく…お嬢さん、名前は?」

「ファルファッラですけど」

「ファルファッラさんとレッスンに行ってきますねー」

空き部屋へと連行されていくファルファッラを心配して侍女を一人見張りに付けつつアザレアは見送った。

クリザンテーモはカレンドゥラが泣くことになりませんようにと天に祈った。

その後戻ってきたファルファッラは羞恥心で涙目になっており、リュカは非常に満足そうだった。

アザレアはこれは酷いと思いつつファルファッラを慰める。

ファルファッラは、でもこれでお嬢様とデート出来ますね!と嬉しそうだったのでアザレアももう何も言うまいと心に決めた。

クリザンテーモはリュカにやり過ぎだとチョップした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の姉から誰も守ってくれないなら、自分の身は自分で守るまでですが……

もるだ
恋愛
婚約者の姉から酷い暴言暴力を受けたのに「大目に見てやってよ」と笑って流されたので、自分の身は自分で守ることにします。公爵家の名に傷がついても知りません。

夫が浮気した

下菊みこと
恋愛
現実世界ジャンルにしましたがちょっと浮世離れしたお話。 ざまぁというほどきつい処分でもないかも。 でも浮気者二人に制裁は下しています。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

色々と今更なお話

下菊みこと
恋愛
もうちょっとお互いに歩み寄ろうよと突っ込みたくなるお話。 あるいはお互いもう少し相手の話を聞こうよというお話。 そして今更なお話。 御都合主義のSSです。 ビターエンド、で合ってるのかな。 すれ違い行き違い勘違いの結果。 小説家になろう様でも投稿しています。

愚かな転生ヒロインの行く末は

下菊みこと
恋愛
転生ヒロイン目線のお話。 バッドエンドです。 ただし王太子や悪役令嬢から見たらハッピーエンド。 ご都合主義のSSです。 ざまぁは転生ヒロイン本人が被ります。 小説家になろう様でも投稿しています。

わたくしは悪役だった

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が、二度目は間違えないように生きるお話。 ざまぁなし、大団円…のはず。 元サヤですのでご注意ください。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...